植物食のすすめ
〜糖質(炭水化物)の意味〜

ひとにとって最も重要な栄養素は何か。炭水化物(糖質)である。ひとの脳は体重の2%を占めるに過ぎないが、全エネルギーの20%を消費する。脳は専らグルコースを利用する。ひとが生きているということは脳が機能しているということと同義である。脳が機能するためには少なくとも120 gの糖質が必要である。



ひとにとって最も重要な栄養素は何か。炭水化物(最近は糖質というようになった)である。ヒト(動物としてのひと)は大脳が発達した動物である。発達しているといっても、脳は体重の2%を占めるに過ぎないが、そのエネルギー消費量は全エネルギーの20%(400-500キロカロリー)にも達する。しかも、脳は専らグルコースを利用する。脳は1日24時間働いている。ひとが生きているということは脳が機能しているということと同義である。脳が機能するためには少なくとも120 gの糖質が必要である。脳で使われるグルコースは炭酸ガスと水に変えられて排泄されるから、脳には常にグルコースが補給されなければならない。

ヒトは肝臓と筋肉に糖質をグリコーゲン(動物デンプンともいう)という形で保有しているが、その量は肝臓に60グラム、筋肉に120グラムほどである。肝臓のグリコーゲンは分解されて、グルコース(血糖)として血中に放出されるが、筋肉中のグリコーゲンの分解で生じるグルコースは筋肉のために使われ、血液にグルコースを供給することはない。筋肉はグルコースを乳酸に分解する過程でエネルギーを獲得する。生じた乳酸は肝臓あるいは腎臓に送られ、再びグルコースに作り換えられる(糖新生という)。また、心筋、副腎髄質、赤血球などもグルコースを唯一のエネルギー源としており、1日40グラムほど消費する。したがって、ヒト(他の動物も同じ)はグルコース源としてデンプンを摂らなければ生きていけない。デンプンが多量に存在するのは植物だけである。動物の肉を食べても糖質はごくわずかしか補給されない。デンプンが少ないときは、やむを得ず、タンパク質の構成成分であるアミノ酸(アラニンが主役)からグルコースを作って(糖新生)、脳や心筋にグルコースを供給しなければならない。

ひとは自らの身体にあるものを食物として摂る必要はない。ヒトの身体にはタンパク質(肉)もあるし、脂肪(室温で固くなる飽和脂肪酸が主体)もある。ひとがヒトを食べる食人はタブーになっているが、食うものが全くなくなれば(極限の飢餓状態)、ひとはヒトを食う。しかし、他に食うものがあればひとはヒトを食べない。これは、ひとは他人の肉を食べないということであって、自分の肉は食べる。口に入れるものが少なくなれば、自分の身体の筋肉(タンパク質)や脂肪からエネルギーを得る。痩せるということは自分の肉を消費した結果である。病魔に襲われて、口からものが入らなくなると、ひとは「骨と皮」という状態になる。自分の肉を消費しつくした状態である。

ウシ、ウマ、ブタなどはヒトと同じ哺乳類の仲間である。ひとが哺乳類を食べる必要はない。彼らの身体はヒトの身体と基本的に同じだからだ。ひとが哺乳類を食うということは、牛がウシを食うことと基本的に変わりはない。哺乳類の肉を食べるのは、ひとが自分の肉を食べることと同じで、他に食うものがないときだけ食べればよい。普段は食べても役立たない。

ヒトの食物としては鳥類は哺乳類よりましで、魚類は鳥類に比べてさらによい。魚の油はエイコサメンタエン酸やドコサヘキサエン酸などの、室温で固まらない不飽和脂肪酸(ただしこれらの多価不飽和脂肪酸はもろ刃の剣で、過酸化脂質になり易いという欠点がある)を多く含んでいるからである。ヒトの食物はヒトからの遺伝的距離が離れているものほどよい。つまり、ヒトの食物としては植物が最高である。植物は、ヒトにとって最も大切な糖質(デンプン)の供給源だ。昨今、繊維、センイとかしましいが、センイを供給してくれるのは植物だけである。

ヒトは植物から必要なものを補給するように進化してきた動物である。しかし、ウシやヒツジと違って、草や木の葉のセルロースを利用するようにはならなかった。穀物、果実や根茎など、植物が光合成で蓄えたデンプンを利用することによって、生命を維持するようになった哺乳類の一種である。エスキモーとて例外ではない。彼らが移り住んだ地がたまたま食糧となる植物がなく、クジラなどの海棲哺乳類を捕食する以外に生きる術がなかっただけのことである。先にも述べたが、西洋人がウシを食べミルクを利用するのは、彼らがその風土に適応しただけのことに過ぎない。西洋人の食生活は、西洋という地にあって長い時間をかけて築き上げられた食体系である。しかし、西洋の地で発達した近代栄養学(タンパク・ビタミン・ミネラルという成分栄養学)を日本語にそのまま翻訳すべきではない。

牛乳を飲まないでカルシウムが充分に摂れるのか。この問いには「象を見よ、象は牛乳を飲んでいますか」と答えよう。アフリカ象の巨大な骨格、2メートルにおよぶ立派な牙。あれはみな草木に含まれるカルシウムから作られたのだ。大地に根を張る植物は土壌のカルシウムを吸収して根や葉に保有する。陸上の巨大な草食動物はみなこのカルシウムによってあのような巨体になった。ひとが食べる野菜もそれなりのカルシウムを含んでいる(表1)。太陽光の少ない地域の習性だろうか、西洋人は生野菜を好む。困ったことに、最近の若い女性も野菜サラダを好む。理由を尋ねると「生野菜は新鮮だから」という。生の植物の葉や茎はウシやヒツジの食べ物であって人間の食べるものではない。植物は生き物だ。植物の葉は、虫に食べられないように、保護膜(自然の農薬)で覆われている(1)。草木のセルロースを利用する草食動物は胃腸内の微生物がその保護膜も含めて分解してくれるのだ。野菜は、茹でこぼす、油通しする、漬け物にする、あるいは味噌汁の具にして食べるのが一番だ。古来、アジア人(日本人もしかり)は、野菜を茹でたり、油で炒めたり、漬け物にしたりして食べてきた。調理すればかさが減ってたくさん食べられる。野菜中のカルシウムは牛乳のカルシウムと同程度に吸収される(2)。

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参考文献

1. Ames BN, Profet M. Nature's pesticides. Natural Toxins 1:2-3, 1992.

2. Heaney RP, Weaver CM. Calcium absorption from kale. American Journal of Clinical Nutrition 51:656-7, 1990.

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