食に関する一日一話(その1)

2005年02月19日
生協で売られている牛乳は妊娠牛から搾られている

 過日、日本生活協同組合に次ぎの文書を送りました。
東京都生活協同組合連合会・食の安全担当殿
 生活協同組合が食品の安全に大きく貢献なさっておられることに敬意を表します。ところで貴生協で取り扱っていらっしゃら牛乳は「妊娠していない牛から搾った牛乳」でしょうか。
 現代の酪農は昔の酪農と大きく異なっております。現在市販の牛乳は実にその75%が妊娠牛から搾乳されています。現代の酪農のように、出産したら直ちに子を引き離して搾乳器で吸乳していると、母牛はミルクを出しながらも人工授精で妊娠します。妊娠すると、胎仔を維持するために、血中の卵胞ホルモン(エストロゲン)濃度と黄体ホルモン(プロゲステロン)濃度が高くなります。したがって、妊娠中の乳牛から搾ったミルクには相当量のこれら女性ホルモンが含まれています。
 市販の牛乳(妊娠している牛から搾った牛乳)は、飲用で女性ホルモン作用を示します。世の中のお母さん方は、自分や子どもが飲んだり食べたりしているミルクや乳製品が妊娠している牛から搾られた牛乳から作られているなどとは夢にも思っておられないでしょう。母親は、自分の出産経験から、子どもがミルクを飲んでいる間は妊娠しないと思っているからです。
 小学児童のような前思春期の子どもに女性ホルモン入りミルクを毎日飲ませるということは、極言すれば、前思春期の子どもに低用量避妊ピルを毎日飲ませているようなものです。小学校の先生は「他のものはいいから牛乳だけは残すな」とおっしゃる方もおられるそうです。また、「喉が乾いたら水の代わりに牛乳を飲め」という親がいるとも聞いております。一刻も早く、幼児・学童(生涯でホルモンが最も少ない)にホルモン入り牛乳を飲ませることを止めて欲しいと思います。
 学校給食に牛乳を推進してきた文部科学省も2003年5月30日の体育局長通達で「学校給食に必ずしも牛乳を供さなくてもよい」といわざるを得ないようになりました。
 「食の安全」に格別の力を入れていらっしゃる生活協同組合は「非妊娠牛から搾った牛乳」を市民に提供していただきたくお願い申し上げます。
 貴生協では販売している牛乳の黄体ホルモンを測っていらっしゃいますか。8ナノグラム/ミリリットル以上の黄体ホルモンを含む牛乳は「妊娠している牛から搾っている牛乳」です。


2005年02月26日
乳糖不耐症

 乳糖は、自然界では、哺乳類の乳汁中にだけ存在する糖質でグルコースとガラクトースが結合したものです。乳糖はそのままでは吸収されません。小腸粘膜細胞にある乳糖分解酵素という酵素によってグルコースとガラクトースに分解されてはじめて吸収されます。日本人の乳糖分解酵素は2歳ごろから少なくなり10歳ぐらいになるとほぼ完全になくなって、牛乳を飲むとお腹が膨れたりゴロゴロ鳴って痛くなり下痢を起こします。この酵素を大人になっても高率に保持しているのは白色人種(コーカソイド)だけです。この人たちの風土が穀物生産より弱々しい草(牧草)の生産に適していたためです。コーカソイドは羊や牛に草を食わせてその肉や乳汁を利用するという食文化を築きあげてきました。成熟してからも乳が飲めるなどという哺乳類は人類の他に存在しません。この人たちの作り上げた文明が世界を支配するようになりましたから、欧米人は牛乳の飲めないわれわれモンゴロイドやネグロイド(黒色人種)を失礼にも乳糖不耐症などと呼んだのです。大人になったら牛乳を飲めなくなるのが正常で飲めるのが異常なのです。  
 スーダン出身の31歳の医師がランセットという医学雑誌に自分の激しい乳糖不耐症について書いています(参考文献)。この論文の良い日本語訳(マーヴィン・ハリス著、板橋作美訳「食と文化の謎 ミ Good to eatの人類学」岩波書店 1988年8月)がありますからその166-168ページをお借りしてお目にかけましょう。()内は筆者。

 わたしはスーダン出身の31歳の医師で、・・・妻と2歳の娘があり、国でよい教育を受ける幸運にめぐまれ、今はまたイギリスにいる。しかし、わたしの人生は、腸の不調をいつも気にかけ、そのことばかり考えている日々であった。おぼえている最初のはっきりした徴候は、9歳か10歳のときで、ときどき、水のような下痢をともなう激しい腹痛におそわれるようになった。腹がゴロゴロ鳴り、しじゅうおならが出、たとえ量は出ても満足な排便がでさず、悩まされた。日にいく度も便所にいきたくなり、何時問も便器のうえで脂汗を流し、そのあげく、ようやくのことで、ほとんどなくなった歯みがきチューブからしぼりだしたような細い便が、ほんのわずか出るだけだった。
 心理的負担が非常に大きくなり、とくに、家を出て、学校の寄宿舎でほかの学生たちといっしょにくらさなければならなくなってからは、よけいそうなった。すぐに、わたしは、何時間も便所を占拠することで有名になった。ガスを長い時間体内にためておくことは不可能だったので、わたしは、大きなおならを自由に出せる、というユーモアの衣で自分の苦境をかくすしかなかった。グラブ・エル・フルという自分のあだ名を面白がりながらも、心のなかはまったくみじめだった。
 この国[イギリス]に来て、症状がいちじるしく悪化したことに気づいた。わたしはそれを、異文化のなかでの生活と、[医学の]試験勉強のストレスが原因と考えた。毎日の仕事は地獄の試練となった。コーンフレークとミルクの軽い朝食しかとっていなかったのに、病棟の巡回はたえがたい苦痛であった。巡回中、おならをこらえ腹の鳴る音をおさえていなければならず、おわると脱兎のごとく家にもどって、トイレにかけこみ、何回もの腸の大爆発に身をゆだねるのだった・・・わたしは決心した・・・ふすまでなおそうとーふすまは、腸の状態が悪いときの治療薬の主成分として推奨されていた。わたしは、毎朝の、ミルクにまぜるふすまの量を、少しずつふやしていった。ところが、驚いたことに、症状はかえって悪化した・・・絶望的な気持ちになりはじめていたとさ、まったく偶然に、新しく来たコンサルタントと雑談していて、わたしの病気を話す機会があった。彼女は、これは乳糖が原因の可能性がある、と言った。しぶしぶわたしは検査を受けることに同意したが、そんな病原がみつかることなど、ほとんど期待していなかった。
 わたしが受けたラクトーゼ
(乳糖)許容度テストは、まさに劇的だった。数年前、まだ国にいたとき経験した、コレラによるひどい腸炎の症状とまったくおなじだった。ラクトーゼを飲んで30分もしないうちに、腹がものすごい音でゴロゴロ鳴りだし、最後には病棟のはじにいるひとにもきこえるほどだった。2時間後、学生たちの巡察教習の時間になると、わたしは猛烈な腹痛におそわれ、悲惨このうえない状態におちいった。
 ミルクなしの食事をはじめて2、3日すると、頑固な腹部の膨張感がなくなり、頻繁におならをしなくてもよくなっていた。腹がゴロゴロ鳴らなくなり、わたしの人生ではじめてといってよいほど、腸が正常な活動をした。体重はへらなかったが、ウエストがしまり、今度はそのことが、病棟巡回のときに、あらたな問題をおこした。気がつくとズボンがズリ落ちているのである。わたしは、トイレにではなく、ズボンつりを買いに、飛びだしていかなければならなかった。今や、わたしの意気は大いにあがり、鎮静剤を投げ捨て、2番日の論文ムイギリスにおけるスーダン人医師のラクターゼ
(乳糖分解酵素)欠乏症にたちむかっているところである。
参考文献
Ahmed HF. Irritable-bowel syndrome with lactose intolerance. Lancet 2(7929):319-20. 1975


2005年02月27日
牛乳とカルシウム

 カルシウムを1日600ミリグラム以上摂らなければいけないと言われていますが、そんな必要は全くありません。カルシウムは極く微量で筋収縮や神経伝達のために重要な働きをしていますから、その細胞内濃度は非常に低い濃度に調整されています(たとえば、血漿中濃度の1000分の1以下)。多少の余裕はありますが血液中のカルシウム濃度も一定範囲に調整されています。カルシウムを牛乳・乳製品などで余分に摂取して吸収される(=血液の中に入る)と、身体は懸命になって余分なカルシウムを体外に追い出そうとするのです。まずは腎臓を通して尿中にカルシウムを排泄し、次いで胆汁を通して腸管(糞便)に捨てて、何とか血中濃度を一定に保とうと努力しています。われわれの身体は、カルシウムを摂ることよりも、捨てることに一所懸命なのです。
 現在の牛乳は、多量の女性ホルモンを含んでいるということ以外に、大量のカルシウム(約100ミリグラム/100ミリリットル)を含んでいるという点で、日本人にとって最悪の食品の一つです。
 人間に必要なカルシウムは米や野菜で十分こと足ります。人間は30億年かけて進化してきた生き物です。生長期には吸収率を高めて残りなくカルシウムを取り込み、尿中排泄を少なくする機能が備わっています。摂取量が少なければ少ないなりに効率よくカルシウムを吸収して排泄を少なくするのです。牛乳・乳製品などで過剰に吸収されたカルシウムは捨てる過程で尿路結石をつくったり血管壁に沈着したりして(心筋梗塞・脳梗塞)、身体に障害をもたらします。
 牛乳は生後3ヵ月未満の子牛の飲み物です。母乳のカルシウムは100ミリリットル当たり30ミリグラムですが、牛乳には100ミリリットル当たり100ミリグラムと母乳の3倍も含まれています。人間の赤ちゃんはほぼ3キログラムで生まれ1年でほぼ3倍の9キログラムに育ちます(1年間で体重が6キログラム増えます)。子牛は40キログラムほどの体重で生まれ3ヶ月でほぼ3倍の120キログラムにまで育ちます。子牛は人間の赤ちゃんに比べて非常に速やかに生長します。わずか3ヶ月の間に80キログラムも体重が増えるのですよ。だから牛乳には母乳に比べて3倍以上ものカルシウムが含まれているのです。あなたはこんなものを赤ちゃんに与えますか。
 あなたの健康を損なうおそれがありますので、牛乳・乳製品の摂り過ぎに注意しましょう。


2005年03月02日
食生活の欧米化

 食生活の欧米化とは簡単にいえば米のメシが減り、肉や乳・乳製品の摂取量が増えたということです。和食、洋食という言葉がありますね。和食はしょうゆ・味噌で味付けたものであり、ミルク・クリーム・バターで味付けした料理が洋食です。日本人だって大昔からハレの日(冠婚祭などの祝祭日)には、野兎・鳥・鹿・猪などを食しておりました。したがって肉を食材として使うかどうかは和食・洋食の判断基準になりません。あくまで乳・乳製品の香りのするものが洋食です。だから豚カツやカツ丼は、バターで香りをつけない限り、和風料理です。
 第二次世界大戦前でも、洋行帰りや知ったかぶりの知識人はパンをトースターで焼きバターを塗って食べていましたが、圧倒的多数の日本人は味噌汁と漬けものでメシ(多くは雑穀入り)を食べていたものです。一般の日本人がミルクやクリーム・バター・チーズを食べるようになったのは、戦後、とくに経済成長期に突入した1960年以降のことです。 日本人がミルクやバターなどの味と香りを受け入れた最大の理由は西洋に対する強い憧れ(劣等感の裏返し)でしょう。アイスクリーム、ケーキ、チョコレート、ビスケットなどの洋菓子は文明(西洋文化)の味と香りがしたのです。クリスマス・イブや誕生日に、母親は競ってデコレーションケーキを食卓に載せています。なぜ、赤飯を炊いて祝ってあげないのでしょうか。
 日本人はアイスクリームの味と香りに慣れました。慣れたというより好きになりました。牛乳の臭いが嫌だという人でも、あの口の中でとろけるアイスクリームの滑らかな舌触りと芳香を嫌いだという人は少ないでしょう。もう日本人からアイスクリームを取りあげることはできません。だから、日本人の子どもが食べるアイスクリームは「妊娠していない牛から搾ったミルク」から作って欲しいと切実に思うのです。
 あなたの健康を損なうおそれがありますので、牛乳・乳製品の摂りすぎに注意しましょう。


2005年03月07日
カルシウムの摂取基準(1)

 新しいカルシウムの摂取基準をご覧ください(参考図)。カルシウムを腸管ー血液ー尿の間を湯水のように流しっぱなしにしている欧米人の摂取基準の計算法に基づいて作った摂取基準は日本人には当てはまりません。たくさんカルシウムを摂ったって「うんことしっこ」に捨てるカルシウムが増えるだけなのです。

 カルシウム摂取量の多い国々の方が骨粗鬆症による骨折が多いというカルシウム・パラドックスをご存知でしょうか。
 アジア・アフリカ人に比べてカルシウム摂取量の多い欧米人に大腿骨頚部骨折が多いという事実は医学界の不思議でカルシウム・パラドックスと言われています。女性が年をとってから乳・乳製品や肉類から蛋白質をたくさん摂ると、蛋白質の構成成分である含硫アミノ酸(硫黄を含むアミノ酸でメチオニン、システインなどがその代表で動物性蛋白質に多い)から生じる硫酸イオンを中和するために骨からカルシウムが失われて、骨密度がだんだん減少してしまうのです。欧米人は脚が長いから骨折しやすいのだと負け惜しみ言う欧米のお医者さんもいますが。
 牛乳にはカルシウムも含まれていますが、カロリーで計算すると20%もの蛋白質を含む高蛋白食品です。お年をとっても骨のカルシウムは毎日少しづつ置き換わっています(新陳代謝)が、その量はごくわずかです。この程度のカルシウムはご飯やみそ汁で十分補うことができます。年をとったら、牛乳・乳製品などの高蛋白食品からたくさん摂ったカルシウムはほとんどが「うんことしっこ」に捨てられてしまうのです。いやそれだけではありません。肉や牛乳・乳製品を摂ると、上に述べたように骨からカルシウムが失われてしまうのです。
 「うんこ」に捨てられるカルシウムはどうということはありませんが、吸収されて過剰に血液の中に入ったカルシウムはおしっこと一緒に捨てなければなりません。血液の中を巡っている間に、カルシウムはいろいろなところに沈着します。一番困るのは動脈硬化によって血管壁が傷ついているところに好んで沈着することです。カルシウムが沈着すると動脈はますます硬くなり、さらにコレステロールや血小板が沈着して内腔が狭まります。ときにはこの部分が血栓となって飛んでいって細い血管を塞いでしまいます。こうして血液の流れが悪くなったり止まってしまって起こるのが心筋梗塞であり脳梗塞です。
 日本人は「骨粗鬆症の予防にカルシウムの多い牛乳を飲みましょう」という宣伝に騙されて役にも立たない牛乳を飲み続けてきました。これがカルシウム神話です。


2005年03月08日
カルシウムの摂取基準(2)

 カルシウムは1日600ミリグラム以上摂らなければいけないと言われていますが根拠があるのでしょうか?
 江戸時代を通じて日本人のカルシウムの摂取量は1日当たり200ミリグラム前後であったと推定されます。異種動物のミルクはもちろんのこと獣肉をほとんど食べませんでしたが、これで成熟し子孫を増やしてきたのです。明治になっても戦前まで400ミリグラムを超えることはなかったでしょう。妊娠中や授乳中の母親はそれこそ本当に骨身をけずってわが子を育てました。しかしすぐ回復したのです。摂取量が少なくなるとカルシウムの吸収率がよくなってあますことなく吸収されのです。
 現在でも、欧米人の平均カルシウム摂取量は1日当たり800-1000ミリグラムですが、アジア・アフリカは軒並み500ミリグラム以下です。カルシウム摂取食基準の設定に科学的根拠はほとんどありません。カルシウム所要量の決め方についてはホームページの「日本人は何を食べたらよいか」に書きました。要は、[尿中排泄量]+[経皮的損失量]+[体内蓄積量]を計算し、これを吸収効率で割った数値が必要摂取量ということになっています。
 学生(1950年代の後半から1960年代の前半)のころ、アメリカの教科書には尿中カルシウムの正常値が1リットル中300ミリグラムとあるのに日本人は100ミリグラム程度。その頃のおろかな私は、「やはり日本人は牛乳を飲まないから尿中のカルシウムが少ないんだ」などと考えていました。今になって思うと、日本人は摂ったカルシウムを無駄なく利用していたから、尿中に捨てる量が少なかったのですが、欧米人その頃からすでには肉や牛乳・乳製品を摂り過ぎていましたからカルシウムをジャブジャブと尿中に捨てていたのです。
 日本のカルシウム摂取基準の上限値が2300ミリグラムなどというのはとんでもない数値です。カルシウムは細胞内では猛毒ですからね。この摂取基準を決めた人たちは日本人を尿路結石や心筋梗塞・脳梗塞にしようとでも考えているのでしょうか。まさかそんなことはないでしょう。単なる無知(無恥)からそうなったのです。
 
長い間、日本人に不足している栄養素はカルシウムだけと言われて来ました。この潤沢な日本で不足する栄養素があろうはずがありません。基準値に達しないのなら「基準そのものが間違っているのだ」と考えるのが研究者・科学者の思考回路です。普通の食生活を送っていて、カルシウム不足で不都合が生じた日本人がいたでしょうか。皆無です。


2005年03月09日
日本とアメリカの乳・乳製品の摂取量

 日本とアメリカの乳・乳製品の摂取量の比較をご覧ください(参考図)。アメリカだけでなく西欧の乳・乳製品は摂取量は日本の数倍です。日本人の中にも1日に1リットルもの牛乳を飲み、チーズ・バターが大好きという人がいます。何をどのように食べたってその人の勝手ですが、このような日本人はアメリカ人やヨーロッパ人のようになったつもりなんでしょうね。 祖先が食べて来なかったものは安全ではありません。安全な食品とは祖先が何百年も食べて自分たちの身体で安全であることを確認したものです。祖先が食べ続けてきたものをバカにしてはいけませんよ。あなた(読者)にはお二人(2の1乗)の両親がいらっしゃいますね。おじいさん・おばあさんは父方と母方で4人(2の2乗)いらっしゃいます。ひいおじいさん・ひいおばあさんとなると8人(2の3乗)です。人間の1世代はほぼ30年ですから、1000年前には「2の33乗=86億」人の先祖がいたことになります。1世代前、2世代前、3世代前・・・33世代までの祖先の合計は172億ということになります。今のあなたの身体はこれら172億人が食べ続けてきた「穀物+大豆+野菜(+魚)」という「日常茶飯」によって作られています。この日常茶飯が日本人の安全な食事です。


2005年03月10日
カルシウムと心筋梗塞

日本人の心筋梗塞死亡率(人口10万対)29・2(1999年)ですが、アメリカ人では170・0(1998年)です。つまり、アメリカ人は心筋梗塞で日本人の5倍以上も多く死んでいることになります。
 なぜ、アメリカ人は心筋梗塞で倒れる人がこんなに多いのでしょうか。その原因は彼らの食生活(乳・乳製品の過剰摂取=カルシウムの摂り過ぎ)にあります。
 心筋梗塞の大きなリスク要因に冠動脈(心臓を養う血管、この血管が詰まって心筋が死んでしまうのが心筋梗塞)のカルシウム沈着があります。最近、このカルシウム沈着が測れるようになりました。
 40歳代男性日本人100名と同じく40歳代のアメリカ人男性100名における冠状動脈へのカルシウム沈着を測定した報告があります(参考文献1)。それによりますと、アメリカ人に比べて、日本人は血圧、総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、血糖、喫煙率が高いのに、冠状動脈の石灰化はアメリカ人よりはるかに低いという結果でした(参考図)。この図は前記の英文論文から同じ著者らが作成したものです(参考文献2)。


 牛乳・乳製品の摂り過ぎがどんな結果を招くかお分かりいただけたでしょう。人間は血管とともに老いるのです。
参考文献
1)Sekikawa A, et al. Much lower prevalence of coronary calcium detected by electron-beam computed tomography among men aged 40-49 in Japan than in the US, despite a less favorable profile of major risk factors. International Journal of Epidemiology 2005; 34:173-179.
2)関川暁・上島弘嗣ら:米国における虚_性心疾患予防の近未来 ーEBT(Electron Beam Tomography)の可能性.動脈硬化予防3巻3号、14-21ページ


2005年03月13日
牛乳とカルシウムと骨(再)

 2005年3月7日(月)の毎日新聞に上西一弘・女子栄養大学助教授の「牛乳で強い骨を作ろう」という驚くべき記事が掲載されていました。その主旨は「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防のためには若年期に牛乳からカルシウムをしっかりとって骨量を増やしておくことが重要である。カルシウムの摂取量は中学生までは比較的多いが高校生になると少なくなってしまう。これは学校給食で出されていた牛乳が高校生以降はなくなるためである。給食がなくなっても積極的に牛乳摂取を続けて欲しい」というものでした。
 上西さんという方は全国牛乳普及協会の依託を受けた調査で牛乳を400ミリリットル以上飲む女子は100-200ミリリットル飲む女子より体脂肪率が少なかったといって「牛乳を飲む女子はスマート」という記事を新聞に載せて話題を呼んだ人です。
 アメリカのラノー(Lanou)らは、青少年の牛乳からのカルシウムの摂取と成人してからの骨の健康度を調べた文献を精査して「少年・少女期に牛乳・乳製品からカルシウムをたくさん摂取してもその後の骨の健康度(骨密度が高くなるあるいは骨折が減少する)ことにはつながらない」と結論づけています(参考文献)。
 新しいカルシウムの摂取基準の目安量(15-17歳の男子は1100ミリグラム、女子は850ミリグラム)には何の根拠もありません。カルシウムをたくさん摂っても「うんことしっこ」にカルシウムを垂れ流すだけなのです。
 欧米では論文を発表するとき利害関係(英語でConflict of interest)を明らかにすることが求められます。ある団体から助成を受けてその団体に有利にはたらくような研究は非常に厳しい審査を受けるのです。
 また、新聞が必ずしも真実を伝えるとは限らないということをよく覚えておいてください。ある商品のメーカーが大広告主であったり大株主である場合、新聞はそのメーカーの不利になるような記事は掲載しないのです。
参考文献
Lanou AJ, Berkow SE, Barnard ND. Calcium, dairy products, and bone health in children and young adults: a reevaluation of the evidence. Pediatrics 2005;115:736-743.


2005年03月14日
牛乳とアレルギー

 ある妊婦の方から次のようなご質問をいただきました。「妊娠4ヵ月になりますが、転勤前に行った保健センターでは保健師さんから胎児の成長のために牛乳を毎日飲むように指導されましたが、新赴任地のセンター保健師にはカルシウムはご飯や野菜から十分摂れるから無理して牛乳を飲む必要はない、妊娠中に牛乳を飲むと生れた子どもがアレルギー体質になると言われて困っています。どうしたらよいのでしょうか。」
 そこで、小児アレルギーの研究・診療の第一人者でいらっしゃる角田和彦先生に寄稿をお願いいたしました。今日から6回にわたって「妊娠・牛乳・アレルギー」についてわかりやすく解説していただくことにしました。

角田和彦先生
自宅:〒985-0841宮城県多賀城市鶴ヶ谷2丁目14の22
TEL&FAX 022-367-0915 (DD>E-メールBZH07614@nifty.ne.jp
勤務先
〒985-0873 宮城県多賀城市中央1丁目16番8号
かくたこども&アレルギークリニック
TEL: 022-368-7717 FAX: 022-389-0723
E-メール kakuta-clinic@palette.plala.or.jp
有限会社マークス TEL: 022-389-0722
アレルギーっ子の生活HP 
http://homepage2.nifty.com/smark/
旧勤務先
〒985-0024 宮城県塩釜市錦町16-5
坂総合病院小児科
TEL: 022-365-5175 FAX: 022-365-6555

角田和彦先生の「牛乳とアレルギー」(第1回)
 牛乳アレルギーについて:牛乳アレルギーの子供は、少しプックリとした体型で(女性型の体型)、扁桃腺が大きく、よく扁桃腺炎を起こし、いったん気管支喘息などアレルギー疾患を起こすと重症で治りにくく、貧血ぎみであり、カサカサで粉を吹くようなアトピー性皮膚炎を起こすという特徴があります。牛乳にアレルギーがあると腸粘膜がアレルギーを起こして荒れ、粘膜から少しずつ出血しますが、牛乳には鉄分が少ないうえに、せっかく摂取した鉄分も荒れた腸粘膜からの吸収が悪くなり貧血を起こします。
 牛乳にアレルギーがあっても、牛乳に対するIgE抗体(即時型アレルギー検査)が陽性にならないことがあります。特に、人工栄養の赤ちゃんではこの傾向が強くみられます。しかし、牛乳に対するリンパ球の反応(非即時型アレルギー反応)は陽性です。この現象は、人工ミルクに含まれる卵胞ホルモン(女性ホルモン)の影響ではないかと考えています。牛乳蛋白に対する即時型アレルギーと、非即時型アレルギーの程度によって様々な病態が起こると考えられます。
 牛乳アレルギーの割合:厚生労働省食物アレルギー研究班が行った全国食物アレルギー即時型反応疫学調査(平成13年1-12月)では全国の約2000名の医師が参加し(小児科64%、内科18%、皮膚科8%、耳鼻咽喉科3%、その他7%)、食物摂取後1時間以内に症状が現れ病院を受診した症例の調査をおこないました。その結果、2434名の症例が集まり、卵、牛乳、小麦が原因の多くを占めていることがわかりました。私のクリニックでも卵、牛乳のアレルギーが多く、続いて小麦、魚、ピーナッツ、ゴマ、ソバ、バナナなどのアレルギーが多くみられます。他の調査から、人口に占める食物アレルギーの頻度は6〜10%程度といわれています。


2005年03月15日
角田和彦先生の「牛乳とアレルギー」(第2回)

 赤ちゃんのアレルギー:赤ちゃんがアトピー性皮膚炎を起こし来院すると検査や問診でアレルギーの原因を探しますが、すぐに見つかるアレルギーは卵と牛乳です。妊娠中に母親が卵や牛乳を食べることで赤ちゃんはアレルギーを起こす準備状態で生まれ、生後、周囲の人たちが食べている卵や牛乳に接触することでアレルギーがひどくなり、アトピー性皮膚炎が始まります。その後、離乳食で卵や牛乳製品を初めて食べたときに、じんましんなど激しいアレルギー症状を起こすことになります。
 妊娠中の牛乳摂取について:当院の調査では、本来は牛乳を飲むと下痢をしたり、お腹が痛くなったりするため牛乳を飲んでいなかった人が、「妊娠中に牛乳を飲むと元気な子供が生まれる」と勧められて無理して飲んだ人ほど、生まれてきた子供のアレルギーがひどいというデータが得られています。考えてみれば、地球上では、妊娠中に乳を飲む動物はヒト以外には存在しません。母牛でさえ妊娠中に牛乳は飲みません。乳を飲みながら妊娠をする動物は自然界には存在しないのです。
 牛乳アレルギーの原因:牛乳アレルギーが多い理由として、1)牛乳は本来授乳中の仔牛が飲むものであり、哺乳動物の大人が口にするものではないということ、2)日本人は古来牛乳を生存のために必須の栄養源として利用してこなかったこと、3)牛乳が脂溶性の化学物質によって汚染されていること、4)本来はあまり含まれていないはずの量の女性ホルモンが、現在の市販牛乳には含まれており、女性ホルモンはアレルギーを悪化させる可能性があることなどが考えられます。
 乳は赤ちゃんの栄養:哺乳動物は母親が食べ、それを母乳という赤ちゃんのための特別食に作り替えて子育てをします。哺乳によって、両生類や爬虫類に比べてどんなに過酷な条件のもとでも子孫を残すことができるよう進化しました。哺乳動物の赤ちゃんは母乳に含まれる特別な糖である乳糖をエネルギー源として体を発達させます。特にヒトでは脳の発達のためのエネルギー源として利用されます。乳糖を分解して利用するために、哺乳動物の赤ちゃんは乳糖分解酵素を持っています。この酵素は乳児期が過ぎて乳離れすると活性が急激に落ち、その動物の成体が食べる食物を消化できるように消化機能が変化していきます。ヒトの場合は乳糖に変わって、でんぷんを分解するアミラーゼの活性が高くなります。肉食のライオンは成体になれば肉を、草食の牛は成体になれば草を食べるように消化機能は変化します。牛のお父さんもお母さんも、乳糖分解酵素を持っていないため、牛乳では生きていけません。成体になってから「乳」、しかも他の種の動物の乳(牛乳)を飲む生き物は地球上ではヒトだけです。


2005年03月16日
角田和彦先生の「牛乳とアレルギー」(第3回)

 牛乳を必要としたヨーロッパの人たち:人類発祥の地はアフリカだといわれています。そこでは、木の実や穀物、芋、豆などのでんぷん質を主食としエネルギーを獲得しています。私たちが住む日本も似たような食材からエネルギーを得ています。
 太古の昔、南からヨーロッパに移住した人類は、乾燥し寒く過酷な土地であるため、エネルギー豊富な稲を育てることができず、主に麦を育てて食料にしました。やせて乾燥しやすい土地で麦を作るためには連作障害を避けるために休耕することが必要でした。そこで、ヒトは食べることができない草を餌にして成長する牛の肉と、乳牛から絞った牛乳からエネルギーを得ることに頼らざるを得なかったのです。本来、牛乳に含まれる乳糖をヒトの成人は利用することができません。ヨーグルトにしたり、チーズに加工したりすることで乳糖を分解する工夫をしましたが、乳糖が分解できないヒトはエネルギーを得ることができないだけではなく、分解吸収できない過剰な乳糖によって腸内細菌叢が異常を起こし、生き延びられなかったと思われます。ところが、ある時期メソポタミア付近で遺伝子に突然変異が起きました。本来、乳糖分解酵素は成人になると活性が低下しますが、成人になっても酵素活性を維持できるヒトが現れたのです。このヒトたちは、牛乳を成人になっても飲むことができ、乳糖もエネルギー源として利用できました。乳糖分解酵素活性を維持できるヒト同士が結婚して子孫を増やし、現在のヨーロッパ社会ができています。したがって、北欧では(特に北にゆくほど)成人でも乳児並みに高い乳糖分解酵素活性を維持できるヒトが多数を占めます(95%以上)。日本のように、野菜や大豆などが豊富に育つ地域であるため、牛乳をエネルギー源として必要としなかった地域のヒトでは、乳糖分解酵素活性を大人になっても高いまま維持できているヒトの率はわずかで20%未満です。乳糖分解酵素活性が高くないヒトが、健康のためと牛乳を多量に飲むと、乳糖が分解できず、腹痛、腹鳴、下痢などを起こし(この状態は乳糖不耐といわれ、本来、自然な状態の哺乳動物の成体の姿です)、カルシウムや鉄の吸収ができなくなり、骨折や消化機能の異常に起因するさまざまな病気(牛乳アレルギーも含まれます)を起こすことになります。
 したがって、現在のヨーロッパの人たち、及びそこから世界に移動していったアメリカ人やオーストラリア人などだけが、大人になっても赤ちゃんと同じように乳糖を分解する能力をもっています。日本人は、牛乳を飲まなくても米や芋類・豆類から十分なエネルギーを得ることができるため、牛乳を飲む必要はなかったわけです。野菜や海藻が豊富な南の地域、とくに日本では、野菜たっぷりの味噌汁からカルシウムなどのミネラルやビタミンを十分に摂ることができます。日本人が飲めない牛乳を無理して飲んで、カルシウムを摂る必要はないと思います。牛乳は野菜たっぷりの味噌汁が飲めない場合の代用品と考えることができます。日本人は数百年以上も前から食べ続けた野菜が入った味噌汁を十分に食べることが大切です。


2005年03月17日
角田和彦先生の「牛乳とアレルギー」(第4回)

 牛乳に含まれる化学物質:牛乳の乳脂肪は、ダイオキシンやPCB、脂溶性の有機塩素系化学物質などで汚染されています。魚の汚染に比べれば軽度であるものの、乳製品の摂取量が多いため、総量としてはかなり多くなります。これらの化学物質は免疫能力を低下させアレルギーを悪化させると思われます。
 現在市販されている牛乳は、妊娠中の雌牛から搾乳された牛乳も原料となっているため、卵胞ホルモンや黄体ホルモンが自然界ではあり得ない量で含まれています。女性ホルモンは生理的に産生量が少ない小児、特に男児の免疫の発達に大きな影響を及ぼす可能性があります。戦後、牛乳摂取量の増加とともにアレルギー疾患は増加しており、現在のアレルギー疾患の増加は乳製品に含まれる女性ホルモンの摂取と関連している可能性が考えられます。
 牛乳を飲まなくても背は伸びる:少量の卵胞ホルモン(女性ホルモン)は骨の発育を促し身長を急激に伸ばしますが、多量の卵胞ホルモンは骨の発育を停止させ、身長の伸びは停止します。思春期前の女児は、同年代の男児よりも女性ホルモンの分泌が早く始まるため、男児よりも身長が急激に伸びる時期が速く、男児の身長を追い越します。思春期前男児は女児に遅れて女性ホルモンの分泌が開始され(男児も女性ホルモンは分泌されます)、身長は女児に続いて急激に伸び、女児を追い越します。
 戦後の子供達の成長曲線を経年的にみると、牛乳をあまり摂取していない1950年には、約10・5歳で女児の身長が男児の身長を抜いて大きくなり、その3年後、13・5歳で逆転し、17歳の時点では、男児の身長はまだ伸びていました。女児は16歳で身長の伸びが2センチメートル/年以下になり身長の伸びが停止しました。2000年では、約9歳で女児の身長が男児を抜いて大きくなり、その3年後、12歳で逆転し、女児は14歳、男子は16歳で身長の伸びが停止しました。結局、女児の身長が男児の身長を越える年齢は1・5年早期化し、最終的な身長は大きくなりましたが身長の伸びが停止する年齢が早期化(女児では約2年、男子で1・5年早期化)しました。特に、1950年から1975年ごろに急激な変化が起きています。 
 アレルギーがあるため思春期前に牛乳を摂取していない子供たちが大人になりつつあります。その子供たちを見ていると、思春期前は他の子供たちより小さいのですが、思春期になると他の子供たちに遅れて身長が伸び始め、他の子供たちの身長の伸びが止まった後も身長が伸びるため、最終的には同じか高い身長になっていきます。現在の子供たちは女性ホルモンを多く含む牛乳を幼児期から多量に飲むため、思春期前は身長が高くなりましたが、アレルギー疾患が増加、性成熟が早期化し、身長の伸びが早めに止まってしまうのではないかと考えています。女性の初潮の早期化も多量の牛乳摂取と関係がありそうです。


2005年03月18日
角田和彦先生の「牛乳とアレルギー」(第5回)

 カルシウムは野菜から充分に摂れる:1952年に発表された兼松重幸氏の報告(被験者4人)ではカルシウムの吸収率は、野菜5〜27%、小魚25〜53%、牛乳31〜71%で、牛乳は他の食品よりも非常に吸収率がいいということになっていますが、1998年、上西一弘氏らは日本人若年成人女性(9人)における牛乳、小魚(ワカサギ、イワシ)、野菜(コマツナ、モロヘイヤ、オカヒジキ)のカルシウム吸収率を、性周期を一致させて調べ、牛乳39・8%、小魚32・9%、野菜19・2%とあまり差がないことを報告しました。また、野菜は、シュウ酸が多いモロヘイヤやオカヒジキでは吸収が悪いことが考えられ、ケールのようなシュウ酸が少ない野菜のカルシウム吸収率は、牛乳に匹敵するかそれ以上であることが報告されています。カルシウムを含む野菜や味噌、豆腐と、ビタミンDを多く含むキノコ類を組み合わせた、野菜いっぱいの味噌汁を摂取することで、日本人は日本人の生存に必要で充分なカルシウムを補充することができます。よく、健康のためにと赤ちゃんにカルシウムを多量に含む食品を食べさせようとしているお母さんがいますが、これは間違いです。牛乳(つまり牛の母乳)には100ミリリットル中100ミリグラムのカルシウムが含まれますが、ヒトの母乳中には100ミリリットルあたり27ミリグラムしか含まれていません。牛乳中のカルシウムは、子牛が生まれた後に肉食獣の襲撃を受けないように牛の赤ちゃんが早く歩くようになるための必需品です。ヒトのように母親に保護され、社会性を獲得しながら成長する動物では低カルシウムの母乳や食事で充分に時間をかけてゆっくり育つことが必要です。ヒトの赤ちゃんに牛乳を飲ませると、多量のミネラルが未熟な腎臓から排泄できずけいれんを起こしてしまいます。ヒトの赤ちゃんはカルシウムが少ない母乳が必要なのです。特に、人工ミルクをカルシウム含有の高いミネラルウォーターで溶かしてはいけません。
 母乳中のカルシウムを増やすためにと、授乳中は牛乳を飲むように勧める人がいますが、これも間違いです。いくら牛乳を飲んでも母乳中のカルシウムが急激に増えるわけではありません。ちなみに、カルシウムが多い牛乳(母乳)を分泌する雌牛の食べものは、草であり、牛乳を飲んで牛乳を分泌しているわけではありません。


2005年03月19日
角田和彦先生の「牛乳とアレルギー」(第6回)

 アレルギーは生体防衛反応:アレルギー反応は、生体にとって障害となる異物を体外に排除し、生体の健康を維持するために進化した免疫です。アレルギー反応、特にIgEという免疫グロブリンを介して起こるアレルギー反応は哺乳類特有のものです。動物は異物が体内に侵入すると、自分にとって有益ではないと判断した物質は体外へ排出します(免疫の働き)。哺乳類は、自らの体になんらかの障害を起こすと判断した物質を認識すると、体内に侵入しないようにアレルギーを起こし、その物質が体内に侵入する前に排除(防御)します。防御するときに生じる様々な反応が、咳やくしゃみ・鼻水、嘔吐・下痢などのアレルギー症状です。牛乳アレルギーは、生体にとって牛乳は排除されるべき異物と認識されたことを意味しています。日本人は牛乳を「栄養価が高くいい食品」と教え込まれますが、アレルギーの子供たちの体は、牛乳を「健康を維持するために排除すべき物質」と判断しています。今まで述べてきたことを総合すると、どうも後者が正しいのではないかと考えています。
 アレルギーを予防する:アレルギー疾患の増加に歯止めをかけ、アレルギー疾患の症状を軽くさせるためには、環境中の有害な化学物質を低減させ、化学物質汚染があり女性ホルモンを多く含む牛乳・卵・肉(獣肉油脂)、有機リン系殺虫剤の汚染がある輸入小麦(パン)を多食する食生活から、汚染が強い魚介類は避けて、日本人の体質にあった米や汚染が少ない国内産小麦、芋、豆類、野菜、味噌・醤油を中心とした食事にする必要があるのではないかと考えています。実際、そのような食生活にすることでアレルギー疾患の諸症状が改善する例を多数経験しています。


2005年03月20日
妊婦と赤ちゃんの牛乳摂取について

 角田和彦先生の「牛乳とアレルギー」の連載はいかがだったでしょうか。現在、妊娠中の方や赤ちゃんを育てておられる方にとって「妊娠中や授乳中に牛乳・乳製品を摂ってはならない」「赤ちゃんに牛乳・乳製品を与えてはならない」ことがお分かりいただけたと思います。
 この連載中に東京都練馬区にお住まいの妊娠4ヵ月のKさんから「角田先生の仰ることと全く反対の恐ろしいことが書かれている」と、母子健康手帳 II (サービス編)と母子健康手帳副読本が送られてきました。
 母子健康手帳は、「離乳の進め方の目安」(58ページ)として、離乳完了期(12-15ヵ月)の赤ちゃんに離乳食に加えて「牛乳やミルクを300〜400ミリリットル」を飲ませようしています。
 また、母子健康手帳副読本は、「妊娠中の食事」(25ページ)において「カルシウムによって胎児の骨や歯がつくられます。牛乳、乳製品、大豆製品、海藻類、小魚、緑黄色野菜などに含まれています。とくに牛乳は含まれるカルシウムが多く、そのほとんどが吸収されやすい食品ですので、ぜひ、毎日とってください」と妊婦に牛乳摂取を勧めています。
 さらに、この副読本の121ページには、妊娠中に「ふだんより多めにとりたい食品」として「牛乳や乳製品(低脂肪牛乳や無糖ヨーグルトがおすすめ)を合わせて1日400〜500グラムが目安です」と妊婦に大量の牛乳を飲ませようとしています。
 練馬区の保健相談所はアトピーっ子、アレルギーっ子を増産しようというのでしょうか。他県の保健相談所はいかがでしょうか。母子健康手帳(サービス編)や母子健康手帳副読本は役に立たないばかりか有害です。このような母子健康手帳やその副読本は受け取りを拒否することですね。受け取っても結局捨てることになりますから資源の無駄です。
 明日は、母子健康手帳副読本のさらなる副作用について触れた日本経済新聞の記事(2004年11月24日)を紹介します。


2005年03月21日
母子健康手帳副読本

 昨日のこの欄で母子健康手帳のサービス編と副読本が単に無益なだけでなく有害であると書きました。もう1例お目にかけましょう。この副読本が児童虐待の誘因となっているかも知れないという日本経済新聞に掲載された立教大非常勤講師・品田知美さんの「育児に手をかけ過ぎていませんか」(日本経済新聞2004年11月24日)という見解です。以下にその内容を紹介します。
 子どもの数が減り、母子密着の度合いはますます高まっている。それを助長しているのが1985年に改訂された母子健康手帳副読本であると、品田知美・立教大非常勤講師は指摘する。この副読本はできるだけ手をかけて育児をするよう求めた指南書。母親たちにどんな影響を与えているのか、品田氏に分析してもらった。
 「1人でゆっくりトイレにも入れない!」。厚生労働省の調査によれば、幼い子どもを抱えた母親たちの最大の悩みは、「自分の自由な時間が持てない」ことである。上の世代からみると、今どきの親は長い独身時代に自由をおう歌した世代なので、子育て中の束縛が多い生活に耐えられなくなってしまったのだろう、と思いたくなるかもしれない。
 ところが母親たちが育児に使う時間は実際、増えている。総務省の社会生活基本調査によると、86年から2001年にかけて、母親の育児時間は職の有無にかかわらず増加した。有業の場合、84分から112分、無業の場合は179分から218分になった。そのうえ父親も子育てにかかわるようになっているのだから、子どもはずいぶん手厚く育てられるようになっている。なぜ親たちは、子どもにますます手をかけるようになったのだろうか。子どもの数が減っているのに、育児時間が増えるのは奇妙である。1つの理由は、親たちに求められる子育ての「基準」が変わってしまったからだ、と私は考えている。
 その「基準」の変化を如実に表しているのが、母子健康手帳副読本である。これは、妊娠を申請すると大半の自治体で母子健康手帳とともに配られる育児の教科書。64年の初版から現在までで、最も大きく改訂されたのが85年だった。簡潔にいえば、「基準」は親主導から子ども中心へと変化しつづけている。
 例えば近ごろ、赤ちゃんが生まれてからほとんど抱っこし続けて、けんしょう炎になってしまった、と訴える母親がいる。「泣かせるよりは抱き上げる方がいい」という現代風の「基準」に従うなら、泣き虫の赤ちゃんが生まれれば、そうなるのも仕方がない。70年代までの副読本には「3-4ヵ月の赤ちゃんを、やたらに抱いて抱きぐせをつけると、これからの育児にお母さんが苦労します」と書かれていたので、そこまでやる親はまずいなかっただろう。つまり、現在の親世代の「基準」と、その親の祖父母たちの「基準」はかなり違っているのだ。
 抱っこだけではない。子どもが「泣き」という表現で欲求したら、原則として直ちに応えるよう求める現代育児では、母乳やミルクも欲しがる時に欲しがるだけあげるのが「基準」である。
 さらに、1歳までに親が決意して「断乳」するよう促す記述は90年代末ごろに消えて、無理にやめるのではなく子どもが飲みたがらなくなるのを待つ「卒乳」という考え方へと移っている。もちろん60-70年代の副読本も子どもが欲求した場合、母乳や抱っこで柔軟に応えるのを認めていたのだから、変化のポイントは「制限がなくなった」点にある。
 新米のまじめな親たちには「できるだけ」という言葉ほど悩ましいものはない。家事や仕事を後回しにしても、子どもの欲求に応えることを優先しようとする親たちは多いはずだ。その結果、消耗して体調を崩したり、子育てを苦痛と感じてしまい、極端な場合、虐待に至るようでは、本末転倒ではないだろうか。
 つい数10年前には、母親が働きながら子育てをしている間、赤ちゃんが大きなかごのようなものに入れられ長時間自由に動けなかったり、工場に連れられて、機械の周囲など危険な環境で過ごすことも、まれではなかった。子どもの自由を確保しつつ安全に育てられるようになったのだから、親たちはもっと自信を持つべきだ。
 おそらく、現代日本ほど親が子どもに振り回されながら子育て期を過ごす時代・地域はないだろう。親はもう少し主体性を取り戻し、バランスを回復した方がよい。
 過去を振り返ってみたり、違う地域の子育てを眺めてみると、唯一絶対の子育て法などない、と改めて気づく。孫育てにかかわる世代は、時に「あなたはこんなに違うやり方で、ちゃんと育ったよ」と、子世代に語ってみてはいかがだろう。


2005年03月22日
パンにバターと牛乳という朝食

 「先日テレビのある番組で、骨粗しょう症を防ぐには、45歳過ぎたら、朝食は洋食が良いということでメニューは牛乳、コーヒー、トースト1枚、生野菜のサラダでした。ちなみに45歳前は和食がよいということでしたが」という質問をいただきました。
 このような朝食を45歳過ぎに毎日摂っている女性は、更年期を過ぎてから乳がん・卵巣がん・子宮体部がんの危険度が増し、気の毒なことに骨粗鬆症になってしまいます。洋食(バター・クリームなどの乳製品を使った食事)を食べている欧米人には女性特有のがん(乳がん・卵巣がん・子宮体部がん)が多いだけでなく、同じ年齢で比べても骨粗鬆症による骨折は日本人の2-3倍も多いのです。カルシウムの多い牛乳が骨粗鬆症を予防するどころか、かえって骨をもろくしてしまうのです。その理由はすでにで何回も述べましたからここでは繰り返しません。
 ご飯(水分60%)に比べて、パン(35-38%)はパサパサしていますから、牛乳などと一緒に食べないとのどを通りません。なお悪いことにパンを作るときにバターを使います、香りをつけるために。バターは女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)をたくさん含んでいますから、日本人には要注意の食材です。
 女性が好んで食べるクロワッサンというパンがありますね。このパンを作るのに強力粉を300グラム使うとしますと、無塩バター150グラムに牛乳を150グラムも使うんですよ。小麦粉を牛乳でこねて作ったパン生地でバターを包んで焼いたのがクロワッサンです。だから私はこのパンをドクロ(髑髏)ワッサンとかドク(毒)ワッサンと呼んでいます。
 西洋のパンは本来、小麦粉、イースト、塩、水の4つがあれば作れます。バゲット・パリジャン・バタールなどのフランスパンがそれです。洋食に縁のない私でも時々はフランスパンを食べることがあります。しかし、パンの間にバターを挟んだり、バターを塗ったりはしません。どんなパンであれ、パンにバターを塗るなどということをしてはいけませんね。
 それにしてもご覧になったのはひどいテレビ番組ですね。テレビで放映している栄養番組のほとんどは嘘だと思ってください。日本人に合わない西洋生まれの栄養学に基づいていますから。


2005年03月24日
農産物の輸入がストップしたら

 地元の新聞に載っていた面白い記事を紹介します。農林水産省が農産物の輸入がなくなったときの日本人の献立てを作ってみたんだそうです。今はどこのスーパーでも輸入食品・食材が溢れていますね。あれは輸入農産物の一部に過ぎません。輸入農産物の大部分は家畜に与えるための飼料用穀物です。輸入農産物がなくなっても、肉や牛乳・乳製品が毎日食べられなくなるだけのことです。コメ好きな日本人は智恵をつくして懸命にコメ作りに励むでしょうね。一旦、荒れ地(休耕田)になってしまった田んぼを元通りにするのは大変でしょうが・・・。農水省の献立ては結構な健康食ですよ。
農産物の輸入がストップしたら・・・(山梨日日新聞2005年3月22日)夕食はご飯と芋、魚だけ 農水省が献立例を作成
 夕食はご飯1杯、焼き芋1本、焼き魚1切れー。農水省は仮に農産物輸入がストップした場合として、かつての食料不足の時代を思い起こさせる、こんな献立例を作成した。朝、昼もいも中心で、みそ汁は2日に1杯、肉は9日に1食だ。
 農水省が新農政の基本計画で盛り込んだ食料自給率の目標45%(カロリーベース、現行40%)を達成しても、今の食生活のレベルを大幅に落とさざるを得ないとしている。輸入が完全に途絶えるという極喘なケースを想定、食料自給率の向上の必要性を訴えた格好だ。
 ちなみに朝食のメニュー例としては、ご飯1杯、粉吹き芋1皿、ぬか漬け1皿。昼食は焼き芋2本、ふかし芋1個、リンゴ4分の1。
 農水省の試算によると、国産農産物だけで賄える国民1人当たりの1日の摂取カロリーは、2003年度の水準より568キロカロリー少ない2020キロカロリーにとどまる。
 コメよりカロリー効率が高い芋類の作付けを増やすことで、1人平均の摂取量は芋類が年間282キロで03年度より262キロ増加。半面、コメは11キロ減の51キロ、野菜は62キロ減の33キロ、肉類も24キロ減って4キロになる。
 今回の農水省の試算は、新農政の基本計画における15年度の農地面積見通しを前提に、水田の半分程度に芋を植えることを条件としている。


2005年03月26日
牛乳と相撲取り

 先ほど長野県にお住まいの妊娠8ヵ月のTMさんから「通院している病院の産科も妊婦に牛乳とヨーグルトを勧めている」というメールがありました。困ったことに産科のお医者さんにも「カルシウム神話」の信者がいらっしゃるんですね。きっと小児科のお医者さんにもいらっしゃるでしょう。
 モンゴル出身の力士・朝青龍の強靭な足腰は日本人力士を寄せつけません。彼のパワーは圧倒的です。朝青龍が今日本でどんな食事をしているのか分りませんが、少年の頃は乳製品をたくさん食べたことでしょう。モンゴルの大地は半砂漠です。遠くから眺めると青々とした美しい草原ですが、近付いてみると弱々しい草がまばらに生えているだけです。モンゴルでは穀物が育ちません。彼らの先祖はこの草を羊や牛に食わせてその乳や肉を命の糧(かて)としてきました。彼らにとっての乳と肉は日本人の穀物に相当します。
 モンゴルの遊牧民が搾った牛乳をそのまま飲むことはほとんどありません。牛乳を飲んだら腹痛や下痢を起こしてしまいます。だから、牛乳をバターやチーズに加工します。モンゴル人は千年の単位で乳製品に適応してきたのです。日本人にはこのような適応の歴史がありません。
 子どもの頃から「のどが渇(かわ)いたら水の替わりに牛乳を飲め」などと叱咤(しった)されて育った日本の相撲取りが朝青龍に敵(かな)うはずがありません。日本人から双葉山・大鵬・北の湖・千代富士のような大横綱が今後現われることはまずないでしょう。
雑穀ブーム
 昨今は雑穀ブームですね。「五穀(雑穀)ラーメン」「五穀こんにゃく」「五穀餃子(ぎょ うざ)」などなど。雑穀は穀類の総称で、コメ(米)・ムギ(麦)・アワ(粟)・キビ(黍)・ヒエ(稗)などを言います。五穀豊穣の五穀とは、コメ、ムギ、アワ、キビまたはヒエ、マメ(大豆)の5つの穀物のことです。マメは穀類ではありませんが、日本では五穀の一つに数えられています。「穀物+大豆」が日本人の命を支えてきたんですね。メシを食べるだけで何の役にも立たない者を穀潰し(ごくつぶし)などと言いますね。西洋だったら肉潰しでしょうか。
 江戸時代の農民はせっせとコメをつくりましたが、これは年貢(租税)として納めるもので、ほとんどの農民は雑穀を野菜と煮た雑炊を食べていたのでしょう。20世紀に入っても戦前までは雑炊を食べる日本人がたくさんいました。敗戦後の食糧難の時代(昭和20年代)には、一部の金持ちを除いて、雑炊は日本人の主食でした。 
 コメは貴重でしたから、小麦粉のだんごを野菜と煮込んだ「だんご汁」なんてのを食べていました。あれはうまいと思いましたよ。今でもときどき作ります。純小麦粉のだんごは上等で、小麦粉にトウモロコシ粉・キビ粉を混ぜただんごも作りました。小麦粉を水で練って、うどん作りのようにうすく延ばして1センチほどの幅に切り、打ち粉をつけたままみそ味の汁で煮込んだのが「甲州名物ほうとう」。かぼちゃの入った「かぼちゃほうとう」が格別で、今ではこれを売りものにしているお店もあります。作りたての「ほうとう」もうまいが、翌朝冷えたのを熱々のメシに載せて食べるのもまたうまいものです。
 ブームだから、雑穀の栄養価がどうのこうのと云いますがそんなことはどうでもいいのです。穀類はデンプンが多いから人間の食べものとして最適なのです。雑穀が日本でそれほど栽培されているわけではありません。90%は輸入ものです。やがてブームは去ります。今のは「雑穀グルメ」だから長続きしないのです。
 私の日常茶飯は簡単です。3分搗き米(家庭用精米機で玄米を3分に搗いたもの)に市販の「お豆と雑穀ごはんの素」を入れて炊き朝昼晩の3回食べています。「今日から玄米メシに味噌汁だよ、オレが作る。ハレの日は飲めや歌えの謝肉祭だ」と宣言したら家族はみんな賛同しました。「お豆と雑穀ごはんの素」には胚芽押麦、もちきび、もちあわ、黒豆(大豆)、緑豆、小豆、黒米、黒ごま、アマランサスが入っています。この30グラムを2〜3合の3分搗き玄米に混ぜて炊いています。

2005年03月27日
できるだけ病院にいかないという生きかた

 五木寛之さん著の「養生の実技ーつよいカラダでなく」(角川書店、2004年12月)に「できるだけ病院にいかないという生きかた」という一文があります。
 私もそんな「生きかた」をしています。私は、歯医者さんを除いて、診察を受けるために病院・医院を訪れたことはありません、これからどうなるか分りませんが。私は自分の血圧がどのくらいなのか知りません。血圧を測ったことがないからです、他人様の血圧はよく測っていましたのにね。
 ひとたび血圧を測ると高いとか低いとか普通であるとか言われでしょう。血圧が高いと高血圧と言われますね。そうするとその人は「高血圧」になるのです。ときには血圧を下げるという名目で、くすり(降圧剤)を服むことにもなりかねません。そうするとその人は「高血圧症」という病気持ちになります、血圧を測ったばかりに。
 血圧計のない江戸時代のひとで「高血圧」などを心配した人がいたでしょうか。血圧がものすごく高い人は頭が痛かったりしたでしょうが、それでも働けるうちは働いて、ある日突然、脳の血管が破れて亡くなったのでしょう。そのときになってはじめて「脳いっ血あるいは脳卒中」という病名をもらったのです。
 私は常に自分は高血圧であると思って生活しています。だから私の作るみそ汁はきわめてうす味です。だしが十分とれていれば、ほんのりとみその香りがするだけで美味しくいただけます。昼はほとんどおにぎりですが、コンビニのおにぎりは買いません、塩からいからです。自分でにぎります。
 でも、健康診断を受ける受けないはその人の勝手です、「何をどのように食べるか」がその人の勝手であるように。いつもそう思いながら「あなたの健康を損なうおそれがありますので、牛乳・乳製品を摂りすぎに注意しましょう」なんて言っているのです。お節介ですね。


2005年03月28日
狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)の新規発生

 今朝の新聞報道によりますと、日本で16頭目となる狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)が発生したそうです。全頭検査で疑陽性となった北海道天塩町の乳牛1頭がBSEと確定診断されました。9歳のホルスタイン乳牛です。厚生労働省のBSE専門家会議は「典型的なBSE」として、会議を開かずに電子メールで検査データを確認したということです。そういえば2月26日に北海道本別町で発見された15頭目も8歳6ヵ月のホルスタイン乳牛でした。これで日本で狂牛病になった牛はすべてホルスタイン牛ということになります。
現代の酪農
 乳牛は地球上で最も過酷に扱われている動物です。12-14ヵ月(1歳ちょっとですよ!)で人工授精で妊娠させられ(人間と同じく妊娠期間は280日です)、仔牛を産んでも1度もわが子に乳首を含ませることもなく、乳を器械(搾乳器、ミルカー)で搾れるだけ搾られるのです。仔牛は産まれた直後から隔離されてしまいますからわが子の鳴き声、体臭を嗅ぐこともありません。まして乳首を一度も吸われませんからつい最近出産したのに排卵が起こってしまいます。人間でも赤ちゃんが母乳を飲んでいる間は排卵がありません(したがって月経もありません。これを授乳中無月経といいます)。
 排卵が起こりますから、出産後2-3ヵ月もすると搾乳器で乳を搾られながら再び人工授精で妊娠させられます。乳牛のお腹に子がいないのは2-3ヵ月だけなのです。妊娠と出産を数回も繰り返して乳の出が悪くなりますと、トラックで屠畜場に運ばれて肉にされてしまいます。
 乳牛の肉はうまくないから大体ひき肉になります。安いハンバーグは乳牛のひき肉から作られるのでしょうね。胎内に子を抱えながら毎日20-30リットルもの高タンパク・高カルシウムのミルクを出すのですから、穀物と草だけではどうにもなりません。カルシウムとタンパクの多い濃厚飼料が必要です。それが平成13年10月に禁止されことになった肉骨粉です。屠殺した牛の要らないところ(内臓や骨)を過熱して粉にしたものが肉骨粉です。牛に牛を食わせていたのです。肉骨粉が禁止されてから酪農家は何を乳牛に与えているのでしょうか。大豆カスに加えて魚の肉骨粉を与えていることは間違いないのですが、詳細は分りません。どなたか知っていたら教えてください。
 牛に牛を食わせるなんてのは天に唾する行為ですが、草食動物の牛に魚を食わせるなんてのも不自然ですね。


2005年03月31日
牛乳とパーキンソン病

 路上で前かがみの姿勢で小刻みに歩く表情の乏しいお年寄りを見かけたことがありませんか。パーキンソン病です。中年以降に発症し、年齢が高いほど多くなります。70歳を過ぎると急速に増えて1万人に400人ほどの方がこの病気にかかります。決して珍しい病気ではありません。中脳黒質の神経細胞の数が減って、この細胞が分泌するドパミン(神経伝達物質の一つ)の欠乏が原因とされています。くすりによって症状を抑えることはできますが、くすりを長期間にわたって使うことになりますから副作用が出たり、くすりの効きめが落ちるなど、年ごとに悪くなっていきます。すぐ命にかかわることはありませんが、骨折を起こして寝たきりになってしまうこともあります。この病気になったご本人やそのご家族は大変です。
 このパーキンソン病が牛乳と関係があるという疫学研究が最近報告されました。牛乳をたくさん飲む人はパーキンソン病になりやすいという研究はアメリカでの大規模研究で知られていました(参考文献1)。今度新しく発表された論文(参考文献2)は「ホノルル心臓プログラム(HHP)」として行われたものです。栄養調査でどんなものを食べているかを調べた7504人を1965-68年から30年間追いかけた研究です。
 研究開始時(1965-68年)の対象者7504人の平均年齢は54・5歳(45-68歳)でした。その後の30年間でこのうちから128人がパーキンソン病になりました。診断されたときの患者の平均年齢は73・4歳(54-89歳)でした。いろいろの食品の中でこの病気と関係があったのは牛乳だけでした。牛乳を1日に16オンス(約474ミリリットル)以上飲む人の発症率は14・9/人年で、牛乳を飲まない人の発症率(6・9/人年)の2倍以上でした。
 参考文献2では男性のパーキンソン病は牛乳と関係があったが、女性では関係ありという結果になっておりません。女性の結果がプラスにならなかったのは、「女性は栄養調査で真実を語らない、肥満に関係があるといわれている食品(例えば牛乳)は少なめに申告する傾向がある」からでしょう。
 あなたの健康を損なうおそれがありますので、牛乳・乳製品の摂りすぎに注意しましょう。
参考文献
1. Chen H, Zhang SM, Hernan MA, Willett WC, Ascherio A. Diet and Parkinson's disease: a potential role of dairy products in men. Ann Neurol. 2002, 52(6):793-801.
2. Park M, Ross GW, Petrovitch H, White LR, Masaki KH, Nelson JS, Tanner CM, Curb JD, Blanchette PL, Abbott RD. Consumption of milk and calcium in midlife and the future risk of Parkinson disease. Neurology. 2005, ;64(6):1047-51..


2005年04月01日
牛乳を飲むとなぜ太るのか

 3月31日の「牛乳とパーキンソン病」に対して、ある方から、「日本酪農組合が『ダイエットに牛乳を』というテレビ・コマーシャルを流している」というコメントをいただきました。このコマーシャルのもとになった調査研究については3月13日のブログ記事「牛乳とカルシウムと骨(再)」に書きましたので繰り返しません。
 「牛乳でダイエット」などというのはとんでもない作り話です。逆に、牛乳を飲むと太ってしまうのです。その証拠として、デンマークのホッペ(Hoppe)さんたちがヨーロッパ臨床栄養学雑誌に発表した論文(参考文献1)を紹介します。牛乳を飲むとインスリンの分泌が増えるということは以前から知られていました(参考文献2)が、ホッペさんたちは8歳の子ども12人に普段の食事に加えて1・5リットルの脂肪を含まない脱脂乳(スキムミルク)を7日間飲んでもらって血液中のインスリン濃度を測ったのです。脱脂乳は液体ですから、1・5リットルぐらいは飲めるんですね。摂取エネルギーは2156キロカロリーから2428キロカロリーへと13%増えました。そうしたところ、空腹時(朝食前)の血清インスリン濃度が2倍に増えたのです。7日間で増えた体重は平均して550グラムでした。
 この研究で重要なことは牛乳を飲むと空腹時のインスリン濃度が2倍に増えたということです。インスリンは同化ホルモンで、食べたエネルギーを体内にため込むホルモンです。インスリンの分泌が増えると体重(体脂肪)も増えます。ホッペさんたちは1・5リットルもの脱脂乳を飲ませましたが、食事と一緒に200ミリリットル(日本の学校給食で出る牛乳と同じ量)の牛乳を飲ませるだけで食後のインスリン濃度が増えるという研究もあります(参考文献2)。牛乳を飲むとダイエットになるどころか太ってしまうのです。
 一時、低インスリンダイエットというのが流行しましたね。インスリン分泌の少ない食品を選んで食べるというダイエット法でした。日本人は「穀物+大豆+野菜(+魚介類)」という食事をしている限り太るということはありません。
 これはデンマークの少年についての話ですから、日本の少年でも同じようになるかどうかはわかりません。しかし、基本的なことは西洋人でも日本人でも同じでしょうね。
参考文献
1. Hoppe C, Mソlgaad C, Vaag A, Barkholt V, Michaelsen KF. High intakes of milk, but not meat, increase s-insulin and insulin resistance in 8-year-old boys. European Journal of Clinical Nutrition 2005; 59: 393-398.
2. Liljeberg Elmstahl HG, Bjorck IM. Milk as a supplement to mixed meals may elevate postprandial insulinaemia. European Journal of Clinical Nutrition 2001; 55: 994-999.


2005年04月02日
寿司(すし)

 寿司が日本を代表する食べ物ということになっています。数年前に先輩に東京の値段が高いことで有名な某高級寿司屋に連れていってもらいました。通ぶる客は寿司屋のカウンター席に座るんですね。
 カウンター席では職人が目の前で寿司を握りますね。高級寿司屋には値段が書かれていません。値段を気にする奴なんかお呼びでないよということなのでしょうか。職人はチラチラと客がどういうものをどういうふうに食うのか眺めています。寿司職人はその分際を忘れ、むやみに値段を上げるばかりか威張るようになったんです。なんとなんと、客である先輩が寿司を注文するたびに寿司屋のおやじを「ご主人」と呼びかけていたではありませんか。これには驚きましたね。
 私が愛読している山本夏彦(コラムニスト、2002年10月没)の「ダメな人」につぎのような1節があります。
 何より私(山本夏彦)がきらいなのは客と職人の間にけじめがないことである。寿司屋の客は職人に媚(こ)びる傾向がある。客が客らしくないから、職人にあなどられ、あなどられた自覚がなくてここにあるのは和気だと勘ちがいする。
 この和気と勘違いする人のことを通人というんですね。
 寿司が大好きという人には申し訳けありませんが、寿司が日本を代表する料理なんてとても思えません。酢入りメシのおにぎりに生魚(なまざかな)の切り身を載っけたでけのものですよ、にぎり寿司というのは。こんなものが日本を代表する料理であるものか。


2005年04月03日
子どもを日本人に育てる

 今日は蕎麦(そば)について書く予定でしたが、はからずも昨日山本夏彦さんを登場させてしまいました。そこで今日は、私が彼の作品の中で最高傑作と思っているコラムを紹介します。新潮社もあの世の山本さんも赦してくれるでしょう。日本人がみなニセ日本人になってしまいました。もうもとには戻れませんが、かつての日本人にはこういう人たちもいたのです。個々の字句は解らなくても全体の調子がなんとなく分ればよいのです。詳しく知りたい方は字句の意味を辞典で調べてください。
蒸気機関に目がくらみ
 日本人はいつからニセ日本人になったか、私は怪しんで少年のころからじつと見守っていた。昭和初年から日本の知識人はわが国を、この国と書くようになった。この国あの国と書けば書き手とわが国の間に距離が生じる、ははあ自分は西洋人のつもりなんだな。
 旧幕のころはそうでなかったと遺米使節木村摂津守、村垣淡路守の日誌をのちに読んで知った。異人に伍してよく自己を失わず摂津守のごときは頭のてっペんから足のつまさきまで貴人だと、かの地の新聞に書かれた。「草の葉」の詩人ホイットマンは日本使節をたたえる詩を書いた。
 使節たち一行は終始日本人として威儀を正し、おめず臆せず進退したから、相手も身分ある外交官である。顔は黄色く背はちんちくりんでも、その絹の衣服、さながら美術品のような大小の刀、一個別派のまぎれもない文明国人だと思わずにはいられなかった。
 使節は大歓迎され連日宴席に次ぐ宴席である、始めは酒間を斡旋する芸者のたぐいかと勘ちがいしたが、各界名士の夫人たちだと知れて、肌もあらわなデコルテが正装だと分ると村垣淡路守は「夷狄(いてき)の蛮風(ばんぷう)なれば是非もなし」とその日誌に書いた。すなわち日本人の目で見ている。
 なぜ日本人でいられたか。一行は和漢の教養というより、通俗なモラルー儒教によって支えられていたからである。
 広瀬武夫(慶応四年生)夏目漱石(慶応三年生)までそうである。広瀬は日記を漢文で書いている。折々は和歌を詠んでいる。漱石は死ぬまで漢詩をつくることを楽しみにしていた。漱石には夥しい弟子がいたが、漱石の英文学を継ぐものはあっても、漢詩文を継ぐものはなかった。弟子たちは西洋の古典を学べば西洋人になれると思って和漢の古典を捨て、双方を失ったのである。漱石はその著書「文学評論」の序文で、日本人として見た英国及び英国人をほとんど痛罵している。
 なぜ漱石にこのことがあって弟子にないか、弟子のすべてがニセ日本人になったからで、私はさかのぼって福沢諭吉にいたるのである。福沢は英語を解するものの一人として遣米、遣欧使節に都合三度従っている。その短時日によく西洋文明の神髄をつかみ「西洋事情」「文明論之概略」を書いた。一刻も早く西洋に追いつかなければならぬ。
 汽車汽船以下の文物に驚愕したのである。これをそのまま模して、やがては日本人の手で造らねばならぬと思ったのである。福沢は洋学を尊重して漢学を過去のものとした。富国強兵を鼓吹(こすい)した。功利主義に徹せよと説いた。これをひと言でいえば蒸気機関に目がくらんだのである。
 孔孟の子は孔孟でない、ただの赤ん坊である。ひとたび蒸気機関ができてしまえば蒸気機関から出発できる。汽車のない時代には戻らない。これを文明開化という。これ以上開化すれば世界は破滅すると言っても聞くものはないから、言うだけヤボである。「蒸気機関に目がくらみ」のひと言で、電光のように分るものには分る、分らぬものには千万言を費しても分るまいから万事は休したのである。

週間新潮「夏彦の写真コラム」2001年5月31日号、「一寸さきはヤミがいい」(新潮社2003年2月)所収


2005年04月04日
蕎麦(そば)

 そばはコメの栽培できない山間の荒れ地でも穫れましたからもっぱら代用食として食べていました。私の子どもの頃はそばきりなどというものはなく「そばがき」でしたね。鍋で沸かした湯にそば粉を放り込み必死でかき回してほどよいところで火を止める。熱いのにしょうゆをかけてふうふう吹きながら食べたものです。
 最近はもっぱら手打ちそば(江戸風そばきり)になりました。「あそこのそばがうまい」と聞くと100キロ200キロをものともせず駆けつける「そば通(もの狂い)」もいます。総ひのき造りのそば屋もあれば、わざわざいなか風に仕立てた店もあります。このようなそば屋では決まって客が職人をほめ讃えます。「ああ、うまかった、たれつゆもいいがなんたってそばがうまい」。お世辞ですね。「いかがでございましょうか」とそば打ち職人がテーブルに回ってくることもあります。あれは「ほめよ」ってことですよ。こうまでされてほめない客はめったにいません。山本夏彦が「客が職人に媚(こ)びる」というのはこういうことです。だからそば職人がでかい顔をするのです。
 私もそばを打ちます。以前はのし板・のし棒・そば切り包丁と揃えていましたが、今はみんな捨ててしまいました。そば打ちなんていたって簡単、貧乏人の食い物ですからね。4:1:1の原則を覚えていれば誰にでも手打ちそばができます。そば粉4:強力粉1:水1を混ぜて捏ねるだけ。まず失敗はありません。まな板でビール瓶をのし棒にして1センチほどの厚さに延ばす。これを製麺機(愛用はイタリア・インぺリア製のパスタマシン、1万円位)でうすく延ばしさらに細きリ刃で切るだけ。ゆでるにはちょっとコツがいるが、大きな鍋でゆでればなんとかなる、要は冷たい水(できれば氷水)でよく洗うことです。
 そばつゆも4:1:1の原則。水4:しょうゆ1:水:1です。どれから入れるなんてうるさいことをいわずにみんな一緒に入れてかつお節をひと掴み放り込む(男の方が手が大きい分だけ味もよくなります、女はふた掴み)。沸騰したら金網ザルで濾す。残ったかつお節はちょっとしょっぱいからさっと水洗いして七味唐辛子をたっぷり振ってメシのおかずにする。つゆはたくさん作って冷蔵しておけば何回でも使えます。水で延ばせば吸いもの・煮もののつゆに使えて応用がききます。
 何度もいいますが、そばなんてものはコメの食えない農民(=貧乏人)の食いものでした。「高級を気取るそば屋は貧乏人の成れの果て」なんていいながらそばを食うのは人生の愉楽の一つです。


2005年04月05日
乳牛から産まれたオス牛

 3月28日の「狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)の新規発生」で、「日本で発生した狂牛病はすべてホルスタイン牛(=乳牛)である」と書きました。狂牛病の発生は「妊娠している牛から搾乳」するという酪農にこそ問題があるのです。この事実を日本人が知らないのはマスコミが報道しないからです。テレビが報道しないことは「この世に存在しない」のです。報道しないのは何か思惑があってのことでしょうか。
 乳牛が12-14ヵ月で人工授精で妊娠させられるということはすでに書きました。ウシの妊娠期間は人間と同じく280日(40週)です。この280日間でヒトの子は3・0-3・5キログラムになるだけですが、ウシの子は40キログラムにまで育ちます。モンゴルの草原で産れるウシの子はよろよろと立ち上がって自ら母ウシの乳首に吸いつきます。通常、生後3ヵ月で120キログラムまで育ち親ウシと同じ草を食うようになります。ヒトと比べて生長がすごく速いですね。
 ウシはヒトと同じく通常は1産1頭です。酪農ではメスしか役に立ちません。280日もお腹にいた挙句に産まれた仔ウシがオスであったら酪農家にとって悲劇です。母ウシの初乳を搾ってオスに与えるなどというもったいないことはしません。すぐ殺してしまうこともありますが、ミルクを与えずに餓死させてしまうこともあります。が、ときに酪農業界ではヴィール(VEAL:食肉用子ウシ)として育てる場合もあります。乳牛のヴィールは初乳を与えられませんから、細菌などに免疫がありません。抗生物質をたっぷり含んだ代用乳が与えられます。この「ミルク」は鉄ぬきです。ピンクがかった白い肉をつくるためには子ウシを貧血にしておく必要があるからです。運動されるとエネルギーの浪費になりますから木枠に固定したままにしておきます。ヴィール牛は、生後16週ほどでトラックに乗せられ食肉処理場へ運ばれます(参考図書1)。日本で発生した狂牛病16頭(2005年4月5日現在)のうち2頭は乳牛から生まれたオスのヴィールでした。代用乳に肉骨粉が使われていたのです。人間を含め動物のオスは哀れですね。、
 ヒトに双子が産れるように、乳牛にも双子(ふたご)が産れることがあります。2頭がともにメスだったら、酪農家は大喜びです。1回の妊娠・出産で2頭もの乳牛が手に入るのですからね。オスの双子だったらどうにもなりません、丸々大損です。メスとオスの双子だったら、これも全損失に近くなります。メスが双子のオスの片割れとして産まれたら、その約85%が胎内で雄性ホルモンの作用を受けて不妊症になってしまうからです。こうした双子のメスは「フリーマーチン」と呼ばれ、ヴィールとして人間に食べられる運命をたどります(参考図書2)。
参考図書
1.エリック・マーカス著、酒井泰介訳「もう肉も卵も牛乳もいらない! 完全菜食主義ヴィーガ二ズムのすすめ」(早川書店2004年6月)
2.ピーター・ローベンハイム著、石井礼子訳「私の牛がハンバーガーになるまで ー 牛肉と食文化をめぐる、ある真実の物語」(日本教文社2004年5月)


2005年04月06日
非妊娠牛から搾った子ども安心牛乳

 牛乳はウシの赤ん坊の飲み物ですから、基本的に人間には不要です。しかし、文部省(現文 部科学省)が学校給食法(1954年)で児童・生徒に強制的に牛乳を飲ませるようになってから、牛乳の味に慣れてしまった子どももいます。困ったことに牛乳が好きだという子どもすらいます。牛乳なんか飲みたくないが、アイスクリームは食べたいという子どもはたくさんいます。
 現在市販されている牛乳は、妊娠している牛から搾乳されていますので、大量の女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)を含んでいます。最近になっても(2003年5月30日以降)、幼児・学童・生徒は半強制的に牛乳を飲まされていますから、ホルモン入り牛乳の悪影響が強く懸念されます。
 どなたか「非妊娠牛から搾った子ども安心牛乳」を製造し、子どもの大好きなアイスクリームを世に送り出していただけませんか。世のお母さん方は「妊娠していない牛から搾った牛乳」なら1リットル1000円でも買いますよ(実際、妊娠した牛から搾った牛乳が『XXX無農薬草原放牧酪農牛乳』などというレッテルで1リットル700-1000円の高値で売られています)。この牛乳から作ったアイスクリームは海外有名ブランドのホルモン入りアイスクリームを駆逐するでしょう。
 現在の市販牛乳(1リットル200円)は、製造原価(酪農家)70-80円、製造コスト(+メーカーの利益)30-40円、販売コスト(小売り利益を含む)80-100と聞いております。多大な労力とコストをかけて牛乳1リットルを70-80円で出荷する酪農家の労苦は並み大抵のものではありません。妊娠していない牛だけから搾乳すると、牛乳の生産量は3分の1弱になります。しかし、この牛乳が1リットル1000円で売れるとすれば、酪農家は1リットル400円で出荷できるでしょう。生産量が1/3になってもほぼ5-6倍の価格で出荷できますから、酪農家にとって悪い話ではありません。
 何よりもよいことは妊娠中に乳を搾るというような無茶なことをしませんから、濃厚飼料を使う必要がありません。酪農家の労働量も1/3に軽減します。牛、酪農家、消費者にとってよいものは必ず売れます。どなたか勇気をもって「非妊娠牛から搾った牛乳」の製造・販売に挑戦してみませんか。ただし、牛乳パックに「あなたの健康を損なうおそれがありますので、牛乳の飲みすぎに注意しましょう」と表示をしてください。
非妊娠牛から搾った安心こども牛乳のイメージ
左が「非妊娠牛から搾った安心こども牛乳」、右が現在市販されている「ホルモン入り」牛乳です(参考図)。



2005年04月07日
地球カレンダー(地球1年暦)から生命を眺める

 地球が誕生して46億年になります。地球カレンダー(参考図)は、この地球の誕生を1月1日0時0分0秒として、その後の出来事を1年にあてはめて眺める面白い試みです。お許しをえて、金岡裕一元富山女子短期大学学長の「人間.この小さな、ふしぎな存在ム地球1年暦からー 富山女子短期大学学生会機関誌『彩』30号巻頭言、1995年3月」の一部をそのまま紹介します。


 人類はその背後に36億年ほどの歴史を背負っています。人類として地球上に登場してからも、様々な苦難_飢饉・微生物との闘い_などを経て現在の私たちがあるのです。その適応能力は抜群です。タンパク質・ビタミン・ミネラルが足りなければ足りないなりに命を繋ぐ術(すべ)を身につけてきました。まあお読みください。
 最初の微生物化石の発見は33億年前、春たけなわの4月のことで、真核生物の出現は18億年前、ずっと後の、早くも1年の半ばが過ぎた8月上旬になってからです。変異と自然選択が繰返される生物の進化なるものが、如何に長期の実験的プロセスであったかがうかがわれるではありませんか。そして動物と植物の分化は12億年前、9月になり、脊椎動物が現われ、動物が陸に上るのは4-6億年前、もうすでに11月末なのです。1年の大部分が過ぎてしまっても、生物の進化は依然として長い長い「助走」の途上にあり、私たちの先祖はまだその姿さえ表わしていないのです!
 地球上に人類が出現したのは、今から約200万年前だそうです。いくら高齢化社会とはいえ、寿命100年というわけにはいきませんが、簡単のために人生100年と試算しても、200万年は実に2万世代の繰り返し。想像を絶する積重ねの過程ですね。しかし地球1年暦でみるとどうでしょう。46億年が365日ですから、1日は1300万年に当ります。1時間が約53万年。したがって、200万年といってもわずか4時間足らずです。つまり私たち人類は、1年の最後の日・大晦日の、しかも最後の4時間前の午後8時頃、みなさんはあまり観ないかもしれませんが、紅白歌合戦が始まる頃になって、ようやく地球上に現われたことになるのです! お待たせしました。そして人類が創り出した「文明」らしきものの出現が約1万年前とすれば、これは1分前(1分は約8800年)、とうとう23時59分になってしまいました。
 私たちからみれば大変に長い人間の文明活動の歴史も、地球1年暦からみれば、たった1分位というわけです。

 自然科学の進歩は驚異という外はありません。しかしそもそもこういった自然科学の活動全体が、たかだかここ300年位のことであり、1年暦でいえば、たった2秒間(1秒は145年)、除夜の鐘が鳴り出す直前の、瞬く間の出来事だったのです! この大自然の中にある私たち人間は、地球が46億年かけて創り出した「生命」という奇跡的大傑作を、たった「2秒間」で、自分達に内在する精緻極まる仕組みの一部を、自分達の頭脳で認識し始めた「ふしぎな存在」でもあるのです。 ーおわりー 
 最近、「地球を守ろう」という言葉をよく聞きますね。1997年12月には「温暖化防止京都会議」が開かれました。「人類の滅亡を先送りしよう」という話なら分かりますが、「地球を守ろう」などはおこがましいことです。ジュラ紀から白亜紀にかけて10日ほど地上をのし歩いていた恐竜は12月26日(6500万年前)に絶滅しました。
 人類は地底の石油・石炭をはじめ、もろもろの鉱物を大量に掘り出し、これらの地球資源の利用によって一部の人間の生活は物質的に極めて豊かになりました。人類の繁栄=地球の荒廃です。今や、地球資源の枯渇と環境破壊によって人類が滅亡の危機に瀕していると言う向きもあります。人類は地球という惑星に寄生する害虫であるという人もいます。人類の滅亡=地球の蘇生であって、いかに地球が荒廃していても人類が消滅すれば地球は再生します。理屈はその通りであっても、さて困りましたなあ。人類があと2時間(100万年)ほど生き延びる方法はないものでしょうか。しかし、見方を転ずれば、こんなことはどうでもよいのです。人類の繁栄も、環境破壊も、長い地球の歴史の一コマに過ぎないのですから。
 ゲノム解析によって、全塩基配列(シークエンス)を読み終えて、今産業界はポストゲノム時代の到来と浮かれています。生命は生命からのみ造られるという状況に変わりはありません。一つの遺伝子は一つのタンパク質だけを作ると考えられていたのに、3-4万の遺伝子が10万種類におよぶタンパク質を作っているという報告は衝撃的でした。ある1つの遺伝子に欠陥があっても、他の遺伝子群がその欠陥をカバーして生命を維持しているのです。生命体は完璧であると同時に融通無碍でもあります。原始的生命が誕生して36億年が経ちました。ヒトの移動速度は、かなりの早足で歩いて、1時間6キロ程度です。ジェット機によってその速度は200倍の1200キロになりました。果たして、人類は窒素、酸素、水素、硫黄と金属元素から生命(たとえば大腸菌)を造ることができるでしょうか。その時まで、人類は我が世の春を満喫していられるでしょうか。


2005年04月08日
「穀物+大豆+野菜+(魚)」という日本食の威力 (1)菜食民族の旺盛な生殖能力

 全身で親鸞に帰依してその教えを広め、巨大な本願寺教団をきずきあげた蓮如は、72歳で5人目の妻を娶り、84歳で27人目の子を儲けています(五木寛之. 蓮如ム聖俗具有の人間像ム. 岩波新書. 1994年7月. 東京)。
 本願寺の非嫡出子として生まれた蓮如は、40歳まで部屋住みの身でした。蓮如の生きた1415-1499年は、度重なる戦乱・飢饉と土一揆の頻発した時代でもありました。上記の五木さんの書物から抜き書きします。

 水で薄めた粥を幾人もですする貧しい生活のなかで、蓮如は28歳のときようやく部屋住みのまま妻を迎え、やがてつぎつぎと子供が生まれます。男の子4人、女の子3人、あわせて7人が不如意な生活のなかで誕生しました。この7人が最初の妻の子です。
  この多産の妻は如了という婦人で13年間の結婚生活ののち、病気で亡くなりました。2年弱で1人の子供を挙げています。

 やがて彼は再婚しますが、前の奥さんの実の妹で、蓮祐といいます。乳飲み子を抱えた貧しい部屋住みの男に同情して、何かと世話をやいているうちに愛情が生まれたのだ、という説があります。この女性ともまた長く連れ添って10人の子供を産みました。
 蓮如は56歳のとき、この2番目の夫人を亡くしました。そして3番目に蓮如と連れ添ったのは如勝という女性ですが、蓮如64歳のときに、またもやこの3番目の女性は亡くなりました(註 如勝との間に1人の子をなす)。その後、蓮如は70歳をこえてから、4度目の妻を迎えます(註 宗如というこの夫人は2人の子を産んだ)。この人もやはり亡くなりまして、最後に蓮能という非常に若い女性を迎えて5度目の結婚をし7人の子供を作ります。この妻が蓮如の最後をみとりました。
  こうして眺めてみますとなんだか気が遠くなるような話です。最後の子供ができたのは84歳というのですから、まさに奇跡といいますか、スーパーマンといいますか、実に何とも言えない驚くべき人物です。5人の女性に男の子13人、女の子14人、13男14女あわせて27人の子供を産ませたという、これはもう桁はずれの人です。その生命力といいますか、エネルギーといいますか、本当にこういうこともあり得るのかと驚くほどの人物です。


 蓮如が完全なベジタリアンであったかどうか判りませんが、現代の平均的な日本人ほどには肉や魚を食べなかったでしょう。蓮如の食生活がどんなものであったか是非知りたいところです。おそらくベジタリアンに近い生活であったでしょう。72歳で若い妻を娶り、84歳で7人目の子を産ませるという奇跡ともいうべき生命力の源泉は菜食にあったのでしょう。読者の中には「肉は精がつく」とお考えの方がいらっしゃるかもしれません。しかし、それは逆なのです。ヒトの生命と活力の源は、植物が太陽光エネルギーを用いて炭酸ガスと水から造るデンプンにあるのです。


2005年04月09日
「穀物+大豆+野菜(+魚)」という日本食の威力 (1)番外編:にわかグルメ

 昨今はグルメ流行りですね。テレビにグルメ番組の登場しない日はないといっていいほどです。にわかグルメは色鮮やかな食品を口にいれたとたん、あるものは宙の1点を凝視し、あるは瞑目して、「こってりして(味が濃すぎる)」「さっぱりして(薄味に過ぎる)」「しこしこして(固過ぎる)美味しい」などと宣(のたま)います。「まったりしている」などという意味不明の表現もあります。「個性的な味がする」「食材の味が活かされている」などは「不味い」の同義語ですよ。どなたかの川柳に「グルメ番組、たまには不味いと言ってみよ」というのがありました。
 グルメを礼讃する国では出生率が低い(男の生殖能力が落ちている)という定評があります。イタリア、スペイン、日本がその代表です。塩野七生さんの「再び男たちへ」(文藝春秋、1991年4月)の「グルメ考」によると、「葡萄酒の新酒はギリシャ産のどこそこのものにかぎるとか、魚をベースにしたソースの隠し味には、インド産の香辛料の何とかが欠かせない、という感じの美食の後に何が来るか。安眠ではないか。安眠というからには、もちろん1人で眠りだけをむさぼることを意味する。つまり、食事面での美味追求にエネルギーを消費してしまえば、別の面での美味追求に費やすエネルギーは残らない」そうです。つまるところ、「グルメ男にはインポが多い」のです。りんごや桃の木に肥料をやり過ぎると果実が少なくなるのと同じですね。若い女性のみなさん、グルメ男と婚姻することなかれ!


2005年04月10日
急告:17頭目の狂牛病も乳用種のホルスタイン

 3月28日の「狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)の新規発生」で、「3月26日に16頭目の狂牛病が発生した、これで日本で発生した狂牛病の牛はすべて乳用種のホルスタインである」と書きました。
 農林水産省は4月8日、北海道で死んだ牛が狂牛病と確認した発表しました。この牛は北海道音更町の農場で飼育されていた4歳半のホルスタイン乳牛でした。乳牛に与えられていた肉骨粉の製造・販売が禁止された2001年の前年に生まれたということです。この牛の肉や内臓は焼却処分されるので、食用として出回ることはないそうです。でも、その前日まで搾っていた牛乳は皆さんの胃の中に納まってしまったのです。「肉や内蔵は焼却処分した」といいながら、その乳牛から搾っていた牛乳のことに全く言及しないのはいったいどうしてでしょう。
 ミルクを散々搾ったあげくに殺して食ってしまうなんてね。乳牛の肉は食べないことですね、私たちは肉食民族ではないんですから。


2005年04月11日
「穀物+大豆+野菜(+魚)」という日本食の威力 (2)菜食民族の素晴らしい体力ー その1

 エルウイン・フォン・ベルツは、1876年、日本に招かれ、東京医学校(のちの東京大学医学部)の教師となりました。1902年に退職したあとも、宮内省侍医を務め、1905年にドイツに帰国しています。日本滞在中は、西洋医学の紹介に努める一方、寄生虫病、脚気、公衆衛生、伝染病予防、温泉医学などについていろいろな研究を行ないました。
 日本に来たベルツが驚いたのは、車を引いて連日50キロ以上を走って疲れを知らない人力車夫の驚嘆すべき体力でした。以下、島田彰夫氏の『食と健康を地理からみるとー地域・食性・食文化ー』(農文協・人間選書1988)の2節を引用する。( )内筆者。

 ベルツが1901年のベルリンの医学会で発表した内容が、同じ年の『中外医事新報』に紹介されています(ベルツ「植物食ノ多衆營養ト其堪能平均トニ就キテ」中外醫事新報第五百十六號1247-1249、明治三十四年九月二十日發行)。それによると、22歳と25歳の人力車夫を雇い、その飲食物を調べながら、80キロの男子を人力車に乗せて、3週間の間、1日40キロずつ走らせたのである。食物は彼らが日常食べていた、米、大麦、ジャガイモ、栗、百合根などで脂肪含量はフォイトの説の半分以下で、炭水化物が非常に多いものであった。2週間後の体重測定の結果、一人は不変、他の一人は半ポンド増加していた。そこでフォイトの説に合わせて肉類を加え、蛋白質で炭水化物の一部を補おうと試みたが、疲労が激しく走れなかったので、3日でやめて元の食事に戻したところ、また前のように走れるようになったというものである。
 これに続けて、東京から日光までの110キロの道を、馬車で走ったときは、馬を6回取り替えて14時間かかったが、同じ道を54キロの男子を乗せた人力車は、車夫一人で14時間半で走ったというエピソードを紹介し、日本の植物性の食物が素晴らしい能力を発揮させることを述べている。

 なお、この中外医事新報にはベルツの言として次のような文章もあります。
 終ニ付言シテ日本支那ノ主食ハ米ナリトハ誤解ナルヲ擧ゲ日本ニテハ米ハ數年前迄ハ富人社會ノ食物ニシテ農夫ノ如キハ米作スルモ日用ニハ大麦二乃至三分ヲ混和シ若クハ大麦或イハ小麦ヲ食シ又殊ニ味噌ノ原料タル大豆ヲ食スルト云ヒ次ニ大豆ノ効能ヲ述ベ大豆ハ蛋白質ヲ含ムコト良牛肉ニ倍シ其價ハ約四分ノ一ノミ、且ツ脂肪ハ二十%ヲ含メリト
 最近のスポーツ選手の体力はいかほどでしょうか。お相撲さんには怪我が多いですね。近頃のお相撲さんが1日に食べるコメのメシはどんぶりに2杯位だといいます、かつて10杯のどんぶりメシを食べていたというのに。毎日2リットルものミルクを水替わりに飲んで育ったお相撲さんもいるようです。親御さん・監督・コーチが「喉が渇いたら水の替わりに牛乳を飲め」と叱咤したというのです。
 ビフテキを食う、豚カツを食う、あげくはハンバーガーなどというものまで食べるお相撲さんもいるようです。怪我をして当たり前だし、土俵上ですぐ息が上がってしまうのも当然ですね。


2005年04月12日
「穀物+大豆+野菜(+魚)」という日本食の威力 (2)菜食民族の素晴らしい体力 ー その2

 若い方はご存知ない人が多いかも知れませんが、日本水泳界に古橋広之進という凄い競泳選手がいました。古橋さんは、日本水泳連盟会長時代にシドニー五輪の代表選考の「千葉すず」問題で名を馳せた方でもあります。古橋広之進著「人間の記録20 古橋広之進ー力泳30年」日本図書センター(1997年2月)に基づいて記述します。
 世界大戦後に開かれた1948(昭和23)年のロンドン五輪には敗戦国の日本は参加を拒まれました。やむなく日本水上連盟は神宮プールで五輪と同日程で全日本水上選手権大会を開催しました。この大会で古橋さんは1500メートル自由形で18分37秒0という当時としては驚異的な世界記録を樹立したのです。1948年といえば敗戦の3年後で、多くの日本人はイモと雑穀で飢えをしのいでいた時期です。
 五輪前から世界記録を超える成績を上げていた古橋さんたちは五輪参加を熱望していました。しかし、敗戦国の日本とドイツは招待されなかったのです。当時の日本水連の田畑会長はロンドン・オリンピックの水泳日程に合わせて日本選手権大会を神宮プールで開きました。オリンピックは世界選手権でもある、日本選手権の成績がロンドン大会の記録よりすぐれていれば、真の世界王者はオリンピック優勝者にあらずして日本選手権大会の勝者であるという意気込みでした。
 日本水泳界が国際水泳連盟に復帰したのはロンドン五輪の翌年の1949年(昭和24年)6月でした。古橋さんらはこの年の8月16日からロサンゼルスで開かれる全米水泳選手権に招待されました。古橋さんの胸は燃えていました。古橋さんの今までの世界最高記録は未公認記録だったのです。日本の時計は進むのが遅いのではないか、神宮プールは短いのではないかと、古橋さんの記録に半信半疑のアメリカ人もいたかも知れません。国際水泳連盟承認の国際舞台で記録を出せば公認されます。ロサンゼルスの全米水泳選手権は日本人ばかりか世界が注目した大会でした。
 8月16日の午後2時半、1500メートル自由形の予選が始まりました。予選A組に出場した古橋さんの同僚の橋爪さんは他の選手を200メートルも引き離して1着でゴールしたのです。記録は18分36秒7の世界新記録。古橋の未公認世界記録を1・3秒上回る記録でした。並みいるアメリカの観客もこの初っぱなの大記録に驚きました。日本の強さはやはり本物だった!
 古橋さんは予選B組に出場しました。記録は18分19秒0。橋爪さんの世界新記録の30分後の世界記録でした。1500メートルでの驚異的な世界記録を目の当たりにしたアメリカの新聞記者は古橋を「フジヤマのトビウオ」と命名しました。「フジヤマ、ゲイシャ」は日本の代名詞でしたからね。その後行われた400メートル自由形決勝でも古橋が優勝し、日本勢は1位から4位までを独占したのです。つづいて行われた800メートルリレーでも、日本チームは、アメリカチームが前年ロンドンで作った世界記録8分46秒0を上回る8分45秒4で優勝しました。古橋は大会最終日の800メートル自由形にも9分35秒5で優勝しています。
 古橋さんは、その著書で、日米対抗に出発する前の合宿の食事メニューを紹介しています。
(朝) 米1合7勺 玉子1個+味噌汁他1品
(昼) 米1合8勺+2品(肉類を主としたものと野菜を主としたもの)
(夜) 米2合+2品(肉類を主としたものと果物)
 古橋さんは1日に約5合(0・7キログラム)の米を食べていました。米5合は2500キロカロリー、タンパク質43グラムを含んでいます。米5合を炊いてメシにすると1・5キログラムになります。1・5キログラムのメシは食べられますが、1キログラムのパン(2640キロカロリー、93グラムのタンパク質を含む)は一抱えするほどあってとても食べられません。メシの水分は60%もあるのに、パンの水分は38%しかないからです。パンはパサパサしていて水か牛乳でもないと喉を通りません。
 ロサンゼルスの全米選手権大会で圧倒的な強さを見せつけた古橋さんは21歳でした。ヘルシンキオリンピックの開かれた1952年(昭和27年)には古橋さんは24歳になっていました。しかし、日本人は誰1人として古橋さんの400、800、1500メートルでの優勝を疑いませんでした。古橋さんは400メートル自由形にだけ出場しました。この種目で古橋さんは8位でした。アメリカで世界的な有名人になった古橋さんには世界各国から招待状が舞い込んだことでしょう。アルゼンチンやオーストラリアではステーキも食べたことでしょう。古橋さんの食生活は変わってしまったに違いありません。


2005年04月13日
「穀物+大豆+野菜(+魚)」という日本食の威力 (3)アメリカ版 ー 動脈硬化が改善する

 1990年にカリフォルニア大学のオーニシュ(Ornish)博士らがアメリカの狭心症患者で「食生活を改めることによって冠動脈疾患が治る」という仮説を実証しました(参考文献)。
 狭心症の患者で血管造影で軽度な冠動脈障害を確認できた患者を2群に分けました。半分の患者(対照群)には標準的な治療(アメリカ心臓協会が推奨する食事と禁煙を勧め、必要な場合には薬剤治療も行う)を受けてもらうだけで、食事も含めて普段通りの日常生活を送ってもらいました。他の半分の患者(実験群)には食生活を変えるように強力に指導しました。実験群の食事は、脂肪10%以下、タンパク質15-25%、糖質70-75%の構成にしました。卵の白身とコップ1杯の無脂肪乳あるいはヨーグルト以外の動物性食品の摂取をを固く禁じました。完全ではありませんが、ほぼベジタリアンの食事です。当然なことながら、喫煙も禁じました(喫煙したかどうかは血清コチニンの測定でわかります)。また、軽度な運動をするように指導しました(1日30分、あるいは1回1時間・週3回のウオーキング)。さらに、呼吸法、瞑想、ヨガなどによるストレス軽減の指導も行いました。ベジタリアンの食事を美味しく調理する講習会も開催しました。
 このような生活改変を1年間続けたときの効果は劇的でした。食生活を一変させた実験群の狭心症の発作は91%も減少し、発作時間も42%短くなりました。一方、対照群での発作は165%増え、発作時間も95%長くなっていました。さらに、実験群では体重が減り、血清コレステロールも低下しました。さらに驚くべきことに、血管造影によって実験群に動脈硬化の改善が認められました。
 このオーニシュ博士の研究は、脂身の少ない肉にする、赤身の牛肉を白身のトリ肉にするというように食生活を少し変えるだけでは動脈硬化は変わらない(ときには悪化する)が、食生活をがらりと変える(ベジタリアンの食事)と動脈硬化が改善することを示しています。当然の結果ですね。アメリカ人とて、もとをただせば、植物食を起原とする人類の1員なのですから。しかし、残念なことに、アメリカ人には糖質70-75%という糖質中心の食事は食べられないのです。一般のアメリカ人の食生活では糖質60%が限度です。でも日本人なら簡単ですね、「メシ+みそ汁+おかず」でいいのですから。因みに私の食事は糖質70-80%です。
参考文献
Ornish D, Brown SE, Scherwitz LW, Billings JH, Armstrong WT, Ports TA, McLanahan SM, Kirkeeide RL, Brand RJ, Gould KL. Can lifestyle changes reverse coronary heart disease? The Lifestyle Heart Trial. Lancet 336:129-133, 1990.


2005年04月14日
「穀物+大豆+野菜(+魚)」という日本食の威力 (4)今日のあなたは昨日のあなたではない

 昨日の「アメリカ版 - 動脈硬化が改善する」をお読みになって「食事を変えるだけで動脈硬化がよくなるなんて?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。しかし、本当なんです。
 人間の身体は60兆(途方もない数字ですね)の細胞から成り立っています。この細胞が刻一刻と変化しているのです。お風呂に入って皮膚をこすると垢(あか)が出ますね。あの垢は死んだ皮膚の細胞と汚れが混じったものです。皮膚が新しい細胞に置き換わっていることはよく分りますね。
 皆さんは、脳(神経)細胞は一生涯生まれ変わることはないと学校で教わったでしょう。細胞が生まれ変わることはありませんが、脳細胞を造りあげている成分は私たちが毎日食べているものによって常に置き換わっているのです。
 生きもの(動植物)の主要な構成要素にタンパク質があります。タンパク質は20種類のアミノ酸が複雑に並んだものです。この並び方が変わるわけではありませんが、アミノ酸自身は毎日刻々と置き換わっているのです。例えば脳細胞の膜を形作っているタンパク質はアミノ酸の種類は同じでも常に新しいアミノ酸に置き換えられています。アミノ酸そのものだって新しく合成されています。
 DNA(デオキシリボ核酸)という名を聞いたことがあるでしょう。遺伝子の本体です。アデニン・チミン・グアニン・シトシンという4種類の塩基の配列(並び方)が遺伝情報を決めています。この並び方が変わったら突然変異ですからめったに変わることはありません。しかし、塩基を構成している分子は、これまた刻一刻と食べたものによって置き換えられています。
 私たちが生きているということはこういうことなのです。方丈記に「行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しく止(とど)まる事なし。世の中にある人と住家(すみか)と、またかくの如し」とありますね。まさしくその通りです。今日のあなたは昨日のあなたではありません。
 アメリカ人が毎日食べているものを食べていれば、あなたの身体はアメリカ人の食事に含まれているアミノ酸や脂肪酸などによって構成されることになります。もちろんあなたの身体つきや顔つきがアメリカ人のようになるわけではありませんが、アメリカ人が罹(かか)りやすい病気(がんや心筋梗塞など)があなたを襲うことになるでしょう。
 あなたの身体はあなたの食べたものそのものなのです。そう、あなたの身体は「日常茶飯」によって構成され機能しているのです。だから、あなたの身体に生じた病変は食べ物によって治ることがあるのです。
参考図書
福岡伸一著「もう牛を食べても安心か」文春新書416、文芸春秋社、2004年12月
(良書です。一読をお薦めします)


2005年04月16日
牛乳をたくさん飲むと乳がんになる (1)日本とアメリカの比較   ー その1
 乳がんは女性が最も怖がる病気です。アメリカの女性は8人に1人が乳がんになります。欧米では女性の乳がん死亡は肺がんに次いで2位ですが、患者数では断突の1位です。この点で日本女性は比較的幸せで、乳がんになるのは20人に1人ほどです。現在(2002年)の日本女性のがん死亡は、1位胃がん、2位大腸がん、3位肺がん、4位乳がんです。乳がんの発生数は明らかではありませんが、毎年約2万人の女性が乳がんにかかり、ほぼ1万人が乳がんで死亡しています(2002年には9604人)。乳がんにかかる日本女性の数は毎年増え続けています。
 少し古い資料(1990年)ですが、乳がんの発生率を日本とアメリカで比較してみましょう。人口10万人当たりの年齢調整発生率(年齢構成が同じであるとしたときの発生率)は、日本女性は31・1ですが、アメリカ女性は90・7です。つまり、アメリカ女性は日本女性のほぼ3倍も乳がんになりやすいのです。年齢別に眺めるとさらにその差異がはっきりします(参考図:横軸は年齢、縦軸は発生率)。乳がんの発生率は、30代女性では日本31・3、アメリカ42・4(1・36倍)、40代では日本94・2、アメリカ157・9(1・68倍)でそれほど大きな差はありません。ところが50代の女性では3・18倍、60代で4・58倍、70代で5・78倍、80代で11・83倍と、更年期以後の乳がんは圧倒的にアメリカ女性に多いのです。

 参考図は1990年の乳がん発生率です。1960年以降に日本で生まれた女性(生まれたときから牛乳を飲み、肉を食べた世代)は、この時点(1990年)では30歳以下でした。また、40歳代は1941-50年の生まれで、思春期には牛乳を飲み、肉を食べました。 50歳代の女性は1931-40年の生まれで、子どもの頃は牛乳の味と匂いに無縁でした。
 1960年以降に生まれ、生まれながらにして牛乳や肉の味と匂いに慣れ親しんだ女性は、2005年の現在では45歳以下ですが、2010年には50歳代(更年期)に突入し、2020年には60歳代に入り、2050年にはほとんどすべての日本人女性が1960年以降の生まれということになります。そのとき、日本人女性の乳がん発生どのようになっているでしょうか。


2005年04月17日
牛乳をたくさん飲むと乳がんになる (2)日本とアメリカの比較  ー その2

 日本とアメリカでなぜこんなに違うのでしょうか。日本人とアメリカ人では人種が違うから、遺伝的背景が異なるのではないかとおっしゃる方もおられるでしょう。でも、そんなことはありません。
 乳がん発生の少ない日本からハワイやカリフォルニアに移住した日本や中国の移民に対する研究で、がんの発生には人種(遺伝)よりも環境(食生活)の影響を強く受けることが明らかにされています。日本人移民1世は日本式の生活を続けていて、乳がんが少ないのですが、3世ともなると現地の生活様式を受け入れ乳がんの発生が移住先の国民と同じ位になります。2世は1世と3世の中間に位置します。わずか数世代の間に突然変異が生じて、日本人がアメリカ人と同じ遺伝型になってしまうなどとはとても考えられません。食べているものが日米で違うのです。
 アメリカ人は日本人に比べて圧倒的に多量の乳・乳製品を食べます。東京でオリンピックが開催され、新幹線が走り、東名高速道路が開通した記念すべき1964年(昭和39年)で比較すると、アメリカ人の乳・乳製品の消費量は1263・4グラムで日本人の135・6グラムの実に9・3倍でした。1998年になると、日本でも乳・乳製品の消費量は増えました(342・3グラム)が、幸いなことにまだアメリカ人(1144・6グラム)ほどにはなっていません(アメリカは日本の3・3倍)。牛乳・乳製品の日米比較は3月9日の記事に図示しましたのでご覧ください。日本人とアメリカ人の食生活における最も大きな違いは乳・乳製品の消費量なのです。
 お椀と皿、箸とフォーク・ナイフ、醤油とソースという分類もありますが、欧米料理(洋食)と日本料理(和食)の最大の違いは乳・乳製品を使うか使わないかにあります。洋食の特徴はバター・クリーム・チーズをたっぷり使うことです。端的にいうと、バター・クリーム・チーズの香りのする料理が洋食です。
 さきほどの日米比較はあくまで平均値の話です。日本人でも牛乳・乳製品(パン、バター、ケーキなど)が大好きで、平均的アメリカ人並みあるいはそれ以上に牛乳・乳製品を摂っている方もおられるでしょう。何をいくら食べようと個人の勝手で、他人がとやかく言うことではないのですが・・・。


2005年04月18日
牛乳をたくさん飲むと乳がんになる (3)世界各国における牛乳・乳製品の消費量と乳がん発生率の関係

 食品とがんの関係を調べるのに疫学研究という手法があります。これには、乳がんになった人(患者群)の過去の乳・乳製品の摂取量が乳がんではない人(対照群)よりもに多いかどうかを調べる患者ム対照研究(後ろ向き研究)と、あらかじめ乳・乳製品の摂取量を調べておいて、その後の乳がんの発生を追いかけるというコホート研究(前向き研究)があります。今まで乳がんと乳・乳製品に関する疫学研究が世界中で行われてきました。「関係あり」と結論する研究もたくさんありますが、「関係なし」とする研究もあって、結果は一致していません。疫学研究で、食品と乳がんの関係を明らかにすることは非常に困難です。患者ー対照研究は、もっぱら遠い過去の記憶に頼っていますので、何をどのくらい食べていたのか正確に知ることができません。また、コホート研究では最初に調べた食品摂取量が将来にわたって継続するという保証はありません。女性は、どのくらい食べているかと聞かれると、実際よりは少なめに申告する傾向がありますよね。さらに、牛乳および牛乳製品(全乳、加工乳、発酵乳、粉ミルク、チーズ、バター)が、その姿を変えて、多数の料理とお菓子(ケーキ、キャンデー、アイスクリーム、チョコレートなど)に使われていますから、個人個人の乳・乳製品の消費量を正確に把握することが難しいのです。
 そこで、食品の摂取量とがんの発生率の両方のデータがそろっている世界42ヵ国について牛乳消費量(FAO、国連食糧農業機関)と乳がんの発生率(IARC、国際がん研究機関)の関係を調べてみました。その結果を参考図(横軸は牛乳の消費量、縦軸は乳がんの発生率)としてお示しします。これは国どうしの比較であって、実際に牛乳をたくさん飲んでいる人たちに乳がんが多い、あるいは乳がんになった人は牛乳をたくさん飲んでいた、ということを示しているわけではありませんが、おおよその傾向が分かります。何もアメリカに限ったことではありません。牛乳消費量の多い西欧の女性には乳がんが多いことがお分かりいただけるでしょう。

 今まで、乳がんの発生と乳・乳製品の摂取量との間に「関係がある」とする疫学研究はいずれも牛乳中の脂肪(不飽和脂肪酸)との関連で議論していました。実際、アメリカでは1950年代から全乳の消費量が減って、その代りに低脂肪乳が飲まれるようになりました。それにもかかわらず、乳がんは増え続けてきたのです。牛乳によって乳がんが増えるのは乳脂肪が原因ではありません。
参考文献
Ganmaa D, Sato A. The possible role of female sex hormones in milk from pregnant cows in the development of breast, ovarian and corpus uteri cancers. Medical Hypotheses 2005, 65: 1028-1037.


2005年04月19日
牛乳をたくさん飲むと乳がんになる (4)牛乳には多量の女性ホルモンが入っている

 参考図は、いろいろな食品と乳がんの関係を示しています。数字は相関係数といって、この数が大きいほど乳がんとの関係が深いことを示しています。参考図をみると、牛乳以外にと肉が乳がんの発生に関係しているように見えます。しかし、牛乳をたくさん飲む国では同時に肉をたくさん食べるという偶然の結果に過ぎません。

 現代の酪農は昔の酪農と大きく異なってしまいました。根本的な違いは「妊娠牛からミルクを搾るようになった」ということです。哺乳類のメスは、出産後にミルクを分泌しますが、子どもがミルクを飲み続けている間は妊娠しないものです。子どもの鳴き声、乳首の吸引、乳房の突き上げなどが、ホルモンの分泌を通じて排卵を抑制するからだと言われています。通常、子牛は生後3ヵ月ほどで離乳しますから、牛は出産3ヵ月後には妊娠可能となります。妊娠しても、子牛が乳首を吸い続ければミルクは出ますが、妊娠するとミルクの分泌が少なくなってしまいます。胎内の仔牛のためにエネルギーを使うからです。
 それなのに、現代の酪農では、メスは妊娠しながらも大量のミルクを出し続けます。濃厚飼料を与え、搾乳器で吸乳し続けるからです。妊娠すると、胎内に仔を維持するために、血中の卵胞ホルモン(エストロゲン)濃度と黄体ホルモン(プロゲステロン)濃度が高くなります。したがって、妊娠中の乳牛から搾ったミルクはこれら女性ホルモンをたくさん含んでいます。ヒープ(Heap)とヘイモン(Hamon)によれば、妊娠していない牛から搾ったミルクの乳漿(ホエイ)は約30pg/mlの硫酸エストロン(卵胞ホルモンの一種で硫酸との抱合型)を含んでいます。妊娠するとその濃度が高くなり、妊娠41-60日には151pg/mlとなり、妊娠220-240日には1000pg/mlに達します。
 この硫酸エストロンは、口から入って強いエストロゲン作用を示す女性ホルモンです。事実、妊娠した馬の尿から抽出・精製した硫酸エストロンがプレマリンという天然経口ホルモン剤として医療に使われています。
 実際に、現在市販されている牛乳のエストロゲンを測ってみました(参考図)。牛乳に最も多く含まれているエストロゲンが抱合型(=硫酸エストロン)であることがわかります。現在、皆さんが飲んでいる牛乳はこのホルモン入り牛乳なのです。現在のアイスクリーム、チーズ、バター、ヨーグルトなどの乳製品は、すべてこの妊娠牛から搾った女性ホルモン入り牛乳から作られています。



2005年04月20日
牛乳をたくさん飲むと乳がんになる (5)牛乳はいろいろながんの発生に関与する

 牛乳中の硫酸エストロンは本物のホルモン(ウシの女性ホルモンは人間のものと同じ)ですから、そのホルモン作用は外因性内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の比ではありません(およそ1万倍)。
 欧米人でも「妊娠している牛から搾った牛乳」を飲むようになったのはたかだか70年ほどのことに過ぎません。欧米で乳・乳製品が大量に消費されるようになったの1930年以降のことです。
 この頃から、牛乳の生産量が飛躍的に増大したのです。安価な合成化学肥料の大量生産によって、家畜に与えられるほどに穀物生産量が増大しました。さらに、その後の「緑の革命」による穀物大増産(余剰穀物)が牛乳の通年生産(妊娠中にも搾乳できる)を可能にしました。そればかりか、肉骨粉(家畜の食べられない部分ムくず肉・内臓・骨ムを加熱して粉末にしたもの)を草食動物の牛に与えるようになりました。肉骨粉は、胎内で仔どもを育てている妊娠牛から大量のミルクを搾るために必要だったのです。先進国のミルク生産量は第1次および第2次世界大戦後(1920年頃から)に増大し、1950年代にその増大は飛躍的になりました。
 欧米で肺がん(男女)、大腸がん(男女)、前立腺がん(男)、乳がん(女)、卵巣がん(女)、子宮体部がん(女)などの悪性腫瘍による死亡が著しく増えたのは1950年ごろからです。尿道下裂・停留睾丸・精巣悪性腫瘍などの小児生殖器異常の増加も同様です。
 日本でも生まれたときから牛乳・乳製品を飲んだり食べたりした人々(1960年以降に生まれた人たち)が大挙して40代に突入しています。日本は30年ほど遅れて欧米の跡を追いかけているのです。肺がんはホルモン依存性であると聞くとびっくりなさるかも知れませんが、現在日本で急増している肺がんは腺がんでです。もちろん、タバコと肺腺がんとの関係を否定するものではありなせんが、タバコに関係の深い扁平上皮がんはほとんど増えていないのです。
 因みに、1930年頃のアメリカ人男性のがん死亡の1位は胃がん、2位は大腸がんで、女性の1位は子宮がん(主として子宮頚部がんで現在多くなっている子宮体部がんではありません)、2位は胃がんでした。その後、男女の胃がん、女性の子宮がんによる死亡は急速に減少しました。医学・医療によって胃がんと子宮が減ったわけではありません。鉄道・高速道路網の整備、冷蔵・冷凍庫の普及によって新鮮な食品を口にできるようになり(胃がんの減少)、バス・シャワーの普及によって、女性が身体のすみずみまで洗う(子宮頚がんの減少)ことができるようになったからです。30年ほど遅れて、日本でも同様なこと(胃がんと子宮頚がんの減少)が起こっています。


2005年04月23日
牛乳をたくさん飲むと乳がんになる (6)モンゴルの牛乳と日本の牛乳

 2000年に内モンゴルの遊牧民を訪ねました。モンゴル牛は小柄でした。ホルスタインの巨大な乳房に比べると、モンゴル牛の乳房は貧弱といってよいほどです。遊牧民は牛に水飲み場を用意する以外に特別な世話をしません。遊牧民は、生まれた子牛を鉄柵の囲いに入れておくことによって母牛を管理しています。母牛は遠くまで草を食べに出かけていますが、朝夕2回乳房が張って痛いという生理的理由で(牛に聞いたわけではないから、本当のことは判りません)、子牛に吸い出してもらうために集まってきます。
 母牛が帰ってくると、母牛と囲いの中の子牛は互いに鳴き交わします。子牛はミルクが欲しいといって鳴き、母牛は「乳が張って痛いよ、早く飲んでおくれ」といって鳴くのでしょう。鳴き声を聞いた遊牧民の女性はやおら腰を上げて母牛を柵に繋(つな)ぎます。そして、1頭の子牛を外に出します。子牛は迷うことなく自分の母親の乳房に吸いつきます。頭で母の乳房を突き上げ、突き上げして(ミルクの出がよくなります)ミルクを飲みます。この間に、遊牧民は母牛の後脚を縛ります(乳を搾るときに蹴られないようにするのです)。ある程度飲んだところで子牛を乳房から離して柵に結び付けます。それからやおら乳しぼりを始めます。片膝を立て、両脚の間にミルク桶をはさんでの乳しぼりです。ミルクの出が悪くなると乳搾りは終了。搾乳時間はおよそ5分ほどで実にあっけないものでした。ミルクを搾り終えると、母牛の両脚を自由にして、子牛を柵から離します。子牛は母親に駆け寄り、再び乳房を突き上げてミルクを飲みます。これで1頭の母牛からのミルク搾りは終わりです。搾ったミルクは1-3リットルでした。
 ついで、別の子牛を外に出し、同じことが繰り返されます。もちろん、搾りてが2人いるときは2頭の子牛を柵から出すことになります。わが子にミルクを与え終わった母牛は餌を求めて再び草原に戻って行きます。そして乳房が張ると、また子牛のところに戻ってくるのです。昔の乳しぼりは世界中どこでもこんなものだったのでしょうね。
 遊牧民から10頭分の搾りたての牛乳をもらい受け、ドライアイスで冷凍して日本に持ち帰りました。遊牧民に「牛は妊娠しているのか」と訊ねたところ、怪訝な顔で「ミルクを搾っているんだから、妊娠しているはずがない」と言われてしまいました。
 牛が妊娠しているかどうかは牛乳の黄体ホルモンを測ることで判ります。このホルモンが8ナノグラム/ミリリットルを超えていれば、まず間違いなく妊娠しています。そこでモンゴル牛乳の黄体ホルモンを測って、日本の市販牛乳と比べてみました(参考図)。モンゴル牛乳はすべて5ナノグラム/ミリリットル以下でした。遊牧民が言った通りモンゴル牛は妊娠していませんでしたが、日本で市販されている牛乳および加工乳は妊娠している牛から搾ったものでした。



2005年04月24日
牛乳をたくさん飲むと乳がんになる (7)市販の牛乳にはエストロゲン作用がある ーその1

 現在市販されている牛乳は妊娠している牛から搾られていますので、口から入って強いホルモン作用を示す硫酸エストロンという女性ホルモンが含まれています。果たして牛乳に含まれている硫酸エストロンが本当にホルモン作用を示すかどうかが問題になります。
 ホルモン作用を調べるにはいろいろな試験法がありますが、丸ごとの動物を使った試験法がひとに最も関連が深いと言われています。ホルモン作用を確認するためにつぎの2つの方法がよく行われます。
1)性的に成熟したラットの卵巣を摘出すると子宮が委縮しますので、卵巣を摘出したラットに牛乳を与えて子宮が大きくなるかどうかを観察する
2)子宮が発達していない性的に未成熟なラットに牛乳を与えて子宮が大きくなるかどうか観察する
という2つの方法です。
 牛乳のホルモン作用を確かめるために、私たちはこれら2つの試験を行いました(参考文献)。卵巣を摘出した成熟ラットには手術後1週間経ってから、未成熟ラットには生後17日目から、それぞれつぎの3種類の液体を1週間飲ませました。飲ませた液体は市販の「低脂肪乳」、「人工乳(低脂肪乳と等しいエネルギーと栄養素を含む水溶液)、「人工乳+100ナノグラム/ミリリットルの硫酸エストロン水溶液」です。飲ませはじめてから1週間後に解剖して子宮の重量を測定しました。
 卵巣摘出ラットから得られた結果を参考図として掲げます(*印は統計学的に有意な影響があることを示しています)。低脂肪乳には卵巣摘出ラットの子宮を大きくする作用があり、未成熟ラットの子宮を速く成長させる作用があることが分りました。これらはともに牛乳の卵胞ホルモン(エストロゲン)の影響です。
 硫酸エストロンが未成熟ラットの子宮に強い肥大作用を示しますので、女性ホルモンが幼い動物により大きい影響をもたらすことが分ります(参考図)。


 この実験では、ラットに低脂肪乳を水替わりに飲ませました。ひとに換算すれば、ほぼ1リットルの牛乳に相当します。牛乳を濃縮したわけではありません。使用したのは、どこのスーパーでも売られている全国ブランドの低脂肪乳(130度で2秒滅菌)です。
 市販の牛乳がエストロゲン作用を示すというこの実験の意義は非常に大きいのです。外因性内分泌撹乱物質(いわゆる環境ホルモン)として有名なビスフェノールAがラットやマウスで子宮肥大テストが陽性になるのは皮下注射で300ミリグラム/体重キロです。こんなに大量のビスフェノールAが体内に侵入することなどありえません。乳製品を含めると1日に牛乳換算で1リットル消費する日本人はたくさんいます。因みにアメリカ人の乳・乳製品の平均消費量が1日1キログラムを超えることは先に述べました。
参考文献
Ganmaa D, Tezuka H, Enkhmaa D, Hoshi, Sato A. Commercial cowsユ milk has uterotrophic activity on the uteri of young ovariectomized rats and ummature rats. International Journal of Cancer 2006, 118: 2363-5.


2005年04月25日
牛乳をたくさん飲むと乳がんになる (8)市販の低脂肪乳は乳がんの生長を著しく促進する(1)

 女性は更年期(40代後半から50代前半)に女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)の産生が減少します。しかし、乳がん発生率の高い更年期後の欧米女性の血液中の卵胞ホルモン(エストロゲン)濃度は、乳がん発生率の低いアジア人女性に比べて高いことが知られています。牛乳にエストロゲンが含まれていて、かつ牛乳がホルモン作用を示すということを知れば、誰でも「欧米人に乳がんが多いのは牛乳によるものではないか」と考えるでしょう。しかし、これを裏付ける決定的な証拠がありません。そこで、動物実験によって、牛乳が乳がんの発生・生長に影響を与えるかどうかを調べることにしました(参考文献)。
  7,12-ジメチルベンツアントラセン(以下DMBAと略称)という、更年期後の女性に発生する乳がんによく似た乳腺腫瘍(腺がん)をラットにつくる発がん物質があります。メスのラットに10ミリグラムのDMBAを経口的に与えるとほとんどすべてのラットに乳腺腫瘍(DMBA乳がん)が発生します。
 80匹のメスのラットに5ミリグラムのDMBAを与え、翌日から4種類の液体を飲料液として与えて、DMBA乳がんの発生経過を20週にわたって観察しました。ラットを4群(1群20匹)に分け、それぞれに
1)市販の低脂肪乳(牛乳群)、
2)人工乳(エネルギーと栄養組成が低脂肪乳に等しい溶液:人工乳群)、
3)100ナノミリグラム/ミリリットルの硫酸エストロン水溶液(エストロン群)、
4)水(水群)
を与えました。このような実験の場合、牛乳群のDMBA乳がんの発生は人工乳群に比べてどうなるか、エストロン群のDMBA乳がんは水群に比べてどうなるかを調べます。1週間ごとに乳腺腫瘍を触診するとともに、体重、餌と水溶液の消費量、血液中の各種ホルモン濃度などを測定しました。
 牛乳群と人工乳群の体重はほぼ同じような経過を示しました。また、エストロン群と水群の体重も同じように増えました。ただし、牛乳群・人工乳群のラットはエストロン群・水群より大きくなりました。牛乳群と人工乳群のエネルギー摂取量がエストロン群や水群に比べて多かったからです。
 牛乳群とエストロン群におけるDMBA乳がんの発生は週を重ねるとともに増え、人工乳群・水群を圧倒するようになりました。DMBAを投与してから20週後の乳がん発生率は、牛乳群85%(20匹中17匹)、人工乳群50%(20匹中10匹)、エストロン群75%(20匹中15匹)、水群45%(20匹中9匹)でした。発生率、発生数、大きさのいずれにおいても、DMBA乳がんの発生は牛乳群=エストロン群>人工乳群=水群でした(参考図1-3)。
参考図 この図はDMBA乳がんの発生率を示しています。発生率は、牛乳群=エストロン群>人工乳群=水群 でした。


参考図2 この図はDMBA乳がんの発生数を示しています。発生数も、牛乳群=エストロン群>人工乳群=水群 でした。


参考図3 この図は発生したDMBA乳がんの大きさを示しています。乳がんの大きさも、牛乳群=エストロン群>人工乳群=水群 でした。

参考文献
Qin LQ, Xu JY, Wang PY, Ganmaa D, Li J, Wang J, Kaneko T, Hoshi K, Shirai T, Sato A. Low-fat milk promotes the development of 7,12-dimethylbenz(A)anthracene (DMBA)-induced mammary tumors in rats. International Journal of Cancer 2004;110:491-496.


2005年04月28日
牛乳をたくさん飲むと卵巣がんになる (1)日本とアメリカの卵巣がん発生率の比較

 今まで市販牛乳が乳がんの発生を促すという話をしてきました。女性特有のがんには、乳がん以外に卵巣がんと子宮がんがありますね。これらのがんはどうでしょう。
 卵巣は体の奥深くにある臓器ですので、腫瘍が発見されたときはすでに手遅れとなりかねないがんです。日本では毎年4000人ほどの女性が卵巣がんで亡くなっています。牛乳が卵巣がんを起こすという証拠をお目にかけます。
 まず、日本とアメリカ(白人)の発生率を比較してみます(参考図)。乳がんと同じく1990年のデータです。50歳までは日本とアメリカで大きな違いはありませんが、55歳を過ぎると急激にアメリカ女性の卵巣がん増えてきます。



2005年04月29日
牛乳をたくさん飲むと卵巣がんになる (2)卵巣がんに最も関係の深い食品は何か

 参考図は世界42ヵ国で、食品摂取量と卵巣がんの関係をみたものです。数字は相関係数といって、この数字が大きい食品ほど卵巣がんとの関係が深いことを示しています。50歳未満の女性の卵巣がんに関係のある食品は見当たりませんが、50歳以上の卵巣がんと最も関係の深い食品はミルク(牛乳)でした。また、重相関分析という手法で解析しましたところ、卵巣がんの発生に最も大きく寄与している食品は牛乳とチーズであることが分りました。

 参考図は国際的にみた「牛乳と卵巣がん」の関係です。アイスランド、スェーデン、オランダなど牛乳消費量の多い国に卵巣がんが多いことがお分かりいただけるでしょう。


参考文献
Ganmaa D, Sato A. The possible role of female sex hormones in milk from pregnant cows in the development of breast, ovarian and corpus uteri cancers. Medical Hypotheses 2005, 65: 1028-1037.


2005年04月29日
牛乳をたくさん飲むと子宮体部がんになる (1)日本とアメリカの子宮体部がん発生率の比較

 さて、最後に残った女性に特有ながんは子宮がんです。子宮がんには子宮頚部がんと子宮体部がんがあって、この2つは原因や成り立ちが全く異なります。
 昔は子宮がんといえばもっぱら子宮頚がんでしたが、風呂とシャワーの普及によって段々減ってきました(最近の頚がん死亡は年間2500人ほど)。頚がんの本質は性行為関連疾患ともいうべきもので、ヒト・パピローマウイルスの感染が頚がんの発生に強く関連しています。したがって20歳の若さで子宮頚がんになることもあるのです。最近、若年女性の子宮頚がんが注目されています。
 一方、子宮体部がん(内膜がん)は欧米型の子宮がんです。最近は日本でも体部がんが増えてきました(体部がん死亡は年間1200人ほどです。ただし部位不明が1500人ほどありますので体部がん死亡の実数は不明です)。今後もこの傾向が続くでしょう。食生活と関係が深いからです。
 例によって日本とアメリカ(白人)の子宮体部がんの発生率を比較しみましょう(参考図
)。日本はアメリカに比べて圧倒的に少ないですね。アメリカでの好発年齢は70歳前後です。このデータが1990年のものであることを忘れないでください。1990年に70歳の人は1920年生まれです。この人たちは牛乳・乳製品とは無縁の少女時代を送りました。

子宮体部がんに最も関係の深い食品は何か
 参考図2は世界42ヵ国で、食品摂取量と子宮体部がんの関係をみたものです。数字の相関係数が大きい食品ほど子宮体部がんとの関係が深いことを示しています。全年齢を通じて子宮体部がんと関係の深い食品はチーズ・ミルク・肉・卵という動物食品でした。重相関分析という手法を用いて子宮体部がんの発生に最も寄与している食品を探しましたところ、その食品は牛乳とチーズでした。


牛乳と子宮体部がん
 参考図3は国際的にみた「牛乳と子宮体部がん」の関係です。牛乳消費量の多い国に子宮体部がんが多いということがお分かりいただけたと思います。


 牛乳をたくさん飲むと乳がん・卵巣がん・子宮体部がんになる確率が高くなりますのでご注意を。
参考文献
Ganmaa D, Sato A. The possible role of female sex hormones in milk from pregnant cows in the development of breast, ovarian and corpus uteri cancers. Medical Hypotheses 2005, 65: 1028-1037.



2005年04月30日
牛乳・乳製品が前立腺がんを起こす (1)日本とアメリカの比較

 前立腺は膀胱の下にあって尿道を輪状に取り巻いている栗の実ぐらいの大きさの腺組織で、乳白色の前立腺液を分泌しています。前立腺液は精液の主体をなすもので精子の運動を活発にする役割を果たしています。
 この前立腺に発生するがんが前立腺がんです。ものによっては骨盤や脊椎などの骨に転移しやすい特徴があります。90歳を過ぎた元気な人でもその前立腺を丹念に調べれば大半の人に小さながん病巣が見つかるものです。したがって何の症状もなく天寿をまっとうする方もたくさんいらっしゃいます。
 アメリカ人男性に最も多いがんは前立腺がんです。毎年23万人ものアメリカ人に前立腺がんが発見され、およそ3万人が亡くなっています。(アメリカ人は年間9万3000人が肺がんになり、9万人近くが亡くなっていますから、前立腺がんは肺がんに比べて死亡の確率が小さいがんということができます)。
 アメリカと日本で前立腺がんの発生率を比較してみましょう。アメリカでの発生率は人口10万対100・8ですが、日本人の発生率は8・74でアメリカの10分の1以下に過ぎません(参考図)。それにしてもアメリカの前立腺がんは驚異的ですね。


牛乳・乳製品が前立腺がんを起こす (2)日本における前立腺がんの急増
 戦前の日本人には前立腺がんは稀な病気でした。日本人に前立腺がんが少ないのは、日本人が穀類と大豆を中心にした食生活送ってきたからだと説明されています(これは前立腺がんに限ったことではなく日本女性の乳がんについても同様です)。
 最近、日本人男性の前立腺がんによる死亡が急増しています(参考図)。前立腺がん死亡率は戦後一貫してほぼ直線的に増加し、過去48年間で25倍にもなりました。この死亡率は年齢で調整してありますから、急増は人口が高齢化したためではありません。日本で死にいたる前立腺がんにかかる人が多くなったことを示しています。大豆の摂取量が減ったわけではありませんから、他の要因が前立腺がんの増加に拍車をかけているのです。それはホルモン入り牛乳およびこれから作られている乳製品です。



2005年05月01日
牛乳・乳製品が前立腺がんを起こす (3)テストステロンとエストロゲン

 男を男たらしめているのがテストステロンという男性ホルモンです。このホルモンは前立腺の発育に必須です。成人になっても、前立腺が正常に機能するためにはこの男性ホルモンが欠かせません。
 前立腺がんは60歳未満には稀で、60歳を超えてから加速度的に増えはじめます。60歳以上の男性では、男性ホルモンに対して女性ホルモンが相対的に増えてきます。正常な前立腺組織とがん組織にはともにエストロゲンと結合する受容体があって、前立腺細胞はエストロゲンに反応するのです。試験管内で培養している前立腺のがん細胞がごく微量のエストロゲンで増殖することが知られています。
 前立腺がどんな国に多いのか国際的に見てみましょう(参考図)。北欧をはじめとする欧米諸国に多いことが歴然としています。前立腺がんは乳がんと並んで典型的な欧米型のがんです。なかでもアメリカは頭抜けていますね。アメリカでは前立腺特異抗原(PSA)検査が積極的に行われ異常な数値を示したものに針生検で前立腺がんの確定診断を行っているからです。


牛乳・乳製品が前立腺がんを起こす (4)前立腺がんと関係の深い食品はミルク
 世界42ヵ国で前立腺がんの発生と関係の深い食品を探しました。参考図の相関係数の大きい食品は前立腺がんと関係が深いことを示しています(マイナスの数字を示すのは逆に前立腺がんの発生を減らす食品です)。また、重相関分析という統計学的手法で、前立腺がん発生に寄与していることが判明した唯一の食品はミルクでした(参考文献)。


 牛乳が前立腺がんの危険因子であるという疫学研究はすでにたくさん報告されています。1例として、北イタリアで行われた患者-対照研究を紹介しましょう(参考文献2)。この研究は、組織学的に確認された96例の前立腺がん患者を患者群とし、急性の非腫瘍性生殖器疾患の292例を対照群として行われました。その結果、ミルク消費量が増えるにしたがって前立腺がんの危険性が有意に上昇するということが判明したのです。ミルクを飲まない者あるいは時々しか飲まない者に比べて、1日に2杯以上のミルクを飲む者の相対危険度は5倍でした。
 中年以降の男性のみなさん、あなたが前立腺がんになるおそれがありますので牛乳の飲み過ぎと乳製品の摂り過ぎに注意しましょう。
参考文献
1. Ganmaa D, Li XM, Wang J, Qin LQ, Wang PY, Sato A. Incidence and mortality of testicular and prostatic cancers in relation to world dietary practices. International Journal of Cancer 2002, 98: 262-267.
2. La Vecchia C, Negri E, D'Avanzo B, Franeschi S, Boyle P. Dairy products and the risk of prostatic cancer. Oncology 1991, 48: 406-410.


2005年05月03日
NHKスペシャル「日本のがん医療を問う」を観て

アメリカの食生活が変わりつつある(1)
 4月30日と5月1日の連夜にわたって「日本のがん医療を問う」というNHKの特別番組(NHKスペシャル)が放送されました。討論に参加された方々ががん患者と患者のご家族・ご遺族でしたからやむを得ないことですが、内容はがん治療とがん検診でした。予防に関しては相変わらず「禁煙」が叫ばれただけでした。
 この番組の主題は「早期発見・早期治療」で、外国で使われている標準的な抗がん剤が日本の保険診療で使われないという日本の医療行政の後進性が鋭く追求されていました。しかし「がんにならないようにする」という本質的ことが「禁煙」を除いて話題にならなかったのは残念です。
 アメリカで1993年ごろからがん死亡が減ったということがこの番組で取り上げられ、かの地の「乳がん検診」と「禁煙運動」が先進的な取り組みとして取り上げられていました。アメリカではがん死亡率のみならず発生率も減っているのです。禁煙の広がりだけではなくアメリカ人の食生活も変わりつつあるのです。毎日の食べ物=日常茶飯ががんの生長速度を決めるということはご存知ですよね。かつてはアメリカが日本の食生活を見習っていたのに、日本では相変わらず「タンパク質」「カルシウム」を推奨しているのはどういうことでしょうか。これから3つの日米比較をお目にかけます。第一に穀物の摂取量の日米比較です(参考図)。アメリカ人の穀物消費量が日本に追いつきそのうちに追いこすかもしれません。


アメリカの食生活が変わりつつある(2)
 アメリカ人はたくさんの牛肉と牛乳を消費しますが、穀物摂取量が日本び追いつきつつあります。そのため、糖質(炭水化物)の摂取量が日本人を超えました(参考図)。


アメリカの食生活が変わりつつある(3)
 何よりも驚くべきことはアメリカ人の野菜の消費量が増えたことです。アメリカのデータにはばらつきがありますが、1965年頃から一貫して増えつづけ、最近では日本の消費量を上回るようになりました(参考図)。


 アメリカ人は、多量の牛肉・牛乳を消費しながらも穀物・野菜も食べるようになったということです。このことが最近のアメリカでのがんの減少に関係しています。しかし、アメリカ人がたくさんの牛肉・牛乳を消費する限り、がん発生率・死亡率の減少もそのうちに高止まりすることでしょう。


2005年05月06日
子どもと牛乳 (1)幼児・児童・生徒が牛乳を飲まされている

 皆さんは「環境ホルモン」という言葉を憶えていらっしゃいますか。とくに世界を驚かせたのは「1940年には1ミリリットルの精液に1億1300万あった精子が50年後の1990年には6600万に減ってしまった」というデンマークの研究者たちの報告でした。その後も別の国の研究者から同様の精子減少が相次いで報告されました。これらの研究者はいずれも、男性の胎児期からの環境ホルモン曝露が精子数の減少を引き起こした可能性を指摘していました。
 日本でも千葉大学の森千里教授らが、20000名に上る解剖例から、1960以降に産まれた男性では、精巣重量が若年でピークに達してしまい、その後の減少速度が速いことを証明しておられます(参考文献)。
 現代の牛乳が女性ホルモン作用を示すことは4月24日の記事に書きました。牛乳のホルモン作用は環境ホルモンどころではありません。なんといっても本物のホルモンが入っているのですから。こんな牛乳を幼児・児童・生徒が飲んでも大丈夫なのでしょうか。日本人の牛乳飲用の歴史は欧米人に比べてはるかに短いのです。もし現代牛乳に悪影響があるとすればその影響は日本人により強く現われるででしょう。
 もちろん精子数の減少が事実としても、精子の減少が直ちに男性不妊に結びつくわけではありません。しかし、日本の将来に暗い影を投げかけている少子化を青年の非婚・晩婚という社会現象によるものと決めつけることもできません。日本人の動物としての生殖能力の低下や性行動の変化にも注意を向けるべきです。
 2003年に生まれた子どもは112万人で、1人の女性が生涯に産む子どもの数がとうとう1・29人になってしまいました。1950年には224万人もの子どもが生まれ、女性は生涯に3・65人の子どもを産んでいたのです。
 参考図の年齢による牛乳・乳製品の摂取量をご覧ください。14歳以下の前思春期の子どもの摂取量が他の年齢層を圧倒しています。学校給食で園児・児童・生徒に牛乳を飲ませているからです。


参考文献
Mori C, Hamamatsu A, Fukata H, Koh KB, Nakamura N, Takeichi S, Kusakabe T, Saito T, Morita M, Tanihara S, Kayama F, Shiyomi M, Yoshimura J, Sagisaka K. Temporal changes in testis weight during the past 50 years in Japan. Anatomical Science International 2002, 77: 109-116.


2005年05月07日
子どもと牛乳 (2)牛乳・乳製品と日本の少子化

 男性の精子数は胎児期から思春期を通じて増えていきます。前思春期の少年では体内の卵胞ホルモン(エストロゲン)の濃度が極めて低いので、14歳以下の少年の性的成熟に対するエストロゲンの影響が大きいと言われています。
 現在は不妊カップルが多くなり、8カップルに1組あるいは6カップルに1組が不妊に悩んでいると言われています。2003年には112万人の子どもが生まれましたが、そのうち1万5000人はお医者さんの力(人工授精その他)を借りて妊娠・出産にいたった子どもです。
 参考図は、ある年度の牛乳・乳製品の摂取量を横軸に、その年度の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)を縦軸に、牛乳と出生率の関係を描いたものです。牛乳の消費量が増えるにしたがって子どもの数が減っています。ただし、この図は、牛乳が少子化の原因であることを示すものではなく、単なる状況証拠を示しているに過ぎません。横軸にGDP(国内総生産)をとっても、自動車保有台数をとっても同様な関係が認められるらです。


 1960年以降で子どもがもっとも多く生れたのは1973年でした。この年には209万人もの子どもが生れました(第2次ベビーブーム)。しかも人工妊娠中絶が70万件ありましたから、1973年には約280万人の女性が妊娠していたことになります。ところが2004年の妊娠数は約140万件(生れた子どもは111万人)と半分になってしまいました。厚生省は1999年に、経口避妊薬(低用量ピル)を医薬品として承認しましたが、賢い日本女性はこのような危険でかつ面倒くさいものに手を出しません。日本人の繁殖力(主として男の生殖能力)が衰えてしまったのです。政府がいくら「産めよ増やせよ」と叫んだところで生まれる子どもが増えるはずがありません。
 「牛乳と少子化」の間に完全な証拠は今のところありませんが、現在の女性ホルモン入り牛乳を14歳以下(性腺発育期)の日本の児童に学校給食で半強制的に与えるという政策は大きな誤りだと考えます。この問題は「日本人は何を食べたらよいかー日本人と牛乳ー」に述べていますので参照してください。


2005年05月08日
子どもと牛乳 (3)牛乳と泌尿・生殖器の異常

 牛乳・乳製品をたくさん生産・消費する国々(欧米諸国)で尿道下裂・停留睾丸(精巣)・精巣がんなどの泌尿・生殖器の異常が1930年ごろから増え続けています。もちろん、日本での発生は欧米ほど多くありませんがやはり増えています。
 今日はこのうち精巣がんを取り上げましょう。30歳未満の男性の固形がん(充実性腫瘍)のほとんどは精巣がんです。精巣がんは胃がんや肺がんと異なり、抗がん剤がよく効く腫瘍ですから、死亡にいたるものはそんなに多くはありません。
 世界42ヵ国で精巣がんと食品の関係を調べてみましたところ、精巣がんの発生に最も関係の深い食品はチーズでした(参考図)。また、重相関分析という統計手法で、精巣がんの発生に寄与していることが明らかになった食品は「牛乳+チーズ」でした。


2005年05月11日
牛乳と少子化 (4)牛乳をたくさん飲むと子どもが生まれなくなるか

 牛乳を飲むと子どもが産めなくなるかという疑問に答えるために、24組の雌雄のラット(ネズミ)に牛乳を飲ませて、交尾率(交尾成功率)・妊娠率(交尾したメスのうち妊娠した割合)・出産率(妊娠したメスが出産した割合)・精子数などを2世代にわたって調べました。
 残念ながら(幸いなことに、というべきでしょうか)、いずれの指標にも統計学的に有意な悪影響はありませんでした。
 ただし、第1世代の1匹の母ネズミは死産(仔10匹)でした。3匹の骨格奇形の子ネズミ(仙骨欠損1、無尾奇形2)が生れました(図30)。第2世代から生れたメスの子ネズミの肛門性器距離が短縮していました(統計学的に有意)。これらはすべて牛乳を飲ませたネズミにのみ起こった現象です。とくに仙骨欠損と無尾奇形は非常に稀な奇形です。単なる偶然なのかどうかもう一度実験して確認することが必要と考えています。

参考文献
Ganmaa D, Qin LQ, Wang PY, Tezuka H, Teramoto S, Sato A. A two-generation reproduction study to assess the effects of cows' milk on reproductive development in male and female rats. Fertility and sterility 2004; 82 (suppl 3): 1106-1114.


2005年05月12日
サプリメント病(サプリ病)という病気(1)

 地球上のほとんどの植物は毎日強烈な太陽光線(紫外線)を浴びていす。しかも素っ裸です。植物も酸素を呼吸に用いていることは人間と同じです。したがって、植物は、衣服を身に纏っている人間よりも多量の活性酸素などのフリーラジカル(不対電子をもつ分子で、人間でいえば誰彼となく襲いかかる過激な暴れ者=襲われた結果が老化やがん)に曝(さら)されています。長い進化の過程で、植物はフリーラジカルから身を守る術(すべ)を身につけました。それがβ-カロテンなどの抗酸化物質です。β-カロテンは細胞が傷つけられる前にフリーラジカルを取り除いてしまうのです。β-カロテンはどの植物の葉っぱにも含まれています。
 β-カロテンは2つのビタミンAからなる物質で、一部は体内でビタミンAになります。したがってビタミンAにも多少の抗酸化作用があります。その他の抗酸化物質としてビタミンC、Eなどがあります。コエンザイムQもこの類いのもので、構造がビタミンEに似ています。この物質は動物・植物のあらゆる細胞に広く存在しています。ビタミン・ミネラルなどを微量栄養素と言いますが、微量で必要十分な働きをするからこそ微量栄養素というわけです。日常の食事で5-10ミリグラムのコエンザイムQが摂れます。これで十分なのです。
 この世に不老長寿のくすりなどというものはありません。こういう類(たぐい)のものを錠剤にして服ませようという「ビジネス」が生れては消え、消えては生れます。かつて、抗酸化物質であるβ-カロテンやビタミンAのがん予防効果について大規模な介入実験が行われました。1980-1990年代は世界中が「カロチン」「カロチン」の大合唱でした(当時はカロチンと呼ばれていました)。
 フィンランドで1つ、アメリカで2つ行われた肺がん予防を目指して行われた大規模研究では、「無効」という結果が1つ、他の2つは「β-カロテンやビタミンEを服んだ人は服まなかった人よりも肺がんの発生が減るどころかかえって増えてしまう」という無惨な結果に終りました。アメリカで行われた研究の1つは「益よりも害が大きい」という理由で計画の21ヵ月も前に中止されました。


2005年05月13日
サプリメント病(サプリ病)という病気(2)

 植物は、1つの特定の物質が抗酸化作用を発揮しているわけではありません。あらゆる物質が協力して一定の役割を果しているのです。それが、38億年の進化の歴史です。賢(さか)しらに、ある1つの物質を取り出して、それを毎日服めば効果があるというようなものではありません。
 β-カロテンを大量に含むのは黄緑野菜や果物です。ニンジン、サツマイモ、カボチャなどにはとくに多く含まれています。カボチャやミカンをたくさん食べて掌(てのひら)や踵(かかと)が黄色くなった(橙皮症)という人もおられるでしょう。あれがβ-カロテンの影響です。今ではβ-カロテンの錠剤が手に入ります。しかしあのようなものを錠剤として服んではなりません。植物の中に純粋なβ-カロテンが含まれているわけではありません。同様なものがたくさんカロテノイドという形で含まれていて、これらが共働して細胞をフリーラジカルの攻撃から守っているのです。β-カロテンに抗酸化作用があるからといって純粋なβ-カロテンを毎日服んだら益になるどころか有害です。
 ある種のアミノ酸がうつ病に効果があるとか免疫力をアップするなどという話をお聞きになったことがあるでしょう。きのこの抽出エキスに抗がん作用があるなどという話は泡のように生まれては消え、消えては生まれています。もっともらしい解説とともに、ある物質を加えるとマクロファージ(貪食細胞)が細菌やがん細胞を活発に攻撃する顕微鏡映像を見せられるとついつい信じてしまうひともおられるでしょう。だからといって、その物質の錠剤を服んだら免疫力がアップし、がんが消失するなどということはありません。私たちは、36億年という進化のプロセスを経た60兆もの細胞が共動して働いて生きているのです。
 一番残念なのはテレビ・新聞がいかにももっともらしく健康情報を報道することです。あれはいかなる根拠で報道されているのでしょうか。先進国の新聞・テレビでかくもたくさんの健康情報を垂れ流すのは日本だけでしょうね。新聞・テレビが必ずしも真実を伝えているわけではありません。テレビは面白可笑しくして視聴率を稼ぐことがすべてに優先します。ましてや新聞の折り込み広告などにはとんでもないものたくさんがあります。あのように訳のわからない情報に一喜一憂しないでください。新聞・テレビの情報、さらには宣伝パンフレットを無視することが肝要です。食品・サプリメントの安全が5年や10年で解るはずがないのです。
緊急報告:狂牛病(BSE)国内18頭目も乳牛ホルスタイン
 厚生労働省の牛海綿状脳症(BSE、狂牛病)の専門委員会は12日、北海道砂川市の乳牛1頭を狂牛病と確定診断しました。5歳のメスのホルスタイン乳牛で、感染牛はこれで18頭目となります。肉骨粉(牛などの家畜の食用にならない部分を加熱・乾燥して粉末状にした濃厚飼料)の使用が禁止された2001年以前の1999年8月に生れた乳用牛ということです。肉や内臓は、消却処分されるため市場に出回らないということです。牛乳は肉と同じようなものですね。肉や内臓は流通しないとしても、この乳牛から搾った牛乳はどうなったのでしょうか。すでに皆さんの胃の腑に納まってしまったのです、ああ。


2005年05月14日
サプリメント病(サプリ病)という病気(3)

 効果のないものでも効果があるように感じることがあります。信頼する医師が「これを服めばぐっすりおやすみになれますよ」といって、不眠を訴えるひとに偽薬(うどん粉を丸めてカプセルにしたようなもの)を手渡せば、その晩はぐっすり眠れるひともいます。しかし、数日すれば化けの皮がはがれます。「藁にもすがりたい」患者や健康志向の強い現代人を騙すことは簡単です。詐欺の種は浜の真砂ほどもあります。種の尽きることはありません。1つの物質を強調するひとの言葉を信じてはいけません。本人にその気はなくてもそのひとは詐欺師です。
 くすりの本質についても触れておかなくてはならないでしょう。くすりは短期間服用するものです。たとえば、感冒ウイルスがのどに巣くって熱発する。咽頭に炎症が起こったためです(身体がウイルスと闘っている)。頭が痛い、身体が熱でフワフワする。このようなとき、私たちは解熱鎮痛剤を服むことがあります。解熱鎮痛剤がウイルスをやっつけることを期待しているのではありません。一時的に体調を整えて、身体に備わった力(自然治癒力)がウイルスとの戦いに勝利することを期待しているのです。生物活性のあるくすりを長期間にわたって服み続ければ好ましくない影響が現われます。くすりがある機能にのみ作用して、他の機能に影響を及ぼさないなどということはありません。だから、本当に効くくすり(=生物活性のあるくすり)の服用は慎重でなければなりません。
 もし、サプリメントが本当に何らかの生物活性のある物質なら、毎日服みつづけることによって好ましくない影響が必ず現われます。死にいたることすらあります。幸いなことに、ほとんどすべてのサプリメントは毒にもくすりにもなりません。したがって副作用もありません。しかもほとんどの人が1-2ヵ月で止めてしまいますから、たとえあっても副作用が表面化しません。おいしい「ビジネス」です。それなのに手のひらいっぱいのサプリメントを頬張る人がいますね。重症のサプリメント病(略してサプリ病)です。お金がかかるだけですね。
 わずか1週間や1ヵ月で得られた実験結果が堂々と一流といわれる新聞の紙面を飾ることがあります。こんな短期間の実験結果を鵜のみにしてはなりません。日本人の食事はずっと「穀物+大豆+野菜(+魚)」でした。何世代もかけて自らその安全性を確かめてきたのです。この食事の中に日本人に必要なものがすべて過不足なく含まれています。ただしこれは生きるための食事であって、これだけでは楽しくありませんね。だから、5日、7日(1週間)あるいは10日に1度の飲めや唄えやのハレの日(謝肉祭)を設けるのです。


2006年03月18日
急告:狂牛病、国内24頭目は初の肉牛
肉牛、初のBSE確認 14歳の雌、国内24頭目(日本経済新聞2006年3月18日)
 
厚生労働省は17日、長崎県壱岐市で繁殖用に飼育されていた雌の黒毛和牛1頭がBSE(牛海綿状脳症)感染牛だったと確認した。国内でのBSE感染牛としては24頭目で、肉用牛としては初めて。これまで乳用牛でしか感染例がなかったが、肉用牛でも発覚したことから、農林水産省などは感染経路の特定を急ぐ。
 感染牛は1992年2月生まれの14歳の雌。これまでに10頭を出産し、その中には食用として市場に出回った牛もいるとみられるが、厚労省は「BSEの母子感染はないとされており、子牛の肉を食べても心配はない」としている。
 この牛は10頭目の妊娠中に立てなくなり、分娩(ぶんべん)後の今月13日に佐世保市食肉衛生研究所に持ち込まれた。解体後に大腿(だいたい)部の脱臼が判明し、1次検査で陽性反応が出た。国立感染研究所で2次検査を実施、17日に開かれた厚労省専門家会議で確定診断された。
 国内では2001年9月の千葉県での1ー9歳の23頭の感染を確認。感染牛はいずれも乳用牛として飼育されていたもので、うち2頭は飼育途中で肉用に変更された。肉用牛は生存期間が短く、BSE感染の危険性は低いとされるが、今回感染が確認された肉用牛は繁殖用のため高齢だった。
 感染経路はまだ特定されていないが、農水省などは新たな感染ルートが存在する可能性もあるとして、飼料や薬品の使用状況のほか、この牛と一緒に育てられていた牛や子の追跡調査を進める。
 この牛の肉や内臓は焼却処分され、市場には流通しない。

 日本で初の肉用牛のBSE(狂牛病)感染です。牛は通常1頭の出産ですから、肉用牛が産んだ子牛は母牛のミルクで育ちます。また、肉用に育てている牛に肉骨粉の入った濃厚飼料で飼育しても利点はありません。だから、肉用牛に狂牛病が発生することは本来少ないのです。今回の感染牛は繁殖牛でしたから、妊娠中に栄養補給として肉骨粉入りの濃厚飼料が与えられたのかも知れませんね。


2006年04月20日
急告:国内25頭目の狂牛病もホルスタイン乳牛
岡山初BSE牛確認 奈義の乳牛、国内25例目(山陽新聞2006年4月20日)

 岡山県は19日、同県奈義町の農場で飼育され牛海綿状脳症(BS E)1次検査で陽性反応を示していた乳牛1頭が国の確認検査により、 感染が確定したと発表した。北海道枝幸町産のホルスタイン種で、生後 71カ月の雌。国内25例目で、県内では初めて。
 肉や内臓は焼却処分され市場には流通しない。
 県は、18日に検体を国立感染症研究所(東京都新宿区)に送り、確 認検査を受けていた。脳に蓄積した異常プリオン(タンパク質)を調べ る2次検査でも陽性と判定された。専門家会議は結果を「BSEの典型 例」と判断。会議を開かず委員が電子メールでデータを確認し、確定診 断した。
 感染牛は2000年4月生まれ。02年3月、奈義町の農場に来た。 以降、子牛を4頭産んでおり、うち3頭は死亡。県は残る1頭を「疑似患畜」として所在を調査する。
 肉骨粉の飼料使用が禁止された01年以前に生まれていることから、 県は、北海道で飼育されている際に、飼料から感染したケースも考えら れるとして、感染経路なども調べる方針。

 国内で25例目のBSE(狂牛病)もホルスタイン乳牛に発生しました。母ウシのミルク(人間用の商品)は乳牛の子牛に与えられませんから、子牛は代用乳で育てられます。この代用乳にBSE牛から作られた肉骨粉が加えられていたのでしょう。

2006年08月05日
急告:国内26、27頭目の狂牛病もホルスタイン乳牛
26頭目のBSEと確定診断 北海道で死んだ5歳乳牛(共同通信社)
 26頭目のBSEと確定診断 北海道で死んだ5歳乳牛 農林水産省は5月13日、牛海綿状脳症(BSE)の1次検査で陽性反応の出た北海道今金町の5歳8カ月の乳牛について、2次検査で陽性となりBSEと確定診断したと発表した。BSE感染牛は国内26頭目。
 肉や内臓は焼却処分され、市場に流通しない。
 この牛は同町で飼育されていた雌のホルスタインで、今月10日に死んだ。北海道石狩家畜保健衛生所の1次検査で疑陽性とされ、動物衛生研究所(茨城県)の確定検査でも陽性だった。肉骨粉の使用が禁止された2001年以前の2000年8月に生まれた。
27頭目のBSE確定診断 北海道で死んだ5歳乳牛(読売新聞)
 農林水産省は5月19日、牛海綿状脳症(BSE)の一次検査で陽性反応が出た北海道豊頃町 の乳牛1頭について、二次検査でBSEと確定診断したと発表した。感染牛は国内27頭目。
 肉や内臓は焼却処分され、市場に流通しない。
 この牛は豊頃町で飼育されていた5歳8カ月の雌のホルスタインで、今月16日に死んだ。 北海道十勝家畜保健衛生所の一次検査で疑陽性とされ、動物衛生研究所(茨城県)の確定 検査でも陽性だった。
 肉骨粉の使用が禁止された平成13年以前の12年8月に生まれた。

2006年08月13日
急告:狂牛病、国内28頭目もホルスタイン乳牛
BSE28頭目(読売新聞2006年8月12日)
 
農林水産省は11日、北海道羽幌町で飼育されていた乳牛(6歳8か月)がBSE(牛海綿状脳症)に感染していたと発表した。国内で確認された感染牛は28頭目。焼却処分され、市場には出回らない。この牛は雌のホルスタインで、肉骨粉が餌として禁止される前の1999年11月に生まれた。
 これで 、今年3月17日の狂牛病を除いて(肉用繁殖牛)、日本における狂牛病はすべてホルスタイン乳牛に発生したことになります。

2006年08月26日
文部科学省による牛乳の強制と日本の少子化問題
最近よくいただくメールは「おれは好きで牛乳を飲みチーズを食べている。それが何で悪いのだ。ごちゃごちゃ言うな」という類いのものです。好きで牛乳・乳製品を飲んで食べている人に止めなさいなどというつもりは全くありません。「美味しいからどうぞ」とチーズを勧めるのも構いません。牛乳業界が「美味しい」と宣伝することも一向に構いません。それは彼らの仕事だからせす。私が止めて欲しいのは「身体によいから健康のために牛乳を飲みなさい、乳製品を食べなさい」と強制するこです。許し難きは文部科学省の幼稚園児・学童・生徒に対する行政指導による牛乳飲用の強制です。日本の少子化の根本問題は「男性生殖能力の低下」です。国・自治体の社会的支援によって合計特殊出生率は多少上向くかも知れません。しかし。現在日本で進行している少子化は社会的支援だけではどうにもならない問題が根底にあるのです。「牛乳と日本の少子化問題」をご覧ください。
 牛乳を飲んでも骨粗鬆症の予防にならないどころかかえって助長します。カルシウムは生体になくてはならないミネラルですが、カルシウムが多過ぎれば細胞は機能しません。カルシウムは細胞にとって猛毒です。動物はカルシウムを取り込むことよりも捨てることに懸命なのです。脊椎動物は体内に入ったカルシウムを捨てるために骨組織というカルシウムの捨て場所をつくって進化してきた生き物です。アメリカ人が日本人より大きいのはカルシウムのゴミ箱(骨格)が大きいからに過ぎません。ゴミ箱の大きさは遺伝によって決まっています。ゴミ箱の小さい日本人はカルシウムを摂りすぎると困るのです。

 今日の日経新聞土曜日版(NIKKEIプラス1)にも「骨粗鬆症に牛乳カルシウムを」というコラムがありました。栄養士さんは困りものです。よく勉強している栄養士さんもたくさんいらっしゃいますが、ほとんどの栄養士さんは10年も20年も前に学校で習った「骨にはカルシウムを、カルシウムには牛乳を」というまやかしを呪文のように繰返しています。食事のカロリー計算・栄養素計算を行い、その数値を厚生労働省の摂取基準と比べて「あなたにはカルシウムが足りません、タンパク質が不足しています」と言うだけです。常識を疑うことをしらない人に進歩がありません。「骨粗鬆症の予防に牛乳を」という栄養士さんは「まがいもの」と考えてまず間違いありません。ご注意を!


2006年09月23日
お医者さんも困りもの
8月26日に「骨にはカルシウムを、カルシウムには牛乳を」を呪文のように唱える栄養士さんは「困りもの」と書きましたところ、読者の方から「あなたは栄養士ばかりを攻撃している、医者も同じではないか」と日経新聞9月2日土曜日版(NIKKEIプラス1)の「医食同源」というコラムのコピーを送ってくださいました。私も日経新聞に目を通していますが、迂闊でした。
 このコラムは「牛乳、おなかに優しい飲み方」と題して「牛乳は栄養価が高く、吸収率のよいカルシウムの補給源で、その上美味なドリンクだ。夏の疲れから回復するため水がわりにとるとよい」というものでした。いまどきまだこんなお医者さんがいるんですね。「牛乳を水がわりにとるとよい」などというお医者さんは医学生時代に聞きかじったことをそのままおうむ返しに繰返しているだけの不勉強なお医者さんです。こういうお医者さんには近づかないことが何よりです。お医者さんのほとんどは「症状を分類して病名をつけ(診断といいます)くすりを飲ませる」ことを生業(なりわい)としている方々で、本来、患者の食べ物には関心をもっていません。繰返しますが「牛乳は栄養価が高い」などというお医者さんは「要注意人物」です。


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