牛乳のカルシウム

 現代の牛乳が人間の食品として相応しくない理由の一つは多量のカルシウムを含むことである。牛乳・乳製品で骨粗鬆症を予防することはできないどころか、多量に摂れば動脈硬化、心筋梗塞を招く。子どもに対するカルシウム摂取基準は高過ぎる。食育の最重要課題は一刻も早く学校給食から牛乳をなくすことである。アイスクリーム・ソフトクリームは牛乳より多量のカルシウムを含んでいる。

1. はじめに 

私が「牛乳が人間の飲み物・食べ物として相応しくない食品である」と言い続ける理由は、
   1)女性ホルモンが多い
   2)カルシウム含有量が多過ぎる
という2点にある()。カルシウム問題はすでに片がついたことだと考えていたが、まだ牛乳の利点として「カルシウムが多いこと」をあげつらう人たちがいる。そこでもう一回もこの問題を取り上げる。この図はアメリカで使用したものなので、母乳・牛乳ともにカルシウム濃度が日本のものより少し高い。日本では100mlあたり、母乳27mgと牛乳110mgという数値が一般的である。

 アメリカ酪農評議会(National Dairy Council)は、アメリカ国民が「カルシウムの危機」に瀕しているとして、乳製品の摂取量を増やすよう宣伝を繰り広げている。危機に瀕しているなどとんでもない。アメリカ人のカルシウム摂取量は世界のトップクラスで、その過剰摂取こそ問題である。アメリカ人が最も多く死に至る病気は虚血性心疾患(心筋梗塞)である。アメリカ農務省(USDA)と酪農評議会は連携プレイでアメリカ国民を心筋梗塞による死に追いやっている。
 日本の事態も同様である。健康政策を立案・実施する政府とその政策を支える栄養学者が「カルシウムが足りない!日本人に足りない栄養素はカルシウムだけ!」と言い続けてきたから、日本人は「必要なのはカルシウムだ!もっとカルシウムを摂らなくては!」と洗脳されてきた。豆腐に牛乳カルシウムを添加するという無謀な豆腐メーカーが現れたほどである。
 2000年に、農水省は当時の文部省、厚生省と共同で食生活指針をつくった。この中にカルシウムに関する1項目がある。いわく、「牛乳・乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などで、カルシウムを十分にとりましょう」。役所がつくる指針やガイドラインはすべての業界の意向を取り入れるからこういうことにならざるを得ない。牛乳・乳製品をトップに挙げたのは酪農団体、乳業メーカーに配慮した結果である。2005年の食事ガイドラインもまた同様である。厚生労働省は2006年2月に「妊産婦のための食生活指針」を公表した。ここにも「牛乳・乳製品などの多様な食品を組み合わせて、カルシウムを十分に」とある。売れなくなった牛乳の消費量を増やそうと弱い立場の妊産婦を脅迫している。妊産婦に「ウシのミルク」を飲ませようなんてなんとひどい役所だ、
厚労省は。
 カルシウムは地球にふんだんに存在する。地上の元素では酸素、硅素、アルミニウム、鉄に次いで多い。カルシウムは生物の必須ミネラルであるが、必要なのはごく微量である。動物はカルシウムを取り込むことよりも捨てることに懸命である。脊椎動物は体内に入ったカルシウムを捨てるために骨格というカルシウムの捨て場所をつくって進化してきた。不足するなどということはないが、本当に足りなくなればゴミ箱(骨格)のカルシウムを利用する。その意味で、このゴミ箱は貯蔵庫でもある。
 
アメリカ人が日本人より大きいのはカルシウムのゴミ箱(骨格)が大きいからに過ぎない。このゴミ箱の大きさは遺伝によって決まっている。ゴミ箱の小さい日本人がいくらカルシウムを摂ったところで、体格がアメリカ人並みになるわけではない。カルシウムを摂りすぎると困るのだ。日本人は賢い。役所や食品業界がカルシウム、カルシウムと騒ぎたててもそんな空騒ぎにはのらない。日本人は賢明にもカルシウム摂取量をアメリカ人の半分以下にとどめている。
 カルシウムがこんなに問題になるのは、カルシウムが少ないと知らない間に少しづつ骨が溶け出して骨粗鬆症になってしまうのではないかという恐怖感が根底にあるからである。高齢者が大腿骨頸部骨折を起こすと歩けなくなり、寝たきりとなる。骨折した高齢者の4人に1人は、その骨折から合併症を起こして2年以内に死亡している。
 カルシウムの摂取量をいくら増やしたところで骨折が予防できるというわけではない。ましてや、牛乳の摂取量を増やして大腿骨頸部(腰臀部)、撓骨(手首)、椎骨(背骨)の骨折を予防できるなどということはない。
 カルシウム栄養学の大きな汚点は「カルシウムは骨の健康に必須だと言っているのに、どうしてカルシウム摂取量の多い国ほど骨粗鬆症や骨折が多いのか」という簡単な質問に答えられないことにある。カルシウムに関してはいくつもの疑問がある。その問題点を探ってみる。

2. カルシウムはなぜ必要なのか
私たちの身体は体重のおよそ1・2%(700-800g)のカルシウムを含んでおり、その99%は骨に存在する。カルシウムは骨の構造物(柱や梁)を結びつけて強度を与えているセメントの成分だと考えるとよい。残りの1%は血液や細胞内液と外液に溶けて存在する。細胞の内外に溶けているカルシウムは神経刺激の伝達や心臓の拍動を調節し、細胞機能の調節に重要な役割を果たしている。
 カルシウムの血中濃度は8・8-10・4 mq/dlで、細胞内のカルシウム濃度はその1/1000以下に調節されている。つまり、身体の神経伝達や筋肉収縮に必要なカルシウムは極めて微量で、細胞内のカルシウム濃度が高くなれば身体機能が停止してしまう。骨以外のところに存在するカルシウムは1グラム(1000mg)程度である。それなのに毎日2000mgを越えるカルシウムを摂取しても人間が生きていけるのは、身体に余分なカルシウムを直ちに排泄する機能が備わっているからである。
 身体の骨は刻一刻と作り替えられている(骨のモデルチェンジ=新陳代謝)。骨のカルシウムは常にその一部が血液中に