食育
〜子どもにバタ臭い食品を与えない〜

やや大きめの蒸しジャガイモ一つ(180グラム)は150キロカロリーで、タンパク2.7グラム(カロリー比7.1%)、脂肪0.2グラム(同1.1%)、糖質35.5グラム(同93.8%)でおやつとして優れた食品である。ジャガイモを油脂で揚げたポテトチップス(一袋75グラム)はおやつに必須の糖質を40.7グラム(カロリー比38.9%)含んでいるが、418キロカロリーもある。一袋のポテトチップスのタンパクは4.1グラム(カロリー比3.9%)であるが、脂肪は26.6グラム(同57.3%)も含まれている。極め付きの高カロリー・高脂肪食品である。
世のお母さん方よ、あなたの子どもにこのような食品をおやつとして買い与えてはならない。

最近、2型糖尿病の子どもが増えている。2型糖尿病は、かつて成人型糖尿病と呼ばれていた病態で、肥満と関係がある。この病態が増えているということは、太り気味の子どもが増えていることを意味する。平成13(2001)年度の学校保健統計調査報告書によると、12歳(中学1年)の男子の11.9%、女子の10.2%が肥満傾向児(性別・年齢別に身長別平均体重を求め、この平均体重の120%以上の子どもを肥満傾向児という)であった。子どもの頃に慣れ親しんだ味と香りがその後の食生活のありようを決める。一種の「刷り込み」である。生活習慣病を予防するには、なによりも子どもの食生活を見直す必要がある。

和食といえば米のメシと魚であり、洋食といえばパンとバター・ミルクである。戦前でも洋行帰りや知ったかぶりの知識人はパンをトースターで焼きバターを塗って食べていたが、圧倒的多数の日本人は味噌汁と漬けものでメシ(多くは雑穀入り)を食べていた。一般の日本人がミルクやバターを食べるようになったのは、戦後、とくに経済成長期に突入した1960年以降のことである。今でも洋風の顔だちや身ぶりをバタ臭いというではないか。洋風料理とはミルクやバター・クリーム・チーズなどの乳製品をふんだんに使ったものをいう。

日本人がミルクやバターなどの味と香りを受け入れた最大の理由は西洋に対する強い憧れ(劣等感の裏返し)である。アイスクリーム、ケーキ、チョコレート、ビスケットなどの洋菓子は文明(西洋文化)の味と香りがした。クリスマス・イブや誕生日に、母親は競ってデコレーションケーキをテーブル(食卓)に載せた。結婚披露宴で花嫁は、新婚生活の初仕事と称して巨大なデコレーションケーキにナイフを入れる(入刀式というのだそうだ)。男女共同参画社会を謳う今日では花婿も花嫁に手を添えて入刀を手伝う。ヨーロッパやアメリカでこんなばかばかしい儀式を行うものか。彼の地の披露宴では飲んで唄って踊る。戦前の日本でも同様であった。入刀式などというものは、どこかのホテルの披露宴係(ブライダルアドバイザーという)が、いかにして金を費わせるかと知恵をしぼって思いつき、それが全国に広がったのだ。披露宴で共同作業をどうしても披露したければ、「日本人が日本で行う披露宴だ、御飯(赤飯がいいだろう)に杓子(しゃもじ)を入れてみな」と言いたい。

保育園でも◯◯ちゃんの誕生日にはショートケーキが用意され、Happy birthday to you. Dear ◯◯ちゃんと唱うのだそうだ。小学生になれば、仲よしの友だちを招んで、デコレーションケーキに年齢に等しい数のロウソクを立て、やはりHappy birthday to you. Dear ◯◯ちゃんと唱う。日本で誕生を祝うなら赤飯にしなさい。牡丹餅(ぼたもち)もいいだろう。子どもが「ケーキ、ケーキ」と騒いだら、「そのようなものは日本のお祝いで食べるものではない」と言い聞かせてください。「◯◯ちゃんちでも△△ちゃんちでも、みんなケーキだ」と泣き喚いたら、折檻して孤高の喜びを教えてください。

クリスマス・イブ(12月24日の宵)には、クリスマス・ツリーを飾り、クリスマス・ケーキ(デコレーションケーキ)を食べ、クリスマス・プレゼントを交換する(子どもに買い与える)。あなたがキリスト教徒ならそれもよかろう。そうでなければカボチャ(冬至南瓜)か冬至粥(小豆粥)を食べよう。日本人の風習である。クリスマスは、もとをただせば、冬至の祭り(太陽の新生を祝う)がキリスト教化したものだ。

昭和29(1954)年に学校給食法が制定され、「パン+ミルク+おかず」が学童の昼食となった。吉田豊の「牛乳と日本人」(新宿書房、2000年5月)によると、「ご飯にするとお米はたくさん食べても、おかずは僅かしか食べなくなるので栄養のバランスが悪い。パンにすれば自然におかずを食べるようになる、と期待されたためのようだ。また、ご飯とミルクは合わない? というのも大きな理由であった」という。筆者の子どもの頃には「パンは残しても、ミルクは残すな」と先生に叱咤され、べそをかきながら牛乳瓶と格闘している同級生もいた。それでも「ミルクを飲めば、身体が丈夫になる、大きくなる」という言葉に励まされ、子どもの舌はミルクの匂いに慣れていった。

たしかに学校給食は日本人の嗜好に一定の変化を与えた。それにも増して日本人のバターの香りに対する慣れに大きな役割を果たした食品はアイスクリーム、クリームたっぷりのショートケーキやデコレーションケーキであった。なかでも、アイスクリームが止(とど)めを刺す。牛乳の臭いが嫌だという人でも、あの口の中でとろける滑らかな舌触りと芳香を嫌いだという人は少ないからだ。

ミルクを静置すると、乳脂肪が浮き上がって白い層をなす。あれがクリームである(最近のミルクはホモジナイズされているので、放っておいただけではクリームは分離しない。クリームを採るには遠心しなければならない)。クリームというのは水に脂肪が溶けた状態である。クリームを12-15度で強く撹拌すると脂肪塊が分離してくる。この脂肪塊がバターである。

クリームをベースに、全粉乳、脱脂粉乳、練乳などの乳固形分を加え、香りと甘みをつけて冷却したのが市販のアイスクリームである。アイスクリームは子どもが好む氷菓子に過ぎなかったが、1970年代にレデイー・ボーデンという高級アイスクリームが売り出されてから、大人も食べるようになった。かくして、大多数の日本人はクリームの香りと舌触りに慣れた。クリームやバターが料理やケーキづくりに用いられるようになり、洋風の味と香りが一般家庭にまで入り込んだ。

ミルク、クリーム、バターなどの洋風食品は高脂肪食品である。脂肪の含有量をカロリー比でみると、ミルクは51%、クリームは94%、バターは98%である。あの甘いアイスクリームでも40%の脂肪を含んでいる。脂肪を摂り過ぎると余分な脂肪は脂肪組織に直行する。もちろん、糖質も過ぎれば脂肪になる。しかし、糖質が脂肪になるにはエネルギーを消費する。したがって、等カロリーの食品であれば、高脂肪食は肥満を誘発する。よく、砂糖は肥満の大敵であると勘違いしている人がいる。砂糖1グラムは4キロカロリーなのに、バター1グラムは9キロカロリーだ。なぜ、砂糖が槍玉に上がるのか不思議である。

軽く1杯のご飯(100グラム)と6枚切り1枚のパン(60グラム)はいずれも160キロカロリーである。ご飯はコメに水を加えて炊いたものだが、パンをつくるにはバターを使う。1杯のご飯に含まれる脂肪は0.3グラム(カロリー比1.7%)に過ぎないが、1枚のパンは2.64グラム(同15%)の脂肪を含む。

ご飯の水分は60%もあるのに、パンには38%の水分しかない。パンはパサパサしていて、ミルクと一緒に流し込まなければ喉を通らない。ミルクは脂肪分50%強の高脂肪食品である。パンに5グラム程度のバターを塗れば、これはもう立派な洋風ブレックファストだ。パン2枚+ミルク200ミリリットル+バター5グラムの朝食は489キロカロリー、タンパク質17.8グラム(カロリー比14.6%)、脂肪17.0グラム(同31.3%)、糖質66.1グラム(同54.1%)である。一方、軽く2杯のご飯(200グラム)+豆腐とネギの味噌汁+きうりとなすのぬか漬け+1尾のいわしの丸干し(40グラム)という純日本風の朝食は486キロカリー、タンパク質18.0グラム(カロリー比14.8%)、脂肪4.6グラム(同8.5%)、糖質93.2グラム(同76.7%)である。日本食は、糖質が多く脂肪が少ない。

1960年以降に生まれた子どもは、おやつにアイスクリーム、ケーキ、クッキーなどの洋菓子を好んで食べた。親は、誕生日とクリスマスにはデコレーションケーキを与え続けた。かくして日本人はクリームとバターの味と香りに慣れたのである。

和菓子の代表として練り羊羹、洋菓子の代表としてショートケーキを取り上げてみる。練り羊羹の50グラムはほぼ150キロカロリーで、1.8グラムのタンパク(カロリー比4.9%)、0.1グラムの脂肪(同0.6%)、35グラムの糖質(同94.6%)を含む。一方、ショートケーキ50グラムは172キロカロリーで、3.7グラムのタンパク(カロリー比8.6%)、7グラムの脂肪(同36.6%)、23.6グラムの糖質(同54.9%)を含む。和菓子は洋菓子に比べて圧倒的に糖質が多い。

子どもは活発に動き回るから午後2-3時ごろ(八つ)には腹が減る。腹が減るとグッタリして元気がなくなる。ブドウ糖(グルコース)を唯一のエネルギー源とするする脳の働きが悪くなるからだ。だらら、脳を手っ取り早く働かせるためには糖質がよい。つまり、おやつとしては糖質の多い和菓子の練り羊羹(糖質35グラム)は洋菓子のショートケーキ(同7グラム)に勝る。もちろん、おにぎりは格好のおやつ(脳にエネルギーを送るための食べもの)である。手に塩をつけて朝ご飯の残りをにぎる。筆者の子どもの頃はこれを「塩むすび」と呼んだ。学校から家に帰るとテニスボール大の塩むすびが待っていた。小さなおむすび一つ(100グラム)は37グラムほどの糖質を含む。一時的に脳にグルコースを供給するのに十分である。

小さいときからミルクとバターの味と香りに慣れた子どもはおやつとしてチョコレートなどの洋菓子を好んで食べる。30グラムのミルクチョコレートは170キロカロリーで、タンパク質2.2グラム(カロリー比5.3%)、脂肪10.2グラム(同54.9%)、糖質16.6グラム(同39.8%)を含む。大変な高脂肪・低糖質食品である。大切な糖質はおむすびの半分もない。

マラソン選手は途中で給水びんに手をのばす。走行前半のボトルには水かスポーツドリンクが入っているが、後半のボトルには砂糖、ジュース、蜂みつなどの甘いものが入っている。脚の筋肉にエネルギーを送るためではない。脳にグルコースを送って、思考力、判断力、闘争心を維持するのだ。つまり、あのボトルはマラソン選手のおやつである。

やや大きめの蒸しジャガイモ一つ(180グラム)は150キロカロリーで、タンパク2.7グラム(カロリー比7.1%)、脂肪0.2グラム(同1.1%)、糖質35.5グラム(同93.8%)でおやつとして優れた食品である。ジャガイモを油脂で揚げたポテトチップス(一袋75グラム)はおやつに必須の糖質を40.7グラム(カロリー比38.9%)含んでいるが、418キロカロリーもある。一袋のポテトチップスのタンパクは4.1グラム(カロリー比3.9%)であるが、脂肪は26.6グラム(同57.3%)も含まれている。極め付きの高カロリー・高脂肪食品である。世のお母さん方よ、あなたの子どもにこのような食品をおやつとして買い与えてはならない。

テレビ画面で見映えよく見えるアイドルと言われる女性たちを間近で見ると、腕も脚も胴も病的に細い。困ったことにテレビのブラウン管を通すとあの極細の身体が結構きれいに見えるというのだ。身長160センチの女性に理想の体重を訊ねると40キロだという。160センチで40キロの女性は病的な痩せ(BMI=15.6)である。このような状態を羸痩(るいそう=疲れやせること。衰えやせること。内分泌障害・脳疾患などにより脂肪組織が消失して極度にやせること[広辞苑])という。身長160センチの女性の体重は少なくとも55キロが望ましい(BMI=21.5)。

若い女性に「デブ」はもちろん「太い」や「肥満」は禁句だ。周囲の何気ない一言によって体重に過敏になる。客観的には痩せているのに、体重が増えることに対して強い恐怖を抱く人たちがいる。圧倒的に若い女性に多い。まずは食事制限(ダイエット)を試みる。しかし、ダイエットは辛いし効果も薄い。「食べても吐けば太らない」と聞いて、食べては吐き、吐いては食べる。摂食障害である。食べるときは半端ではない、無茶食いをする(過食症)。食べものを買う金がなくなれば万引きにも走る。吐くときは、喉に指を入れ舌根を押さえて吐く。ときには食べたものを下の口から強制排出するために、下剤を使い浣腸する。

竹村道夫氏は「摂食障害の基礎知識」(http://www2.gunmanet.or.jp/Akagi-kohgen-HP/ED.htm)において摂食障害の発症に関してつぎのように述べている。「家庭的問題や人生上の困難にもめげず、努力によってある程度の成果を勝ちとってきていた十代の少女が、あるちょっとした挫折を体験します。少女は自分の能力や容姿へのこだわりを持つようになり、その解決努力をするうちに、体重が減少します。スリムな体を維持しようとして次第に食習慣が異常になります。それに対応して身体症状や様々な合併症状も出現します。またこのような状況では、極めて体重増加を起こしやすいので、少女はますます肥満の恐怖に捕らわれるようになります。人によっては、拒食から過食・嘔吐サイクルに入ります。いずれにしても、無理なダイエットは失敗に終わり、患者は混乱状態から無力感に陥ります。患者はますます厳しく食事をコントロールしようとして悪循環になります。また、この病気を知らない家族はしばしば「世界には、飢えている人もいるのに」というような道徳的説教をしたり、患者の行動を「わがまま」と決めつけたり、ときには脅したり、強制的に食べさせようとしたりして、事態を一層悪化させます」。また、竹村氏によると、「日本の摂食障害の推定(受療)患者数は、1993年、人口10万人対4.9人から、98年、18.5人と急増しています(厚生省研究班)。日本では、テレビが普及してきた1960年代に摂食障害が、コンビニエンス・ストアーが増えてきた75年以降に過食症が増えてきた」という。

摂食障害に陥った女性は精神科医や心療内科医を訪れる。医師の関心は「どうのように食べたか」にあり「何を食べたか」にはない。思春期になると、女性の身体は丸みをおびて(脂肪がついて)月経が始まる。性ホルモンの分泌が加速するこの時期には何を食べても太るが、脂肪の多い洋菓子や洋風料理は身体に一層の脂肪をつける。最近のバタ臭い食品(乳製品)を使った洋菓子や洋風料理は、間接的に、摂食障害を誘発する。

15歳以下(思春期あるいは前思春期)の子どもの食生活は心身の発達とその後の人生に極めて大きな影響を与える。お母さん方、子どもにバタ臭い食品を与えないでください。「喉が乾いたら水の替わりにミルクを飲みなさい」などと無茶なことをおっしゃらないでください。保育園・幼稚園・小学校の先生方、子どもに牛乳飲用を強制しないでください。なぜ、ミルクの多飲が悪いのかを詳しく知りたい方は下記ホームページの「提案ー安全な子どもミルクをつくる」を参照してください。

本編記載のカロリー等の数値は、ポテトチップス(成分表示による)を除いて、香川芳子監修「科学技術庁資源調査会・編<五訂日本食品標準成分表>による五訂食品成分表2002」女子栄養大学出版部、2002年1月 から算出した。


  トップ  

ご意見