官製国策乳害 ー 不妊症
日本政府が、「牛乳を飲めば背が伸びる」などという迷い言で、思春期の学童・生徒に妊娠牛から搾ったホルモン入り牛乳を強制的に飲ませたことは罪深い。思春期は精巣の成長に最も重要な時期である。国策乳害による官製不妊症が現在の少子化を招いているのかもしれない。
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現代ミルクの魔力 −牛乳は妊娠した牛から搾られている ところが現代の酪農では、乳牛は妊娠しながらも大量のミルクを出す。濃厚飼料を与え、搾乳器で吸乳し続けるからである。妊娠すると、子宮内に胎仔を保持するために、血中の卵胞ホルモン(エストロジェン)濃度と黄体ホルモン(プロジェステロン)濃度が高くなる。したがって、妊娠中の乳牛から搾った乳汁にはこれら女性ホルモンが多量に含まれている。 ヒープ(Heap)とハモン(Hamon)[1]によれば、妊娠していないウシから搾乳した乳汁の乳清(ホエイ)には約30pg/mLの硫酸エストロン(estrone
sulfatee:エストロンの硫酸抱合体)が存在する。ウシが妊娠するとその濃度が高くなり、妊娠41〜60日には151pg/mLとなり、妊娠220〜240日には1000pg/mLに達する。この硫酸エストロンは、口から入ってエストロジェン効果を示す女性ホルモンである。事実、妊娠馬の尿から抽出・精製した硫酸エストロンがプレマリンという天然経口ホルモン剤として医療に使われている。 現在の酪農家は4種類の乳牛から搾乳している(図2)。妊娠していない牛、妊娠前期の牛、妊娠中期の牛、妊娠後期の牛の4種類である。出産直後の5日間と出産前の2ヶ月(乾乳期)を除いて、すべてのウシから搾乳する(すなわち搾乳期間は300日)。牛乳はタンク内に集められ、牛乳メーカーに出荷されているから、日本の牛乳(もちろん他の先進国においても同様)の4分の3(75%)は妊娠牛から搾乳したものである。女性ホルモンはステロイド骨格であるから、加熱滅菌によって分解しない。したがって、市販の牛乳は女性ホルモン(数百pg/mLの卵胞ホルモンとその数十倍の黄体ホルモン)を含んでいる。言い換えれば、牛乳は「妊娠した雌ウシの白い血液」である。現在のアイスクリーム、チーズ、バター、ヨーグルトなどの乳製品は、みなこの妊娠牛からの女性ホルモン入りの「白い血液」から作られている。 ミルクは純粋な白い液体で、ビタミン・ミネラルなどの栄養素を豊富に含む健康的な飲み物だと考えている方もおいでだろう。しかし、この「健康的な飲み物」は巧みにつくり上げられた幻想に過ぎない。哺乳動物のミルクは、赤ん坊の成長と発達を促すために、たくさんのホルモンやホルモン様物質を高濃度に含んでいる液体(ホルモンカクテル)なのだ。ミルクは、単に養分を与えるだけでなく、細胞の分裂と増殖を刺激して、赤ん坊の急速な成長を促している。ミルクに含まれている最も強力な成長因子は、インスリン様成長因子1(IGF-1)と呼ばれるホルモン様物質である。当然のことながら、離乳期を過ぎた哺乳動物はミルクを必要としない。人間は、離乳後にもミルクを飲み続ける唯一の動物である。 牛乳は急速に成長する子ウシ(体重が1日に1kgも増える!)にとって完璧な飲み物であるが、人間の子ども(体重が1kg増えるのに1ヵ月かかる)には無用である。ましてや大人には害毒以外の何ものでもない。 つまり、ミルクは、それが人間のもの(母乳)であれ牛のもの(牛乳)であれ、親が赤ん坊に与えるべき数百種類もの化学物質を含んでいる液体なのだ。要するにミルクは、同種の動物の子どもの成長・発育に適うように精密に造られた非常に複雑な生化学的液体である。牛乳が悪い飲み物というわけではない。それはすばらしい飲み物である、ただし子牛にとって。ここに昨今の牛乳問題の本質がある。 現代の牛乳が抱える大きな問題の一つがこの牛乳中の女性ホルモン問題である。牛乳に含まれている女性ホルモン、エストロジェン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)、は人間のものと同一である。環境ホルモン(外因性内分泌撹乱物質)と呼ばれる化学物質よりホルモン作用が少なくとも1万倍は高い。とくに、前思春期の子どもが影響を受け易い[1]。それにもかかわらず、酪農業界と関係の深い学者たちは「牛乳のホルモンは、女性の体内を流れているホルモンの量に比べれば微々たるものである」という。この人たちは、現代の牛乳が「妊娠動物の白い血液」であり、牛乳の女性ホルモン濃度が妊娠牛の血液中ホルモン濃度より高いということを忘れている。 彼らの反論根拠は、米国食品医薬品局(FDA)が定めた性ホルモンの安全摂取量(http://www.fda.gov)にある。この数値に比べると牛乳を通して人間の体内に入る女性ホルモンの量は少ないというのだ。FDAは、女性ホルモン濃度が最も低い前思春期の男の子の体内産生量の1%を外から摂取する性ホルモンの許容摂取量と定めている。エストロジェンの一つであるエストラジオールを例にとって説明しよう。 FDAは、前思春期男子のエストラジオールの体内産生量として6・5マイクログラム(マイクログラム=1000分の1グラム)という数値を採用した。したがって、6・5マイクログラムの1%である65ナノグラム(ナノグラム=10億分の1グラム)がエストラジオールの1日許容摂取量(ADI)となる。このFDAの数値は「食品添加物に関するFAO/WHOの共同専門委員会(JECFA)の数値[1]を借用したのである。しかし、FDAが安全摂取量の算出根拠に用いた前思春期の男の子のエストロゲンの体内生産量は極めて疑わしい数値で、この1日許容摂取量には多くの疑問が寄せられている[1-3]。 あるホルモンの体内産生量は、そのホルモンの血漿濃度とそのホルモンの代謝クリアランス(MCR:ホルモンが血液中から代謝によって除去される速度)から次式で求められる。 JECFAとFDAは、前思春期の男の子のエストラジオール産生量の計算に、1)古い方法で測定した著しく高い血漿エストラジオール濃度を用い、2)前思春期の男の子に比べて非常に大きい、成人女性の代謝クリアランスを用いた。したがって、JECFAとFDAが計算した前思春期の男の子のエストラジオールの体内産生量は実際の数値に比べて100〜200倍も高い[1]。つまり、100〜200倍も高い数値が安全量として定められているのである。 クライン(Klein)の新しい測定値[1]に基づいて計算しなおすと、前思春期男子のエストラジオールの体内産生量は0・04〜0・1マイクログラム(40〜100ナノグラム)になる。体内生産量0・04マイクログラムから計算した1日許容摂取量は0・4ナノグラム(=0・04マイクログラムの1%)である。仮に体内産生量を0・1マイクログラムとしても1日許容摂取量は1ナノグラム(=0・1マイクログラムの1%)である。 前思春期の子どものエストラジオール産生量に関して完全に意見の一致がみられているわけではないが、最近の研究はすべて前思春期のホルモンレベルがかつて信じられていたよりもずっと低いことを明らかにしている。さらに将来、成人女性の代謝クリアランス(MCR)ではなく子どものMCRが計算に用いられるようになったら、実際の一日許容摂取量はさらに低くなるであろう。クライン[1]は、10年間の測定経験から前思春期の少年の血清中エストラジオール濃度が1ミリリットルあたり0・4ピコグラム(ピコグラム=1兆分の1グラム)であることを確認している。 因みに現在の日本の子どもは平均して1日320グラムの乳・乳製品を摂っており1日当りのエストロン摂取量は100ナノグラムに達する。すなわち、エストロンだけで計算しても、現在の日本の男の子は体内産生量とほぼ等量の女性ホルモンを乳・乳製品から毎日摂りつづけているのである。 「牛乳製造工場で加熱処理をすれば牛乳中の性ホルモンは活力を失う」という意見を述べる酪農関係者もいる。しかし。ステロイド骨格の性ホルモンは現行の125〜130度の高熱滅菌では壊れないことはすでに実証済みである。日本で市販されている高温滅菌の牛乳はホルモン作用を示すのである[1、後述]。 1960〜70年代に乳児用調整粉ミルクで子どもを育てることが流行した。この粉ミルクの原料の70%は牛乳であった。今となっては測ることはできないが、この調整粉乳にも相当量の女性ホルモンが含まれていたに違いない。この頃に生まれた日本人(団塊ジュニア)の相当数は乳児用粉ミルクで育てられただろう。そしてその後も保育園・幼稚園・小学校・中学校で牛乳を半強制的に飲まされた。この子たち(とくに男の子)はまともに育っただろうか。 それでは、市販の牛乳は本当にホルモン作用があるのか。女性ホルモン作用を実験的に確認する方法に子宮肥大試験という方法がある。卵巣を摘出した雌ラット(子宮が萎縮する)あるいは未成熟の雌ラット(子宮が未発達)に試験物を注射あるいは飲ませて子宮が大きくなるかどうか確認する試験法である。この方法は、まるごとの動物を使う試験法なので信頼性が高い。この方法で、妊娠しているウシから搾られた市販の牛乳は、飲用で女性ホルモン作用を示すことが確認された[1]。すなわち、卵巣を摘出したラットの子宮は萎縮するが、牛乳を与えると回復し、未成熟ラットに牛乳を飲ませると、子宮がより速やかに大きくなった。牛乳の影響は成熟ラットより未成熟ラットに強く発現した。すなわち、牛乳のホルモン作用はおとなよりも子どもに強く現れるのである。 世の中のお母さん方は、自分の子どもが飲んだり食べたりしている牛乳や乳製品が妊娠している牛から搾られた牛乳を原料にしているなどとは夢にも思わないだろう。母親は、自分の出産経験から、子どもが母乳を飲んでいる間は妊娠しないと知っているからだ。妊娠しているウシの体液(乳)を子どもに飲ませる母親がいるだろうか。前思春期の子どもに毎日、女性ホルモン入り牛乳を大量に飲ませるということは、極言すれば、前思春期の子どもに低用量避妊ピルを毎日飲ませているようなものである。年端もいかぬ子どもに避妊ピルを飲ませる母親が、果たしてこの世にいるだろうか。 牛乳中のホルモンは本物のホルモンであるから(ウシの女性ホルモンは人間のものと同一)、そのホルモン作用は外因性内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の比ではない。1998年頃、環境ホルモン(外因性内分泌撹乱物質)をめぐって世界中が大騒ぎしたことを覚えておられるであろう(シーア・コルボーン、ダイアン・ダマノスキ、ジョン・ピーターソン著、長尾力訳『奪われし未来』翔泳社、1997年9月;デボラ・キャドバリー著、井口泰泉監訳・古草秀子訳『メス化する自然−環境ホルモン汚染の恐怖』集英社、1998年2月)。日本でも、子どもを育てるのに母乳(微量のPCB・ダイオキシンが含まれている)がいいか、人工ミルク(哺乳瓶からビスフェノールAが溶出する)がいいかという不毛かつ罪作りな議論がメデイアを賑わせた。 牛乳と日本の少子化問題 1960年以降で子どもがもっとも多く生れたのは1973(昭和48)年であった。この年には209万1983人もの子どもが生れた(第2次ベビーブーム)。しかも人工妊娠中絶が70万532件あったから、約280万人の女性が妊娠していたことになる(表1)。ところが30年後の2004(平成16)年に妊娠した女性は半分の約141万人(生れた子どもは111万721人)になってしまった。妊娠可能年齢(15〜49歳)の女性がそんなに減ったわけではない。3003万人から2837人へと僅かに減少しただけだ。だから、1000人当たりの妊娠数も1973年の92・98から2004年の49・78へとほぼ半減した。 同期間に人工妊娠中絶も半減しているから、つまるところ、日本の女性が妊娠しなくなったのだ。どうしてか。男女が相見(あいまみ)える機会が少なくなったのか。日本人は子づくり作業(性行為)を行わなくなったのか。あるいは避妊が上手になったのか。1999年に厚生省が経口避妊薬(低用量ピル)を医薬品として承認したから、ピル解禁が妊娠を抑制したのか。しかし、避妊のためには、女性が毎日忘れずにピルを服用しなければならない。ピルを入手するには医師の処方箋が必要で、賢い日本女性はこのような面倒くさいうえに危険を伴うものに手を出さない。妊娠が減った理由として、日本人が子づくり作業をしなくなったことと日本人の繁殖力(女性を妊娠させる男の能力および女性の受胎能力)の低下が考えられる。 前思春期はヒトの精巣発育にとって重要な時期であり[1,2]、内分泌撹乱作用を最も受けやすい[3]。精巣のセルトリ(Sertoli)細胞の数によって成長してからの精巣の大きさや精子数が決まる。ラットなどの動物ではセルトリ細胞の数は胎仔期に決まってしまうが[4]、ヒトでは胎児期のみならず思春期を通じてセルトリ細胞の質的および量的成長が起こる[1,2]。前思春期の少年では体内のエストロゲン濃度が極めて低いので、14歳以下の少年の性的成熟に対するエストロゲンの影響が大きい[3]。性発達過程にある幼少期に与えるホルモン入り牛乳が、日本人の生殖能力に悪影響を与えている可能性を否定できない。 かねてから精子の質と量はデンマークの男性が世界最低と言われていた。最近日本で行われた調査で川崎/横浜在住日本人の精子の質・量がデンマーク人より劣っているという結果が報告された(表2)[1]。この調査は、川崎/横浜在住の日本人男性の精子をヨーロッパ4都市(デンマークのコペンハーゲン、フランスのパリ、イギリスのエジンバラ、フィンランドのトウルク)と同じ方法で比較したものである。日本人男性はすべての精子パラメターにおいてヨーロッパ男性に劣っていた。 日本人の性的ポテンシャルが落ちている。朝日新聞は2001年6月下旬、学識経験者の監修を受け、インターネットを使って20〜50代の男女各500人の既婚者を対象にアンケート調査を実施した(朝日新聞2001年7月4日)。その結果、30代の4人に1人は仕事や育児に追われて「セックスレス」であった(日本性科学会は、病気など特別な事情がないのに1ヶ月以上性交渉がないカップルを「セックスレス」と定義している)。朝日の調査では、夫婦間の性交渉が「年数回程度」「この1年全くない」が全体で28%に上った。30代で26%、40代で36%、50代で46%であった。20代でも月1回程度が18%、年数回程度が9%、この1年全くないが2%で、月1回以下が29%もあった。日本人にはセックスより他に愉しいことがあるからかも知れないが、日本人の繁殖力(男の生殖能力)が衰えてしまったのだと考えることもできる。政府がいくら「産めよ増やせよ」と叫んだところで生まれる子どもが増えるはずがない、そもそも子づくり作業を行わないのだから。日本人は忙しすぎるのか。働きすぎなのか。人間関係のみならず、男女関係まで希薄になってしまったのか。 もちろん、妊娠数の減少のすべてを男の責任に帰することはできない。上述のように日本人の精子が質・量ともに世界最低であっても、20代の女性なら受胎できる。しかし30代の後半となっては難しいだろう。牛乳・乳製品のエストロゲンとプロゲステロンの比率は経口避妊ピルにほぼ等しい。健康によいからと牛乳・乳製品をたくさん飲みたくさん食べながら(身体が妊娠と錯覚する)、不妊治療を受ける女性の姿は痛ましい。子どもを望みながら子どもができない女性は、不妊治療を受ける前に、まず一切の乳・乳製品を止めてみることをお勧めする。たくさんの乳・乳製品を毎日飲みかつ食べながら不妊治療を受けるのは、低用量経口避妊薬を服用しながら不妊治療を受けるようなものだ。 日本では7カップルのうち1カップルが不妊といわれている(堤 治『授かる』朝日出版社、2004年10月)。日経新聞(2006年6月26日)によると、「2003年に不妊治療を受けた人は約46万人と、4年前の1・6倍。新生児の65人に1人は体外受精」である。体外受精ならずとも、第三者が関与(排卵誘発剤の使用、人工授精など)によってやっと生まれた子どもの数はずっと多いだろう。 かつて「少子化をのりこえたデンマーク」(朝日選書690、朝日新聞社、2001年12月)という書物まで出版されたデンマークで大変なことが起こっている。人口540万人のこの国で年間約6万人の子どもが生まれる。2002年の記録によると6万4149人の子どもが生まれ、そのうち3955人(6・2%)が人工授精、体外授精、顕微授精などの医療の介助によって生まれた(単なる排卵誘発剤の使用によって妊娠・出産にいたったケースは記録されていない)[1]。正常精子が9%未満になると「生殖能力が劣っている」(subfertility)と判断される[2]。男性生殖学の第一人者であるデンマークのスカッケベック(Skakkebaek)博士によると、デンマーク青年の67%が「生殖能力が劣っている」ことになるという[3]。スカッケベック博士はデンマークにおける不妊の増加は単なる社会的要因によるものではなく、外因性内分泌撹乱物質(いわゆる環境ホルモン)による男性生殖能力の低下を考慮すべきだと強調している。1993年のランセット(Lancet)に掲載された論文[4]で、環境ホルモンの一つとして牛乳・乳製品を挙げたスカッケベック博士は、この新しい論文[3]では牛乳・乳製品に全く言及していない。WTOで敗訴してもアメリカ・カナダ産牛肉の輸入を断固拒否するEUの姿勢を支えた博士が牛乳中ホルモンの危険性を知らないはずがない。事実、同博士は、肉牛の肥育に性ホルモンを使うアメリカ産牛肉と精子数の減少の関連性を指摘する論文[5]の共著者となっている。ホルモンが存在しているのは血液であって肉ではない。前に述べたように、牛乳は妊娠牛の「白い血液」である。問題は牛肉よりもむしろ牛乳にある。しかし、酪農王国のデンマークで「牛乳によって生殖能力が落ちた」と述べることは日本で「米のメシによって生殖能力が落ちた」と言うようなものである。牛乳問題はますます深刻かつ複雑である。因みに、日本は酪農の範をデンマークに求めた。 日本の合計特殊出生率は、2006年1・32、2007年1・34と2年連続で上昇したというニュースは慶ばしい。しかしこれは一過性のものであろう。社会的支援によって一時的に出生率が上昇することはすでにスェーデンやデンマークでも観察されている。前述のように、デンマークは生殖医療技術によってかろうじて合計特殊出生率1・7〜1・8を維持している。日本で問題なのは1970年以降に生まれた世代(いわゆる団塊ジュニア=1971年から1974年までのベビーブームに生まれた世代で、母親が妊娠中に牛乳飲用を半ば強要され、生まれたときから牛乳を飲まされた世代)の出生力低下である。根本的な対策が行われなければ日本の将来は暗い。 1960年以降に生まれた子どもは学校の先生に「牛乳ほどよいものはない」「他のものは残しても牛乳だけは残すな」と言われて育った。昼食で牛乳を飲み終わらないと外に出て遊ぶことが許されなかった。「喉が乾いたら水の代わりに牛乳を飲め」という親や運動クラブの指導者がいた。2003年5月の文部科学省の指導通達で、学校の先生は生徒に牛乳を強要しなくてもよくなったというが、児童・生徒は相変わらず牛乳を半ば強制的に飲まされている(このことは「牛乳と学校給食」で再述する)。 かつて長いこと、母乳の替わりに、牛乳からつくられた粉ミルクで乳児を育てようという人工哺育が関心を集めていた。1959年に牛乳の粉ミルクに糖類等を加えて母乳組成に近づけた「特殊調製粉乳」が作られた。1965(昭和40)年以降に生まれた日本人(いわゆる牛乳世代)の多くはホルモン入り粉ミルクのお世話になった。上述のように、団塊ジュニアは人工ミルクで育てられ、生まれたときから牛乳を飲まされた世代である。この人たちに不妊症が多いのは単なる晩婚・非婚という社会的要因だけによるものだろうか。1980年代からは母乳の成分分析結果をもとにして、微量成分がなるべく母乳に近い製品が作られるようになったが、ホルモン入り牛乳粉ミルクがベースになっていることに変わりはない。チーズやバターなどの乳製品をお買いになるときは「この製品は妊娠している牛から搾った牛乳を使用していません」という表示がある製品だけを選ぶことだ。 欧米人に比べて日本人の牛乳飲用の歴史ははるかに短い。もし現代牛乳に悪影響があるとすればその影響は日本人により強く現われるであろう。実際、アジア人は欧米人に比べて精巣が小さく、精巣当たりセルトリ細胞が少なく、その機能も低く、外来のホルモンによって障害を受けやすい[1]。豊かになったアジア諸国では合計特殊出生率が押し並べて低い。2005年の数値は、韓国1・08、シンガポール1・24、日本1・26である。現在の女性ホルモン入り牛乳を14歳以下の性腺発育期のアジア人児童に与えることを控えるべきである。それなのに、人口13億の中国までが、「すべての子どもに1日500mlの牛乳を飲ませたい」として、いまや巨大な牛乳生産国となった(2007年の牛乳生産量は3650万トンで、日本の10倍弱)。「欧米人の食生活」はかつての植民地に共通する願望である。世界を覆う西洋の牛乳文明は、蟻の一穴となって、やがて人類を滅ぼすだろう!? 国が「牛乳を飲めば背が伸びる」などという迷い言で学童・生徒にホルモン入り牛乳を強制したことは罪深い。国策乳害による官製不妊症が現在の少子化を招いているのかもしれない。 |