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砂糖は炭水化物(糖質)以外の栄養素を全く含んでいない。糖尿病あるいは糖尿病の疑いと診断された人に、「食生活で気を付けていることはありますか」と尋ねるとほとんどすべてのひとは「できるだけ砂糖を控えるようにしている」と答える。まるで砂糖を控えることが食事療法の中心であると考えているかのようである。医師も糖尿病患者は砂糖を極力避けるべきであると信じて疑わない。砂糖とて炭水化物である。フランツ(Franz)の論説(1)に基づいて、砂糖と糖尿病について触れておく。 |
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糖尿病あるいは糖尿病の疑いと診断された人に、「食生活で気を付けていることはありますか」と尋ねるとほとんどすべてのひとは「できるだけ砂糖を控えるようにしている」と答える。まるで砂糖を控えることが食事療法の中心であると考えているかのようである。 糖尿病患者は砂糖を摂ってはならないのか。従来は砂糖は絶対にダメといわれていたが、最近は体重と血糖の管理がうまく行われている患者なら多少の砂糖は構わないということになった(2)。なぜ、このように砂糖に対してゆるやかに対応するようになったのだろうか。糖尿病患者は砂糖を摂ってはならないという従来の意見は、砂糖は速やかに吸収されるから高血糖を来たすと信じられてきたからである。しかし、本当のことをいえば、この主張を支持する証拠はほとんど何もなかった。 砂糖はグルコースとフルクトースからなる2糖類であるから、澱粉などに比べて速やかに消化され、吸収されると信じられてきた。この根拠のない説明がなんとなく意味がありそうに思えたので、誰もそのように信じて疑わなかった。糖尿病患者に対してはとにかく砂糖を含んでいるものは避けるようにと指導することがよしとされてきた。砂糖そのものだけでなく砂糖を含んでいる菓子類、清涼飲料水などの食品も摂らないようにと指導してきた。医師によっては、天然の糖類を含む果物や果汁もいけないという人もいた。いずれも速やかに血糖値が高くなり、インスリンの必要量が多くなると考えられていたからである。これに対して、米飯、パン、いもなどの多糖類は吸収に時間がかかり、血糖値もそう高くならないし、インスリンの要求量も多くならないから糖尿病患者には適した食物であるとされてきた。 糖尿病患者に対する砂糖禁止説に最初に挑戦したのはクラポ(Crapo)であった(3,4)。クラポは調理(加熱)した澱粉(米、ジャガイモ、コーン、パン)と砂糖およびグルコースを与えて血糖値を比較した。この研究によって明らかになったことは、健康者、耐糖能異常者、糖尿病患者のいずれにおいても、与える糖質量が等しくても糖質源によって食後の血糖値が異なるということであった。血糖値は糖質源とともに糖質の総量に依存するが、血糖値が砂糖によってとくに高くなるというようなことはなかった。 引き続いて、バントル(Bantle)も同様な結果を発表した(5)。バントルは、等量の糖質、タンパク質、脂肪を含み、糖質源だけが異なる(グルコース、果糖、砂糖、イモ、ムギ)朝食を与えた。実験志願者は健康者と糖尿病患者であった。その結果、砂糖を含む食事による血糖上昇はイモ、ムギ、あるいはグルコースを含む食事による上昇よりも小さかった。果糖を糖質として含む食事による血糖上昇は砂糖による血糖上昇よりもさらに小さかった。どの糖質でもその代謝に必要なインスリン量は同じであった。バントルの結論は、糖質量が等しければ、砂糖が他の糖質源に比べて血糖が速やかに上昇させることもないし、より高い血糖値をもたらすこともない、というものであった。 この研究はたった一回の食事(朝食)の結果であり、もっと頻回に砂糖を与えれば違った結論が得られるかも知れないという批判があった。そこでバントルは、砂糖(総摂取エネルギーの23%)、果糖(21%)、あるいは糖質がすべて澱粉からなる食事を糖尿病患者(1型と2型)に8日間与えて血糖の推移を比較した(6)。これらの食事は等カロリーで、糖質55%、タンパク質15%、脂肪30%からなっていた。砂糖と澱粉の間には差は認められなかった。果糖を糖質源として含む食事を食べた後の血糖値は砂糖食と澱粉食よりも低かった。さらに、砂糖食と果糖食が澱粉食に比べて中性脂肪を高めるということもなかった。 クラポやバントルの研究は直ちにマスコミを駆け巡り、糖尿病に関するかぎり砂糖を摂ることはイモを食べることと大きな違いはないいうことになった。(ただしここで注意しなければいけないことは、砂糖50グラムと同量の糖質をイモから摂るには3個の中位の大きさのジャガイモを食べなければならないということである。) さらに長期間の砂糖の影響をみた研究がある(7)。この研究には12人の1型糖尿病患者と11人の2型糖尿病患者が参加した。これらの患者は糖質53%、脂肪27%の食事を摂った。これらの患者に砂糖を含まない食事と45 gの澱粉を45 gの砂糖で置き換えた食事(したがって1回の食事に砂糖15グラム)を6週間摂らせた。試験食6週間の最終日に午前8時30分から午後8時30分まで血糖値を観察した。この12時間の血糖値には砂糖群と非砂糖群で差を認められなかった。砂糖はコレステロール、中性脂肪、血漿インスリン(2型糖尿病)にも影響を与えなかった。 砂糖摂取量に75倍(220グラム対3グラム)もの開きのある糖質50%、脂肪35%の食事を薬剤治療をしていない2型糖尿病患者に1ヵ月間与えた研究がある(8)。その結果、砂糖は空腹時血糖値、食後血糖値、24時間の尿糖排泄量、糖化ヘモグロビン、中性脂肪、コレステロールのいずれにも影響を与えなかった。中性脂肪の高かった(150 mg/dl以上)12人の患者では砂糖の多い食事によってかえって食後の中性脂肪が低くなった。 上述の研究ではいずれも砂糖を他の糖質に置き換えていた。もし、糖尿病患者の食事に砂糖を余分に加えて与えたらどうなるだろうか。この疑問に答えるべく、よく血糖管理の行われている2型糖尿病患者に6週間、45グラムの砂糖(3回の食事にそれぞれ9グラム、食間の飲みものに5グラム)を与えた研究がある(9)。砂糖を与えないときには、アスパルテームで砂糖と同程度の甘味をつけた。その結果、砂糖の添加は血糖管理、耐糖能、血中脂肪、インスリン作用に何の悪影響をもたらさないことがわかった。しかし、この研究の報告者はつぎのような警告を発している。「この研究は砂糖だけを添加したものであって、ケーキなどにもあてはまるわけではない。ケーキのような甘味の強い食品は砂糖と同時に多量の脂肪を含んでいるからである」。 糖質の一部を砂糖で置換した食事の影響を10人の小児1型糖尿病患者において観察した研究もある(10)。砂糖をほとんど含まない食事(砂糖エネルギー2%)と砂糖を含む食事(砂糖エネルギー10%)の血糖におよぼす影響を2日間にわたって検討したのである。血糖値はいずれの食事でもほぼ同様の傾向を示した。研究担当者は、「総エネルギーの10%を砂糖から摂ることはかなり困難である」と述べている。 今まで述べてきた報告の大部分は食事中の澱粉を砂糖で置換している。砂糖を食事の一部としてではなく、おやつとして摂ったらどうなるだろうか。この疑問に答えるために、午前中に20グラムの砂糖、果糖、あるいは澱粉からなるおやつを1型糖尿病患者と健康者に与えて、血糖値を30分毎に2時間測定する実験が行われた(11)。いずれのおやつを与えても血糖値には差がなかった。この研究の担当者は、砂糖を含むおやつを制限する必要はないし、果物がかならずしも望ましいおやつとはいえないと結論している。 糖尿病キャンプに参加した16名の1型糖尿病患者について、砂糖を含むおやつの血糖値に与える影響を調べた研究がある(12)。8名が砂糖で甘味をつけたおやつを1日2回食べ(砂糖換算で48グラム、総摂取エネルギーの7%に相当する)、他の8名はアスパルテームで甘味をつけたおやつ(砂糖は総エネルギーの1%)を食べた。このようなおやつを5日間続けても血糖値には砂糖群とアスパルテーム群で差はみられなかった。 公正を期するために砂糖有害説にも触れておかなければならないだろう。クールストンは、砂糖が総摂取エネルギーの1%と16%を含む食事を2型糖尿病患者に与えたところ、高砂糖食によって血中中性脂肪が高くなり(190 mg/dlから220 mg/dl)、かつ血糖値もわずかに高くなったという研究結果を報告している(13)。 クールストンはさらに高糖質(60%)/低脂肪(20%)で砂糖が総摂取エネルギーの10%を占める食事と低糖質(40%)/高脂肪(40%)で砂糖3%の食事を15日間2型糖尿病患者に与えた(14)。空腹時の血糖値とインスリン濃度には差を認めなかったが、高糖質/高砂糖食によって血糖とインスリン濃度が段々高くなり、24時間の尿糖排泄量が増えた。これに加えて、空腹時の血中中性脂肪が40 mg/dl、食後の中性脂肪が50 mg/dl高くなり、HDLコレステロールが37 mg/dlから34 mg/dlに減少した。クールストンは砂糖を摂取するときには糖質と脂肪の摂取量を考慮に入れるべきであると強調している。しかし、クールストンを除く研究者はいずれも、砂糖が中性脂肪を増やすことはないといっている(6-8,15,16)。クールストンのボスであるリーヴン(高糖質食に反対している糖尿病研究の大御所)は、糖尿病患者の栄養問題を総括して、砂糖が総摂取エネルギーの10%以下であれば糖質あるいは脂質の代謝に悪影響を与えないと述べている(17)。 糖尿病患者は一般に砂糖を摂取することに対して何か悪いことをしているような罪の意識を抱いていることが多い。ある研究者はこの点についてつぎのように述べている(11)。「糖尿病患者は砂糖を避けるべきであるという考えが一般大衆だけでなく、医師、栄養士、看護婦に深く根をおろしている!この考えに反対するものは異端者とされてしまう」。 糖尿病患者の中には砂糖を含まない食品ならどんなものをどんなに食べても構わないと思っている人たちがいる。たとえば、ケーキは、砂糖由来のカロリーは30%以下なのに、食べてはならないものの筆頭に挙げられる。ケーキの70%以上のエネルギーは砂糖以外の糖質と脂肪に由来している。人工甘味量で甘くした食品は、砂糖を含んでいないから、いくらでも食べられると誤解している人もいる。砂糖も澱粉も血糖値に関しては本質的な差はないということを理解していない人が多いのは残念だ。 クラポが述べているように、同じ澱粉であっても食品によって(ご飯、パン、イモ)血糖上昇作用は異なるのであって、単に糖質が砂糖であるか澱粉であるかということによって血糖上昇作用が決まるものではない(18)。糖尿病患者は砂糖を含む食品に対して従来よりも寛容な態度で接してよい。砂糖はあらゆる食品に含まれている食品添加物であって、糖尿病患者が砂糖を完全に避けることは現実には不可能であり、砂糖をうまく受け入れることの方が現実的である。もちろん、砂糖を多量に含む食品に注意を払うことは必要である。砂糖を多く含む食品は同時に多量の脂肪を含むことが多いからである(ケーキ、チョコレートなどの洋菓子)。 砂糖をたくさん食べると糖尿病になるという証拠は何一つない。大量の砂糖によって糖尿病が起こると主張する研究者もいた。ユドキン(Yudkin)とコーヘン(Cohen)である(19,20)。たしかに、豊かな国では砂糖の消費量が多い。ユドキンは各国の砂糖の消費量を横軸に、糖尿病死亡率を縦軸に目盛ると右上がりの直線となることから、砂糖は糖尿病の原因であると強調した(19)。一見、糖尿病は砂糖消費量と関係があるように見える。しかし、これは、砂糖の消費量の多い国には肺がんが多いから、肺がんの原因は砂糖であるというのと同じである。 この砂糖糖尿病説を直接支持する証拠が動物実験で得られたとされている(20,21)。コーヘンは、ラットに砂糖を大量に与えて(総摂取エネルギーの72%)、糖尿病ラットを作成したと報告した。しかし、これは実験結果の解釈の誤りによるものである。ラットは72%もの大量の砂糖を含む食餌は食べない。食餌の摂取量が減るために起こる耐糖能の低下(飢餓糖尿病)を糖尿病と勘違いしたのである。 砂糖が糖尿病だけでなく健康に悪影響をもたらすという誤解は一般大衆のみならず医師にも浸透し、その根は深い。砂糖悪者説には、砂糖は糖質以外の栄養素は全く含んでいない食品であるという消極的悪者説と、砂糖がグルコースと果糖からなる2糖類で、この果糖が悪いという積極的悪者説がある。この2説はジャーナリズムを通じて一般人に大きな影響を与えた。代表的なものを挙げると、消極的悪者説はダフテイー(William Dufty)の「Sugar Blues」(邦訳:田村源二訳「砂糖病-甘い麻薬の正体」日貿出版)で、積極的悪者説はユドキン(John Yudkin)の「Pure White and Deadly」(邦訳:坂井友吉他訳「純白、この恐ろしきもの」評論社)である。精製した砂糖が他の栄養素を含んでいないからよくないという主張はそれなりに理解できる。たしかに、市販の精製した砂糖はC12H22O11というほぼ純粋な果糖とグルコースからなる2糖類で、タンパク質もビタミンもミネラルも含まれていない。砂糖水だけではヒトは生命を永らえることはできない。しかし、砂糖と一緒に、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラル、繊維を過不足なく摂っていれば(すなわち澱粉のすべてを砂糖で置き換えた食事)、ヒトはどうということなく生活できる。体内に入った澱粉はすべてマルトース(麦芽糖)を経てグルコースに消化される。砂糖(シュークロース)とマルトースは、前者が果糖を含んでいるということだけが異なっている。 果糖はグルコース、砂糖、澱粉に比べると血糖上昇作用が小さい(3,5,22)。その理由は、果糖が比較的ゆっくり腸管から吸収され、肝臓で三炭糖に分解されるためと考えられている。しかも、果糖は砂糖よりも甘味が強く、その初期代謝はインスリンに無関係である。したがって果糖は糖尿病にやさしい甘味料であるいうことができる。しかし、この数十年、糖尿病患者を扱う医師の多くは、患者に果糖、砂糖などの単純糖質をできるだけ控えるように勧告してきた(23,24)。この勧告は、単糖類は速やかに血糖を上げる、乱用され易い、脂質代謝に影響を与えて動脈硬化を起こす可能性がある、などによるものであった。クラポも、果糖が乳酸、ピルビン酸などの三炭糖に分解するので、果糖の大量摂取は乳酸アチドーシシや高尿酸血症を起こすことがあると警告している(25)。砂糖とは違って、糖質のすべてを果糖で置き換えた食事はヒトのみならず他の動物にも有害である。 果糖は本当に糖尿病患者に悪いのかどうかを検討した研究がある(26)。この研究は、果糖が、肥満した2型糖尿病患者の血糖管理および脂質代謝におよぼす影響を12週間にわたって観察したものである。18人の糖尿病患者をランダムに2群に分け、果糖群には米国糖尿病協会が推奨する糖尿病食に加えて1日60グラムの果糖を与え、非果糖群には糖尿病食のみを処方した。各群の2名は経口糖尿病治療薬を服用しており、残りの患者は全員インスリン治療を受けていた。食事に果糖を添加した果糖群の空腹時血糖値は次第に低下した。実験終了時(12週後)には非果糖群(果糖不添加食)の空腹時血糖値は逆に上昇した。また、糖化ヘモグロビンは果糖の添加によって低下し、不添加によって上昇した。果糖群の空腹時中性脂肪は非果糖群に比べてわずかに低かったが、果糖は中性脂肪の値に大きな変化を与えなかった。また、いずれの群においても、血清の総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールの値に変化は認められなかった(果糖群の食事は果糖を加えた分だけ高糖質食になっていることに留意して欲しい)。 肥満した糖尿病患者が果糖、グルコース、砂糖などを摂ってよいかどうか意見が分かれている。反対論者は、このような単糖類を摂ると、必然的に糖質の摂取量が増え、糖代謝のみならず脂質代謝にも影響を与え、体重の増加を招き、糖尿病患者の動脈硬化を加速するという(27,28-30217,264-266)。しかし、果糖を比較的長期間にわたって与えても血糖管理と脂質代謝に影響を与えないという報告が多い(26,31-33)。果糖によってむしろ空腹時血糖が下がり、血糖管理は容易になる。 しかし、果糖によってヒトおよび動物実験で脂質代謝に悪影響を与えるという報告もある(22,28,30)。一歩譲って、果糖によって中性脂肪が高くなるとしても、高中性脂肪血症が果たして動脈硬化の原因になるかどうか議論の分かれるところである。コレステロールとは異なり、高中性脂肪血症が動脈硬化の独立した危険因子であるとする疫学的研究はほとんどない。健康者では、果糖は血清脂質に影響を与えない(34)。また、糖尿病の有無にかかわらず、高中性脂肪血症者における中性脂肪の分解と生成は数週間の果糖の投与によって変わらないという報告もある(33)。 前に書いたように、ヒムスワースは高糖質食によって耐糖能が改善することを見いだした(35)。ヒムスワースの用いた糖質は澱粉であるが、同じような結果が砂糖でもグルコースでも得られたわけで、澱粉とグルコースあるいは砂糖の間には本質的な差はない。しかし、健康者であれ糖尿病患者であれ、無制限に大量の砂糖を食べてはならない。大量に食べれば、砂糖でなくてもどんな食品でも血糖に悪影響を与え、かつ体重が増える。脂肪、油脂および砂糖は高エネルギー食品であり、いずれもその過剰消費に気をつけなければならない(当然のことながら、カロリーが同じであれば砂糖による体重増加は脂肪による増加よりも少ない)。本論は、決して砂糖をたくさん消費するように勧めているわけではなく、糖尿病患者に適度の砂糖を上手に用いることを勧めているのである。糖尿病患者が家族や友人が食べているようなものを食べた方が糖尿病患者の血糖管理を行い易い。「糖尿病患者がある種の罪の意識を感じながら砂糖を含む食品を口にすることは最悪である」ということを強調しておきたい。 参考文献1. 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