牛乳と子どもの身長
(牛乳を飲んでも背が高くなるわけではない)

牛乳を飲んでも背が伸びるわけではない。思春期(男の子は精巣が大きくなる、女の子は胸が膨らむことで始まる)が早まるだけである(早熟化)。妊娠している牛から搾られたホルモン入りの牛乳を飲んでいる最近の日本の子どもは、男の子は16歳で、女の子は14歳で成長が停まってしまう。

子どもは日々成長する。最近の日本の子どもで、身長が最も伸びるのは9〜13歳(女子9〜11歳、男子で11〜13歳)である(2005年度文部科学省「学校保健統計調査報告書」)。図1に男子(5〜17歳の)年齢別平均身長、図2に1歳間隔の男子身長の伸びを1950年と2000年のデータで比較した。1950年ごろの子どもは牛乳・乳製品をほとんど口にしなかったが、その50年後の子どもは乳・乳製品の溢れる社会で育った。


1950年と2000年の間には小学校入学時(6歳)ですでに8・1cmの差が見られるが、中学2年(13歳)には18・8cmという大きな身長差となる(図1)。しかし、2000年の子どもはその後、背があまり伸びなくなり、13〜17歳の伸びは10・8cmに過ぎない(とくに15〜17歳の高校3年間の伸びはわすかに2・4cmである。一方。1950年のこどもは13歳ぐらいまでは141・2cmと小さかったが、その後は高校に入っても背が伸び続け、17歳で161・8cmと、13〜17歳の間に20・6cmも伸びた(2000年のほぼ2倍)。その結果、17歳における1950年と2000年の身長差は9・0cmで、13歳の身長差の半分以下になってうる。もう一度言えば、2000年の子どもは13歳までは身長が急速に高くなるが、その後はこれまた急速に身長の伸びが悪くなってしまう。

一歳間隔の男子の身長の伸び(図2)を眺めるとこのことがもっとよくわかる。最近(2000年)の男子の身長が最もよく伸びるのは11〜12歳で7・6cm、次いで12〜13歳の7・1cmである。その後の身長の伸びは段々少なくなり、16〜17歳の身長の伸びはわずかに0・7cmと1cmを割り込んでしまう。しかし、1950年ごろには、男子の身長が最も伸びたのは14〜15歳(7・5cm)であった。その後の身長の伸びは小さくなったが16〜17歳でも2・5cmも伸びていた。牛乳を飲んだからといって男の子の身長が高くなるわけではない。牛乳を飲んでいる最近の男の子は、昔に比べて、早く大きくなって、早く成長が止まってしまうのである。最近の男の子の思春期は早まっている。すなわち、早熟(おませ)である。

男の子の思春期は精巣が大きくなることで始まる。思春期は精巣の発育に最も重要な時期である(念のために付け加えるが、精巣は胎児〜新生児期にも発育する)。最終的な精子の数を決定する精巣のセルトリ細胞数は思春期に大きく増える[1]。乳・乳製品による思春期の早まり(早熟化)が男性の生殖能力(精子数)に与える影響を注意深く見守る必要がある 。
1. Sharpe RM, McKinnell C, Kivlin C, Fisher JS. Proliferation and functional maturation of Sertoli cells, and their relevance to disorders of testis function in adulthood. Reproduction 125: 769-84, 2003.

つづいて女子(5〜17歳)の身長の変化を見てみよう。男の子と同様に、1950年の女の子は2000年の女の子に比べて身長は低かったが、14歳を過ぎてもなお身長が伸び続けていた(図3)。しかし、2000年の女子の身長14歳を過ぎるとほとんど伸びていない。1950年に152・8cmであった17歳の女の子の平均身長は50年後の2000年には5・4cm伸びて158・1cmになった。過去50年間に身長が大幅に伸びたように見える。ところが、11歳における1950年と2000年の身長差は15・4cmもある。つまり、5歳時に5・4cmであった身長差は11歳で15・4cmに広がるが、17歳の身長差は5・4cmになってしまうのである。このことは、最近の女の子は思春期の始まる頃に身長が急速に伸びるが、その後は身長がほとんど伸びなくなってしまうことを示している。

この現象は、1歳間隔の身長の伸びを示した図4を見ると、さらにはっきりする。2000年の女子の14歳以降の身長の伸びは年間わずかに0・4cmに過ぎないが、1950年の女の子の身長は14〜15歳で平均3・6cmも伸びていたのである。

女の子の思春期は乳房の膨らみで始まる。つづいて、陰毛が生え、初潮の到来で思春期が終わる。思春期の始まりは身長の伸びが急速に上向く時期に一致する。思春期が終わる(初潮)と、その後の身長の伸びはわずかになる。図3・4で明らかなように、2000年の女の子の身長は14歳を過ぎるとその後ほとんど伸びない。つまり、最近の女の子の思春期は、1950年頃に比べて1〜2年早く始まり、終了する(初潮)のも早い。つまり、最近の女の子は、男の子と同様に、昔に比べて早く成長してしまうのである(牛乳と乳がんを参照)。

性情報の氾濫する社会環境が日本の子どもを早熟にしたという意見もあろうが、この身体的早熟には物質的基礎がある。日本の男子・女子の思春期が早まったのは、文部省(現・文部科学省)によって、児童・生徒が強制的(学校給食法)に牛乳を飲まされ、乳製品の摂取を勧奨されたからである。日本人の乳・乳製品の消費量(1人1日当たり)を年齢階級別に見ると、前思春期の7〜14歳(307・8g)と幼児期の1〜6歳(221・8g)の消費量が突出している(図5)。因みに、青年期(20〜29歳)の消費量は128・3gである。

カルシウムの摂取量が少なければ少ないほど、吸収率がよくなることを忘れないで欲しい。思春期に牛乳・乳製品あるいはサプリメントで大量のカルシウムを摂取しても、骨量の増加は一時的で後々まで持続しないことは多数の介入研究が証明している[2]。日本の男の子に対するカルシウム摂取基準(目標量)は、10〜11歳が800mg、12〜14歳が900mg、15〜17歳が850mgとなっている。少年期の摂取基準がこんなに大きな数値になっているのは、文部科学省が子どもに牛乳を半強制的に飲ませているからである。必要もないのに毎日多量のカルシウムを摂っていれば基準値がそれに応じて高くなってしまうのだ。
2. Lanou AJ, Berkow SE, Barnard ND. Calcium, Dairy Products, and Bone Health in Children and Young Adults: A Reevaluation of the Evidence. Pediatrics 115:736-743, 2005.

1950年ごろの日本では食料の絶対量が不足していた。1950年の子どもの身長が低かったのは、牛乳を飲まなかったからではなく、食うものが足りなかったからである。食料が十分あれば、身長は遺伝(設計図)の許す範囲で伸びる。象だって草や木の葉を食ってあんなに大きくなる。牛乳のカルシウムなどは身長の伸びと関係ないのだ。三階建てと設計された建物がどんなにセメントを運んだところで四階建てになるわけはない。同様に、いくら牛乳を飲んだところで、日本人がアメリカ人のように背が高くなることはない。牛乳を飲むと背が高くなると宣伝されてきた。インスリン様成長因子1(IGF-1)や女性ホルモンを含んでいるから、牛乳は一時的に長管骨(四肢の長い骨)を伸長させて思春期の到来を早める。繰り返すが、牛乳・乳製品は子どもの思春期を早めるだけで、最終的な身長を高くするわけではない。


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