官製国策乳害 ー 乳がん

ある乳がん専門医は語った。「あなたやプラントさんに言われなくても、乳製品が乳がんの原因の一つだということは知っていたよ。毎日乳がん患者を診ていれば、どんな人が乳がんになりやすいか解るのだ。ただ、現在のように乳製品が溢れている社会で、乳製品を止めなさいなんて言うことはできない。だから、我々は早期発見に力を入れているのだ。乳がんは治るから、乳がんになったって早く発見すればいいのだ。乳がんになってしまった患者に好きな乳製品を止めなさいなどと言うのは残酷だよ。乳がん患者に最善の治療を施すのが我々専門医の仕事だ」と。

欧米人がホルモン入り牛乳を飲むようになったのはたかだかここ7、80年のこと(1930年ごろから)に過ぎない。この頃から、欧米で肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮体部がんなどの悪性腫瘍による死亡が著しく増えた(尿道下裂・停留睾丸・精巣悪性腫瘍などの小児生殖器異常の増加は言うまでもない)。日本でも生まれたときから乳・乳製品を飲んだり食べたりした人々(1960年以降に生まれた人たち)が大挙して40代に突入している(日本は30年遅れて欧米の跡を追っている)。

赤ん坊の細胞分裂を刺激するようにデザインされた物質を、成熟した人間が口にしたらどうなるだろうか。ミルクに含まれているIGF-1は、細胞の分裂増殖が最も盛んなとき(人間では乳児期と思春期。成人ではがんに罹ったとき)にその力を発揮する。

42歳で乳がんになり、乳房切除、放射線照射、抗がん剤治療を経験したイギリスのジェイン・プラント(Jane Plant)教授は、乳製品を完全に断ちきることによって、再発・転移をくり返す乳がんを克服した。プラント教授は、科学者の眼で、自らの乳がんを精察し、類い稀な帰納的推理力を駆使して「乳がんは乳・乳製品によって起こる」という結論に達し、2000年に『YOUR LIFE IN YOUR HANDS』(日本語版『乳がんと牛乳−がん細胞はなぜ消えたか』径書房、2008年10月)という感動的な書物を著した。プラント教授は「中国人に乳がんが少ない」「中国人は乳製品を食べない」という素朴な事実から、直感的に「乳がんは乳製品によって起こる」という仮説を導き、厖大な文献考察によってその仮説を検証した。プラント教授の「牛乳−乳がん」説の中核をなす物質が乳・乳製品に含まれているインスリン様成長因子1(IGF-1)である。

IGF-1は70個のアミノ酸からなるポリペプチドである。酪農業界の代弁者は、「牛乳に含まれているIGF-1は、消化管内で分解されてしまうから、血液中に入る(吸収される)ことはない」とか「ヒトの唾液中に含まれているIGF-1が消化管で分解されるのだから、牛乳のIGF-1も消化管で消化されるはずだ」などと反論する。この反論はもっともらしく聞こえるが事実は異なる。

牛乳中に存在するIGF-1は唾液中のものとは違うのだ。牛乳のIGF-1は、唾液のものと違って牛乳の主要タンパク質であるカゼインに保護されているため、消化・分解を免れるのである。乳製品によって血液中のIGF-1が増加することはすでに周知の事実である。IGF-1というポリペプチドの吸収メカニズムは明らかになっていないが、牛乳によって血液中のIGF-1濃度が増えたという報告はたくさんある。たとえば、450mlの牛乳を18ヵ月間飲んだ女の子(12歳)の血中IGF-1濃度は150ml飲んだ同年齢の子どもに比べて10%高かった[1]。また、タンパク質摂取量が同じになるように工夫して無脂肪乳(1500ml)か低脂肪肉(250g)を7日間与えた実験で、牛乳群の血中のIGF-1濃度が19%も増えたという事実は、牛乳のIGF-1が消化管から吸収されることのよい証拠となる(肉群では変化なし)[2]。さらに最近、モンゴル・ウランバートルの学童に毎日700mlのアメリカの市販牛乳を飲ませたところ、血液中IGF-1濃度が上昇したことが確認されている[3]。女性ホルモンとIGF-1が恊働して乳がんの発生に係わっているのだ。
1. Cadogan J, Eastell R, Jones N, Barker ME. Milk intake and bone mineral acquisition in adolescent girls: randomised, controlled intervention trial. British Medical Journal 315: 1255-1260, 1997.
2. Hoppe C, Mソlgaard C, Juul A, Michaelsen KF. High intakes of skimmed milk, but not meat, increase serum IGF-I and IGFBP-3 in eight-year-old boys. European Journal of Clinical Nutrition 58: 1211-1216, 2004.
3. Rich-Edwards JW, Ganmaa D, Pollak MN, Nakamoto EK, Kleinman K, Tserendolgor U, Willett WC, Frazier AL. Milk consumption and the prepubertal somatotropic axis. Nutrition Journal 6: 28-35, 2007.

乳がんはアジアに比べて欧米に圧倒的に多い病気である(図1)。この図は1997年までの欧米(アメリカ・イギリス・カナダ・デンマーク)とアジア(日本・タイ)の乳がん罹患率を示したものである。欧米とアジアにおける罹患率の差は歴然としている。欧米とアジアでなぜこんなに違うのか。人種による差でないことは移民研究で明らかになっている。乳がんの少ない日本から乳がんの多いアメリカに移住した日本人が現地の生活を取り入れると、アメリカ人並みに乳がんに罹りやすくなる。つまり、欧米人の生活そのもの(食生活)に乳がんの原因があるのだ。一言で言うと、バターとクリームの香りがする食生活が乳がんの原因なのだ。

上に述べた欧米とアジアの間で乳・乳製品の消費量を比較してみる(図2)。資料は国連食料農業機関(FAO)がネットで提供している世界各国の食料消費データである。乳がん発生率と同様、乳・乳製品の一人当たりの平均消費量にも欧米(500〜800g/日)とアジア(200g/日未満)の間に歴然とした差がある。食生活の欧米化とはバター・クリームの香りがする食事を食べるようになったことだという私の言い分がお判りいただけるだろう。

最近では、乳がんが全世界に蔓延するようになった。アメリカの週刊誌『タイム(Time)』が「なぜ、乳がんが世界中に蔓延しているのか(Why Bresst Cancer Is Spreading Around The World)」という特集を組むほどである(2007年10月15日号)。乳がんがアジア・アフリカにまで広がったのは乳・乳製品の消費が世界的規模で拡大したからである。バターとクリームの香りが全世界を覆うようになったのだ。西洋文明が世界を制覇したと言うこともできる。乳・乳製品の消費拡大は豊かになった証しである。欧米の食生活(乳文化)は文明の象徴であり、アジア・アフリカ・中東の憧れである。しかし、タイムは「乳・乳製品」に言及していない。

日本で乳がんと診断され、乳がんで命を落と女性が年々増えている。図3に日本女性の乳がんの1975年から2000年までの年齢別罹患率を5年ごとに示した。乳がん罹患率の作図には国立がんセンターのがん対策情報センターがネットで配信している地域がん登録に基づく全国推計値(1975-2001年)を用いた(罹患率に関しては新しい統計がない)。乳がん罹患率が年々高くなっていることがお分かりいただけるだろう。

2001(平成13)年の新規乳がん患者は4万575人であった。1975(昭和50)年の新規乳がん患者数は1万1123人であったから、乳がん発生数は1975〜2001年の26年間に約3・7倍に増えたことになる。最近は、年間2000人ほどの割合で増えているから、2005(平成17)年には約4万8000人の女性が新たに乳がんになったものと推定される。

最近の日本女性の乳がん発生率は、30〜34歳、35〜39歳、40〜44歳、45〜49歳と、年齢の増加とともにほぼ直線的に増え、乳がん発生のピークは45〜49歳という更年期に近い年齢層にある(図24)。他の固形がんと異なって、女性特有のがん(乳がん、卵巣がん、子宮がん)は比較的若い女性に発生するという特徴がある(精巣がんも20〜30歳の青年に好発する)。2000年に45〜49歳の女性は1951〜55年の生まれで、幼少のころから乳・乳製品(クリーム・バター・ケーキ・チョコレート)に慣れ親しんできた。おそらく、トーストした食パンで朝食を済ませるようになった最初の世代だろう。

30代・40代の女性に発生する乳がんの端緒は思春期にある。女の子の思春期が乳房の膨らみで始まることは先に述べた。10歳にもなると、思春期の始まりがTシャツ姿にはっきり見てとれる。この時期には乳腺細胞が猛烈な勢いで分裂・増殖する。その増殖速度はがんの増殖に比せられるほどに速い。分裂はDNAの複製であるから、変異(複製の誤り)が起こりやすい。つまり、乳がんの多くは思春期にその芽ができる。外来性(乳・乳製品)のIGF-1と女性ホルモンは乳房の膨らみをもたらすとともにこれを助長する。乳・乳製品は乳腺細胞の分裂増殖を刺激するために、乳がん(の芽)の発生を促すのである。

乳・乳製品は、最終身長を伸ばすわけではないが、思春期の到来を早めて思春期の成長を早めることも先に述べた(牛乳と子どもの身長」図3を参照)。乳がんの罹患率は思春期の身長との間に興味深い関係がある(図4)。この図は横軸に10歳の身長、縦軸にそれから約30年後の40〜44歳の乳がん罹患率を目盛ったものである。思春期の初期・中期に相当する10歳の身長が高いほど、30年後の乳がんの発生が多くなる(図4で1991〜1995年の罹患率が高いのは、乳がんの診断に従来の視・触診に加えてエコー・マンモグラフィーが用いられるようになったからである)。牛乳によって思春期の成長が早まった結果、乳がんの発生が増えたのである。欧米の研究で、思春期の始まりにほっそりと背が高い女の子が将来乳がんになる確率が高いことはよく知られている[1.275,76]。個人に当てはまることではないが、10歳ごろに急に背が伸びて胸が膨らんだ女の子には、とくに、乳がんの芽ができやすいと言えるだろう(なお、乳腺組織の発育と乳房の大きさは比例しない。乳房の大小は蓄積する脂肪組織の多寡による。)
1. Ahlgren M, Melbye M, Wohlfahrt J, Sソrensen TI. Growth patterns and the risk of breast cancer in women. N Engl J Med 351: 1619-26, 2004.
2. Michels KB, Willett WC. Breast cancer - early life matters. N Engl J Med 351: 1679-81, 2004.

乳がんの芽は誰にでもできる。しかし、その後の数十年の生活が乳がんになる・ならないを決定する。思春期に乳房が大きくなるのは、IGF-1と女性ホルモンが乳腺細胞の分裂・増殖を刺激促進するからである。牛乳から入るIGF-1と女性ホルモンは、これと同じメカニズムで、すでにできている乳がん細胞の分裂と増殖を刺激する(乳がんの発生)。

乳がん死亡の動向は、厚生労働省の人口動態統計によって最近のデータも入手できる。1965(昭和40)年の乳がんによる死者は1966人であったが、2005年には1万721人が乳がんで死んだ。過去40年間で死亡者数は約5・5倍になっている。人口10万人当たりの乳がん死亡率は、1965年の5・2人から2005年の11・4人へと40年間で2・2倍に増えた。年齢調整死亡率が増えているということは、人口の年齢構成の変化による見かけ上の増加ではなく、日本の女性が乳がんで死亡する確率が確実に高くなっていることを示している。

乳がん死亡を年齢別にみると、死亡のピークは55〜59歳にあり、発生率のピークとの間に10年の開きがある(図5)。最近の治療(手術、放射線、抗がん剤、ホルモン剤)が延命をもたらしたからだろう。乳がんで死亡するのは患者4人のうち1人(25%)と言われるのは、乳がんが再発なしに5年あるいは10年経過した場合を治癒としているからである。しかし、がんはその本来の性質からして、完全治癒ということはあり得ない。乳がん患者を40年間追跡すると、結局80%は乳がんで死亡するという暗い報告もある。図5を見ると、乳がん死亡率は70歳過ぎにもう一度急激に上昇する。若いころに鳴りをひそめていた乳がんが、免疫力の衰える高齢期になって命を奪うほどに猛々しくなるのだろう。乳がんになった女性は単に死が近づいていることに悩むだけではない。乳房という女性のシンボルが瑕つく悩みは我々男には想像できないほど深いものだろう。たとえ延命が可能であっても、数十年も再発の恐怖に怯えて過ごすことになる。がんという病(やまい)は本人だけでなく、家族など周りの人々の生活にも大きな影響を与える。

乳がんは早期に発見して治療すると緩解するがんである。したがって、早期発見(=検診)が重要であることはいうまでもない。しかし、日本のがん対策は早期発見・早期治療に偏りすぎていないだろうか。発見・治療よりも予防が先決である。プラント教授は『乳がんと牛乳−がん細胞はなぜ消えたのか』(径書房、2008年10月)において次のように語る。

あまりにも長いこと私たちは、何パーセントかの女性が乳がんになるのは仕方がないという考えを疑いもせずに受け入れてきた。乳がんにならずに済む方法があるなどとは考えてもみなかった。だから、医学・科学・政治・経済のあらゆる分野で、莫大な資金と労力が、乳がんという病気をできるだけ早期に発見して速やかに治療するということにだけ費やされてきたのだ。しかし、実際は違う。私たちは、タバコを吸えば肺がんに、過度の日光(紫外線)に当たれば皮膚がんになる危険性が高くなることを知っている。だから、肺がんや皮膚がんを避けるための行動を自分で選択することができる。しかし、乳がんに対しては無力感に陥るばかりだ。乳がんを避けるのにどうしたらよいのか誰も教えてくれないから、具体的な予防行動を何一つとることができないのだ。もちろん、年齢が高いこと、母親・姉妹に乳がん患者がいることなどが乳がんの危険因子であることは十分知られている。しかし、このようなことはすべて、自分ではもはやどうしようもないことではないか。乳がんは、できるだけ早いときから乳・乳製品を摂らないことで予防できる。たとえ乳がんになっても、乳・乳製品を絶つことで転移・再発を抑えることができる。

いかに精密な検診を行って早期に発見しても、次世代の女性の乳がん発生を減らすことはできない。毎年、毎年、5万人に近い新たな乳がん患者が登場しているのだ。根本的な対策(=予防)が必要である。

「なぜ、日本の若い女性に乳がんが増えているのか」と問われると、ほとんどすべての専門家が「日本人の食生活が欧米化したからだ」と言う。序章で述べたように、「食の欧米化」とは日本人がバター・クリームなどの乳製品を口にするようになったことをいう。食の欧米化が乳がん増加の原因なら、食生活を変える(乳・乳製品を食べない)こと以外に、日本女性を乳がんから救う方法はない。しかし、正統派と目されるがんの専門家は、早期発見・早期治療という虚しいお題目を唱えるだけである。

ある乳がん専門医は私に「あなたやプラントさんに言われなくても、乳製品が乳がんの原因の一つだということは知っていたよ。毎日乳がん患者を診ていれば、どんな人が乳がんになりやすいか解るのだ。ただ、現在のように乳製品が溢れている社会で、乳製品を止めなさいなんて言うことはできない。だから、我々は早期発見に力を入れているのだ。乳がんは治るから、乳がんになったって早く発見すればいいのだ。乳がんになってしまった患者に好きな乳製品を止めなさいなどと言うのは残酷だよ。乳がん患者に最善の治療を施すのが我々専門医の仕事だ」と語った。釈然としない物言いだ。「パン*やケーキ・アイスクリームを止めるくらいなら、乳がんになったっていい」という女性もいるだろうが、「乳がんになるなら、パンをご飯にしてケーキ・アイスクリームを我慢する」という女性もいるだろう。乳・乳製品を止めても身体に不都合なことは何一つないのだから。喫煙が肺がんに結びつくと知っていても、タバコを吸い続ける人がいる。それは個人の自由だ。同じように、乳がん患者が乳製品を食べ続けるのもその人の自由だ。乳・乳製品が乳がんの誘因だと判っているのなら、医師は少なくとも自分の患者にそのことを知らせるべきだ。どうするかは患者の選択に任せればよいのだから。
*ここでパン食について少し触れておきたい。ご飯(水分60%)に比べて、パン(35〜38%)はパサパサしているから、牛乳などと一緒に食べないとのどを通りにくい。困ったことに、香りをつけるためにパンを作るときにバターを使う(マーガリンで代用することもある)。バターは女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)をたくさん含んでいるから、日本人女性には要注意の食品である。女性が好んで食べるものにクロワッサンというパンがある。このパンを作るのに強力粉を300g使うとすると、無塩バター150gと牛乳を150gを使う。小麦粉を牛乳でこねて作ったパン生地でバターを包んで焼いたのがクロワッサンである。だから私はこのパンをドクロ(髑髏)ワッサンとかドク(毒)ワッサンと呼んでいる。乳がんを忌避し妊娠を希望する女性が最も避けなければならない食品である。西洋のパンは本来、小麦粉、イースト、塩、水の4つがあれば作ることができる。バゲット・パリジャン・バタールなどのフランスパンがそれである。洋食に縁のない私でも時々はフランスパンを食べることがある。どうしてもパンを食べたいという女性にはフランスパンをお奨めする。しかし、パンの間にバターを挟んだり、バターを塗ったりしてはいけない。つけるとすればオリーブオイルだろう。

「市場経済」では乳がんでさえも「メシのタネ」になる。経済の活性化のためには金(かね)が動かなければならない。牛乳をたくさん飲み、ケーキ・アイスクリームをたくさん食べてくれれば、酪農・乳製品メーカーが喜ぶ。その結果、乳がんが増える。乳がん検診は、医療機器メーカーや健診業界の収入につながる。患者の治療で医療・製薬業界が潤う。死ねば葬儀屋が儲かる。だから、日本人の乳・乳製品の消費量増大は単に酪農業界と乳業メーカーだけでなく、日本経済全体に少なからぬ波及効果をもたらす。日本人が乳・乳製品を止めて乳がんが減ったら、日本経済は縮小してしまうのだ!? 乳がんがなくなればお医者さんも困るのだ!? このように考えれば、この世の四苦八苦はめぐり巡ってすべてが「メシのタネ」である。

乳がんあるいは乳がん患者は「商品」か。こんな悲しい不条理な話はない。大部分の日本人は1945(昭和20)年前までの長い歴史を乳・乳製品と無縁で過ごしてきた。それなのに、政府や業界の御用学者は、ミルク・ヨーグルト・チーズほど健康によいものはないと日本人を煽った。さらに「牛乳を飲まないと背が高くならない」「乳製品を摂らないと骨粗鬆症になる」と日本人を脅迫してきた。みなさんは、自分の乳房と命は自分で守るしかない(プラント教授の『YOUR LIFE IN YOUR HANDS』)と肝に銘じて、このような無用かつ有害な製品に決然と対処することだ。

この期におよんでも、厚生労働省は、日本人に牛乳を飲ませ、乳製品を食べさせようと躍起になっている。結果的に、彼らは乳がんを増やす方向で努力しているのである。その一方で、厚労省はマンモグラフィーなどによる乳がんの早期発見を謳っている。こういうのを、マッチ・ポンプ(自分で火をつけておいて消火作業をする)というのだ。

現在飲用されている牛乳は妊娠した乳牛から搾られていて、多量の女性ホルモンを含んでいる。市販の低脂肪牛乳が飲用で女性ホルモン作用(ラットの子宮肥大試験陽性)を示すことを先に述べた。牛乳の女性ホルモンは乳がんの発生にも大きな役割を果たしている。日本で市販されている女性ホルモン入りの低脂肪牛乳がDMBA-誘発乳腺腫瘍(腺がん)に対して強い発生促進作用があることが動物実験で確認されている[1]
1. Qin LQ, Xu JY, Wang PW, Ganmaa D, Li J, Wang J, Kaneko T, Hoshi K, Shirai T, Sato A. Low-fat milk promotes the development of 7,12-dimethylbenz(a)anthracene (DMBA)-induced mmammary tumors in rats. International Journal of Cancer 110: 491-496, 2004.

この研究は、女性ホルモンを含む市販の低脂肪牛乳がDMBA-乳がんの発生にどのような影響を与えるのか観察したもので、思春期に発生した乳がんの芽が乳・乳製品によって本物のがんになるという仮説を検証しようとしたものである。動物実験だから傍証に過ぎないが。

雌ラットにDMBA(7,12-ジメチルベンツアントラセン)を与えると、エストロジェン依存性の乳腺腫瘍(腺がん)が発生する。雌ラットに5mgのDMBAを与え、翌日から4種類の液体(低脂肪乳、人工乳、硫酸エストロン水溶液、水)を与えて、DMBA乳がんの発生経過を20週にわたって観察した。人工乳は、牛乳カゼインの替わりにアミノ酸強化グルテン、乳脂肪の替わりにココナッツ・オイルを用い、栄養成分とカロリーが低脂肪乳に等しくなるように調整した。また、硫酸エストロン水溶液は、1mlあたり0・1マイクログラムの硫酸エストロン(牛乳に含まれているエストロジェン)を含むように調整した。低脂肪乳を使ったのは、牛乳の影響が乳脂肪によるものであるという誤解を避けるためである。その結果の一部を図6に示す。

DMBA乳がんの発生は、発生率、発生腫瘍数、腫瘍の大きさのいずれも [牛乳] = [硫酸エストロン] > [人工乳] = [水] であった。比較すべきは、[牛乳]と[人工牛乳]、[硫酸エストロン]と[水]である。低脂肪牛乳は人工牛乳に比べて著明にDMBA乳がんの発生を促進した。その促進の強さは0・1マイクログラム/mlの硫酸エストロン水溶液に匹敵する。さらに興味深いことに、牛乳によって血清中のIGF-1が増加した(データを示さない)。牛乳は、エストロジェンとIGF-1の恊働によって、乳がんの発生を促進するのである。

乳がんは乳害である。日本では農林水産省、厚生労働省、文部科学省が結託して、牛乳を飲まないと「丈夫な子どもが生まれない」「背が伸びない」「骨粗鬆症になって寝たきりになる」と脅して、ホルモン入り牛乳の飲用を国民に強要してきた。乳がんは官製国策乳害である。乳がん患者あるいは乳がんで死亡した人の遺族は、将来、単なる金銭的補償だけではなく、業務上重過失傷害・致死罪で3省の刑事責任を問うことになるかもしれない。

厚生労働省の研究班が、20008年4月、「牛乳やヨーグルトなどの乳製品を多く摂取すると、前立腺がんになるリスクが上がる」という研究結果を報告した[1]。この調査は、95年と98年に全国各地に住む45〜74歳の男性約4万3千人に食習慣などを尋ね、04年まで前立腺がんの発生を追跡した。摂取量に応じて四つのグループに分け、前立腺がんとの関係を調べると、牛乳を飲む量が最も多かった人たちが前立腺がんと診断されるリスクは、最も少ない人たちと比べて1・53倍だったという。牛乳と前立腺がんの関係は以前から指摘されていたが、官庁の研究班が「乳製品と前立腺がん」の関係を認めたのはおそらく世界で初めてだろう。日本では世界最速で前立腺がん発生が増えているが、これはその証しでもある。牛乳による前立腺がんの増加の原因は女性ホルモンとインスリン様成長因子(IGF-I)であるが、残念なことに、この研究班は前立腺がんの増加を、すでに否定されて久しい乳製品の飽和脂肪で説明している。厚生労働省の研究班は「牛乳・乳製品」を敢えて言挙げすることを憚ったのであろう。
1. Kurahashi N, Inoue M, Iwasaki S, Sasazuki S, Tsugane S; Japan Public Health Center-Based Prospective Study Group. Dairy product, saturated fatty acid, and calcium intake and prostate cancer in a prospective cohort of Japanese men. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 17, 930-937. 2008.

以上乳がんを中心に述べたが、男性の前立腺がん・精巣がん、女性の乳がん・卵巣がん・子宮体部がんの発生に牛乳が大きく関与しているという報告もある[1,2]
1. Ganmaa D, Li XM, Wang J, Qin LQ, Wang PY, Sato A. Incidence and mortality of testicular and prostatic cancers in relation to world dietary practices. International Journal of Cancer 98: 262-267, 2002.
2. Ganmaa D, Sato A. The Possible role of female sex hormones in milk from pregnant cows in the development of breast, ovarian and corpus uteri cancers. Nedical Hypotheses 65: 1028-1037, 2005.


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