バターやチーズに「脂肪税」
乳がんとバター
2000年ごろから北欧で乳がんの死亡率が減っている。たとえば、1987〜9年のスウェーデンの乳がん死亡率(ヨーロッパ標準人口10万対)は25・6であったが、2004〜6年には22・0へと16%減った。この減少はスウェーデンがいち早く取りいれたマンモグラフィ検診の効果であると喧伝されている。しかし、オ―ティエ(Autier)ら*によると、スウェーデンでの死亡率はマンモ検診が導入される以前の1972年ごろから低下し始め、その傾向は検診の普及によって何ら影響を受けなかった。また、スウェーデンより10年以上遅れてマンモ検診を導入したノルウェイでも検診の影響を受けることなく乳がん死亡率は低下している。つまり、北欧で見られた乳がん死亡の減少は乳がん検診によるものではない。 では、何が北欧の乳がん死亡を減少させたのか。1980年代以降に北欧人の生活に起った大きな変化は、彼らがバターの消費量を大幅に減らしたことにある。たとえば、国連食糧農業機関(FAO)の資料によると、スウェーデンのバター消費量は1980〜9年には年間一人当たり平均6・7kgであったが、2003〜7年には3・0kgと半減している(下図)。ノルウェイ、デンマーク、フィンランド(図示せず)のバター消費量も同様である。飽和脂肪酸の多い動物脂肪が北欧人の死亡の中核を占める心筋梗塞(冠動脈硬化)の原因とみなされるようになって、北欧人は乳脂肪(バター)を食べなくなった。このことが幸いして乳がん死亡も減るようになったのである。 妊娠しているメス牛が分泌するミルクには大量の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)が含まれている。とくにバターは脂溶性の女性ホルモンの宝庫である。北欧人がバターを食べなくなったことが北欧における乳がん死亡減少の背景にある。日本人のバター消費量は北欧に比べて少ないが、上図のように減少することなく推移している。日本女性の乳がん死亡が一向に減らない理由がお解りいただけるだろう。 なお、日本経済新聞のウェブ版(2011年10月3日)は、デンマーク政府が2011年10月1日からバター・チーズなどの飽和脂肪の多い食品に「脂肪税」を課すことになったとして、次のように伝えている。 デンマーク、バターなどに「脂肪税」 健康増進狙う 脂肪税が課されるのは「2・3%以上の飽和脂肪を含む食品」である。2・3%という半端な数字が面白い。なぜ、2%あるいは2・5%でなく、2・3%なのか? 五訂増補・日本食品分析表によると、デンマークや日本で搾られているホルスタイン牛乳の乳脂肪は3・7%で、飽和脂肪は2・36%である。すなわち、デンマーク政府は牛乳を課税対象とするために2・3%という数字を選んだのである。デンマークの脂肪税(fat tax)は牛乳税(milk taxあるいはdairy tax)である。なぜ、牛乳に税金? 牛乳が多量の女性ホルモンを含んでいるからである。 |