食に関する一日一話(2)

2005年05月15日
糖尿病 (1)検査前日の夕食にたっぷりの糖質を摂らないと誤って糖尿病と判定されてしまう

 糖尿病の検査に糖負荷試験という検査があります。人間ドックを受診された方は体験されているでしょう。この検査では、朝食を食べていない状態(つまり空腹時)で、75グラムのブドウ糖液を飲みます。飲む前(空腹時)、飲んでから30分後、1時間後、2時間後の4回採血して、血糖値を測定します。2時間後の血糖値が200mg/dl以上なら糖尿病、140mg/dl以上なら耐糖能異常(=糖尿病予備軍)と判定します(空腹時血糖値をでも判定できますが省略します)。
 アメリカ糖尿病学会が1997年に糖負荷試験は時間がかかる、空腹時血糖値が126mg/dl、あるいはどんなときに測っても血糖値が200mg/dlを超えていたら糖尿病と診断してよいという報告書を出しました。驚いたことに日本の糖尿病学会もこの診断基準を受け入れてしまいました。最近になって、やはり糖負荷試験が必要だという声が大きくなってきました。
 食事して血糖値が高くなると、インスリンが分泌されて血糖値を140mg/dl未満に抑えます。この血糖の上昇を抑える力を耐糖能といいます。インスリンの分泌が悪かったり、分泌されたインスリンの働きが悪いと血糖値が下りません。この状態を耐糖能異常(障害)と呼ぶのです。繰り返しになりますが、糖負荷試験で2時間後の血糖値140mg/dl以上を耐糖能異常と判定します。
 朝食を抜いて検査を受けるのだから、検査の前日の夕食も軽く済ませた方がよいだろうと考える人がいます。私の知り合いに「野菜サラダにフレンチ・ドレッシング」という軽い夕食を摂って糖負荷試験を受け、糖尿病でもないのに血糖降下剤を処方された女性がいました。
 検査前日の夕食がいかに大切かということを明らかにした私たちの実験結果を紹介しましょう。この実験には12名の健康な医学生に参加してもらいました。被験者は全員、糖負荷試験の前日の朝食と昼食には普通の食事(たんぱく質15%;脂肪25%;糖質60%)を摂り、夕食だけ異なる食事を摂りました。半数の6人は糖質の少ない夕食(ビーフステーキとフライドポテト)を、他の6人は糖質の多い夕食(どんぶりメシとみそ汁)を食べました。そして翌日糖負荷試験を行ったのです。さらに1週間の間隔を開けて、今度は先週どんぶりメシを食べた人にはビフテキ、ビフテキを食べた人にはどんぶりメシを食べてもらって糖負荷試験を行いました。この実験をまとめたのが参考図です。


 夕食に糖質の多い食事を摂ったときには被験者全員の耐糖能は正常でしたのに、ビフテキを食べたときは全員の耐糖能が悪化しました。被験者12名中4名が「耐糖能異常」と判定されたのです(参考文献)。検査の15-16時間前の糖質の摂取量が耐糖能に大きな影響を与えることがお分かりいただけるでしょう。
 私たちの論文は1998年にLANCETという有名な医学雑誌に掲載されましたから、WHOも採用しています。それなのに最近の糖尿病の専門家といわれる日本のお医者さんは糖尿病検査(糖負荷試験)の前日の食事について一言も注意しません。「前の晩の9時以降は水以外のものは何も食べず、検査日の朝食を抜いて病院に来てください」としか言わないのです。事実、日本医師会雑誌・特別号「糖尿病診療マニュアル」(2003年10月)は検査前日の食事について一言も触れていません。
 誤って糖尿病あるいは耐糖能異常と判定されている人がたくさんいらっしゃると思います。糖負荷試験の前日の夕食にはご飯・パン・イモ・うどんなどの澱粉の多い食事をたくさん摂ってください。さもないと誤って糖尿病と診断され、くすりを服まされてしまいますよ。
参考文献
Kaneko T, Wang P-Y, Tawata M, Sato A. Low carbohydrate intake before oral glucose-tolerance tests. Lancet 352 (9124), 289, 1998.


2005年05月16日
糖尿病 (2)糖質(澱粉)をたくさん摂るとインスリンの分泌が少なくて済む

 糖負荷試験の前日に糖質(澱粉)の多い食事を摂ると耐糖能がよくなる(=血糖値が高くならない)のは、その食事によってインスリンがたくさん分泌されるからではありません。糖質をたくさん摂るとわずかなインスリンで血糖(=グルコース)が使われようになるからです。つまりインスリンの働きがよくなるのです。このことを「インスリン感受性がよくなる」といいます。しかし、この効果は一時的なもので、翌日糖質の少ない食事を摂ると耐糖能が悪くなってしまいます。
 日本人は昔から澱粉が主体の食生活でした。澱粉が多くなれば多量のインスリンが必要ではないかと思っていらっしゃる方がおられるかも知れません。それは大きな誤解です。澱粉主体の食生活ではあまりインスリンを必要としないのです。日本人は欧米人に比べてインスリンの分泌能力が低いことが知られています。だから少ないインスリンで生きながらえることができたのです。
 このようなインスリン分泌量の少ない日本人(他のアジア人も同じ)が欧米人のように糖質の少ない食事(=インスリンをたくさん必要とする食事)を摂り続けたらどうなるでしょう。糖尿病になってしまうのです。
 その証拠をお目にかけます。糖質の多い食餌を与えたラット(ネズミ)と糖質の少ない食餌(=タンパク質・脂肪の多い食餌)を与えたラットの膵臓からインスリンを分泌するランゲルハンス島を分離して取り出し、これをグルコースで刺激してインスリンの分泌量を測定しました(参考図)。糖質の少ない食餌(低糖質食=タンパク質・脂肪の多い食餌)を与えたラットでは明らかにインスリンの分泌が増えています。それに対して糖質の多い食餌を与えたラットではインスリンの分泌が低く抑えられています。



2005年05月17日
糖尿病 (3)なぜ、日本で糖尿病が増えているのか

 日本で糖尿病が増えています。日本だけではありません。東アジア、東南アジア、南大平洋の島々に住んでいる人たちに糖尿病が増えているのです。世界の糖尿病患者2億のうち1億2000万人がアジア人です。
 なぜ近年、アジア人に糖尿病が多発しているのでしょうか。1963年、ニール(J.V. NEAL)は倹約遺伝子説という面白い仮説を提唱しました。この仮説が最近になって激増するアジア人の糖尿病に援用されたのです。食事をすると血糖(血液のブドウ糖)が上昇します。血糖の上昇につれてインスリンが分泌されます。ニールは、倹約遺伝子(エネルギーをため込む遺伝子)を保有するものはインスリンを分泌する能力が大きく、腹いっぱい食える時期に多量のインスリンを分泌することによって脂肪を蓄え、次に襲いくる飢餓に備えたと考えたのです。
 ニールの倹約遺伝子説は、貧しいアジアでは頻発する飢饉に見舞われたために倹約遺伝子をもつものが選択されて生きのびたというのです。貧しいアジアが豊かになって口にするものが多くなると、かつては生存に有利に働いていた倹約遺伝子がアジア人の腹部に脂肪を貯え、高インスリン血症を起こし、やがてインスリンが枯渇して糖尿病を招くというのです。
 しかし、これは、多くのアジア・アフリカ諸国を植民地にしてきたヨーロッパ人の奢りの発想ですね。アジアはもともと豊かでした。まず降雨量が多い、地味が肥えている、穀物・果物・イモがふんだんに採れました。たしかに気候の変動で凶作の年もありました。しかし、穀物生産に適さない寒冷地帯のヨーロッパに比べたらずっと豊かでした。品種改良や化学肥料によって小麦生産が増えるまでのヨーロッパではひょろひょろした弱々しい草をヒツジやウシに食わせ、その肉や乳・乳製品を食する以外に生きる術(すべ)がなかったのです。倹約遺伝子仮説は欧米人の糖尿病を説明するには役立ちますが、アジア人の糖尿病にはあてはまりません。では、なぜアジアに糖尿病が激増しているのでしょうか。それは明日。

2005年05月18日
糖尿病 (4)糖質が少ない食事を摂り続けると体重が増えて糖尿病になるーその1

 糖尿病(1)-(3)で述べたことから「糖質摂取量の減少がアジア人の糖尿病激増の最大の要因である」という仮説を動物実験で検証しました。詳しくは私たちの論文(参考文献)を参照してください。
 40匹のラット(ネズミ)を2群に分け、一方に高糖質食を、他方に低糖質食を与えました。与えたエネルギー(カロリー)は等しくなるように調製しましたから、高糖質食=低脂肪食であり、低糖質食=高脂肪食です。この給餌方法で16ヵ月ネズミを飼育しました。仮に、ネズミの寿命を2年、人間は80年とすると、人間ではほぼ50年間の実験を行ったいうことになります。
 まず、体重の推移を見てみましょう(参考図)。カロリーは同じなのに低糖質食(高脂肪食)を与えたネズミの体重はだんだん増えて、全実験期間を通じて、常に低糖質食>高糖質食でした。ところが、低糖質食群の体重は60週(人間でいえば40-50歳)を過ぎるころから急激に減少し始めました。この頃から低糖質食を食べ続けたネズミにただならぬことが起こり始めたのです。


 摂取カロリーは同じであっても、低糖質食(高脂肪食)で体重が増えることがお分かりいただけたと思います。糖質が少ないとインスリンの分泌が増えるから肥ってしまうのです。皆さんは、インスリンはグルコースの刺激で分泌されるから、糖質が減ればインスリンの分泌が減る(=低インスリンダイエットの誤った理論)と思っておられるでしょう。違うのです。糖質が少なくなると、インスリンの働きが悪くなるから、ますます大量のインスリンを分泌するようになるのです。
参考文献
Wang Y, Wang PY, Qin LQ, Ganmaa D, Kaneko T, Xu J, Murata S, Kato R, Sato A. The development of diabetes mellitus in Wistar rats kept on a high-fat/low-carbohydrate diet for long period. Endocrine 22, 85-92, 2003.


2005年05月19日
糖尿病 (5)糖質が少ない食事を摂り続けると体重が増えて糖尿病になるーその2

 高糖質食(低脂肪食)と低糖質食(高脂肪食)で飼育したラット(ネズミ)のインスリン濃度を参考図に示します。空腹時のインスリン濃度は低糖質食を与え始めたときから増え続けましたが(高インスリン血症)、12ヵ月後から急激に減り始めました。高糖質食を与えたネズミでもこの頃から少し減っていますが(加齢に伴う変化)、低糖質食のネズミのインスリン濃度の低下は著しく急激で14ヵ月後には高糖質食を与えたネズミを下回るようになりました。あまりにも長期間にわたってインスリンを分泌しつづけたためにラットのインスリン分泌機能が疲弊してしまったのです。こういう状態が糖尿病です。


 昨日の記事の体重(前日の参考図)と本日のインスリン濃度(参考図)は似通った変化を示しています。人間でも肥っていた人が糖尿病になってまず最初に現われる変化は急激な体重の減少です。インスリンが分泌されているときは、体重を維持できますが、分泌が少なくなると食べても食べても痩せてしまうのです。
 最終的に、高糖質食で飼育したラット(17匹)で糖尿病になったのは4匹(23・5%)に過ぎませんが、低糖質食を与えたラットは18匹中15匹(83・3%)が糖尿病になりました。
 糖質の少ない食事を続けていると、まずインスリンに対する感受性が低下します(=インスリンの働きが悪くなる)。最初のうちはインスリンをたくさん分泌することによってやりくりしていますが(=高インスリン血症といい肥満を伴います)、さらにこのような食事を摂り続けると次第にインスリン分泌能が疲弊して、最終的に糖尿病になってしまうのです。


2005年05月21日
糖尿病 (6)糖質の多い食事にするとインスリンの分泌が減って太らない

 最近のアジア人は、欧米の栄養学に惑わされて、糖質(炭水化物)が少なく蛋白質や脂肪が多い食事を摂るようになりました。その結果、たくさんのインスリン分泌を必要とするようになってしまったのです。アジア人の身体はこのような食事に耐えられません。アジア人の身体が「もっと糖質が欲しい」と泣いています。「低インスリンダイエットあるいは低炭水化物ダイエット」というまやかしにご注意を!
 糖質の多い食事を摂っているとインスリンの効きめがよくなる実験例をお目にかけましょう(参考図)。ラット(ネズミ)に糖質の多い食餌と少ない食餌を3日間与えて、インスリンを尾静脈から注射して血糖値がどのように下がるかを観察しました(インスリン感受性試験といいます)。糖質の少ない食餌を与えたネズミではインスリンを注射する前から血糖が高くなっていることにご注目ください。


 インスリンを注射すると、糖質の多い食餌を与えていたネズミの血糖が急速に低下します。その低下は糖質の少ない食餌を与えていたネズミより急峻です。つまり、糖質の多い食餌を摂っていると同じ量のインスリンでより強い血糖降下作用が認められるのです。
 このことは私たちの新発見ではありません。今から70年も前にイギリスのヒムスワース(Himsworth)が人間で確かめています。インスリンを必要とする糖尿病患者(今では1型糖尿病と呼んでいます)は、糖質の多い食事を摂ると注射するインスリンが少なくて済むのです。1型糖尿病患者が最も恐れるのはインスリン注射後の低血糖発作です。糖質の多い食事を摂って、注射するインスリンが少なくなると恐い低血糖発作が起こらなくなります。残念なことに日本の糖尿病の専門家がこのことを知りません。インスリンが出ている糖尿病患者に経口糖尿病薬(インスリン分泌を刺激する)を服ませるのは半乾きの雑巾をさらに絞るに似て気の毒です。
 ヒムスワースの名前が出ましたので次回以降、彼の業績を紹介します。


2005年05月22日
糖尿病 (7)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその1

ヒムスワース(Sir Harold Himsworth、1905-1993年)はイギリスの偉大な医師・科学者です。今でも注目すべき糖尿病に関する多くの業績を挙げながら、現在の医学界では忘れ去られた存在となっています。彼はロンドン大学で医学を学び、ロンドン大学病院の医師として糖尿病の研究に従事しました。その後、ロンドン大学医学部の教授となり、1952年にはナイトの称号を授けられています。1949-1968年の長きにわたって英国医学研究協会(MRC)の会長を務めました。
 ヒムスワースが登場するまでの糖尿病の治療についてお話しておきます。インスリンが治療に初めて用いられたときには(1920年代)、インスリンは「極端な低糖質食」とともに与えられていました。しかしインスリンが広範囲に用いられるようになると、糖尿病の治療に食事中の糖質量を増やすことの利点が経験的に認められるようになりました。
 その当時、理論的には、糖質が増えればそれだけインスリンを増量する必要があると考えられていました。しかし、この考えは誤りであることが間もなく分かったのです。糖尿病患者に糖質の多い食事を与えてもインスリンの必要量は増えなかったからです。たとえば、糖質50グラム、脂肪115グラムの食事を摂っていた患者が糖質120グラム、脂肪76グラムの食事に切り替えても、一定の範囲に血糖を保つのに必要なインスリンの量は変わらなかったのです。
 「健康者に2回続けて等量の糖質を与えると、2回目の糖質による血糖の上昇は1回目の上昇に比べると小さい」という現象があります(参考図は私たちの実験結果です。それぞれの点は10人の平均値)。マクロード(Macleod:インスリン発見により1923年、バンテイング、ベストとともにノーベル賞を受賞した)は、この現象の説明として「1回目の糖質投与によってインスリン分泌細胞の感受性が高まり、分泌細胞が2回目の糖質による血糖上昇に速やかに反応して、多量のインスリンを分泌するからだ」と解説しました。インスリン発見者のマクロードはインスリンの分泌にこだわり過ぎたのです。みなさんは、もう「そんなことはない」ということがお解りでしょう。


 インスリンの最大の仕事は、食事によって増えた血糖(グルコース)を主として肝臓に取り込み、グルコースをグリコーゲン(動物デンプン)として肝臓に蓄えることです(もちろん筋肉にも取り込んでここにもグリコーゲンとして蓄えます)。また、余分のグルコースから脂肪を合成して身体のいろいろなところに保存していざというときに備えるのもインスリンの仕事です。これらの仕事の結果、血糖が低下するのです。インスリンによって血糖が下がるのはあくまで結果であって目的ではありません。多量の糖質を昔から摂り続けてきた日本人は少ないインスリンを効率よく利用して血糖をすばやく肝臓や筋肉に取り込む能力を身につけているのです。


2005年05月24日
糖尿病 (8)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその2
1)高糖質食によってインスリン感受性がよくなる
 ヒムスワースが登場するまでの糖尿病の研究はいずれも、膵臓におけるインスリン分泌を重視するものでした。ヒムスワースは、糖尿病をインスリンに対する個体の感受性という側面から研究・考察した初めての医師・研究者です。もし、高糖質食によって個体のインスリン感受性が高まる(=インスリンの働きがよくなる)とすれば、高糖質食によって糖尿病患者のインスリン必要量が減少するという現象を説明できると考えたのです。
 ヒムスワースは、まず、いろいろな食事を被験者に与えて耐糖能(血糖を処理する能力)を観察し、耐糖能が総エネルギーやタンパク質の摂取量とは関係なく、糖質あるいは脂肪の摂取量によって一意的に決まることを発見しました。ついで、総摂取エネルギーとタンパク質の含有量が同じで、糖質と脂肪の割合だけが異なる「低糖質/高脂肪食」あるいは「高糖質/低脂肪食」の耐糖能におよぼす影響を観察しました。その結果、「低糖質/高脂肪食」から「高糖質/低脂肪食」に変化するにつれて耐糖能が良くなったのです。
 参考図はある被験者の血糖曲線を示しています。赤色の曲線は、この被験者が1週間にわたって低糖質食を摂ったあとに糖負荷試験を受けたときの血糖の変化、緑色の曲線は高糖質食を1週間摂ったあとに糖負荷試験を受けたときのものです。これら2種類の食事の総エネルギーとタンパク質の摂取量は同じです。低糖質食を摂取した場合には耐糖能の著しい低下(糖負荷後の血糖値が高い)が見られます。一方、高糖質食では耐糖能が著しく増大(糖負荷後の血糖上昇が少ない)しています。1週間も糖質の多い食事を摂るとすごいですね。グルコース溶液を飲んでも血糖はほどんど上昇しません。


糖尿病 (9)糖尿病研究の先達ヒムスワースーその3
2)低糖質食/高脂肪食によって耐糖能が悪くなるのは低糖質が原因である

 ヒムスワースの実験で明らかとなった「低糖質/高脂肪食で耐糖能(身体が血糖を処理する能力)が悪化する」要因は3つにしぼられます。1)糖質摂取量が増えたから、2)脂肪摂取量が減ったから、3)糖質と脂肪の摂取量の割合が変わったから、です。そこで、ヒムスワースは糖質と脂肪の割合が異なる2系列の食事を用意しました。1つの系列は脂肪が糖質のほぼ2倍の低糖質/高脂肪食で、他の系列は糖質が脂肪のほぼ2倍の高糖質/低脂肪食です。これらの食事を食べさせてから糖負荷試験を行って耐糖能を観察したのです。
 耐糖能は、糖質と脂肪の割合が変わっても、糖質の減少とともに悪化し、糖質が増えると改善しました。さらに、糖質の含有量を一定にして、脂肪の含有量を増やすという第3系列の食事(当然、総エネルギーは脂肪が増えるにつれて多くなります)を与えて耐糖能を観察したところ、耐糖能はほとんど変化しませんせした。このことからヒムスワースは「糖質の摂取量が耐糖能の唯一の決定因子である」と結論したのです。
 これらのヒムスワースの研究によって、健康者の耐糖能は糖質の摂取量によって一意的に決まることが明らかになりました。一般に、1日の糖質摂取量が100g以下になると耐糖能が急速に悪化し、50g以下になると糖尿病型の範疇に入ってしまいます。しかし、糖質摂取量が50gから150gに増えると耐糖能が改善しました。
 糖尿病患者では糖負荷試験における高血糖とその持続が特徴です。糖尿病患者では糖質がうまく利用されないからです。


2005年05月25日
糖尿病 (10)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその4
高糖質食によってインスリン効きめがよくなる

 ヒムスワースはこの論文を発表する前に、耐糖能を改善するような食事(高糖質食)は身体のインスリン感受性を高め、耐糖能が悪化するような食事はインスリン感受性を低めるという内容の3編の論文をランセット(英国の有名な医学雑誌)などに発表しています(1932-1934年)。
 インスリンを注射すると当然血糖値が下がります。参考図にその1例を示します。高糖質食を摂っていたときの方が低糖質食を摂っていたときよりインスリンによって血糖値が早期にかつ速やかに低下しています。高糖質食を摂っているとインスリンに対する感受性が良くなるのです。


 ヒムスワースは、食事がインスリン感受性に与える影響をいろいろの食事を与えて調べました。糖質摂取量が増えるほど、インスリンに対する反応時間が短くなり(早くインスリンの効きめが現れる)、血糖の低下速度が大きくなり、インスリンによって低下する血糖の総量が大きくなりました。また、糖質による耐糖能の改善率とインスリン感受性の改善率には直線関係が認められました。
 インスリン投与量がある一定量(5単位)に達すると、血糖低下が始まる反応の素早やさと血糖低下速度も最大限度に達してしまいます。それ以上のインスリンを与えても低血糖の持続時間が延長するだけでした。5単位以下のインスリンでは、投与量を増やすと反応時間が短くなり、血糖の低下速度が加速されました。投与量が一定であれば、反応時間と低下速度は身体のインスリン感受性によって決まります。そしてこのインスリン感受性が糖質の摂取量によって一意的に決まるのです。
 糖の負荷によってもたらされる血糖上昇がインスリン分泌を刺激し、このインスリンの作用によって血糖が下がるというのが一般的な理解ですね。高糖質食によって耐糖能が良くなるのは、糖質の刺激によってインスリン分泌能が高まるからではなく、身体のインスリン感受性が良くなるために、少ないインスリンで効率よく血糖を体内(とくに肝臓)に取り込んで利用するからです。


2005年05月26日
糖尿病 (11)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその5
低糖質食によるインスリン感受性低下→インスリン過剰分泌→糖尿病

 糖質の摂取量が減るとインスリンに対する感受性が低下しますから、身体はインスリンの分泌を増やしてこの状態を克服しようとします。糖質の少ない食事は脂肪の多い食事ですから、増えたインスリンは食事中の脂肪を脂肪組織として蓄えるようになります(つまり肥満が起こります)。この状態が長く続くと、やがてインスリンを分泌する組織(膵臓のランゲルハンス島)が疲弊してインスリンの分泌が少なくなってしまいます。これが糖尿病の始まりです。インスリンの分泌が少なくなると、さすがの肥満者も痩せ始めます。
 糖尿病になってインスリンの分泌が少なくなった状態でなお糖質の少ない食事を続けていると、[インスリン分泌の低下]と[インスリン感受性の低下]が重なって糖尿病はさらに悪化します。糖質の摂取量が1日当たり50g以下になると、インスリン感受性は急速に低下し、糖尿病は急激に悪化します。糖質の摂取量が少ないと、少量分泌されるインスリンがその作用を十分発揮できないのです。
 反対に糖質の摂取量が増えると、少ないインスリンがその働きを最大限に発揮して糖質を有効に利用するようになります。糖質を1日50gに制限してインスリンで血糖のコントロールを行っているときに、糖質の摂取量を3-4倍にしてもインスリンの必要量は増えないどころか、かえって小量のインスリンで血糖のコントロールができるようになるのです(ヒムスワースの時代、インスリン療法におけるパラドックスと言われていました)。1日の糖質摂取量を50gから200gにするととくにインスリンの働きがよくなりました。
 糖質200gは800キロカロリーに相当します。コメのメシにして500-600g、メシ茶わんに軽く6杯(朝昼晩2杯づつ)というところでしょうか。
 ヒムスワースの「インスリン感受性の低下」は最近では「インスリン抵抗性」と言われていますのでご注意ください。「感受性の低下」=「抵抗性の増大」です。


2005年05月27日
糖尿病 (12)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその6
高糖質食によるインスリン感受性の改善は糖尿病患者でも起こる

 ヒムスワースと同時代のエリスは、インスリンを必要とする糖尿病患者にグルコースを与えると、血糖を正常範囲にとどめるのに必要なインスリン量が次第に減少することを見い出しました。この結果がすべての糖尿病患者に当てはまるかどうか判りませんが、高糖質食が糖尿病患者においてもインスリンの感受性の改善をもたらすことを示すものです。
 高糖質食は、糖尿病患者のインスリン分泌細胞を疲弊させるどころか、この細胞からわずかに分泌されているインスリンの働きを増大させるのです。糖質の摂取は、膵臓が分泌するインスリンを有効に活用することになり、身体が要求するインスリン量が減り、さらにはランゲルハンス島に対する負担を軽減することにもなるのです。
 重症の糖尿病患者が適切でない治療を受けていると意識を失ってしまうことがあります。これを糖尿病性昏睡といいます。血糖が1000mg/dlを超えているのに、糖質が利用できないのでエネルギー源として脂肪が使われるようになります。脂肪が燃焼する過程でケトン体が生成されて血液が酸性(ケトアシドーシス)になって起こるのが糖尿病性昏睡です。今では輸液(インスリン+カリウムの点滴)によって血糖を下げますが、ヒムスワースの時代にはインスリンの静注でした。
 糖尿病性昏睡に陥った患者に100単位のインスリンを与えても血糖値が下がらないことがあります。昏睡状態になるような糖尿病患者ではインスリンに対する感受性が低下している(=インスリン抵抗性が増大している)人が多いからです。このようなときにはインスリンと同時にグルコースを静注すると血糖が下がります。この治療法はヒムスワースが最初にランセットに報告しました(1932年)。なんと73年も前のことです。


2005年05月28日
糖尿病 (13)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその7
高糖質食によってなぜインスリン感受性が改善するのかは依然として謎

 今までの述べてきたヒムスワースの研究結果はいずれも、耐糖能と組織のインスリン感受性が食事によって左右されることを示すものです。ヒムスワースの前にも食事とインスリン感受性の関係を示唆する研究は報告されていましたが、糖質が組織のインスリン感受性を高めることによって耐糖能を改善することを見事に立証したのはヒムスワースをおいて他にいません。
 一連のヒムスワースの研究は、インスリン感受性の増大(インスリン抵抗性の減少)が摂取する糖質の増加という単一要因によってもたらされることを明らかにした点で真に重要です。現在では常識になっていますが、糖尿病と呼ばれる病態のなかには、インスリン分泌不全によるものと、インスリンに対する感受性の低下によるものがあるという仮説を初めて提案したのもヒムスワースでした。現代人に多い糖尿病は、インスリン分泌は量的に正常あるいはわずかに落ちている程度なのに、インスリン作用が低下することによって起こるものが圧倒的(95%)に多いからです(2型糖尿病)。ヒムスワースは70年も前にこの仮説を検証する臨床的研究を行っています。その慧眼に驚くばかりです。
 インスリン感受性(今は感受性の低下した状態に対してインスリン抵抗性という言葉を使います)の決定因子は現在に至るも依然として不明のままです。ヒムスワースは、他の論文で、インスリンの活性化因子を想定し、この活性化因子が高糖質食によって刺激されるという仮説を提案していますが、この活性化因子は依然として解明されていません。


2005年05月29日
糖尿病 (14)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその8
インスリン感受性の低下によって発生する糖尿病

 糖尿病の中には、インスリンの分泌不全が原因ではなく、インスリン感受性の低下(=インスリン抵抗性の増大)が原因となって起こる糖尿病が存在することを世界で初めて明確に指摘したのもヒムスワースでした(参考文献)。今ではもちろん常識となっていますが、当時は画期的な業績でした。
 この論文の骨子は、糖尿病にはインスリンの欠乏によって起こる糖尿病(現在の1型糖尿病)と、インスリンの欠乏ではなくインスリンに対する感受性の低下によって起こる糖尿病(2型糖尿病)の2種類の糖尿病があるというものです。
 ヒムスワースはインスリンとグルコースの同時負荷試験を糖尿病患者に用いていました。糖尿病患者にこの治療を行うと、血糖値が大きく低下するものとほとんど下がらないものがあったのです。「インスリン+グルコース」によって血糖値が下がるタイプを「インスリン感受性糖尿病」、下がらないタイプを「インスリン非感受性糖尿病」と呼びました。
 臨床的にみると、「インスリン感受性糖尿病」は、若年者に多い;痩せているものが多い;血圧は正常で動脈硬化も進んでいない;糖尿病は急激に発症する;適切な治療を受けないとケトン血症を起こしやすい;インスリンが適量を越えると低血糖発作を起こすという特徴がありました。一方、「インスリン非感受性糖尿病」は、中高年に多い;患者は太っていることが多い;病状は軽度で発症は緩やかである:高血圧と動脈硬化を伴っていることが多い;ケトン血症の発生は稀である;過剰のインスリンが与えられても低血糖発作を起こすことは少ないという特徴があると述べています。
 この分類は、1997年まで世界的に用いられていたインスリン依存性糖尿病(現在の1型糖尿病)とインスリン非依存性糖尿病(2型糖尿病)の分類に似ています。しかし、ヒムスワースの分類はあくまで彼が導入した「インスリン+グルコース」の同時負荷試験に対する反応性から糖尿病を2つに分類したのであって、必ずしも現在の1型と2型の分類に一致するわけではありません。
参考文献
Himsworth HP, Kerr RB. Insulin sensitive and insulin-insensitive types of diabetes mellitus. Clin Sci 1939; 4: 119-152.


2005年05月30日
糖尿病 (15)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその9
インスリン非感受性糖尿病でも糖質を制限してはならない

 ヒムスワースの「インスリン感受性糖尿病」と「インスリン非感受性糖尿病」の間では食事に対する反応が異なっていました。「インスリン感受性糖尿病」は糖質の多い食事に対して良好に反応しました。このタイプの糖尿病患者が高糖質食を摂ると、最初の2-3日は尿糖が現われるが、しかしその後速やかにこの状態は改善されました。一方、「インスリン非感受性糖尿病」では、糖尿病患者の高糖質食に対する反応はあまり芳しくありませんでした。尿糖が増え、空腹時血糖値が高くなり、耐糖能は改善されないし、インスリンに対する感受性も向上しませんでした。
 現在でも高インスリン血症にもかかわらず、耐糖能異常を示し、組織がインスリンに抵抗性を示す病態を「インスリン抵抗性糖尿病」ということがあります。大部分はインスリン拮抗物質(成長ホルモン、副腎皮質ホルモン、グルカゴン、カテコールアミン、甲状腺ホルモンなど)の過剰分泌や抗インスリン抗体の生成によるものです。インスリン非依存性糖尿病(2型糖尿病)の一部にこのような病態がみられます。ヒムスワースの「インスリン非感受性型糖尿病」はこれら病態を含んでいるものと思われます。
 現在では、大腸菌の遺伝子組み換え法で産生されたヒトインスリンが用いられていますが、ヒムスワースの時代にはブタインスリンが用いられていました。ブタインスリンはヒトインスリンと1つのアミノ酸が異なるだけですが、患者によっては抗インスリン抗体ができて、注射されたインスリンが効かなくなることがありました。ヒムスワースのいう「インスリン非感受性型糖尿病」の中には抗インスリン抗体によって「インスリン非感受性」となった糖尿病が含まれていたのでしょう。
 ヒムスワースは「インスリン非感受性型」の糖尿病患者の症状が高糖質食で改善されないからといって、糖質を制限すべきだといっているわけではありません。このヒムスワースの研究は今から66年も前になされたものですが、後で述べるように、糖尿病患者に高糖質食を勧めるかどうかに関しては現在でも議論が別れています。ある研究者は、そのような食事は尿糖を出現させ、空腹時血糖を高め、血糖コントロールがうまくいかないと言います。しかし、他の研究者は、高糖質食によって尿糖も出現しなくなるし、血糖も高くならないし、インスリン必要量はかえって少なくなると言います。ということは糖尿病という病気の本態が現在でも依然として未解決のままであるということです。
 糖尿病の患者が糖質の少ない食事を摂ると、まずいことが確実に起こります。消費すべき糖質がなくなるから、身体は内臓脂肪を分解してエネルギー源として用いることになります。そのときに必然的に生成される遊離脂肪酸がそうでなくても働きの鈍っているインスリンの作用を一層弱めてしまうのです。


2005年05月31日
糖尿病(16) 糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその10

糖尿病の発生要因(患者ー対照研究)<その1>糖尿病になる人は「脂肪好き」
 ヒムスワースの研究によって、糖質が耐糖能を左右する唯一の食事要因であり、健康人の耐糖能は食事中の糖質の絶対量によって決まることが明らかになりました。つまり、糖質の多い食事によってインスリンの効きめ(インスリン感受性)がよくなり、糖質の少ない食事によってインスリン感受性が低下することも明らかになったのです。したがって、糖質摂取量の少ない食生活はインスリンの相対的欠乏状態(=糖尿病)を招いてしまいます。
 このことから、ヒムスワースは「糖尿病は長期間にわたる糖質の少ない食生活が原因で起こる」という仮説を導きました。この仮説を検証するために、糖尿病患者の糖尿病発症前の食事を調べて、対照者(健康人)の食事と比較しました(参考文献)。これは非常に重要な研究ですので詳しく紹介することにします。
 ヒムスワースが調査対象とした糖尿病患者は143人です。これらの患者に対して糖尿病を発症する前の食事を調査したのです。
 糖尿病患者と年齢分布の一致する糖尿病でない2つのグループを対照群として採用しました。第1の対照群は131人からなり、その食事内容を「食品の好き嫌い」で把握しました(定性的方法)。137人からなるもう1つの対照群は、食事内容を「何をどの位食べるか」で把握しました(定量的方法)。
 今日は「定性的方法」の結果について記します。ヒムスワースは糖尿病患者と対照者それぞれの食品に対する平均的な好みを「普通」「脂肪好き」「糖質好き」の3群に分類しました。その結果、糖尿病患者が脂肪の多い食品を好む割合は対照者の2・25倍も多かったのです。同様に糖尿病患者には赤身の肉よりあぶら(脂)肉を好んで食べるものは対照群よりほぼ3倍多くみられました。その反面、糖質を好むものは患者群にくらべて対照群に多くみられました。ヒムスワースの結論は「脂肪好き」(糖質摂取量が少ない)は「糖質好き」(糖質摂取量が多い)よりも糖尿病になりやすいというものでした。
 ただ、注意すべきは、この手法は特殊な食品に対する好みを用いたものであって、他の食品の摂取量を無視しているということです。このような限界がありましたが、ヒムスワースはこの方法はある食品の好みから対象者の食生活を推定するという点で有効であったと述べています。
参考文献
Himsworth HP, Marshall EM. The diet of diabetics prior to the onset of the disease. Clin Sci 1935; 2: 95-115.


2005年06月01日
糖尿病(17)糖尿病研究の先達ヒムスワース ーその11
糖尿病の発生要因(患者ー対照研究)<その2>糖尿病になる人は脂肪摂取が多く糖質摂取が少ない

 ヒムスワースの「定量的方法」の目的は、個人の食品摂取量を量的に把握しようとするものでした。大きさと厚さの異なるパン、バター、ジャム、脂肉、赤身肉、ジャガイモ、果物、各種のプデイングなどの画像とスプーン、カップなどの計量器からそれぞれの食品の摂取量を推定しました。対象者に食品の画像を示しながら、朝食、昼食、夕食、あるいは間食として普段食べているものを挙げてもらい、その摂取量を記録したのです。この記録に基づいて、食品分析表から1日のタンパク質、脂肪、糖質の摂取量を算出しました。*
*この方法は現在の栄養調査でも採用されています。
 性、年齢に関係なく、糖尿病患者では対照群に比べて糖質摂取の割合が少なく、脂肪摂取の割合が多いことが判りました。一方、すべての性と年齢において、タンパク質の摂取割合には患者群と対照群の間で差が認められませんでした。すなわち、糖尿病患者は、この病気に罹る前に、低糖質かつ高脂肪の食事を摂っていたということになります。
 糖尿病になる人の食生活はそうでない人に比べてある特定の方向に偏位しているかも知れませんが、糖尿病がある特定の食習慣によって発生するのかという問には簡単には答えられません。糖尿病の発生原因は食事だけにあるのではなく、糖尿病の発生に遺伝が関与しているからです。ヒムスワースが対象にした糖尿病患者にも糖尿病の家族歴をもつものが30・0%いましたが、対照群のそれは1・5%でした。
 遺伝要因と食事要因が重なって糖尿病が発生するという考えは、現在の知識に照らして妥当です。しかし、遺伝的負荷のあるものはどんな食事をしていても結局糖尿病になるというわけではなく、また、負荷のないものはどんな食事をしていても糖尿病にならないということでもありません。あくまで遺伝と環境(食生活と運動)があいまって糖尿病が発症するのです。


2005年06月02日
アルコール (1)アルコールは脂肪である

 糖尿病について17回も書き続けましたから「飽き飽きした」とおっしゃる方もおられるでしょう。これからしばらく趣向を変えてお酒(アルコール)の話をします。後日、また糖尿病に戻ります。
 私は40代の始めにアルコールの飲み過ぎで糖尿病になりました。仕事(研究)がうまくいったと言っては飲み、失敗したと言っては飲んでいましたからいわば自業自得です。当時の私は、アルコールを飲むときに肉や魚をつまみましたが澱粉質(糖質)をほとんど口にしませんでした。
 アルコールは穀物や果物の中の糖類を微生物の力を借りて作られます(発酵)。発酵酒(日本酒、ビール、ワインなど)は多少の糖質を含んでいますが、蒸留酒(焼酎、ウィスキー、ブランデーなど)は糖質を全く含んでいません。アルコールが体内に入りますと、そのほとんどが酢酸に分解されます(最終的には炭酸ガスと水まで分解されます)。酢酸は最短鎖脂肪酸ですから、アルコールは本質的に脂肪です。アメリカ糖尿病学会も1995年から「アルコールのカロリーは脂肪として計算せよ」と言うようになりました。
 日本酒を例にとりますと、コメの中の糖質が脂肪に変わってしまっていますから、飲酒で不足するのはコメの澱粉(糖質)です。だから、日本酒には焼きにぎり、ビールにはパン、ワインには干しぶどうが最高のおつまみです。
 参考図はアルコール飲料の組成を示しています。日本酒・ビール・ワインなどの醸造酒は糖質ばかりでなく蛋白質も含んでいます。それに比べると、焼酎・ウィスキー・ブランデーなどの蒸留酒は糖質や蛋白質を全く含んでいま
せん。


 皆さんは、アルコールをたっぷり召し上がったあとにお茶漬けやラーメンなどを欲しいと思われたことがありませんか。ありますよね。お酒を飲むと身体が糖質を要求するのです。


2005年06月03日
急告:国内19頭目の狂牛病(BSE)も乳牛
国内19頭目の狂牛病(BSE)も乳牛ホルスタイン

 厚生労働省の狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)の専門家会議は6月2日、北海道別海町の乳 牛1頭を国内19頭目の狂牛病と確定診断しました。この乳牛は1996年春生れの9歳のホルスタイン牛です。
 肉や内臓などは焼却処分されるため市場には出回らないということですが、この牛から搾っていた牛乳(年間おそらく6000リットル)はどうなったのでしょうか。牛乳としてすでに飲まれたり、バターやチーズなどに加工されてしまったのでしょうね。
 狂牛病をめぐる一連の事件は妊娠中の乳牛から脂肪分の多い牛乳を搾るために「草食動物たる牛に牛(肉骨粉)を食わせる」という反自然的な人間の営為によって引き起こされました。
80-96年の英国滞在者6月1日から献血禁止
 厚生労働省の血液事業部会運営委員会は、変異型のクロイツフェルト・ヤコプ病(CJD)対策として、1980-96年に英国に1日以上滞在した人の献血を禁止することを決めました。
 日赤は、献血前の問診票に英国滞在歴を尋ねる項目を追加し、該当者の献血をお断りすることになります。
 2004年12月に死亡した50歳代の男性が、狂牛病が人に感染して起きる「変異型クロイツフェルト・ヤコプ病」であったことが今年の2月4日に確認されたからです。この男性は、英国で狂牛病が流行していた1989年に1ヵ月滞在していて、この英国滞在中に感染した可能性が高いとされています。英国では今までに約150例の変異型クロイツフェルト・ヤコプ病が発生していますが、うち2例は輸血によって感染したといわれています。血液にもこの病気の原因であるプリオンが存在するのですね。とすれば狂牛病の牛が産生する牛乳にプリオンはないのでしょうか。今までのところ「あった」とする報告はないようですが・・・闇の中です。
アルコール (2)横山大観終生愛飲の酒
 「生々流転」などの絵画で有名な横山大観(1868-1958)は大の酒好きでした。毎日3升の酒を飲んだと言われています。
 晩年、病に伏した大観は、薬や水さえうけつけないときでも、日本酒だけは手放さなかったということです。毎日1升を超える酒を飲みながら90歳まで絵筆を振るうことができたのは、飲んだアルコール飲料が日本酒だったからです。
 日本酒は100グラム当たり4・5グラムの糖質と0・4グラムの蛋白質を含んでいます(前日の参考図)。日本酒を1合(180ml)飲めば、8グラムの糖質と0・7グラムの蛋白質を摂ることができます。大観の愛飲したアルコール飲料が焼酎・ウィスキーなどの蒸留酒であったら、90歳まで健筆を振るうなどということはできなかったでしょう。
 日本酒は少なからぬ糖質を含んでいるという点で身体に優しいアルコール飲料です。日本酒の不幸は旨すぎることとアルコール濃度が高いことにあります。日本酒の水割り・お湯割りなんてのはとても飲めませんものね。最近、「糖質70%カット」を売り物にしているビール会社があります、バカな会社ですね。

2005年06月04日
アルコール(3) お酒にまつわる誤解

今でも、「お酒を飲むときにはご飯(澱粉)を減らしなさい」とか、「糖尿病には焼酎・ウィスキー・ブランデーなどの蒸留酒はいいが、日本酒は糖質を含むからダメだ」などととんでもないことをおっしゃるお医者や栄養士さんがいらっしゃいます。
 この誤った風説がゆきわたっているためか、飲酒者では糖質の摂取量が少ないのです。この俗説は、アルコールが糖質と同質のエネルギー源であると誤って考えられているからです。アルコール(1)に書きましたように、アルコールは糖質ではなく脂肪なんですよ!
 N県のN市周辺に住んでいる健康な成人男性2165人について飲酒と食品摂取状況の関係を調べてみました(参考文献)。飲酒の食品摂取に対する影響をみると、飲酒量の増加に伴って穀類、芋類、菓子類、砂糖類などが減少し、肉類の摂取量が増えました。とくに飲酒量が増えるにしたがって著しく減ったのは穀類でした。栄養素でみると一番減少したのは糖質でした。酒呑みは酒を飲むときにさしみやあぶったスルメをつまみに食べるんですね。
 このように、飲酒者では、飲酒量の増加に伴って糖質源の食品(とくに穀類)の摂取が減少します。「お酒を飲むときにはご飯(澱粉)を減らしなさい」は単なる風説ではなく、飲酒者はこれを忠実に守っているのです。アルコールは穀類や果物の糖質から作られるので「アルコール=糖質」と誤解しているからです。
 アルコールを飲むときに糖質の摂取量が少ないとどうなるか。アルコール性肝障害を起こしてしまうのです。
参考文献
Nakajima T, Ohta S, Fujita H, Murayama N, Sato A. Carbohydrate-related regulation of the ethanol-induced increase in serum γ-glutamyl tramspeptidase activity in adult men. American Journal of Clinical Nutrition 1994; 60: 87-92.

2005年06月05日
アルコール (4)飲酒時に糖質の摂取が少ないと肝臓が悪くなる

 昨日のアルコール(3)で述べた調査研究で、アルコールを飲む人で糖質の摂取量の少ない人ではγ-GTP(アルコール性肝障害の指標)が高くなることが分かりました。すなわち、糖質を摂らないでお酒をたくさん飲む人は肝機能が悪くなるのです。
 アメリカのリーバー(Lieber)という有名なアルコール研究者が動物実験用にアルコールを含む液体食を開発しました。これはアルコール(エチルアルコールですから単にエタノールともいいます)を35%含む液体食ですが、アルコールを加える際に等カロリーの糖質を減らしていますから、実体は「極端な低糖質食+アルコール」です(参考図の「低糖質食+エタノール」がLieber食)。リーバーは、蛋白質とビタミン・ミネラルをたっぷり含んでいることから、この液体食を「栄養学的に十分な組成をもつ液体食」と呼びましたが、重要な糖質が極端に不足していますから(11%)、栄養学的に十分などといえる代物ではありません。


 「標準食」(蛋白質18%、脂肪35%、糖質47%)、「低糖質食+エタノール」(蛋白質18%、脂肪35%、糖質11%、エタノール35%)、「低脂肪食+エタノール」(蛋白質18%、脂肪0%、糖質47%、エタノール35%)の3種類の液体食でラット(ネズミ)を4週間飼育しました(参考図)。その結果がどうなったか明日の記事をご覧ください。因みに 糖質47%というのは1960年代のアメリカ人の糖質摂取量です。


2005年06月06日
アルコール (5)
1)飲酒時に糖質の摂取が少ないと脂肪肝が起こる

 3群のラット(ネズミ)に前日の参考図の3種類の液体食(「標準食」「低糖質食+エタノール」「低脂肪食+エタノール」)を4週間与えました。これらの液体食はそれぞれが等カロリーになるように調整されています。エタノール食のエタノール濃度はほぼ5%です。ラットは賢いですね。かれらはエタノールという脂肪にさらに脂肪を加えたような「低糖質食+エタノール」を好みませんが、「標準食」と同様に「低脂肪食+エタノール」を好んで飲みます。
 ネズミの体内に入るエネルギーやエタノール量が異なっては実験が成り立ちませんから、最も摂取量の少ない「低糖質食+エタノール」に合わせて等量の「標準食」と「低脂肪食+エタノール」を与えるという方法(pair−feeding)を採用しました。
 4週間後にネズミの肝臓を取り出して調べました。その一部をご紹介します。本日の参考図は肝臓の組織学的変化です。この図で[-]は変化なし、[1+]は脂肪変性が起こっている(肝細胞にの小さな脂肪滴が散在する)、[2+]は肝細胞に大きな脂肪滴がたまっている(脂肪肝)ということを示しています。


 エタノールを飲まなかったネズミでも10匹中1匹に[1+]がありましたが、あとはすべて[-]でした。糖質の多い液体食と一緒にエタノールを飲んだ「低脂肪食+エタノール」のネズミでは10匹中7匹が[-]で、2匹が[1+]、[2+]は1匹だけでした。これに対して「低糖質食+エタノール」のネズミは10匹中5匹が[2+]で、3匹が[1+]、[-]は2匹だけでした。糖質の少ない食餌とともにエタノールを飲むと肝臓に大きな障害をもたらすことがお分かりいただけるでしょう。
2)高糖質食はアルコール性肝障害を予防する
 アルコール性肝障害は脂質過酸化によって始まります。次ぎの参考図のMDAは脂質過酸化の指標です。糖質の多い食餌(=脂肪の少ない食餌)と一緒にアルコールを飲ませたときの脂質過酸化はほとんど問題になりませんが、糖質の少ない食餌(=脂肪の多い食餌)と一緒に飲んだアルコールは著しい脂質過酸化を起こしています。


参考文献
Tsukada H, Wang PY, Kaneko T, Wang Y, Nakano M, Sato A. Dietary carbohydrate intake plays an important role in preventing alcoholic fatty liver in the rat. Journal of Hepatology 1998; 29: 715-724.


2005年06月07日
急告:国内20頭目の狂牛病(BSE)も乳牛ホルスタイン
国内20頭目の狂牛病(BSE)も乳牛ホルスタイン

 厚生労働省の狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)の専門家会議は6月6日、北海道の乳牛1頭を国内20頭の狂牛病と確定診断しました。北海道鹿追町で飼育されていた4歳の雌のホルスタインです。これで日本で発生した狂牛病の牛はすべて乳用種のホルスタイン牛ということになります。
 このホルスタイン牛の出生時期は、感染源の恐れがあるとして肉骨粉の飼料使用が禁止された2001年より前の2000年8月ということです。
 例によって、厚労省は「肉や内臓などは焼却処分されるため市場には出回らない」と発表しています。しかし、この乳牛から搾った牛乳はどうなったのかということについて、厚生労働省も内閣府食品安全委員会も一切言及していません。
アルコール (6)アルコールの分解
 ここでは「アルコール」=「エチルアルコール」=「エタノール」のことですのでお間違いのにようにお願いします。
 肝臓は一大製造工場ともいうべき体内の最大臓器です。グリコーゲンの合成・貯蔵・分解や血漿蛋白の合成などのほか、化学物質の解毒(分解)を一手に引きうけています。
 化学物質の分解をつかさどるのはチトクロムP-450(以下簡単のためにP-450と呼びます)という一連の酵素群です。P-450がありとあらゆる有機の化学物質を分解してその分解産物を尿中に排泄しています。
 アルコールも肝臓で分解されます。飲んだアルコール量が少ないときはアルコール脱水素酵素という酵素で分解されますが、大量のアルコールを飲んだときはP-450がアルコールを分解します。P-450が化学物質を分解するときには分子状の酸素が使われます。酸素が電子を受け入れて活性酸素となり化学物質を酸化するのですが、このとき余った活性酸素が肝臓の細胞を傷つけるのです(脂質過酸化)。
 アルコールはアルコール脱水素酵素あるいはP-450によってまずアセトアルデヒドに分解されます。アセトアルデヒドはさらにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に分解されます。このアセトアルデヒドもアルコール性肝障害に関与しています。
 日本人には遺伝的にお酒が全く飲めない人(ALDHの活性がない)やお酒を飲むと顔が赤くなる人(ALDHの活性が低い)がいます。こういう人たちは分解されないアセトアルデヒドが血管を拡張したり心拍数を多くしたり頭を痛くするのです。ALDHの活性が高い欧米人は「お酒を飲んで顔が赤くなる」日本人を見てびっくりします。
アルコール (7)「低糖質食+アルコール」はP-450を誘導する
 大量のアルコールを飲むとP-450が活性化します(酵素の量が増えたり活性が大きくなることを酵素誘導といいます)。実は糖質の少ない食餌だけでもP-450が活性化するのですが、「アルコール+低糖質食」によるP-450の活性化は「アルコールによる亢進」と「低糖質食による亢進」の単なる足し算ではなく、両者が相乗的に作用して極めて強い活性化が起こります(参考図)。

 「低糖質食+アルコール」が激しいアルコール性肝障害を起こすのは、この誘導されたP-450によってアルコールが分解されるからです。


2005年07月08日
 6月8日から7月7日までの1ヶ月間、別の主題で書いておりましたので、今日からまた食事に話を戻します。
子どもを日本人に育てる−食育(1)誕生祝いはケーキ
 今はどこの家庭でも子どもの誕生日をケーキで祝いますね。昔は赤飯に尾頭付き(尾も頭もついた魚の意)が最高の祝い膳でした。鯛の尾頭付きは高価で普通の家庭では手が届かなかったから、切り身の魚の煮付けで祝う家庭が多かったでしょうが。
 誕生日には名前の描かれたチョコレート板付きのデコレーション・ケーキが用意され、Happy birthday to you, dear ○○ちゃん.などと囃し立てます。子どもは年の数だけ立てられたローソクの火を吹き消し、父親がケーキを切り分けて銘々皿に配る。今やこれが一般家庭の誕生祝いの定番だそうですね。
 昭和20(1945)年生れの連れ合いも小学生にして家庭で「誕生日はケーキ」が決まり事だったといいますから、何をか言わんや。日本で誕生を祝うなら赤飯にしなさい、牡丹餅(ぼたもち)御萩(おはぎ)でもいいだろう、などと言ったところですでに詮無いことなのですね。もう止められません。誕生日は特別な日(ハレの日)ですから、ケーキもアイスクリームもチョコレートも一向に構いません。戦後の学校教育で日本人がバタ臭い味に慣れてしまい、その感覚が日常茶飯にまで及んでしまいました。


2005年07月09日
子どもを日本人に育てる−食育(2)クリスマスにはケーキ

 クリスマスはキリストの降誕(12月25日)を祝う西洋のお祭りです。日本の多くの家庭では24日の宵にクリスマス・イブと称して前夜祭を行うようです。クリスマス・ツリーを飾り、クリスマス・ケーキ(デコレーションケーキ)・ターキーならぬニワトリのもも焼きを食べ、クリスマス・プレゼントを子どもに買い与えます。
 日本では古来、この季節にはカボチャ(冬至南瓜)か冬至粥(小豆粥)を食べたものでした。西洋のクリスマスだって、もとをただせば、冬至の祭り(太陽の新生を祝う)がキリスト教化したものです。
 戦後、多数のキリスト教宣教師がやって来て日本人をキリスト教徒にしようと躍起になりましたが、日本にキリスト教が根付くことはありませんでした。お隣りの韓国では4人に1人がキリスト教徒で、韓国はフィリピンに次ぐアジア第2のキリスト教国です。しかし、日本のキリスト教徒は人口の1%にもなりません(90万人ぐらい)。日本人ほど「唯一絶対」と縁の薄い国民はいませんね。唯一だとか絶対というのはなんとなく胡散(うさん)臭いですからね。もっとも1905年(日露戦争)から40年ほどは狂った専制国家でしたし、最近の新興宗教には「絶対」を旗印にするものもありますが。
 日本人は決して無信心ではありませんが、宗教という大思想を受け入れる体質にはなっていないようです。仏教のほとんどは葬式仏教あるいはご利益(りやく)祈願の対象になってしまいました。中国伝来の儒教も日本人の皮膜には達しても血肉になることはありませんでした。キリスト教もまた然りです。
 それでも日本人は外国(欧米)の習俗は奇妙にも日本式に取り入れるんですね。クリスマスなんてのはその典型です。たとえ異国の習俗であれ、ハレの日にはデコレーションケーキもいいでしょう。敗戦後の昭和20年代、日本人は老いも若きもバタ臭いもの(欧米の文化)に強烈な憧れを抱いていました。


2005年07月10日
子どもを日本人に育てる−食育(3)パンとミルクの学校給食

 昭和29(1954)年に学校給食法が制定され、「パン+ミルク+おかず」が児童・生徒の昼食となりました。米の増産が続いている最中に、なぜ、ご飯とみそ汁でなく、パンとミルクになったのでしょうか。アメリカと日本政府はなんとかして日本人を牛乳(ミルク)を飲む民族にしたかったのです。農林省は農業の多角化(畜産と酪農)を強力に押し進めていましたから、「ご飯とミルクは合わない。パンにすれば自然とミルクを飲むようになる」と考えたのです。結局、「牛乳は完全栄養食品」などと言って国民を欺いてきました。
 前にも書きましたが、牛乳は子ウシにとって完全栄養食品ですが、日本人には害こそあれ益は全くありません。牛乳は子ウシの飲み物であって人間の飲み物ではないからです。母乳は100ml当たり27mgのカルシウムしか含んでいないのに、牛乳は母乳の3倍以上の100mgものカルシウムを含んでいます。しかも、学校給食導入時の酪農はすでに妊娠牛からミルクを搾る技術を確立していましたから、学校給食に出された牛乳は女性ホルモンをたっぷり含んでいました。
 私の子どもの頃には「パンは残してもミルクは残すな」「牛乳を飲み了わるまで外に遊びに出てはいけない」と先生に叱咤され、べそをかきながら牛乳瓶と格闘している同級生もいました。それでも「ミルクを飲めば、身体が丈夫になる、大きくなる」という言葉に騙され励まされ、子どもの舌はミルクの匂い(バター・クリームの香り)に慣れていったのです。もう一度年齢別の乳・乳製品の消費量を掲げておきます(参考図)。14歳以下の子どもの乳・乳製品の消費量が突出していることがお分かりいただけるでしょう。




2005年07月11日
子どもを日本人に育てる−食育(4)牛乳を飲むと肥る

 欧米の栄養学(タンパク質栄養学・ビタミン栄養学)に基づく学校給食は日本人の食品嗜好に大きな変化を与えました。何にも増して日本人のバターの香りに対する慣れに大きな役割を果たした食品はアイスクリーム、クリームたっぷりのショートケーキやデコレーションケーキでした。なかでも、アイスクリームが止(とど)めを刺しました。牛乳の臭いが嫌だという人でも、あの口の中でとろける滑らかな舌触りと芳香を嫌いだという人は少ないでしょう。
 牛乳を静置すると、乳脂肪が浮き上がって白い層ができますね。あれがクリームです(最近のミルクはホモジナイズされているので、放っておいただけではクリームは分離しません。遠心すればクリームが採れます)。クリームは水に溶けた脂肪のことです(女性が顔に塗るクリームも油を水に溶かしたものです)。ミルククリームを12-15度で強く撹拌して分離してくる脂肪塊がバターです。
 クリームをベースに、全粉乳、脱脂粉乳、練乳などの乳固形分を加え、香りと甘みをつけて冷却したのが市販のアイスクリームです。アイスクリームは子どもが好む氷菓子に過ぎませんでしたが、1970年代にレデイー・ボーデンという高級アイスクリームが売り出されてから、大人も食べるようになりました。かくして、大多数の日本人はクリームの香りと舌触りに慣れたのです。クリームやバターが料理や菓子づくりに用いられるようになり、洋風の味と香りが一般家庭にまで入り込み、アメリカの占領政策は完成しました。
 ミルク、クリーム、バターなどの洋風食品は高脂肪食品です。脂肪の含有量をカロリー比でみると、ミルク51%、クリーム95%、バター98%です。あの甘いアイスクリームでも40%の脂肪を含んでいます。脂肪を摂り過ぎると余分な脂肪は脂肪組織に直行します。もちろん、糖質も過ぎれば脂肪になりますが。糖質が脂肪になるにはエネルギーを消費します。したがって、等カロリーの食品であれば、高脂肪食は肥満を誘発すします(5月18日の記事をご覧ください。この日の参考図はカロリーは同じでも高脂肪食が肥満を招くという実験結果を示しています)。よく、砂糖は肥満の大敵であると勘違いしている人がいますが。砂糖1グラムは4キロカロリーなのに、バター1グラムは9キロカロリーです。


2005年07月13日
子どもを日本人に育てる−食育(5)ご飯を食べても肥らない
 昨日、ある読者の方から「・・・朝食をパン食にしました。1ヵ月過ぎて体が重い気がして体重を計ったらなんと2キロも増えていてびっくり。ご飯食に戻したら3ヵ月後元に戻っていました」というコメントをいただきました。
 1杯のご飯(100グラム)と6枚切り1枚のパン(60グラム)はともに160キロカロリーです。ご飯はコメに水を加えて炊いたものですが、パンをつくるにはバターを使います。1杯のご飯に含まれる脂肪は0・3グラム(カロリー比1・7%)に過ぎませんがが、1枚のパンは2・64グラム(同15%)の脂肪をんでいます(パンに関しては3月22日の「パンにバターと牛乳という朝食」をご覧ください)。
 ご飯の水分は60%もあるのに、パンには38%の水分しかありません。パンはパサパサしていて、ミルクと一緒に流し込まなければ喉を通りません。ミルクは脂肪分50%強の高脂肪食品です。パンに5グラム程度のバターを塗れば、これはもう立派な洋風ブレックファストです。「パン2枚+ミルク200ミリリットル+バター5グラム」の朝食は489キロカロリー、タンパク質17・8グラム(カロリー比14・6%)、脂肪17・0グラム(同31・3%)、糖質66・1グラム(同54・1%)となります(参考図)。


 一方、「軽く2杯のご飯(200グラム)+豆腐とネギの味噌汁+きうりとなすのぬか漬け+1尾のいわしの丸干し(40グラム)」という純日本風の朝食は486キロカリー、タンパク質18・0グラム(カロリー比14・8%)、脂肪4・6グラム(同8・5%)、糖質93・2グラム(同76・7%)です。日本食には、糖質が多く脂肪が少ないという特徴があります。「パン食」は肥りますが、「ご飯食」は肥らないのです。
 足腰あくまで太く二の腕のたるんでいる中高年女性をみたら「この人の朝食はパン、間食はケーキ・クッキー」と考えてまず間違いありません。
子どもを日本人に育てる−食育(6)おやつはおにぎり
 子どもは活発に動き回りますから、午後2-3時ごろ(八つ)にはお腹が空きます。お腹が空くとグッタリして元気がなくなってしまいます。ブドウ糖(グルコース)を唯一のエネルギー源とする脳の働きが悪くなるからです。だから、糖質の多いおやつを与えると、元気のない子どもが活発になります。
 小学生のころ、学校から帰ると食卓に1-2個の塩にぎりが鎮座ましましていました。子どもの頃はこれを「塩むすび」と呼んでいました。母親が手に塩をつけて、朝ご飯の残りをにぎったものです。おにぎりは素晴らしいのおやつ(脳にエネルギーを送るための食べもの)です。小さなおむすび1つ(100グラム)は37グラムほどの糖質を含んでいます。一時的に脳にグルコースを供給するのに十分なおやつです。
 最近の子どもは、おやつにアイスクリーム、ケーキ、クッキーなどの洋菓子を好んで食べます。洋菓子は大切な糖質が少ないうえに脂肪が多いという特徴があります。30グラムのミルクチョコレートは170キロカロリーで、タンパク質2・2グラム(カロリー比5・3%)、脂肪10・2グラム(同54・9%)、糖質16・6グラム(同39・8%)を含んでいます。ミルクチョコレートは大変な高脂肪・低糖質食品です。おやつとして最も大切な糖質は1個のおむすびの半分もありません。
 和菓子の代表として練り羊羹、洋菓子の代表としてショートケーキを取り上げてみましょう。練り羊羹の50グラムはほぼ150キロカロリーで、1・8グラムのタンパク(カロリー比4・9%)、0・1グラムの脂肪(同0・6%)、35グラムの糖質(同94・6%)を含んでいます。一方、ショートケーキ50グラムは172キロカロリーで、3・7グラムのタンパク(カロリー比8・6%)、7グラムの脂肪(同36・6%)、23・6グラムの糖質(同54・9%)を含んでいます。和菓子は、子どもの脳の働きに必要な糖質が洋菓子に比べて圧倒的に多いのです(参考図)。


 つまり、おやつとしては糖質の多い和菓子の練り羊羹(糖質35グラム)は洋菓子のショートケーキ(同7グラム)に勝るのです。それでもおにぎりにまさるおやつはありません。
 それにしても店頭販売のおにぎりの不味いこと。あれは、日持ちをよくするためにメシ全体に塩をまぶしたか、塩を入れて炊いたものを機械で握ったものですね。手のひらに塩を振ってにぎったおにぎりは表面にだけ塩味がしてえも言われぬ美味しさです。


2005年07月14日
子どもを日本人に育てる−食育(7)おやつはおにぎり(つづき)

 マラソン選手は途中で給水びんに手を伸ばしますね。走行前半のボトルには水かスポーツドリンクが入っていますが、後半のボトルには砂糖、ジュース、蜂みつなどの甘いものが入っています。脚の筋肉にエネルギーを送るためではありません。脳にグルコースを送って、思考力、判断力、闘争心を維持するためです。つまり、あのボトルに入って甘い液体はマラソン選手のおやつです。
 やや大きめの蒸しジャガイモ1つ(180グラム)は150キロカロリーで、タンパク2・7グラム(カロリー比7・1%)、脂肪0・2グラム(同1・1%)、糖質35・5グラム(同93・8%)でおやつとして優れた食品です。
 ジャガイモを薄切りにして油で揚げたポテトチップス(1袋75グラム)はおやつに必須の糖質を40・7グラム(カロリー比38・9%)含んでいますが、418キロカロリーもあります。1袋のポテトチップスのタンパクは4・1グラム(カロリー比3・9%)ですが、脂肪が26・6グラム(同57・3%)も含まれています。極め付きの高カロリー・高脂肪食品です。ジャガイモの水分を油で置き換えたのがポテトチップスです。世のお母さん方、あなたの子どもにこのような食品をおやつとして買い与えてはいけませんね。
お願い
 あなたがまだ牛乳をお飲みになっていらっしゃったら、お求めの際に「これは妊娠した牛から搾った牛乳ですか」とお訊ねになってください。企業には情報を公開する義務があります。妊娠している牛から搾った牛乳なんて気持ちが悪いですね。牛乳パックに「妊娠牛から搾乳」と表示することは企業の責任です。

2005年07月15日
子どもを日本人に育てる−食育(8)摂食障害その1

 テレビ画面で見映えよく見えるアイドルと言われる女性を間近で見ると、腕も脚も胴も病的に細いことをご存知ですか。困ったことにテレビのブラウン管を通すとあの極細の身体が結構きれいに見えるのです。身長160センチの女性に理想の体重を訊ねると40キロだといいます。160センチで40キロの女性は病的な痩せ(BMI[Body Mass Index]* =15.6)です。このような状態を羸痩(るいそう=疲れやせること。衰えやせること。内分泌障害・脳疾患などにより脂肪組織が消失して極度にやせること[広辞苑])といいます。身長160センチの女性の体重は少なくとも55キロが望ましい(BMI=21・5)のですが、若い女性は一様に「イヤだ、かっこわるい」と言います。
*BMI(ボディー・マス・インデックス、ビーエムアイと発音することもあります):キログラムで表した体重をメートルで表した身長で2回割った数値。身長160センチで55キロなら、55ヨ1・6ヨ1・6で、BMI=21・48となります。標準は22。
 若い女性に「デブ」はもちろん「太い」や「肥満」は禁句です。周囲の何気ない一言によって体重に過敏になります。子どもの頃、男の子は「デブ、デブ、百貫デブ」などと普通の女の子をからかいました。「好きだ」と素直に表現できない男の子のてらいですね。
 客観的には痩せているのに、体重が増えることに対して強い恐怖感を抱く人たちがいます。圧倒的に若い女性に多いのが特徴です。この人たちはまず食事制限(ダイエット)を試みます。しかし、ダイエットは辛いし効果もありません。「食べても吐けば太らない」と聞いて、食べては吐き、吐いては食べるようになります。摂食障害です。食べるときは半端ではありません、無茶食いをします(過食症)。食べものを買う金がなくなれば万引きにも走ります。吐くときは、喉に指を入れ舌根を押さえて吐きます。ときには食べたものを強制排泄するために、下剤を使い、さらには浣腸する人もいます。


2005年07月16日
子どもを日本人に育てる−食育(9)摂食障害その2

 竹村道夫氏は「摂食障害の基礎知識」(http://www2.gunmanet.or.jp/Akagi-kohgen-HP/ED.htm)において摂食障害の発症に関してつぎのように述べています。「家庭的問題や人生上の困難にもめげず、努力によってある程度の成果を勝ちとってきていた十代の少女が、あるちょっとした挫折を体験します。少女は自分の能力や容姿へのこだわりを持つようになり、その解決努力をするうちに、体重が減少します。スリムな体を維持しようとして次第に食習慣が異常になります。それに対応して身体症状や様々な合併症状も出現します。またこのような状況では、極めて体重増加を起こしやすいので、少女はますます肥満の恐怖に捕らわれるようになります。人によっては、拒食から過食・嘔吐サイクルに入ります。いずれにしても、無理なダイエットは失敗に終わり、患者は混乱状態から無力感に陥ります。患者はますます厳しく食事をコントロールしようとして悪循環になります。また、この病気を知らない家族はしばしば「世界には、飢えている人もいるのに」というような道徳的説教をしたり、患者の行動を「わがまま」と決めつけたり、ときには脅したり、強制的に食べさせようとしたりして、事態を一層悪化させます」
 また、竹村氏によると「日本の摂食障害の推定(受療)患者数は、1993年、人口10万人対4・9人から、98年、18・5人と急増しています(厚生省研究班)。日本では、テレビが普及してきた1960年代に摂食障害が、コンビニエンス・ストアーが増えてきた75年以降に過食症が増えてきた」ということです。


2005年07月17日
子どもを日本人に育てる−食育(10)摂食障害(3)

 摂食障害に陥った女性は精神科医や心療内科医を訪れます。医師の関心は「どうのように食べたか」にあり「何を食べたか」にはありません。思春期になると、女性の身体は丸みをおびて(脂肪がついて)月経が始まります。性ホルモンの分泌が加速するこの時期には何を食べても太るものですがが、脂肪の多い洋菓子や洋風料理は身体に一層の脂肪をつけることになります。最近のバタ臭い食品(乳製品を使った洋菓子や洋風料理)は、間接的に、摂食障害を誘発します。
 15歳以下(思春期あるいは前思春期)の子どもの食生活は心身の発達とその後の人生に極めて大きな影響を与えることはご存知ですよね。お母さん方、子どもにバタ臭い食品を与えないでください。「喉が乾いたら水の替わりにミルクを飲みなさい」などと無茶なことをおっしゃらないでください。保育園・幼稚園・小学校の先生方、子どもに牛乳飲用を強制しないでください。
 7月17日の日経新聞に、内閣府が16日に発表した「小売店鋪などに関する世論調査」の概要が掲載されていました。コンビニなどの深夜営業の小売店が「必要」と答えた人は20代、30代が8割以上、40歳代でも7割にのぼり、60歳以上になってはじめて「不要」が「必要」を上回ったということです。ということは50歳代でも半数以上が深夜にコンビニなどを利用していて「便利」と感じているということでしょうか。
 深夜にコンビニを利用する人は軽食のたぐいを買い求めているのでしょうね。あるいは人恋しさのあまり煌々と輝く蛍光灯(誘人灯)に魅せられてただ何となく集まるのでしょうか。深夜に店が開いているということはそこで働いている人もたくさんいるということです。この深夜働いている人たちは朝方少し眠って学校に行くのか、別の勤めに出かけるのか、あるいは昼間眠って過ごすのか。これは大都市だけではありません。地方都市でも同様です。日本は今や不気味な不眠列島です。


2005年07月18日
子どもを日本人に育てる−食育(11)ダイエット

 若い女性は痩せることに文字通り骨身を削っています。ある程度皮下脂肪がないと女性の身体は女性としての機能を果たせません。極端に痩せると生理が止まってしまいます(排卵が起こらない)。6月17日に「1973(昭和48)年に280万あった年間妊娠数が2004(平成16)年には140万件に半減してしまった」と書きました。20代女性の妊娠力は今でも健全だと思いますが、もしかすると無理なダイエットをしている若年女性の妊娠する力が落ちているのかも知れません。したがって過去30数年で妊娠数が半減した原因の一つに女性の強烈な痩せ願望が潜んでいる可能性があります。
 無理なダイエットをしている人は慢性飢餓状態にあって常にイライラしています。言葉も顔つきもとげとげしくなります。顔色も冴えないし、笑顔をつくろうとしても顔が引きつってしまいます。脳にグルコースを送ってやらなければ夜はぐっすり眠れません。眠れなければますます顔色が悪くなります。身長160センチの人は体重50キロでBMI=19・5、55キロでBMI=21・5です。つまり160センチであれば体重は50-55キロが最適です。
 「そんなことは分かっている、でも健康なんてどうだっていいんだ、A子にさえ勝てれば!」というあなたの声が聞こえてきそうです。こうなるとこれはもう女性という性の業(ごう)ですね。


2005年07月19日
新・糖尿病(1)

 5月15日から6月1日にかけて糖尿病について書きました。今日から再開します。記述の重複するところがあるかも知れませんが、お許しください。
糖尿病とは
 私たちが食事をすると血液中のグルコース(ブドウ糖)の濃度(血糖値という)が高くなります。すると、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞からインスリンが分泌されて血糖値が下がります。インスリンは、肝細胞や筋細胞への血糖(グルコース)の取り込みを促進したり、肝臓に取り込んだグルコースから脂肪を合成するホルモンです。このインスリンが分泌されなくなったり(インスリンの絶対的欠乏)、分泌されてもその作用が不十分(インスリンの相対的欠乏)なために、血糖が持続的に高くなり、のどが渇く・尿量が多い・体重減少・血管障害などの症状を現わすようになった状態を糖尿病といいます。
糖尿病の分類
 糖尿病には大きく分けて2つの病型があります。1つは、膵臓のβ細胞の障害によって、インスリンが分泌されないために高血糖が続く糖尿病です。どんな人にも起こりますがが比較的子どもに多いので、昔は「若年型糖尿病」と呼ばれていました。ウィルス感染に伴って自分のリンパ球がβ細胞を攻撃・破壊することによって(自己免疫)、インスリンが分泌されなくなって発生する病態です(インスリンの絶対的欠乏)。この急激に発症する糖尿病は「インスリン依存性糖尿病」と言われていましたが、今では1型糖尿病と呼ぶことになっています。この糖尿病にはインスリンの注射が必須です(インスリンはタンパク質の1種[ペプチド]ですから、口から服んでは分解されて効果がありません。注射によってインスリンを体内に直接入れることが必要です)。
 もう1つの糖尿病は、分泌されたインスリンがうまく機能しないために発生するものです。長年にわたる偏った食生活や運動不足によってインスリンの働きが悪くなって(インスリンの相対的不足)起こる糖尿病で、昔は成人型糖尿病あるいはインスリン非依存性糖尿病と呼ばれていました。今は2型糖尿病ということになっています。2型糖尿病は食事と運動で改善する病態です(ただし多少ともインスリンの分泌不足のあるのが普通です)。しかし、長い経過のうちにはβ細胞が障害され、インスリンの分泌が悪くなってしまうこともあります。こうなると食事と運動だけではうまく対応できず、インスリンの注射を必要とすることもあります。2型糖尿病の発症に遺伝の関与が濃厚で親・兄弟に糖尿病患者がいる人は糖尿病になりやすいことが知られています。


2005年07月21日
新・糖尿病 (2)糖尿病の症状

 日本で圧倒的に多い(95%以上)のは2型糖尿病です。インスリンの働きが悪くなって血糖値が高くなった(2型糖尿病)からといって特別な症状があるわけではありません。グルコースを唯一のエネルギー源とする脳はインスリンの働きがなくてもグルコースを利用できるからです。ただし、血糖値があまり高くなると、それを薄めるために水を必要とします。そのために喉が渇きます(口渇)。喉が渇くと水をたくさん飲みます。水を飲むと尿もたくさん出ます(多尿)。また、中高齢者で体重が急激に減少する場合も糖尿病を疑ってみる必要があります。つまり、糖尿病自体は重大な症状を伴うということのない病気です。
 血糖値の高い状態が長く続くと、血管障害と神経障害が起こります。これが糖尿病の合併症です。血管障害は網膜と腎臓に起こりやすく、神経障害は末梢神経に起こりやすい。現在の成人失明の最大の原因は糖尿病性網膜症であり(昔の1位は緑内障)、腎透析の最大の原因は糖尿病性腎症です(昔の1位は慢性腎炎)。また、血管の変化が心臓に現れると冠動脈硬化症(狭心症や心筋梗塞)、脳動脈に起これば脳動脈硬化症(脳梗塞・脳軟化症)、末梢神経の障害は脚を切断しなければならない壊疽を起こすこともあります。糖尿病はこのような必然的に「生活の質」の低下をもたらす脳・心・腎血管障害の基礎疾患として人間の健康に重大な関わりをもつ病気です。最近の日本における糖尿病患者は700万人ともいわれ、その増加傾向はさらに急激です。21世紀の国民病とも言われる所以です。


2005年07月22日
新・糖尿病 (3)糖尿病の診断
 1997年まで、日本では糖尿病の診断に「75グラムブドウ糖負荷試験」(糖負荷試験と省略します)をゴールデン・スタンダードとして行っていました。被験者は朝ご飯を食べずに検査を受けます。被験者はまず採血され、その血液で空腹時の血糖値が測られます。ついで75グラムのブドウ糖の入った水溶液を飲み、その後30分、60分、120分に採血され、それらの血液の血糖が測られます。空腹時と30分後の血液のインスリン濃度を測定することもあります。この検査では被験者を2時間も拘束することになります。当時の日本では空腹時血糖値が140mg/dl以上あるいは/および120分値が200mg/dl以上を糖尿病型と診断していました。
 アメリカでは被験者が2時間も拘束されることを好みません。1997年にアメリカ糖尿病協会の専門委員会は空腹時血糖値だけで糖尿病を診断しようという新しい診断基準をつくりました。空腹時血糖値が126mg/dlを超えていたら糖尿病と診断してよいということにしたのです。さらにどんなときに測った血糖値でも200mg/dlを超えていたらそれだけでも糖尿病と診断してよいということにしたのです。これは簡単ですね。アメリカ人好みの診断基準です。
 アメリカで行われることは医学の世界でもグローバル・スタンダードです。1998年以来、アメリカ以外の国々でも空腹時血糖値126mg/dl以上を糖尿病とする診断基準が相次いで採用されました。WHOも然りです。ただ、糖負荷試験を無用とは考えていないところがアメリカと異なっています。やはり、糖負荷試験は糖尿病の診断に欠かせません。病院に検査に行くのはファスト・フードを買いに行くのとは違うのですから。日本糖尿病学会の判定区分(日本では診断基準という言葉を使っていません)を参考図に示しました。日本ではは空腹時血糖値と120分値から糖尿病の判定を行うようになっています。正常型は空腹時血糖値が120mg/dl未満でかつ120分値が140mg/dl未満、糖尿病型は空腹時血糖値が126mg/dl以上か120分値が200mg/dl以上の両方あるいはいずれか、境界型は正常型にも糖尿病型のいずれにも該当しないものとなっています。


 糖尿病型の判定と糖尿病の診断は分けて考える必要があります。糖負荷試験の結果が糖尿病型でかつ、1)糖尿病の症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)がある、2)HbA1cが6・5%以上である、3)糖尿病性網膜症がある、のいずれか1つ以上があれば糖尿病と診断されます。これらの症状がなくても、糖負荷試験を2回行っていずれも糖尿病型であれば糖尿病と診断して間違いありません。
HbA1c:ヘモグロビン(Hb)は、赤血球内にあって全身に酸素を運ぶタンパク質です。ヒトには5種類のHbがありますが、うちHbAが95%を占めています。HbAにグルコースが結合したものをHbA1cといいます。HbA1c(正常値は4-5%)の濃度は過去2ヵ月ほどの血糖値の平均値を表わしていますので、糖尿病の血糖コントロールに用いられています。しかし、これだけで糖尿病を診断することは困難でしょう。


2005年07月26日
新・糖尿病 (4)糖負荷試験ー検査前日の夕食に糖質をたくさん摂らないと誤って糖尿病と診断されてしまう

 糖尿病の診断には糖負荷試験が欠かせません。糖負荷試験を受けるときに是非守っていただきたいことがあります。それはこの検査を受ける日の前日の夕食に糖質(澱粉=ご飯)をたっぷり食べるということです。ご飯をたくさん食べないと誤って糖尿病と判定されてしまうことがあるからです(正確にいうと、糖質の多いものであれば何でもいいのです。パンでもかまいませんが、日本人にはご飯の方が糖質をたくさん摂りやすいでしょう)。お医者さんは「検査日には朝ご飯を食べないできてください」とおっしゃいますから、正確に検査してもらうためには前日の夕食を軽くした方がよいと誤解している人がいます。
 私の知合いの女性は糖尿病でもないのに、検査日前日の夕食をいつも野菜サラダにフレンチ・ドレッシングで済ませ、その度に糖尿病と言われて血糖降下剤を半年も服んでいました。この女性は、夕食に糖質(ご飯)をたくさん食べなかったために、インスリン感受性が低下して、75グラムの糖質溶液を飲むと糖負荷60分後の血糖値が200mg/dlを超えてしまったのです。
 すでに5月15日に書きましたが、重要なことですので同じことを繰り返します。「検査前日の夕食にご飯(パンでも構いません、要は糖質です)をたくさん食べないで糖負荷試験を受けると、誤って糖尿病と判定されてしまう」ことを実証するために、12名の健康な医学生(糖尿病の家族歴なし)の協力を得て実験を行いました。被験者は全員、糖負荷試験の前日の朝食と昼食には普段の食事を摂り、夕食だけ異なる食事を摂りました。半数の6人は糖質の少ない食事(ビーフステーキとフライドポテト)を、他の6人は糖質の多い食事(どんぶりメシとみそ汁)を食べました。そして翌日糖負荷試験を行ったのです。さらに1週間の間隔を開けて、先週どんぶりメシを食べた人にはビフテキ、ビフテキを食べた人にはどんぶりメシを食べてもらって糖負荷試験を行いました。
 この実験をまとめたのが5月15日に示した参考図です。夕食に糖質の多い食事を摂ったときには被験者全員の血糖値は正常でしたのに、ビフテキを食べたときは全員の血糖値がどんぶりメシを食べたときより高くなりました。被験者12名中4名が「境界型=耐糖能異常=糖尿病予備軍」と判定されたのです(参考文献)。さらにビフテキを食べた人のうち2人は60分値が200mg/dlを超えましたので危うく糖尿病型と判定されるところでした。検査前日の夕食が糖負荷試験の結果に大きな影響を与えるということがお分かりいただけるでしょう。
参考文献
Kaneko T, Wang P-Y, Tawata M, Sato A. Low carbohydrate intake before oral glucose-tolerance tests. Lancet 352 (9124), 289, 1998.


2005年07月27日
新・糖尿病 (5)糖尿病の食事療法その1

 糖尿病の食事療法だからといって特別な食事があるわけではありません。特に食べてはならないという食品はありませんし、食べなければならないという食品もありません。日本人が長い時間をかけて自らの身体で安全性を確認してきた食事が最良の糖尿病治療食です。
 この食事は「穀物+大豆+野菜(+魚)」から成り立つ食事です。日本人が大昔から続けてきた日常茶飯(ケの食事)で、1汁1菜ないし2菜です。これは生きるための食事であって楽しむための食事ではありませんが、糖尿病の治療食であるばかりでなく、普通の人にとっても健康食です。ベジタリアンの生活に近い食事ですね。でもベジタリアンの食事は長続きしません。かのトルストイもその信奉者の徳富蘆花も長続きしませんでした。
 そこで楽しむための食事(ハレの食事)を差しはさみます。ハレの食事は半端なものでは楽しくありません。週に1度、10日に1度(冠婚祭、友人を招いたときなど)、料理の得意な人は腕を揮ってご馳走をつくり、外食するなら思いきった料理を注文します。飲めや唄えやの謝肉祭(カーニバル)ですから肉にも魚にも贅をこらします。このハレの饗宴が終ったらまたいつもの日常茶飯に戻ります。糖尿病だからといって遠慮することはありません。週に1度、10日に1度のことですから。


2005年07月28日
新・糖尿病 (6)糖尿病の食事療法その2

 糖尿病である私の食事はいたって簡単です。日常茶飯(生きるための食事=ケの食事)は「穀物+大豆+野菜(+魚)」で、まあベジタリアンに近い食事です。このような食事を「粗食」という人がいますが、断じて粗末な貧しい食事ではありません。粗食などと言うと「粗食に耐え」た戦後の窮乏生活を想い起こします。だから私は、同じ「そしょく」であっても、基本的な食事という意味で「素食」と称しています。
 私は日常(ケ)の食事を作るのに時間をかけません。その替わり、ハレの日(友がきたとき、祝日など)はいわゆる大馳走です。肉も食います。謝肉祭ですからね。
 日常茶飯はご飯が基本です。玄米でもいいのですが、最近は3分搗き米を炊いています。たっぷりの野菜と豆腐を入れた「みそ汁」を必ず作ります。「納豆あるいはあじ・いわし・さばの焼き物」、「野菜のお浸し・油炒め」、それに香の物として漬け物、典型的な1汁2菜です。2菜が面倒なときは1菜になります。どうでもよいことですが、念のためつけ加えると、この食事は糖質75%、タンパク質10-15%、脂肪10-15%になります。


2005年07月29日
新・糖尿病 (7)糖尿病食は健康食その1

 ベジタリアンという言葉は「健全な、新鮮な、元気のある」という意味のラテン語vegetusに由来すると言われています。日本語で「菜食する人」といいますが、菜は野菜(vegetables)のことではありません。動物性食品を食べずに植物(穀類、野菜、果実、種実類)を食べて生活する人たちのことです。
 動物(獣肉、鳥肉、魚肉、乳類、卵類)を一切食べないという徹底したベジタリアンをビーガン(Vegan)といいます。ビーガンの中には皮製品、シルク、ウールの類いを身にまとわない人もいます。動物性のものでも乳・乳製品と卵・卵製品だけは食べるというラクト・オボ・ベジタリアン(Lacto-Ovo-Vegetarian)や魚介類を食べるペスコ・ベジタリアン(Pesco-Vegetarian)と呼ばれる人たちもいます。日本人は古来、穏健なペスコ・ベジタリアンでした。
 ベジタリアンが、獣肉を常食している人に比べて、ガン、心臓病、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの病気(いわゆる生活習慣病)に罹りにくいことは幾多の疫学研究によって実証されています。人類はもともと植物食でしたから当然のことです。「穀物+大豆+野菜(+魚)」からなる日本人の食事は糖尿病治療食であると同時に普通の人にとっても健康食なのです。
 ただ、昔は冷蔵庫がなかったために、野菜と魚の保存にもっぱら塩蔵が用いられていました。そのため、食塩摂取量が多く、高血圧による脳溢血(脳出血)で倒れる人がたくさんいましたし、がんの中では胃がんが多かったのです。


2005年07月30日
新・糖尿病 (8)糖尿病食は健康食その2

 純粋かつ厳格なベジタリアン主義(ベジタリアニズム)は信仰や哲学などのイデオロギー(正義の体系)の要素を含み、日本人向きではありません。日本の「玄米菜食」もそうですね。陰陽説に行きついてしまいました。こういう方々は「自分たちは正義である、自分たちの主張以外は認めない」という態度になりがちです。世の中で正義・主義ほど恐いものはありませんね。これに凝り固まれば身が破滅します。 
 幸いというべきか、日本人は大晦日にはお寺参りして元旦にお宮詣でして恬淡としている大らか精神の持ち主です。和・洋・中、無国籍料理など何でもござれが日本です。レストランでも機内でもベジタリアン食を選択できますが、そうまでして「植物食」にこだわることはありません。友の招待や旅に遊ぶときなどはハレの日ですから、獣肉を食ってどこが悪いのでしょうか。
 日本人には「ケの日常茶飯」と「ハレのご馳走」の組合わせといういい加減な「菜食」が似合っていますね。私の場合、月20数日の日常茶飯にかかる費用は1万5千円程度、月4ー5回のハレの食事費用は10万円超です(もちろんあと数年して収入が少なくなればハレの食事は数万円程度になり、やがては0になるでしょが)。


2005年07月31日
新・糖尿病 (9)糖尿病食は健康食その3

 「穀物+大豆+野菜(+魚)」の食事ではビタミンかミネラルが不足するのではないかと考える人がいらっしゃるかも知れません。しかしそんなことはありません。「穀物+大豆+野菜(+魚)」の食事で我々が生存するうえで欠けるものは何一つありません。ビタミンが不足することもミネラルが不足することもありません。人類はとくにビタミンやミネラルに対して極めて大きな適応力を示します。
 地球上に人類が誕生して400万年にもなります(生命が誕生して36億年)。カルシウムが少なければ吸収能力を高めて無駄を省き、少ないカルシウムを有効に利用します。400万年(あるいは36億年)かけて培った人類の生物学的適応能力です。
 たとえば、「ビタミンB1が不足すれば脚気(かっけ)になる」と中学生の頃習いました。たしかに、梅干しをおかずに白米メシだけを食べていればそんな心配もあるでしょう。極端に偏った食生活でなければビタミン不足やミネラル不足なんて起こりようがありません。それなのに、どうして「◯◯◯が足りないよ」「XXXを服めば元気になる」などと言挙げするのでしょうか。明日その理由を述べることにします。


2005年08月01日
新・糖尿病 (10)糖尿病食は健康食ーサプリメントは不要
 セロト二ンという神経伝達物質があります。セロト二ンが不足すると精神が不安定になったり、不眠症を起こすといわれています。このセロト二ンはトリプトファンというアミノ酸からつくられます。
 このことから「トリプトファンは不眠症に効く」という単純かつ不可思議な思考回路が始まるのです。たしかに、トリプトファンが完全に欠乏している食餌を与えたネズミはイライラしています。「この動物にトリプトファンを与えたらネズミのイライラが治まった」から「トリプトファンはセロト二ンを通じて頭痛、不眠、精神不安定に効果がある」となり、「肉や牛乳の蛋白にはトリプトファンが含まれている、肉や牛乳を飲むと不眠症が治る」ということになってしまうのです。さらにはトリプトファンをサプリメントとして売り出そうとする悪知恵の働く人間も出てきます。
 トリプトファンだけが完全欠乏している食餌は現実にはありえません。普通の食事でトリプトファンが欠乏することはありません。サプリメントというのはすべてこの類いです。効くサプリメントはありません。本当に効くとすれば、それは「くすり」ないしは「麻薬(ドラッグ)」です。長期の服用によって必ず副作用が現れます。
 うつ病になって元気のない人を普通の状態に戻す抗うつ薬はありますが、普通の人の気分を高揚させるくすりもサプリメントもありません。気分を高揚させる物質は「気狂い水(アルコール)」と「麻薬」以外にはないのです。
 繰返しますが、普通の食事でビタミン・ミネラルなどの微量栄養素が不足することはありません。1960年代に、体内で分解されてビタミンB1となる物質が神経疾患に効果があるといわれて大量に使われたことがあります。全く無効でした。製薬会社がボロ儲けしただけでした。大量に服用したからといって「元気になる」ビタミン・ミネラルの類いはありえません。マルチビタミンなどというものにお金を使わないでください。ビタミンA・Dなどの脂溶性ビタミンをたくさん服むことは害になりこそすれ益は全くありません。


2005年08月02日
新・糖尿病 (11)「穀物+大豆+野菜(+魚)」という糖尿病食は健康食ー安全な食事

 2000年6月の雪印牛乳中毒事件(黄色ブドウ球菌による食中毒)、2001年9月の日本における牛海綿状脳症(BSE、狂牛病)の第1例発症(2005年6月現在で20頭)を受けて、食品の安全性を問う声が一気に高まりました。国は2003年7月に食品安全委員会を内閣府に設置しました。
 安全な食品とはどんなものか個々のご意見がおありでしょう。食中毒のように数時間-数日のうちに発症するものならともかく、数10年かかって症状が出てくるようなものの安全性をどのように評価するのでしょうか。たかだか数カ月の動物実験で影響がなかったから「安全である」などとは言えません。日本人にとって安全な食事は、日本人が何世代もかけてみずからの身体で安全性を確認してきた食事です(参考図)。


 納豆・豆腐・味噌・醤油などの大豆製品に「遺伝子組み換え大豆を使用しておりません」という表示がなされていることをご覧になっているでしょう。ある生物がもつ特定の遺伝子を切り取ってほかの生物の遺伝子配列の中に組み込む技術を遺伝子組み換え技術と呼んでいます。すでに、特定の除草剤を撒いても枯れない遺伝子を組み込んだり、殺虫性物質を作る微生物の遺伝子を組み込んだ大豆やトウモロコシがアメリカなどで栽培されています。
 このような遺伝子組み換え作物は安全でしょうか。ある人々は「昔から行われてきた品種改良技術と同じで全く問題はない」と主張します。しかし、従来の交配による品種改良は細胞内の全遺伝子(ジーン、gene)の丸ごとの組み換えで、自然交配と異なるところはありません。しかし、遺伝子組み換え技術による品種改良は、人間が賢(さか)しらに有用と考えた特定の遺伝子のみを組み替える技術で、自然交配とは全く異なります。このような技術で作られた作物の安全性を云々するには100年以上(数世代)の時間が必要でしょう。
 日本人にとって安全な食品は、私たちの祖先が何世代にもわたって自分の身体を用いて安全を確認してきた食品以外にありません。


2005年08月03日
新・糖尿病 (12)糖尿病食は健康食ー安全な食品
 職場に昼食の弁当用に配られたチラシ広告をみると、なんと油で揚げた肉・魚のおかずの多いことでしょうか。加熱滅菌は食中毒の予防に有効ですから、揚げ物が多いのでしょう。 また、コンビ二・スーパーで売っている「おかず」はたっぷりの塩と砂糖を使っていますね。日持ちをよくするためです。
 どんな餌を与えられてどのように育てられているのか判らない養殖のサカナ、ウシ、ブタ、ニワトリなどをみなさんはよく毎日食べられますね。これらはみな切り身あるいはかたまりとして店頭に並んでいます。まるごとの元の形がどうなっているか見当もつきません。私は元の形が判らないものは普段口にしません。
 色鮮やかなサケ(サーモン)の切り身が比較的安い値段で売られていますね。ノルウェー産、アイルランド産。養殖(畜養)したサケです。鮮やかな紅色は亜硝酸ソーダが振りかけられているからでしょう。これらのサケは狭い生簀で飼われていますから、尾鰭(おびれ)が団扇(うちわ)のように丸くなっています。丸い尾鰭のサケなんて気持ちが悪いでしょう。
 1960年ごろにはニワトリが孵化してから肉になるのに120日かかりました。70-80年ごろは70日でした。今では40日でトリ肉になります。ニワトリが24時間、眠っているときを除いて餌を食べつづけるからです。嘴(くちばし)は丸く切り取られています。蹴爪(けづめ)もありません。尖ったくちばしや蹴爪はニワトリの武器ですからね。集合飼育でこんなものがあると互いに傷つけ合います。羽も不要ですから短くしてしまいます。「赤い羽」以外に商品価値もありませんからね。でもスーパーのトレイに入っているトリ肉からはこんなことは想像もできませんね。


2005年08月05日
新・糖尿病 (13)糖尿病食は健康食ー食料自給率

 日本人の食べ物の60%は海外から輸入されています(自給率40%)。ウシ、ブタ、ニワトリの餌となる穀物のほとんどを輸入に頼っていますから食料全体の自給率が下がってしまったのです。
 肉をべるということは贅沢なことですね。家畜に穀物を与えて大きくしているのですから。この贅沢が食料自給率を押し下げているのです。例えば、ブタ肉は約6割が国内産ですが、餌の90%は輸入品(自給率は10%)ですから、60x10%=6%がカロリーベースでみたブタ肉の自給率ということになります。
 日本人の基本的食事は「穀物+大豆+野菜(+魚)」であると言い続けてきました。米・野菜・魚の自給率はまあまあですが、味噌・醤油・豆腐・納豆の原料である大豆の自給率が低くなっています。日本で消費される大豆は年間530万トン(うち70%はアメリカ、20%はブラジルから輸入されています)ですが、そのほとんどは搾油され、油糟が家畜の飼料として使われています。
 豆腐・納豆・味噌・醤油などの食品用として利用される大豆は約100万トンです。平成13年産の国産大豆は27万トンでしたから、食品用大豆の自給率は27%ということになります。日本人が昔から食べているのに大豆の自給率が27%しかないというのは情けないですね。これでは日本式食性活もままなりません。
 最近は、消費者の食の安全性に対する関心が高まり、地産地消運動が活発になりましたから国産大豆の人気が高くなっています。食品用大豆の自給率をせめて50%ぐらいに高めたいものですね。


2005年08月06日
広島原爆記念碑:「過ちは二度と繰り返しませんから」と「Remember Hiroshima」

 毎年8月6日になると心が騒いで落ち着きません。頭を垂れ手を合わせ瞑目します。
 60年前の8月6日、アメリカは広島に原子爆弾を投下しました。1945年7月26日の米・英・中ポツダム宣言で戦後日本の処理方針を定めていましたから、アメリカは戦争終結を確信していました。その日本に原爆を落としました。アメリカはなにがなんでも原爆の威力を試してをみたかったのです。
 広島平和記念公園の原爆記念碑に
「安らかに眠って下さい
過ちは
繰返しませんから」
とあります。
 この碑文は、雑賀忠義という当時の広島大学教授が考え自ら揮毫したということです。日本人が「自分たちの過ちを繰返さない」と誓ったのです。アメリカ人の半数以上は30万人の無辜の市民に対して行った原爆の投下実験という「過ち」を「正当な戦争行為」と肯定しております。「過ちは二度と繰り返させませんから」と書くべきでした。これこそが日本人の「不戦の誓い」です。
 碑文の主語をめぐる論議は1952年に始まっています。詳細はhttp://yutaka901.web.infoseek.co.jp/page2ax2c.htmlをご覧ください。

2005年08月07日
健康診断で医療費抑制? 健康診断の受診率が上がれば医療費は確実に増える

 最近の新聞報道によると、厚生労働省は医療費の伸びを抑制するために、糖尿病などの生活習慣病対策として「20歳以上の健康診断受診率を現状の6割から9割に引き上げる」という「取り組み目標」を設ける方針を決めたそうです。バカな話です。このようなことを決めた人たちは「人間は必ず死ぬ」という厳粛な事実を忘れているのです。
 健康診断を受ける人が増えれば医療費は確実に膨張します。健康診断は異常を発見する検査です。現在、健康診断で何らかの異常(高脂血症、肝機能異常など)を指摘される人が50%に達しています。死ぬまで検査を受け、何らかの異常を指摘されてくすりを服み続けるのです。
 世の中の病気は4種類しかありません。お医者さんの力(医療)によって治る病気、どんなに手を尽くしても結局は死に至る病気、なにもしなくても自然に治ってしまう病気、治療をしても良くならないが急には悪くもならない病気、の4種類です。それぞれがどの位の割合なのか分かりませんが、最も多いのは最後の病気で、健康診断で最も多く見つかるのもこの類いの病気ともいえない病気です。請う、健康診断の数値に振り回されることなかれ。
 医学・医療が進歩したと云われますが、進歩したのは「局所にとどまる病気」と「急激に起こる病気」に対する対処法だけです。ゆっくり時間をかけて発症してくる病気(=年齢とともに老いる血管の病気)にはほとんどうつ手がないのです。


2005年08月08日
新・糖尿病 (14)糖尿病食は健康食ー残留農薬は?

 「穀物+大豆+野菜(+魚」が糖尿病の治療食(=健康食)だとしても、残留農薬はどうなんだという声があります。たしかに、穀物や野菜を育てるときにたくさんの農薬(除草剤・殺菌剤・殺虫剤・殺鼠剤・土壌消毒剤など)が使われています。そのうちでも殺虫剤・除草剤の使用が多いようです。 
 不思議に思われるかも知れませんが、私はあまり残留農薬を気にしておりません。日本の農家なら収穫直前あるいは収穫後に農薬を使っても意味ありませんからね。商品として並ぶずっと前に使用した農薬はほとんど完全に消失しているでしょう。
 「農家は自分たちの食べる農作物には農薬を使わない。商品として売り出すものにだけ農薬を使う」と聞きますが、そんなことはないでしょう。農家だって完全に自給自足しているわけではありません。農家は生産者であるとともに消費者でもありますからね。リンゴ農家が自分たちが食べるリンゴを木に残しておいて、商品となるリンゴは早く摘果してむしろに並べることはたしかにあります。半分赤くてあとは色付きが悪いリンゴは買ってくれませんから、むしろの上で陽に当てて全面が色付きのよいリンゴにするのです。
 農薬を毎日一生涯とり続けても毒性が出ないであろうと決められた数値をADI(Acceptable Daily Intake)と言います。日本語では1日許容摂取量です。ADIは0・01といったような数値で表わされます。単位は通常「mg/kg/day」です。これは1日につき体重1キログラムあたり0.01ミリグラムまでならその農薬を一生涯摂取してもまず大丈夫であろうということを意味しています。
 この数値を決めるにはまず動物実験を行います。量の異なる農薬を餌に混ぜて一生涯食べさせ、何の影響も現れない量(=最大無作用量)を求めます。動物実験の結果をそのまま人間に当てはめるわけにはいきません。そこで、安全率をかけてもっと小さな値をADIとします。
 動物から人間に当てはめるという段階で10分の1にします。穀物や野菜を食べる人間のなかに幼児も老人もいます。成人には影響がなくても老人や幼児では影響が出るかも知れません。最も弱い人に当てはめるためにさらに10分の1にします。つまり、動物実験で得られた最大無作用量の100分の1(=10分の1の10分の1)をADIとするのです。
 ADIは農薬などの化学物質の安全性に対する基本的な考え方です。私は食品中の残留農薬がそれぞれの農薬のADIを超えなけれ大丈夫だと考えています。問題はチェック体制ですね。


2005年08月09日
新・糖尿病 (15)糖尿病食は健康食ー穀物・野菜は連作で大丈夫か

  「穀物+大豆+野菜(+魚)が糖尿病の治療食(=健康食)だと繰り返し述べてきましたが、今作られている穀物や野菜は江戸時代に作られているものに比べてミネラルなどの微量元素が少なくなっているのではないかと心配する方がいます。
 そんな心配は無用です。穀物が稔り、野菜が育っているなら穀物も野菜にも昔通りの微量元素が含まれています。酸性雨が降ったって何かが足りなくなったって植物は必要なものをうまく利用して育つのです。江戸時代の人々の体内成分が現在の我々と変わらないのと同じことです。
 トマトやナス、ジャガイモなどを同じ場所で連続して栽培していると生育が悪くなったり、枯れてしまうことがありますね。この現象を連作障害といいます。その原因は、前に作った野菜に寄生していた病害虫が土の中に残っていて次に植えられた同じ種類の野菜を害する場合や、前作の野菜の根から分泌された特殊な成分が土の中に残って次に植える野菜に悪い影響を与える場合などがあります。もちろん、土壌の肥料成分が極端に不均衡になっている場合にも連作障害の起こることがあります。しかし、普通に育っている場合には成分の不足が起こるなどということはありえません。
 土壌の微生物と植物の根との交互作用によって土壌に新たな栄養分が常に供給されており、肥料(有機肥料・化学肥料)を全く与えない無肥料栽培で何十年もみごとな収穫を挙げている農家もあります。安心して穀物・野菜をお食べください。


2005年08月10日
新・糖尿病 (16)糖尿病食は健康食ーインスリンを注射している糖尿病患者は高糖質食を

 インスリンを注射している糖尿病患者には高糖質食(糖質75%)が最適です。インスリンに対する身体の感受性が高まるから、より少ないインスリンを有効に利用して日常生活が送れるのです。
 1型糖尿病(かつては若年性糖尿病とかインスリン依存型糖尿病などと呼ばれていました)の人はインスリンを毎日2-4回注射します。この1型糖尿病には高糖質食がとくに有効です。糖質を多くすれば注射するインスリンの量が少なくて済みます。1型患者が最も恐れるのは低血糖発作ですね。朝・昼・おやつ・夜と1日4回インスリンする場合に恐いのは夜間の低血糖発作です。糖質の摂取量を多くすると、少量のインスリンが大きな効果を発揮しますから、お医者さん(主治医)に相談して是非高糖質食に切り換えてみてください。
 インスリンを注射していない2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)とて同じことです。この人々はインスリン分泌能力が残っています。アメリカでは糖質の割合が50-60%で高糖質食といいますが、日本人の高糖質食は糖質70ー80%です(私の場合は75%)。身体をよく動かして(運動)高糖質食にすれば2型糖尿病のほとんどはよくなります。


2005年08月11日
新・糖尿病 (17)糖尿病食は健康食ー2型糖尿病にも高糖質食が有効(1)

 高糖質食が糖尿病治療食として有効なのは、身体のインスリン感受性が高まるからです。ただし、少しばかり糖質の摂取量を増やしたからといって効果はありません。糖質のカロリー比を40%から60%にする位ではほとんど効果はありません。思いきって70-80%に増やすのです(私は75%)。 糖質の摂取量を多くするとインスリンの働きがよくなることは今から70年も前にヒムスワースが発見しました。このことはすでに5月24、25日の記事に書きましたので、そちらをご覧ください。
 実際に高糖質食が糖尿病患者に有効であることをはっきり示したのはブランゼル(Brunzell)たちの研究です(参考文献)。ブランゼルは9人の健康者と13人の軽症糖尿病患者に45%あるいは85%の糖質を含む液体食を7-10日間与えて糖負荷試験*を用いて高糖質食の有効性を検討しました。
*糖負荷試験については7月25日と26日のブログをお読みください。
 その結果、糖質85%の高糖質食が糖尿病患者全例において空腹時血糖値を低下させることが明らかになったのです。ブランゼルの研究は、健康者のみならず糖尿病患者においても、高糖質食がインスリンの働きをよくすることを実証したものです。その詳細を明日詳しく述べます。
参考文献
Brunzell JD, Lerner RL, Hazzard WR, Porte D Jr, Bierman EL. Improved glucose tolerance with high carbohydrate feeding in mild diabetes. New England Journal of Medicine 284, 521-524, 1971.


2005年08月12日
新・糖尿病 (18)糖尿病食は健康食ー2型糖尿病にも高糖質食が有効(2)

 ブランゼルは健康者9名と軽症糖尿病患者13名を入院させました。対象者全員(22名)に、低糖質食(タンパク質15%、脂肪40%、糖質45%)および高糖質食(蛋白質15%、脂肪0%、糖質85%)の液体食を与えました。用いた糖質はデキストリンとマルトースの混合物で、十分量のビタミンとミネラルを添加しました。液体食は、1日5回(午前8時、11時、午後2時、5時、8時)に分けて与えられました。摂取エネルギーは体重の変動が全実験期間を通じて1キロ以内におさまるように調節しました。これらの液体食を8-10日間与えてから、午前8時に糖負荷試験を行って血糖値を測定するとともに、試験前および試験中の血清インスリン濃度の測定を行ったのです。耐糖能(血糖を処理する能力)は、血糖曲線下面積を用いて判定しました。
血糖曲線下面積:5月24日の参考図で血糖曲線に囲まれた面積。この面積 が小さいほど耐糖能が高いと判定する。
その結果、健康者および糖尿病患者のいずれにおいも、高糖質食によって空腹時血糖値が有意に低下しました。高糖質食によって、空腹時のインスリン濃度も16%下がりました(有意の低下)。また、高糖質食によって、糖負荷試験における血糖曲線下面積が有意に減少しましたが、その時のインスリン濃度には変化がありませんでした。ということは、高糖質食によってインスリンの働きがよくなったことを示しています。


2005年08月13日
新・糖尿病 (19)
糖尿病食は健康食ー2型糖尿病にも高糖質食が有効(3)
ブランゼルの研究で、高糖質食によって糖負荷試験中のインスリン濃度は変わらないにもかかわらず(ただし空腹時の血糖値とインスリン濃度は低下)、耐糖能(血糖を処理する能力)がよくなりました。その理由は、身体組織のインスリンに対する反応性(組織のインスリン感受性)が高まったからです。この説明は、高糖質食を摂っている人にインスリンを与えると、血糖値の低下が早く始まりかつその低下速度が大きいというヒムスワースの観察(5月25日の文章をご覧ください)によって裏付けられています。また、高糖質食によって空腹時の血糖値とインスリン濃度がともに低下したことは、末梢組織のインスリン感受性が増加したことを示しています。いずれにせよ、健康者および糖尿病患者の両方において、糖質85%という高糖質食によって空腹時血糖値が下がり耐糖能が改善するという結果は2型糖尿病に対して高糖質食が有効であることを示しています。
 8月11日の「新・糖尿病」に対して「量に関する情報が不足している」というコメントをいただきましたので、糖尿病の私の日常茶飯(ケの食事)に簡単に触れておきます。
 私(164センチ、58キロでBMI=21・56)は、全エネルギーの80%を玄米(正確には3分搗米)から摂るよう心掛けています。体重1キロ当りの必要エネルギー量を30キロカロリーとして1740キロカロリー(=58x30)を摂っています。そのために1日に玄米メシ850グラム(朝300、昼300グラム、夕250グラムで1400キロカロリー)を具沢山の味噌汁、納豆・イワシの丸干しなどのおかず、漬け物で食べるという簡単な食事です(1汁1菜)。
 朝食の玄米メシ300グラムは茶碗に軽く2杯です。昼は小さな海苔巻き玄米おにぎり2個(具はおかか・つくだ煮・みそ漬など)、夕食は朝・昼よりわずか少なめにしています。このようなことはいい加減でいいのです。あまり厳密に行うと脱落してしまいます。私が気をつけているのは体重だけです。体重の増減が大きくなければ、日によりたくさん食べても少なくしても一向に気になりせん。

2005年08月15日
新・糖尿病 (20)糖尿病食はご飯を中心に(1)
 ブランゼルの別の研究(参考文献)では、経口糖尿病治療剤あるいはインスリンで治療されている中等度あるいは重症の糖尿病患者でも、高糖質食によって耐糖能の改善がみられています。しかし、治療を受けていない極めて重症の糖尿病患者(インスリン分泌能が涸渇している)では、高糖質食によって、逆に耐糖能(=血糖を処理する能力)が悪化することもありました。したがって、多少ともインスリン分泌能が保たれていることが高糖質食を食べるか否かの決め手になります。もちろん、1型糖尿病と同様、治療にインスリンを用いているときには高糖質食の効果が期待できます。
 ブランゼルが用いた糖質85%もの高糖質食はアメリカ人の口に合いません。最初の論文は有名な臨床医学誌であるNew England Journal of Medicineに発表されましたが、アメリカでは当然のことながら無視されてしまいました。しかし糖質85%もの高糖質食は日本人には可能です。米のメシという強力な武器がありますから。
 宮沢賢治は「一日ニ玄米四合(しごう)ト味噌ト少シノ野菜ヲ食ベ」と書きました。きつい農作業(=重労働)をしない現在の私たちには1日に4合(1合を150グラムとして600グラム)の玄米を食べることは無理ですが、400グラム(2・67合)の玄米は食えますね。米のメシは毎日食べても飽きません。米のメシのよいところはおかずに塩味がありさえすればば食べられることです。おかずは米のメシをより美味しく食べるためのものです。ご飯をしっかり食べて身体をよく動かすことが糖尿病の食事療法の基本です。
参考文献
Brunzell JD, Lerner RL, Porte D Jr, Bierman EL. Effect of a fat free, high carbohydrate diet on diabetic subjects with fasting hyperglycemia. Diabetes 1974; 23: 138-142.


2005年08月16日
新・糖尿病 (21)糖尿病食はご飯を中心に(2)
 私の大好きなご飯を2つ紹介しましょう。「最後の晩餐」に何を望むかと尋ねられたら迷うことなく「味噌漬けメシ」と答えます。釜の蓋を開けたときのえも言われぬ芳ばしい香り。これに勝る料理は世界中訪ねてもありません。
 味噌漬けにはダイコン・キウリ・ニンジン・ゴボウ・ショウガなどいろいろなものが手に入りますが、私はダイコンとショウガの味噌漬けが好物です。
 ダイコンの味噌漬けを細かく方寸に刻みます。炊きあがったメシに刻んだ味噌漬けを混ぜ合わせて数分蒸らして出来上がり。これでなん杯でもメシが食べられます。是非、お試しあれ。味噌漬けメシの場合は、3分搗き米より7分搗き米または精白米の方がのど越しがよいですね。
 もう1つは、米のメシをおかずにして米のメシを食うという究極の調理法です。炊きあがったメシの少々をフライパンにとり、醤油をたっぷり目にかけて少し焦げる程度に炒めます。好みによって刻みネギと七色とんがらしを加えるも絶味。この炒めた醤油メシをおかずにメシを食うのです。これも米のメシをたくさん美味しく食べるための工夫です。
 こんなものを食べたら栄養のバランスが崩れるのではないかなどという心配は御無用です。具だくさんの味噌汁もつくりますから。お子さんには「おかずはいいから、ご飯をお食べ」と教えてあげてください。


2005年08月18日
新・糖尿病(22)糖尿病食はご飯を中心に(3)

 「新・糖尿病」(17)-(20)で述べたブランゼルの研究では、患者の一部に最初から高脂血症(高中性脂肪血症)を示すものがいました。もちろん、このような患者でも高糖質食によって耐糖能は改善しましたが、高糖質食によって血清中性脂肪の高値が続きました。高糖質によって一時的に中性脂肪が高くなることがありますが、高糖質食を長期間摂りつづけると中性脂肪は低下しますから心配はご無用です。
 高糖質食によって耐糖能(=血糖を処理する能力)がよくなるという研究報告はブランゼルに止まりません。アンダーソン(参考文献)は7人の肥満のみられない糖尿病患者において、糖質の摂取を1週間にわたって44%から75%に増やすと、糖負荷試験からみた耐糖能が改善したという研究報告を行っています。
 糖質が70-80%を占める高糖質食はインスリン感受性を高め耐糖能を改善します。しかし、糖尿病の中には「インスリン抵抗性糖尿病」と呼ばれる病態(血液のインスリン濃度が高いのに血糖が下がらない)もあり、こういう人では高糖質食が効果を現わしません。高糖質食を1-2週間試して空腹時の血糖値が下がらないときはインスリン濃度を測定してもらってください。
 くどいようですが、日本人は、健康人であれ糖尿病であれ「ご飯をしっかり食べる」ことが重要です。今60代以下の人は、誤った学校給食で「ご飯はいいからおかずをお食べ」「ほかの物は残してもいいから牛乳だけはお飲み」などと教えられてきました。お子さんには是非「ご飯をしっかりお食べ」と教えてください。
 ご飯(とくに白米メシ)の不幸は食味の良すぎることです。ほんの少しの塩辛いものがあれば、ご飯はいくらでも美味しく食べられるんですね。「白米メシ+塩辛いもの」は高糖質食ですが、これだけでは健康を保てません。精白米は「米」という食材から糠・胚芽という重要な部分を取り除いた欠陥食品です。玄米・3分搗き米は口に合わないという方は5分搗き米・7分搗き米・白米でも構いません。これに大豆製品(味噌・納豆・豆腐など)と野菜(海草を含む)を加えれば万全です。豆腐とたっぷりの野菜を具とする味噌汁はご飯の最良の友です。ただし、味噌汁はできるだけうす味にすることが肝心です。魚をときどき食べれば万全です。
参考文献
Anderson JW. Effect of carbohydrate restriction and high carbohydrate diets on men with clinical diabetes. American Journal of Clinical Nutrition 1977; 30: 402-408.


2005年08月19日
新・糖尿病 (23)日本人の食事はご飯を中心に

 糖質が70-80%を占めるような食事に耐えられる欧米人は少ないでしょう。それは欧米人の不幸です。現在の彼らは、基本的に肉食であり、パンをおかずにして肉を食べます。しかし、日本人は野菜や魚をおかずにして米を食べますから、糖質が70-80%を占める食事はどうということはありません。欧米人だって、本元をたどれば高糖質食だったのです。普通の欧米人が肉やミルクをたっぷり摂れるようになったのは20世紀になってからのことに過ぎません。
 欧米人は、自らの食文化という重荷を背負って、低糖質食(=高脂肪・高タンパク食)に耐えているのです。低糖質食は多量のインスリン分泌を必要とする食事です。欧米人が糖尿病になりにくいのは、低糖質食でも生きられるようにインスリン分泌が増加するように適応した結果です。彼らに肥満が多いのはこの適応現象がもたらした必然の結果です。欧米人に動脈硬化が多いのは、その根底に高インスリン血症があるからです。
 逆に、日本人はつい40年ぐらい前まで高糖質食で生命を維持してきました。米と大豆と野菜とわずかな魚肉で血と肉とエネルギーを得てきたのです。つまりあまりインスリンを必要としない食生活を送ってきたわけです。欧米人のようにタンパク質や脂肪からグルコースを新生して脳に送る必要がなく、脳が要求するグルコースはすべて口から入る糖質でまかなってきました。この日本人が低糖質食(肉・脂肪の多い食事)に移行すれば、その身体が混乱します。
 このことは、ワシントン州キング在住の日系2世の糖尿病罹患率が同年齢層のアメリカ白人の2倍も多いという研究で実証されています(参考文献)。日本人がアメリカ人のような多量のインスリンを必要とする食生活を送っていると、インスリンが相対的に不足して糖尿病に罹りやくすくなってしまうのです。
参考文献
Tsunehara CH, Leonetti DL, Fujimoto YY. Diet of second-generation Japanese-American men with and without non-insulin-dependent diabetes. American Journal of Clinical Nutrition 52, 731-738, 1990.


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