牛乳中の女性ホルモン
Endocrine Disrupter News Letter Vol. 9, No. 1, June 2006
環境ホルモン学会(正式名 日本内分泌撹乱化学物質学会)

 現代の酪農は昔の酪農と大きく異なっている。根本的な違いは「妊娠牛から牛乳を搾るようになった」ということである。出産直後に仔牛を隔離して搾乳器を用いる現代の酪農では、乳牛は妊娠しながらも乳汁を出す。妊娠すると血中の卵胞ホルモン(エストロゲン)濃度と黄体ホルモン(プロゲステロン)濃度が高くなり乳汁に移行する。
 HeapとHamonによれば、非妊娠牛から搾った乳汁の乳漿(ホエイ)には約30pg/mLの硫酸エストロンが存在する。牛が妊娠するとその濃度が高くなり、妊娠41−60日には151pg/mL、妊娠220−240日には1000pg/mLに達する。この硫酸エストロンは、口から入ってエストロゲン効果を示す女性ホルモンである。女性ホルモンはステロイド骨格であるから、加熱滅菌によって分解しない。したがって、市販の牛乳は女性ホルモン(数百pg/mLのエストロゲンとその数十倍のプロゲステロン)を含んでいる。現在のアイスクリーム、チーズ、バター、ヨーグルトなどの乳製品は、みなこの妊娠牛からの女性ホルモン入り牛乳から作られている。
 日本の市販牛乳は、飲用で女性ホルモン作用を示す。卵巣を摘出したラットの子宮は萎縮するが、牛乳を与えると回復する(子宮肥大試験)。世の中のお母さん方は、自分の子どもが飲んだり食べたりしている牛乳や乳製品がホルモン入り牛乳から作られているなどとは夢にも思わないだろう。母親は、自分の出産経験から、子どもが母乳を飲んでいる間は妊娠しないと知っているからだ。
 人間がこのようなホルモン入り牛乳を飲むようになったのはたかだかここ70年のこと(1930年ごろから)に過ぎない。この頃から、欧米で前立腺がん、乳がん、卵巣がん、子宮体部がんなどのホルモン依存性の悪性腫瘍が著しく増えた(尿道下裂・停留睾丸・精巣悪性腫瘍などの小児生殖器異常の増加は言うまでもない)。日本でも生まれたときから乳・乳製品を飲んだり食べたりした人々(1960年以降の生まれ)が大挙して40代に突入している。
 最近、日本で市販されている牛乳がDMBA-誘発乳腺腫瘍(腺がん)に対して強い発生促進作用があることを確認した。男性の前立腺がん、女性の乳がん・卵巣がん・子宮体部がんの発生に牛乳が大きく関与していることは間違いない。
 日本の合計特殊出生率がとうとう1・25(2005年)になってしまった。この少子化の主たる原因は、青年の非婚・晩婚という社会現象によるものであろう。1973年には209万人もの子どもが生れた(第2次ベビーブーム)。しかも人工妊娠中絶が70万件あったから、約280万人の女性が妊娠していたことになる。ところが2004年の妊娠数は約140万件(生れた子どもは111万人)と半分になってしまった。日本人の繁殖力(主として男の生殖能力)が衰えてしまったのだ。
 朝日新聞社は2001年6月下旬、20-50代の男女各500人の既婚者を対象にアンケート調査を実施した(朝日新聞2001年7月4日)。この調査では、夫婦間の性交渉が「年数回程度」「この1年全くない」が全体で28%に上った。30代で26%、40代で36%、50代で46%であった。20代でも月1回以下が29%もあった。日本にはセックスより他に愉しいことがあるからだろうか。政府がいくら「産めよ増やせよ」と叫んだところで生まれる子どもが増えるはずがない、そもそも子づくり作業を行わないのだから。
 日本人の乳・乳製品の消費量(1人1日当たり)を年齢階級別に見ると、前思春期の7-14歳(307・8g)と幼児期の1-6歳(221・8g)の消費量が突出している。前思春期はヒトの精巣発育にとって重要な時期で、内分泌撹乱作用を最も受けやすい。精巣のセルトリ(Sertoli)細胞の数によって精巣の大きさや精子数が決まる。ヒトでは思春期を通じてセルトリ細胞の質的および量的成長が起こる。前思春期の少年では体内のエストロゲン濃度が極めて低いので、少年の性的成熟に対するエストロゲンの影響が大きい。性発達過程にある幼少期に与えるホルモン入り牛乳が、日本人の生殖能力に悪影響を与えている可能性を否定できない。
 欧米人に比べて日本人の牛乳飲用の歴史ははるかに短い。もし現代牛乳に悪影響があるとすればその影響は日本人により強く現われだろう。実際、アジア人は欧米人に比べて精巣が小さく、精巣当たりセルトリ細胞が少なく、その機能も低く、外来のホルモンによって障害を受けやすい。現在の女性ホルモン入り牛乳を14歳以下の性腺発育期の子どもに与えるべきではない。

参考 http://www.eps1.comlink.ne.jp/~mayus/


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