牛乳(ミルク)と乳がん

乳がん発生率は、30代女性では日本31.3、アメリカ42.4(1.36倍)、40代では日本94.2、アメリカ157.9(1.68倍)でそれほど大きな差はない(曲線の形状が似ている)。ところが50代の女性では3.18倍、60代で4.58倍、70代で5.78倍、80代で11.83倍と、更年期以後の女性の乳がんは圧倒的にアメリカ女性に多い。図1は1990年の乳がん発生率を示している。1960年以降に日本で生まれた女性(生まれたときから牛乳を飲み、肉を食べた世代)は、この時点(1990年)で30歳以下であった。また、40歳代は1941-50年の生まれで、思春期には牛乳を飲み、肉を食べた。50歳代の女性は1931-40年の生まれで、子どもの頃は牛乳の味と匂いに無縁であった。1960年以降に生まれ、生まれながらにして牛乳の味と匂いに慣れ親しんだ女性(1990年には30歳以下、2000年現在では40歳以下)の女性は、2010年には50歳代(更年期)に突入し、2020年には60歳代に入り、2050年にはほとんどすべての日本人女性が1960年以降の生まれということになる。そのとき、日本人の乳がん発生率はどうなるか。


乳がんの発生に牛乳が関与する

外見上、女性をおんなたらしめているのは乳房である。乳房は女性の魅(観)せる「秘蔵品」で、乳がんは欧米女性が最も怖がる病気はである。存在の根源にメスを入れる破目になりかねないからだ。アメリカの女性は8人に1人が乳がんになる。欧米では女性の乳がん死亡は肺がんに次いで2位であるが、患者数では断突1位のがんである。この点で日本女性は幸せで、乳がんになるのは20人に1人ほどである。現在(2000年)の日本女性のがん死亡は、1位胃がん、2位大腸がん、3位肺がん、4位乳がんである。乳がんの発生数は明らかではないが、毎年約2万人の女性が乳がんにかかり、ほぼ1万人が乳がんで死亡している(2000年には9171人)。乳がんにかかる日本女性の数は毎年増えている。

シェルドン・クリムスキー(Sheldon Krimsky)は、その著「ホルモン・カオス−環境エンドクリン仮説の科学的・社会的起原」(松崎早苗・斉藤陽子訳、藤原書店、2001年9月)においてアメリカ人女性の乳がんに触れている。

「1940年代には、乳がん罹患率は10万人当たり58人であったが、1990年には100人を超えた。一生の間で乳がんにかかるリスクは、第二次世界大戦の終戦時に20人に1人であったものが、1990年代半ばには8人に1人と、倍以上に増加している。乳がん発生数の着実な増加と、納得のいく理由が見つからないことから、各地の乳がん問題活動家と女性の支援団体が結集し、1991年に「全国乳がん連合」が結成された。米国の乳がん研究に対して連邦政府は、1990年には9000万ドル支出していたが、1996年には6億ドル以上となった。」
アメリカの乳がんはすでに政治問題となっている。

乳がんの発生率(1990年)を日本とアメリカの間で比較してみよう。人口10万対の年齢調整発生率は、日本女性(宮城県がん登録)が31.1であるが、アメリカ女性(SEER, White)は90.7である(1)。つまり、年齢構成を考慮しても、アメリカ女性は日本女性のほぼ3倍も乳がんになりやすい。幸いなるかな、日本女性! 年齢別に眺めるとさらにその差異がはっきりする(図1)。乳がん発生率は、30代女性では日本31.3、アメリカ42.4(1.36倍)、40代では日本94.2、アメリカ157.9(1.68倍)でそれほど大きな差はない(曲線の形状が似ている)。ところが50代の女性では3.18倍、60代で4.58倍、70代で5.78倍、80代で11.83倍と、更年期以後の女性の乳がんは圧倒的にアメリカ女性に多い。図1は1990年の乳がん発生率を示す。1960年以降に日本で生まれた女性(生まれたときから牛乳を飲み、肉を食べた世代)は、この時点(1990年)で30歳以下であった。また、40歳代は1941-50年の生まれで、思春期には牛乳を飲み、肉を食べた。 50歳代の女性は1931-40年の生まれで、子どもの頃は牛乳の味と匂いに無縁であった。1960年以降に生まれ、生まれながらにして牛乳の味と匂いに慣れ親しんだ女性(1990年には30歳以下、2000年現在では40歳以下)の女性は、2010年には50歳代(更年期)に突入し、2020年には60歳代に入り、2050年にはほとんどすべての日本人女性が1960年以降の生まれということになる。そのとき、日本人の乳がん発生率曲線は図1のような形を保っているだろうか。

日本とアメリカでなぜこんなに違うのか。日本人とアメリカ人では人種が違うから、遺伝的背景が異なるのではないかとおっしゃる方もおられるだろう。そんなことはない。乳がん発生の少ない日本からハワイやカリフォルニアに移住した日本や中国の移民に対する研究で、がんの発生には人種(遺伝)よりも環境(食生活)の影響を強く受けることが明らかにされている。日本人移民1世は日本式の生活を保持していて、乳がんは少ないが、3世ともなると、現地の生活様式を受け入れ乳がんの発生が移住先の国民と同じ位になる。2世は1世と3世の中間に位置する(2-4)。わずか数世代の間に突然変異が生じて、日本人がアメリカ人と同じ遺伝型になってしまうなどとは考えられないからだ。

食生活で、日本人とアメリカ人とで最も大きな違いは何か。アメリカ人は日本人に比べて圧倒的に多量の肉類(とくに牛肉)と乳・乳製品を食べる(FAOSTAT Database Collections. http://apps.fao.org/cgi-bin/nph-db.pl?subset=nutrition/)。東京でオリンピックが開催され、新幹線が走り、東名高速道路が開通した記念すべき1964年(昭和39年)で比較すると、アメリカ人の肉類消費量は265.7 g、日本人は35.6 gであった。アメリカ人は日本人の7.5倍も肉を食べていた。同年のアメリカ人の乳・乳製品の消費量1263.4 gは日本人の135.6 gの実に9.3倍であった。1998年になると、アメリカ人の肉消費量は337.2 gに増えたが、日本人も115.5 gもの肉を食べるようになり、彼我の差は3.3倍になった。一方、乳・乳製品の消費量は日本人で増えたが(342.3 g)、アメリカ人ではかえって減少した(1144.6 g)。それでも、最近のアメリカ人は日本人に比べて3.3倍も乳・乳製品を消費している。この肉と乳・乳製品の多量消費がアメリカ人の食生活の特徴である。

日本人の肉消費量はアメリカ人に比べて少ない。その替わりに日本人は魚介類を食べる。最近(1998年)の日本人の魚介類消費量はほぼ200 gで、アメリカ人の60 gに比べて、3倍も多く魚肉を食べている。魚肉と獣肉の違いはあるが、ともに動物性タンパク質の宝庫である。そこで、「魚肉+獣肉」を計算するとアメリカ人は400 gの肉を食べ、日本人は313 gの肉を食べる。つまり、日本とアメリカで肉の消費量には大きな差はない。日本人とアメリカ人の食生活における最も大きな差異は乳・乳製品の消費量である。

皿と椀、箸とフォーク・ナイフ、醤油とソースという分類もあるが、欧米料理(洋食)と日本料理(和食)の最大の違いは乳・乳製品を使うか使わないかにある。洋食の特徴はバター・クリームにある。端的には、バターの香りのする料理が洋食である。

第二次世界大戦後、官民あげて牛乳の消費拡大に努めたが、日本人の大多数は牛乳の匂いを好まなかった。牛乳消費が上向いたのは、学校給食法(1954年6月施行)の制定による学校給食への「パンと牛乳」が導入されてからであった(この辺の事情は、鈴木猛夫「『アメリカの小麦戦略』と日本人の食生活」藤原書店、2003年2月に詳しい)。事実、日本人の乳・乳製品の消費量が急増したのは1960年代に入ってからのことである(図2)。それでも日本の乳・乳製品の消費量はアメリカの1/3以下に止まっている。

ここまで読み進んでお気付きと思うが、「アメリカ人女性に乳がんが多いのは(男性の前立腺がんも同じ)、アメリカ人が多量に消費する乳・乳製品にある」とういう仮説が成り立つ(何もアメリカに限ったことではない。牛乳消費量の多い西欧の女性には乳がんが多い)。

ここで今までの乳がんに関する疫学研究を振り返って置こう。疫学研究には、乳がん患者(患者群)と乳がんではない人(対照群)の間で過去の要因曝露(この場合は乳・乳製品の摂取量)に差があるかどうか調べる患者一対照研究と、あらかじめ乳・乳製品の摂取量を調べておいて、その後の乳がん発生率を比較するというコホート研究(前向き研究)がある。患者一対照研究には「牛乳を飲むものには乳がんが多い」という報告(5-7)もあれば、「関係なし」とする報告(8,9)もあるし、逆に「牛乳摂取の多いものには乳がんは少ない」という報告(10)もある。一方、コホート研究でも、結果は一致していない(11-16)。いくつかのコホート研究をまとめた解析(メタアナリシスという)にも「関係あり」とする報告(17)と「関係なし」とする報告(18) がある。疫学研究で、食品摂取量と乳がんの関係を追求することは至難のわざである。もっぱら過去の記憶に頼り、その時(調査時)の心理状態の影響を受ける患者一対照研究では「思い出しの過誤(recall bias)」を免れ得ないし(7)、コホート研究では最初に調べた食品摂取量が将来にわたって継続する保証はない。私見だが、女性は、食品摂取量を尋ねられると、実際よりは少なめに申告する傾向があるようだ。また、牛乳および牛乳製品(全乳、加工乳、発酵乳、粉ミルク、チーズ、バター)が、その姿を変えて、多数の料理と食品(ケーキ、キャンデー、アイスクリーム、チョコレートなど)に使われているために、個人の乳・乳製品の消費量を正確に把握することが難しい。

ここで、疫学研究における食事調査に触れておこう。この項の記述は主として坪野吉孝・久道茂両氏の「栄養疫学」(南江堂、2001年4月)による。調査の対象者が自ら食事のつど何をどのくらい食べたかを記録する「食事記録法」、調査時点からさかのぼって24時間分の食物の摂取状況を調査員が対象者に問診して記録する「24時間思い出し法」、対象者が摂取した食物と同じ量の実物を取り分けてもらって回収しこの食物試料(陰膳)を分析する「陰膳法」、血液・尿・爪・毛髪・皮下脂肪などの生体試料を採取しその中の栄養素などを分析する「生体指標法」、いろいろな食物に関して一定期間における平均的な摂取頻度をたずねその回答から食品群や栄養素の摂取量を計算する「食物摂取頻度調査法」がある。これらのうち、疫学研究でよく用いられるのは「食物摂取頻度調査法」である。

食物摂取頻度調査は、食物摂取頻度調査票を用いて「自己記入」あるいは「自己記入+面接」で行われる。調査票は数十から百数十の食物が並ぶ「食物リスト」、1週あるいは1日に何回食べるかという「摂取頻度に関する質問」、量の少ない多いをたずねる「目安量に関する質問」の3要素から構成される。坪野らが宮城県民向けに開発した調査票には「過去1年間の食事を思い出して,平均的な回数や量のアルファベット(a-i)を○で囲んでください.季節により回数が違うものは,一番多く食べる季節の回数を答えてください.」とあり、「食品名」には変わりご飯・五目ご飯・釜飯、中華丼、うな丼、カレーライス、チャーハン、カツ丼、すし、魚のひもの、焼き魚、煮魚、刺身などの食物が並べられ、「摂取頻度」としてa)食べない(月1回未満)、b)月に1回〜3回、c)週に1回〜2回、d)週に3回〜4回・・・g)毎日2回〜3回、h毎日4回〜6回、i毎日7回以上と並び、「1回あたりの目安量」は茶わん1膳、どんぶり1杯、1皿、1人前、あじ中1枚(魚のひもの)、切り身1切れ(煮魚)、さしみ5切れなどと表現され、a)目安量より少ない(半分以下)、b)目安量と同じ、c)目安量より多い(1.5倍以上)のいずれかに○をつけるようになっている。

通常、この「食物摂取頻度」と「目安量」を既知の食品成分表に照らし合わせて食品と栄養素の摂取量を算出する。「研究などといいながら、すいぶんいい加減なものだなあ」という印象を受けた方もいらっしゃるだろう。「こんなこと聞かれたって答えられないよ。生活が不規則なんだから。朝ごはんもお昼も食べたり食べなかったりだし。会社の帰りに衝動的に食堂に飛び込むこともよくあるからなあ。それにこれでもダイエット中なんだよ。」しかし、この調査はこれで「科学的」なのだ。「この方法を用いたからそのような結論が導かれたのだ」と批判することができる。この「反証可能性」の記述を「科学的」という。

このような食事調査によって、誤って「乳・乳製品は乳がんの発生を抑える」という結論を導き出したコホート研究(12) の詳細を紹介しておく。Knektらはフィンランド女性における乳がんの前向き研究(コホ−ト研究)を行った。この研究では、4697人にあらかじめ面接で食事調査を行ってから、25年間にわたって乳がんの発生を観察したところ、88人に乳がんが発生した。対象者を牛乳の消費量で3群(少ない、中くらい、多い)に分け、各群における乳がん発生率を比較した。乳がん患者は牛乳を飲まないものに多かった(牛乳は乳がんを予防する)! このようなときに、疫学では相対リスク(相対危険度)がいくらかと表現する。[牛乳消費量の多い群の乳がん発生率]/[牛乳消費量の少ない群の乳がん発生率]が相対危険度である。相対危険度は0.42(95%信頼区間=0.24-0.74)であった。すなわち、牛乳をたくさん飲むと申告した人(1日当たり620 g以上)が乳がんになる確率は牛乳をあまり飲まないと申告した人(1日当たり370 g未満)に比べて乳がんになるリスクが半分以下であったということを意味する。乳・乳製品の中で乳がんを予防する効果は牛乳(全乳)のみで、発酵乳、クリーム、チーズなどの乳製品にはこのような効果はなかった。この研究で、牛乳をたくさん飲む人とは1日当たりの牛乳消費量620 g以上、牛乳をあまり飲まない人とは370 g未満である。

ところで、牛乳をよく飲むと申告した人とあまり飲まないと申告した人で食品摂取量を比較すると、穀類:271 g対204 g、イモ:201 g対149 g、野菜:116 g対131 g、果物:133 g対164 g、乳製品:1060 g対486 g、肉・肉製品:122 g対109 g、魚:25 g対22 g、卵:34 g対29 g、総エネルギー:2588 kcal対1789 kcalであった。牛乳をよく飲む人は、野菜と果物を除いて、すべての食品の摂取量が多い(すべて有意)。とくに、乳製品の消費量は2倍を超える開きがある。牛乳をよく飲む人のエネルギー消費量も飲まない人の約1.5倍である。牛乳をよく飲んでいた人たちの体重はあまり飲まない人たちに比べてかなり太っていたと想像される。とすれば、エネルギー消費量が多く、太っている人たちには乳がんが少ないということになる。このことは、少なくとも欧米女性では、乳がんはエネルギー消費量の大きい人に多いという報告(19-21)と矛盾する。

この研究では、最初の乳・乳製品の消費量調査から4-7年後に再調査をしている。最初の牛乳消費量と2回目消費量の群間での相関係数は0.54であったという。かなりの人が牛乳消費に関する申告を変えていることを示している。この研究が行われた頃(1966年)には牛乳中の飽和脂肪酸の弊害が喧伝されるようになった。当初牛乳をよく飲んでいた人たちも途中から牛乳を飲まなくなった可能性がある。

乳・乳製品と乳がんの間に「関係あり」とする疫学研究はいずれも牛乳中の脂肪(不飽和脂肪酸)との関連で議論してといる。事実、アメリカでは1950年代から全乳の消費量が減って、代りに低脂肪乳が摂取されるようになった(22)。それにもかかわらず、過去40年間(1990年頃まで)にわたって乳がんは増え続けてきたのである(23)。

牛乳と獣肉はともにタンパク質と脂肪(不飽和脂肪)が多い。オス・メスの家畜はともに食用になる。しかし、乳(ミルク)はメスのみが分泌する体液である。妊娠しているメス牛が肉用に屠殺されることはない。この事実は重要である。

現代の酪農は昔の酪農と大きく異なってしまった(24)。根本的な違いは「妊娠牛からミルクを搾るようになった」ということである。哺乳類は、出産後にミルクを分泌するが、母親は子がミルクを飲み続けている間は妊娠しない。子の鳴き声、乳首の吸引、乳房の突き上げなどによるプロラクチン・オキシトチンの分泌が排卵を抑制するからだと言われていいる。通常、子牛は生後3月ほどで離乳するから、出産3ヵ月後には再び妊娠可能となる。妊娠しても、子牛が乳首を吸い続ければミルクは出る、しかし、妊娠するとミルクの分泌が少なくなる。このこともさらに重要な視点を提供する。

それなのに、現代の酪農では、メスは妊娠しながらも大量のミルクを出す。濃厚飼料を与え、搾乳器で吸乳し続けるからである。妊娠すると、胎児を維持するために、血中の卵胞ホルモン(エストロゲン)濃度と黄体ホルモン(プロゲステロン)濃度が高くなる。したがって、妊娠中の乳牛から搾ったミルクにはこれら女性ホルモンが相当量含まれている。HeapとHamon(25)によれば、妊娠していない牛から搾乳したミルクの乳漿(ホエイ)には約30 pg/mLの硫酸エストロン(estrone sulfate:estroneの硫酸抱合体)が存在する。牛が妊娠するとその濃度が高くなり、妊娠41-60日には151 pg/mLとなり、妊娠220-240日には1,000 pg/mLに達する。この硫酸エストロンは、口から入ってエストロゲン効果を示す女性ホルモンである。事実、妊娠馬の尿から抽出・精製した硫酸エストロンがプレマリンという天然経口ホルモン剤として医療に使われている。

現在の酪農家は4種類の乳牛から搾乳している。妊娠していない牛、妊娠前期の牛、妊娠中期の牛、妊娠後期の牛の4種類である。出産前の2ヵ月間(乾乳期)を除いて、すべての牛からミルクを搾る。ミルクはタンク内に集められ、ミルクメーカーに出荷される。したがって、日本のミルク(もちろん他の先進国のミルクも同様)の4分の3(75%)は妊娠牛からのミルクである。したがって、妊娠牛からのミルクには女性ホルモン(数百pg/mlのエストロゲンとその数百倍のプロゲステロン)が含まれている。現在のアイスクリーム、チーズ、バター、ヨーグルトなどの乳製品は、みなこの妊娠牛からの女性ホルモン入りミルクから作られている。

牛乳中の硫酸エストロンは本物のホルモン(ウシの女性ホルモンは人間のものと同じ)だから、そのホルモン作用は外因性内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の比ではない(およそ1万倍)(26)。人間がこのような牛乳を飲むようになったのはたかだか70年のことに過ぎない。欧米でも乳・乳製品が大量に消費されるようになったの1930年以降のことである。この頃から、牛乳生産量が飛躍的に増大した。安価な合成化学肥料の大量生産によって(27)、余剰穀物を家畜に与えられるほどに穀物生産量が増大したのだ。この余剰穀物によってミルクの通年生産(自然条件に左右されることなく、人工授精によっていつでも乳牛を妊娠させ、妊娠後半にも搾乳できる)が可能になった(24)。さらに、1920年代から製造されるようになったMeat Bone Meal(いわゆるMBMあるいは肉骨粉)がこの傾向に拍車をかけた。MBMは、胎内で仔を育てている妊娠牛から大量のミルクを搾るために必要だった。先進国のミルク生産量は第一次および第二次世界大戦の間(1920年頃から)に増大し、1940年代にその増大は飛躍的になった。SharpeとSkakkebaek(28)は1993年にLancet 誌上に発表した有名な論文「Are oestrogens involved in falling sperm counts and disorders of the male reproductive tract?」において「先進国ではミルク食品の消費量が多過ぎる。その傾向は1940年代から1950年代に始まった」と述べている。

この頃から、欧米で肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮体部がんなどのホルモン依存性の悪性腫瘍による死亡が著しく増えた(尿道下裂・停留睾丸・精巣悪性腫瘍などの小児生殖器異常の増加は言うまでもない)。日本でも生まれたときからミルク・乳製品を飲んだり食べたりした人々(1960年以降に生まれた人たち)が大挙して40代に突入している。日本は30年遅れて欧米の跡を追っている。肺がんはホルモン依存性であると聞くとびっくりなさるかも知れないが、現在日本で急増している肺がんは腺がんである。もちろん、タバコと肺腺がんとの関係を否定するものではないが、タバコに関係の深い扁平上皮がんはほとんど増えていない。

因みに、1930年頃のアメリカ人男性のがん死亡の1位は胃がん、2位は大腸がんであり、女性の1位は子宮がん、2位は胃がんであった。その後、男女の胃がん、女性の子宮がんによる死亡は急速に減少した(29)。鉄道・高速道路網の整備、冷蔵・冷凍庫の普及によって新鮮な食品を口にできるようになり(胃がんの減少)、バス・シャワーの普及によって、女性が身体のすみずみまで洗う(子宮頚がんの減少)ことができるようになったからである。30-40年遅れて、日本でも同様なことが起った。

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