文部省の大罪 ― 学童・生徒に対する牛乳の強要
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文部科学省は、日本の子どもを犠牲にして、業界(酪農、乳業)の保護に走っている。牛乳・乳製品は嗜好品である。飲みたい・食べたいという人は飲みかつ食べればよい。そんなことは個人の勝手である。もし、牛乳に骨成長を助け、骨粗鬆症を予防する機能があるというのなら、乳・乳製品は特定保健用食品(トクホ)である。酪農業界と乳業メーカーは乳・乳製品を「特定保健食品」あるいは「栄養機能食品」として申請をすべきだ。古今東西、国民にある特定の食品を強要した国家が存在しただろうか。健康志向の強かったナチス・ドイツでもこんなことはしなかった。
日本の文部省(現文部科学省)だけだろう。 |
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この文章をお読みになる前に是非、「牛乳を飲んでも子どもの背が高くなることはない」「牛乳と乳がん」「牛乳と不妊症」をお読みいただきたい。さもないと、なぜ「学童・生徒に対する牛乳飲用の強制」が「文部省の大罪」なのかご理解いただけないだろう。 学校給食の問題に入る前に、幼児の牛乳飲用に触れておこう。「牛乳を飲んでも子どもの背が高くなることはない」の図5を見ると、1〜6歳の幼児の乳・乳製品の消費量は7〜14歳の前思春期の児童・生徒に次いで多い。これは、学校のように強制ではないが、保育園で牛乳が出されるだけでなく、子どもが丈夫に育つようにと親がわが子に牛乳を飲ませるからである。「子どもを健康に育てるためには何をおいても牛乳を!」という刷り込みの大本は母子健康手帳にある。母子健康手帳は1966年の母子保健法の施行に伴って67年から交付された。 2005年にK市で交付された健康手帳には「離乳の進め方の目安」として、離乳完了期(12〜15ヵ月)の赤ちゃんに離乳食に加えて「牛乳やミルクを300〜400ml」を飲ませるようにと記載されている。さらに「幼児期の食生活の心がけ」に「与えよう、牛乳・乳製品を十分に」なる一文がある。また、母子健康手帳副読本は「妊娠中の食事」として「カルシウムによって胎児の骨や歯がつくられます。牛乳、乳製品、大豆製品、海藻類、小魚、緑黄色野菜などに含まれています。とくに牛乳は含まれるカルシウムが多く、そのほとんどが吸収されやすい食品ですので、ぜひ、毎日とってください」と妊婦に牛乳摂取を勧めている。さらに、この副読本には、妊娠中に「ふだんより多めにとりたい食品」として「牛乳や乳製品(低脂肪牛乳や無糖ヨーグルトがおすすめ)を合わせて1日400〜500グラムが目安です」と妊婦に大量の牛乳を飲ませようとしている。厚生労働省が、2006年3月に「牛乳・乳製品などの多様な食品を組み合わせて、カルシウムを十分に」などという「妊産婦の食生活指針」を発表したものだから、未だに妊産婦牛乳支給事業を継続している市町村がある。つまり、厚労省は日本人に生涯にわたって牛乳を飲ませようと懸命なのである。 アメリカの小児科医ベンジャミン・スポック(1903〜1998)が著した『スポック博士の育児書』(原題『Baby and Child Care』)は日本の育児に大きな影響を与えた。この原著の初版は1946年で、42カ国語に翻訳され世界中で5000万冊も販売されたと言われるほどに圧倒的な影響力を持つ育児書であった。以下のことは『乳がんと牛乳-がん細胞はなぜ消えたか』(径書房2008年10月)で述べたが、ここでも触れておきたい。 アメリカでは1946年の初版につづいて、1992年に第6版、1998年に第7版、2004年に第8版が出版されている。日本でも、赤ちゃんが生まれると、誕生祝いにこの本を贈ることが流行ったというから、昭和40〜60年代に母親になった女性(現在50〜70歳)のなかには「スポック博士の育児書」を読んで子育てをし、そして一層強固な牛乳信者になった人もいることだろう。実際、日本の母子健康手帳副読本は、この育児書を参考にしてつくられたという。 日本では高津忠夫・監修の和訳初版が、原著第3版(1957年)に拠って、1966(昭和41)年に「暮しの手帖社」から出版された。その後、1992年にアメリカで出版された英文第6版が、故高津忠夫と奥山和男の監修で『最新版・スポック博士の育児書』として翻訳出版され、2006(平成18)年現在、13刷を重ねている。 日本語版での牛乳に関する文章は、初版でも最新版でもほとんど変わっていない。日本での最新版(原著第6版)には、次のように書かれている。 牛乳には、人間の体に要る、ほとんど全部の成分が、含まれています。つまり、蛋白質、脂肪、糖分、ミネラル、それに、たいていのビタミンが入っています。 もっとも、よくバランスのとれた食事をしている子なら、牛乳をのまなくても、他の食べものから、こういった大切な栄養素をとることができますが、カルシウムだけは例外です。 牛乳は、カルシウムをたっぷり含んでいる唯一のたべものなのです。だから、どんな形にせよ、よちよち歩きの子には、一日に450cc〜560cc、もっと大きい子には、700cc-〜950ccの牛乳を与えなければいけないのです。 といっても、こどもは、日によって、また週によってほんの少ししかのまなかったり、とてもよくのんだり、ムラの多いものだということを忘れてはいけません。いつまでも牛乳をのませようとおもったら、あまりほしがらないときは、しばらく少しにしてやればいいし、まったくのみたがらないときはそっとしておくことです。けっして無理じいをしはいけません。ただし、二、三週間たっても、まだ700ccにもどらないときは、牛乳を使う料理を考えるなりして、たべさせる工夫をしてください」。 ところが、スポック博士は、1998年の第7版で、牛乳に対する考えをそれまでと180度変えてしまった。スポック博士は、「自然界には、離乳期を過ぎてミルクを飲む動物はいない。人間も同じで、離乳期を過ぎたらミルクを飲まないことが正常である・・・。必要なタンパク質を植物から摂ったほうが、子どものカルシウム・バランスは良くなる」と述べ、1歳未満の子どもは母乳で育てるのが自然で、離乳期を過ぎたら植物性の食品を食べさせよと強調するようになったのである(日本語の最新版は第6版に拠っているからスポック博士のこの考えを伝えていない)。英語版はさらに改訂されて2004年に第8版が発行されているから、アメリカで最新版と言えば第8版のことである。第6版を翻訳した日本語の最新版は原著最新版とは似て非なるものである。第8版はさらに次のようなスポック博士の考えを伝えている。 アメリカ人の心臓発作に到る道程は子どものころから始まっている。すでに3歳で、多くのアメリカの子どもの動脈壁に脂肪が付き始める。12歳の子どもの70%に動脈硬化の初期変化がみられ、21歳になるとほぼ全員に動脈硬化が始まっている。肥満がアメリカ社会全体を覆うようになった。アメリカは社会全体で食生活を変えなければならない。最悪の食品は乳・乳製品である。 長い間、お医者さんは少年少女にたっぷりカルシウムを摂らないと、年をとってから骨がもろくなってしまうと言い続けてきた。事実、米国科学アカデミーは1〜3歳の子どもは一日500mg、4〜8歳は800mg、9〜18歳は1300mgのカルシウムが必要だと述べている。こんなにたくさんのカルシウムを摂る一番手っ取り早い方法は牛乳をたっぷり飲むことである。アメリカは国をあげて『もっと牛乳・乳製品を!』という宣伝キャンペーンを繰りひろげてきた。しかし、最近、こんなに大量のカルシウムが子どもに本当に必要なのかと疑問を投げかける専門家が現れるようになった。例えば、12〜20歳の女性を対象にした研究によると、一日500mg(勧告量の40%)以上のカルシウムを摂っても、骨密度が増えることはないという。骨を丈夫にするのは、カルシウムではなくて運動(身体活動)なのだ! よく運動する少女ほど骨が丈夫(骨密度が高い)であった。 個人的なことになるが、私(スポック博士)は、88歳になった1991年から乳・乳製品を完全に絶ち、肉は脂身のない部分を少ししか食べないという食生活に切り替えた。この食事にしてから2週間で、長年の抗生物質の治療で効果のなかった慢性気管支炎が消えた。私の中高年の友人で、食事から乳製品や肉を除くことによって持病の心臓病がよくなった人が何人もいる。この種の食事が効果を発揮するためには、精製しない穀物、たくさんの野菜・果物を食べて、よく身体を動かすことが必要である。 私はもはや、2歳を過ぎた人間に乳・乳製品を勧めることはしない。たしかに、乳・乳製品が望ましい食物だと考えていた時期もあった。しかし、最近の多くの研究や臨床経験に基づいて、医師も『乳・乳製品はよいものだ』とする考えを見直さざるを得なくなったのである。 アメリカでもイギリスでもそして日本でも、牛乳の消費拡大に最も効果が大きいのは学校で生徒に牛乳を飲ませることだ。「子どもの健やかな成長のために」というスローガンは受け入れられやすいし、子どもの牛乳飲用習慣(味覚)は大人になっても継続するからだ。今、日本の学校給食で年間消費される牛乳は20億本(1本200ml)に達し、学校給食で生産量のほぼ1割を消費している。文部科学省は2009年度に、「栄養」から「食育」に重点を移して学校給食法を改訂するということだが、酪農家保護のために、学校給食での牛乳強制を続けるだろう。保護者がわが子の牛乳飲用を希望し、自分でも飲みたいという子どもには学校で牛乳を販売しても構わないが、「国家による牛乳強制」はおぞましい。 1954年に日本で学校給食法が施行された。学校給食法は、給食を「完全給食」「補食給食」「ミルク給食」の3つに区分している。完全給食は「パン+おかず+牛乳」「米飯+おかず+牛乳」「うどん+おかず+牛乳」の三つをさし、補食給食は「おかず+牛乳」、ミルク給食は「牛乳」である。つまり、文部省(現文部科学省)は牛乳がない食事を学校給食として認めていない。2008年現在になってもこの事実に変わりはない。日本の文部省(現文部科学省)は50年以上にわたって児童・生徒に牛乳飲用を強制してきたのだ。 文部省は1982(昭和57)年2月10日に「学校給食用牛乳供給事業の推進について」という体育局長通達を出した。これによると、各都道府県知事は、都道府県・都道府県教育委員会・指定生乳生産者団体・乳業者の代表・都道府県学校給食会からなる学乳(学校牛乳)協議会を立ち上げて、供給価格の決定や供給事業者の選定など、学校給食用牛乳供給事業の推進を図ることが求められている。この通達から、政府の学校牛乳に対する補助金(税金)は200mlあたり5円であることがわかる。保護者が支払う学校給食用の牛乳代は200ml当たり平均40円である。「うちの子にウシの乳は飲ませたくない」という親は1給食あたり35円を支払わなくてもよい。さらにこの通達は、学校給食用牛乳供給事業の未実施校の解消、中学生には200mlではなく300ml飲ませるようにしよう、供給日数の拡大、調理に牛乳・乳製品をもっと使うよう促すなど、牛乳消費の拡大事業を謳っている。文部省(現文部科学省)がこのような通達を出すことは極めて罪深い。業界の利益拡大と利害調整が役所の存在理由であるから、これが農林水産省の事業であったら理解できないことではない(業界は退職した役人の面倒をみる)。しかし、ここで取り上げた「牛乳供給事業」は文部科学省が推進している。文科省は、子どもを犠牲にして業界のお先棒をかつぐ不思議な役所である。 農林水産省は酪農振興と乳メーカー保護のため牛乳の消費拡大に懸命だった。手っ取り早いのは学校で児童・生徒に牛乳を飲ませることだ。1985(昭和60)年2月5日に、農林水産省畜産局・牛乳乳製品課長は文部省・体育局学校給食課長宛に次のような依頼文を送っている。 学校給食用牛乳消費定着促進事業の実施について(通知) この依頼を受けて、文部省・体育局学校給食課長は同年2月20日、各都道府県教育委員会学校給食主管課長宛に上記文章を添付するとともに、この牛乳消費定着促進事業の実施主体が都道府県学校給食用牛乳事業促進協議会(以下「県協議会」)であること、県協議会が学校給食用牛乳消費定着促進ビデオテープを無料で貸し出すこと、壁新聞は同年2月上旬と3月上旬の2回にわたって学校給食に牛乳を出している小学校と中学校に配布されることを通知している。文部省は、関連業界の利益拡大を使命と考える農林水産省畜産局牛乳製品課の先兵となって、「牛乳ほどよいものはない」と児童・生徒を洗脳したのである。 文部科学省は、2003(平成15)年5月30日付けで、「学校給食における食事内容について」という文部科学省スポーツ・青少年局長通達を各都道府県知事らに出した。ある小学校の先生によると、「私たち教師はこの時から、生徒に牛乳を強要しないようになった。しかし、そうなった理由はわからない」という。しかし、この通達には「生徒に牛乳を強要しなくてもよい」という文言は見当たらない。ただ、それまでの通達(たとえば1995年3月29日の文部省体育局長通達)には「学校給食の標準食品構成表」がついていて、これに<牛乳>が入っていた。したがって、牛乳を出さない給食は学校給食ではなかった。ところが、2003年の通達で、この「学校給食の標準食品構成表」が削除されたのである。だから、牛乳を出すことが学校給食の絶対条件ではなくなったのである(実際、三重県桑名市の2校の中学校は学校給食に牛乳を出さないことに決めたという)。ところが、通達は返す刃(やいば)で学校給食における食品構成について次のように述べる。「牛乳については、児童生徒等のカルシウム摂取に効果的であるため、その飲用に努めること。なお、家庭の食事においてカルシウムの摂取が不足している地域にあっては、積極的に調理用牛乳の使用や乳製品の使用に努めること」。この通達はさらに、1日のカルシウム所要量の50%を学校給食でまかなうよう求めている。これは、言い換えれば、学校給食に牛乳を必ず加えよという「強制」である。しかしながら、牛乳嫌いの児童・生徒には朗報であった。牛乳を飲まなくてもよくなったのだ。そのためか、牛乳消費が低迷した。学校給食で出される牛乳は国産生乳(500万トン弱)のほぼ1割に相当し、学校は酪農・乳業業界の最大のお客様である。学校給食の牛乳なくして、日本の酪農は成り立たない。 農林水産省に泣きつかれたのだろう。文部科学省は、2003年の通達を廃止して、新たなスポーツ・青少年局長通達(2008年10月30日)を出した。この新通達は、「学校給食においてカルシウムの供給源としての牛乳が毎日供給されている」ことを前提にして学校給食摂取基準を改訂した」と述べ、「学校給食のない日はカルシウム不足が顕著であり、カルシウム摂取に効果的である牛乳等についての使用に配慮すること」と、2003年の通達以上に牛乳飲用を押し進める内容となっている。そのため、牛乳なしでは学校給食の献立が作れないと嘆く栄養士がいる。解決策は簡単である。どうしてもお上(文部科学省)の言いつけを守りたければ、調理あたって卵殻・貝殻カルシウムをたっぷり加えればよい。これらのカルシウムを振りかけに混ぜてご飯にかけてもらってもよい。児童・生徒にホルモン入り牛乳牛乳を飲ませるぐらいなら、卵殻・貝殻カルシウムの方がずっとましだ、糞便に排泄されるだけだから。 因みに農林水産大臣は、「我が国酪農の健全な発展を図るとともに、幼児、児童及び生徒の体位、体力の向上に資するため、国内産の牛乳を小学校、中学校、特別支援学校及び夜間過程を置く高等学校のすべての幼児、児童及び生徒に対し、次の基準により供給することを目標とする」として「学校給食供給目標」を公表している(2007年6月29日)(http://www.maff.go.jp/j/chikusan/gyunyu/lin/pdf/school.pdf)。 なんと、農林水産大臣が、「酪農の健全な発展を図るために」小学校児童に年間195日・1人1日当たり200ml、中学校生徒に195日・1日当たり300ml、夜間高等学校生徒に192日・1日当たり 300mlの牛乳を飲ませようととしているのである。 さらに、農林水産省は石破 茂大臣の名で「平成20(2008)年における国内産の牛乳の学校給食への供給計画数量を448、900キロリットルと定めた」と公表している(平成20年11月13日)(http://www.maff.go.jp/j/chikusan/gyunyu/lin/pdf/school_kouhyou.pdf)。 牛乳を飲んだところで、子どもの背が高くなったり骨粗鬆症の予防にはなるわけではないが、カルシウム問題はたいしたことではない。骨粗鬆症はその人一代限りのことである。しかし、牛乳ホルモンの問題はその人を飛び越えて次世代以降にまで影響がおよぶ。問題の性格と大きさがぜんぜん違う。学校給食の牛乳を止めることが食育の最優先事項である。 文部科学省は、日本の子どもを犠牲にして、業界(酪農、乳業)の保護に走っている。牛乳・乳製品は嗜好品である。飲みたい・食べたいという人は飲みかつ食べればよい。そんなことは個人の勝手である。もし、牛乳に骨成長を助け、骨粗鬆症を予防する機能があるというのなら、乳・乳製品は特定保健用食品(トクホ)である。酪農業界と乳業メーカーは乳・乳製品を「特定保健食品」あるいは「栄養機能食品」として申請をすべきだ。古今東西、国民にある特定の食品を強要した国家が存在しただろうか。健康志向の強かったナチス・ドイツでもこんなことはしなかった。日本(旧文部省、現文部科学省)だけだろう。 |