地球カレンダーから生命をみる

地球が誕生して46億年になる。地球カレンダーは、この地球の誕生を1月1日0時0分0秒として、その後の出来事を1年にあてはめて眺める面白い試みである(図10)。金岡裕一富山女子短期大学学長の「人間.この小さな、ふしぎな存在−地球一年暦から− 富山女子短期大学学生会機関誌『彩』30号巻頭言、1995年3月)の一部をそのまま借用する()。

    最初の微生物化石の発見は33億年前、春たけなわの4月のことで、真核生物の出現は18億年前、ずっと後の、早くも1年の半ばが過ぎた8月上旬になってからです。変異と自然選択が繰返される生物の進化なるものが、如何に長期の実験的プロセスであったかがうかがわれるではありませんか。そして動物と植物の分化は12億年前、9月になり、脊椎動物が現われ、動物が陸に上るのは4-5億年前、もうすでに11月末なのです。1年の大部分が過ぎてしまっても、生物の進化は依然として長い長い”助走”の途上にあり、私たちの先祖はまだその姿さえ表わしていないのです!

    「地球上に人類が出現したのは、今から約200万年前だそうです。いくら高齢化社会とはいえ、寿命100年というわけにはいきませんが、簡単のために人生100年と試算しても、200万年は実に2万世代の繰り返し。想像を絶する積重ねの過程ですね。しかし地球1年暦でみるとどうでしょう。46億年が365日ですから、1日は1300万年に当ります。1時間が約53万年。したがって、200万年といってもわずか4時間足らずです。つまり私たち人類は、1年の最後の日・大晦日の、しかも最後の4時間前の午後8時頃、みなさんはあまり覩ないかもしれませんが、紅白歌合戦が始まる頃になって、ようやく地球上に現われたことになるのです! お待たせしました。そして人類が創り出した”文明”らしきものの出現が約1万年前とすれば、これは1分前(1分は約8800年)、とうとう23時59分になってしまいました。」

    「私たちからみれば大変に長い人間の文明活動の歴史も、地球1年暦からみれば、たった1分位というわけです」、「自然科学の進歩は驚異という外はありません。しかしそもそもこういった自然科学の活動全体が、たかだかここ300年位のことであり、1年暦でいえば、たった2秒間(1秒は145年)、除夜の鐘が鳴り出す直前の、瞬く間の出来事だったのです! この大自然の中にある私たち人間は、地球が46億年かけて創り出した”生命”という奇跡的大傑作を、たった”2秒間”で、自分達に内在する精緻極まる仕組みの一部を、自分達の頭脳で認識し始めた”ふしぎな存在”でもあるのです」。

最近、「地球を守ろう」という言葉をよく聞く。1997年12月には「温暖化防止京都会議」なるものが開かれた。「人類の滅亡を先送りしよう」という話なら分かるが、「地球を守ろう」などはおこがましい。ジュラ紀から白亜紀にかけて10日ほど地上をのし歩いていた恐竜は12月26日(6,500万年前)に絶滅した。

人類は地底の石油・石炭をはじめ、もろもろの鉱物を大量に掘り出し、これらの地球資源の利用によって一部の人間の生活は物質的に極めて豊かになった。人類の繁栄=地球の荒廃である。今や、地球資源の枯渇と環境破壊によって人類が滅亡の危機に瀕していると言う向きもある。人類は地球という惑星に寄生する害虫であるという人もいる。人類の滅亡=地球の蘇生であって、いかに地球が荒廃していても人類が消滅すれば地球は再生する。理屈はその通りであっても、さて困りましたなあ。人類があと2時間(100万年)ほど生き延びる方法はないものだろうか。しかし、見方を転ずれば、こんなことはどうでもよろしい。人類の繁栄も、環境破壊も、長い地球の歴史の一コマに過ぎないのだ。

ゲノム解析によって、全塩基配列(シークエンス)を読み終えて、今産業界はポストゲノム時代の到来と浮かれている。生命は生命からのみ造られるという状況に変わりはない。一つの遺伝子は一つのタンパク質だけを作ると考えられていたのに、3-4万の遺伝子が10万種類におよぶタンパク質を作っているという見解は衝撃的であった。ある一つの遺伝子に欠陥があっても、他の遺伝子群の作るタンパク質がその欠陥をカバーして生命を維持する。生命体は完璧であると同時に融通無碍でもある。原始的生命が誕生して36億年が経った。ヒトの移動速度は、かなりの早足で歩いて、1時間6キロ程度である。ジェット機によってその速度は600倍の1,200キロになった。窒素、酸素、水素、硫黄と金属元素から生命(たとえば大腸菌)を造るにはあと6千万年(地球カレンダーで5日)はかかるだろう。その時まで、人類は我が世の春を満喫しているだろうか。


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