こんな糖尿病治療はこわい
二宮陸雄/高崎千穂『糖尿病とたたかう』(ベスト新書81 2005)

<前略>

糖尿病がこわいのは、糖尿病の治療でかえって悪くなることがあるからだ。誤解のないようにいっておくが、糖尿病をよくすることは、網膜症を防ぐために必要なことだ。しかし、いったん網膜症ができてしまうと、その状態をよく知らないで、糖尿病がひどい状態(たとえばHbA1cが10%以上)であるのに、いきなり血糖を下げることばかり考えていると、あっという間に網膜症が悪化して、果ては硝子体出血、失明という悲劇が起きることがある。

さきに、経口血糖降下剤が両刃の剣で、低血糖で命を失うこともあるという話をしたが、網膜症についても、むやみに血糖を下げることを考えていると、大変なことになる。

糖尿病が発見されないまま、何年もたってから、医者に行く。食事療法もまるでやっていないから、朝食前の血糖値は200mg/dlもある。HbA1cが10%以上もある。糖尿病に詳しい医者ならあわてたり騒いだりしない。自覚症状がほとんどないような人では、まず1カ月ぐらいはしっかり食事指導をするのだ。ところが、糖尿病に詳しくない医者は、医者自身が驚いてしまって、血糖を下げることしか頭にない。経口血糖降下剤をポン! と出して、のめという。血糖は下がる。数日のうちに100 mg/dlくらいになるだろう。そして10日後には、網膜出血で片目がよく見えないと訴える患者を前にして、頭を抱えてしまう。

これが糖尿病治療の「こわい」ところだ。現在、日本各地の多数の大学病院や公的病院に糖尿病外来がある。大きいセンターだと登録している糖尿病患者が何千人もいる。小さい外来でも何百人もいる。大学や市民病院、国立病院だからミスのない治療をやっていると思うだろう。ところが実際には、どのセンターにも先のような例が何人かいるはずだ。もちろん、無知でいい加減な治療をしたというわけではなく、難しい検査をして、網膜の病変があることを確認し、慎重に投薬したはずなのに、結果的には、網膜出血や硝子体出血を起こしてしまう場合があるのだ。有名な医者で、自分で独断的な治療をして失明した人もある。

<以下略>


トップ

ご意見