日本の少子化問題

ー少子化の遠因は学校給食ー

1. 生まれる子どもの数が半分になってしまった

日本の合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産む子どもの数。この数値が2を超えていないといずれ人口が減少する)が2005年に1・26になってしまった(図1)。

1950(昭和25)年には223・8万の子どもが生まれた。この年の出生率(人口1000対)は28・1、合計特殊出生率は3・65であった。ところが、55年後の2005(平成17)年に生まれた子どもは106・3万、出生率は8・6、合計特殊出生率は1・26になった。生まれる子どもの数は半分に、合計特殊出生率は3分の1になってしまったのである。日本の将来に暗い影を投げかけているこの少子化は青年の非婚・晩婚という社会現象が主因であろう。しかし、一方で、日本人の生殖能力が落ちたことが根底にあるのではないかという疑いもある。

1960年以降で子どもがもっとも多く生れたのは1973(昭和48)年であった。この年には209万1983人の子どもが生れた(第2次ベビーブーム)。しかも人工妊娠中絶が70万532件あったから、約280万人の女性が妊娠していたことになる(表1)。ところが30年後の2004(平成16)年に妊娠した女性は半分の約141万人(生れた子どもは111万721人)になってしまった。妊娠可能年齢(15〜49歳)の女性がそんなに減ったわけではない。3003万人から2837万人へと僅かに5・5%減少しただけだ。だから、15〜49歳の女性1000人当たりの妊娠数も1973年の92・98から2004年の49・78へとほぼ半減した。

2. 日本人の繁殖力が低下している

同期間に人工妊娠中絶も半減しているから、つまるところ、日本の女性が妊娠しなくなったのである。どうしてか。男女が相見(あいまみ)える機会が少なくなったのか。日本人は子づくり作業(性行為)を行わなくなったのか。あるいは避妊が上手になったのか。1999年に厚生省が経口避妊薬(低用量ピル)を医薬品として承認したから、ピル解禁が妊娠を抑制したのだろうか。しかし、ピルによる避妊のためには、女性が毎日忘れずに避妊薬を服用しなければならない。ピルを入手するには医師の処方箋が必要である。賢い日本女性はこのような面倒くさいうえに危険を伴うものに手を出さない。妊娠が減った理由として、日本人が子づくり作業をしなくなったことと日本人の生殖能力(女性を妊娠させる男の能力および女性の受胎能力)の低下も考慮に入れなければならない。

前思春期(9〜12歳)はヒトの精巣発育に重要な時期で[1,2]、外来因子の内分泌撹乱作用を最も受けやすい時期でもある[3]。思春期(12〜15歳)における精巣のセルトリ(Sertoli)細胞の数によって成長してからの精巣の大きさや精子数が決まる。ラットなどの動物ではセルトリ細胞の数は胎仔期に決まってしまうが[4]、ヒトでは胎児期のみならず思春期を通じてセルトリ細胞の質的および量的成長が起こる[1,2](図2)。
セルトリ細胞は、精子のもとになる精原細胞から精子を育成する精子 養成細胞である。この細胞に養われて精原細胞→精母細胞→精子細胞→精子の順に精子がつくられる。


3. 牛乳によっての精巣の発育が悪くなる

妊娠しているウシから搾られている現代の牛乳は相当量の女性ホルモン(卵胞ホルモン<エストロゲン>と黄体ホルモン<プロゲステロン>)を含んでいる(牛乳は妊娠したウシから搾られている)。言い換えれば、現代の牛乳は妊娠したウシの白い血液である。前思春期の少年では体内のエストロゲン濃度が極めて低いので、牛乳中のエストロゲンが12歳以下の少年の性成熟に影響を与える可能性がある[3]。牛乳中の二つの女性ホルモンの比率は低用量避妊ピルの比率に似ている。つまり、極論すれば、前思春期の少年が大量の牛乳・乳製品を飲んだり食べたりすることは低用量避妊ピルを毎日服用しているようなものである。

日本人も含めてアジア人の牛乳飲用の歴史は欧米人に比べてはるかに短い。牛乳文化との接触期間が短いから、アジア人の牛乳に対する抵抗力は整っていない。そのせいだろうか、アジア人の精巣は欧米人に比べて小さく精巣当たりのセルトリ細胞も少ない[5]。さらに、セルトリ細胞の機能が低く外来のホルモンによって障害を受けやすい。性腺発育途上の少年に強要されるホルモン入り牛乳が、日本人男性の生殖能力に悪影響を与えている可能性を否定できない。

かねて、精子の質と量はデンマークの男性が世界最低と言われていた。ところが最近(2006年)日本で行われた調査で、川崎に在住する日本人の精子が質・量ともにデンマーク人より劣っているという結果が報告された[6](表2)。この調査は、川崎在住の日本人男性とヨーロッパの4都市(デンマークのコペンハーゲン、フランスのパリ、イギリスのエジンバラ、フィンランドのトゥルク)の男性との間で精子の質と量を比較したものである。日本人男性はすべての精子パラメターにおいてヨーロッパ男性に劣っていた。

日本人の性的ポテンシャルが落ちている。朝日新聞は2001年6月下旬、学識経験者の監修を受け、インターネットを使って20〜50代の男女各500人の既婚者を対象にアンケート調査を実施した(朝日新聞2001年7月4日)。その結果、30代の4人に1人は仕事や育児に追われて「セックスレス」であった(日本性科学会は、病気など特別な事情がないのに1ヶ月以上性交渉がないカップルを「セックスレス」と定義している)。朝日の調査では、夫婦間の性交渉が「年数回程度」「この1年全くない」が全体で28%に上った。30代で26%、40代で36%、50代で46%であった。20代でも月1回程度が18%、年数回程度が9%、この1年全くないが2%で、月1回以下が29%もあった。日本人にはセックスより他に愉しいことがあるからかも知れないが、日本人の繁殖力(男の生殖能力)が衰えてしまったのだと考えることもできる政府がいくら「産めよ増やせよ」と叫んだところで生まれる子どもの数が増えるはずがない、そもそも子づくり作業を行わないのだから。日本人は忙しすぎるのか。働きすぎなのか。一般の人間関係のみならず、男女関係まで希薄になってしまったのか。


4. 不妊治療が増えている(乳・乳製品によって女性の受胎力が落ちる)

妊娠数の減少をすべて男の責任に帰することはできない。上述のように日本人の精子が質・量ともに世界最低であっても、20代の女性なら受胎できる。しかし30代後半〜40代の女性の受胎には困難が伴う。乳・乳製品のエストロゲンとプロゲステロンの比率は経口避妊ピルのそれにほぼ等しい。健康によいからと乳・乳製品をたくさん飲みたくさん食べながら(身体が妊娠と錯覚する)、不妊治療を受ける女性の姿は痛ましい。多量の乳・乳製品を毎日摂りながら不妊治療を受けるのは、低用量経口避妊ピルを服用しながら不妊治療を受けるようなものだ。子どもを望んでいる女性が不妊治療を考慮するようになったら、まずは1年間一切の乳・乳製品を止めてみることだ。日本人が乳・乳製品を止めることは良いことずくめで、身体に悪いことは何一つないのだから

日本では7カップルのうち1カップルが不妊といわれている(堤 治『授かる』朝日出版社、2004年10月)。日経新聞(2006年6月26日)によると、「2003年に不妊治療を受けた人は約46万人と、4年前の1・6倍。新生児の65人に1人は体外受精」である。2003年の出生は112万3610であったから、この年に体外受精で生まれた子どもは1万7300人(1・54%)ほどになる。体外受精ならずとも、第三者の関与(排卵誘発剤の使用、人工授精など)によってやっと生まれた子どもの数も多いだろう。


5. デンマークは生殖補助技術によって人口を維持している

かつて『少子化をのりこえたデンマーク』(滝沢雅彦・著、朝日選書690、朝日新聞社、2001年12月)と讃えられたデンマークで大変なことが起こっている。人口540万人のこの国で年間約6万人の子どもが生まれる。2002年の記録によると、生まれた子ども6万4149人のうち3955人(生まれた子どもの16人に1人、6・23%)が人工授精、体外授精、顕微授精などの医療の介助によって生まれた(単なる排卵誘発剤の使用によって妊娠・出産にいたったケースは記録されていない)[7]

正常精子が9%未満になると「生殖能力が劣っている」(subfertility)と判断される[8]。男性生殖学の第一人者であるデンマークのスカッケベック(Skakkebaek)博士によると[9]、デンマーク青年の67%が「生殖能力が劣っている」と判定されるという。博士は、デンマークにおける不妊の増加は単なる社会的要因によるものではなく、外因性内分泌撹乱物質(いわゆる環境ホルモン)による男性生殖能力の低下を考慮すべきだと強調している。1993年にランセット(Lancet)に投稿した論文[10]では環境ホルモンの一つとして乳・乳製品を挙げていたのに、スカッケベック博士はこの新しい論文[9]では乳・乳製品のホルモン作用に全く言及していない。WTOで敗訴してもアメリカ・カナダ産牛肉(肉牛の肥育に6種類の天然・合成の性ホルモンが使われている)の輸入を断固拒否するEU(欧州連合)の姿勢を支えた博士が牛乳中ホルモンの危険性を知らないはずがない。事実、ス博士は、肉牛の肥育に性ホルモンを使うアメリカ産牛肉と精子数の減少の関連性を指摘する論文[11]の共著者となっている。
肉牛(去勢オス)の肥育に用いられるホルモン剤はエストラジオール(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)、テストステロン(男性ホルモン)、およびこれらの合成型のゼラノール、トレンボロン、メレンゲステロールの6種類である。ホルモン剤を使うことによって飼料効率がよくなって体重が増え、肉質が柔らかくなるといわれている。

ホルモンは血流に運ばれて標的組織に達する。したがって、ホルモンが存在するのは血液であって肉ではない。前に述べたように、牛乳は妊娠牛の「白い血液」である。問題は牛肉よりもむしろ牛乳にある。しかし、酪農王国のデンマークで「牛乳によって生殖能力が落ちた」という見解を述べることは日本で「コメのメシによって生殖能力が落ちた」と言うようなものである。スカッケベック博士の苦しいところだ。牛乳問題はますます深刻かつ複雑である。因みに、日本は現代酪農の範をデンマークに求めた。
ただし、食肉用に屠殺された乳牛(メス)およびホルモン処理された去勢オスの牛肉の脂肪には相当量の脂溶性の性ホルモンが含まれているものと推察される。


6. 最近の日本も生殖補助技術(不妊治療)によって出生数が増えている

2005(平成17)年に1・26まで落ち込んだ日本の合計特殊出生率は、2006年1・32、2007年1・34、2008年1・37、2009年1・37とここ数年連続して上向いている。しかしこれは一過性のものであろう。社会的支援によって一時的に出生率が上昇することはすでにスェーデンやデンマークで観察されている。前述のように、デンマークは生殖補助技術によってかろうじて合計特殊出生率1・7〜1・8を維持している。

女性には妊娠適齢期があり、35歳を超えると女性の妊娠・出産は次第に難しくなる。2005(平成17)年に比べて2008(平成20)年に出生数が増えた。詳しく述べると、2005年に生まれた子どもは106万2530人であったが、2008年には109万1156人の子どもが生まれた。出生数は2005〜8年の3年間に2万8626人増えた。しかし、妊娠力の強い35歳未満の女性から生まれた子ども数で比較すると、2008年のほうが2万56人も減っている(2005年の88万8736人に対して2008年は86万2680人)。一方、35歳以上の女性から生まれた子どもは2008年のほうが5万4680人も増えている(2005年の17万3788人に対して2008年は22万8468人)。すなわち2008年に出生数が増えたのは妊娠力の弱い35歳以上の女性から生まれる子どもが増えたからである。デンマークと同様に、この子どもたちの母親のかなりの数が自然妊娠ではなく、生殖補助技術を介して妊娠・出産にいたったものと思われる。現在ほとんどすべての出産が産科医・助産師の介助で行われているように、やがては妊娠そのものの相当数が技術者の手を借りて行われることになるだろう。


7. 団塊ジュニアは乳児期には粉ミルク、思春期には牛乳を飲まされた

日本で問題なのは1970年以降に生まれた世代(いわゆる団塊ジュニア=1971年から1974年に生まれた世代;2010年現在で36〜39歳で、母親が妊娠中に牛乳飲用を半ば強要され、生まれたときから乳児用粉乳と牛乳を飲まされた世代)の出生力低下である。

かつて長いこと、母乳育児の替わりに、牛乳からつくられた母乳代用品(粉ミルク)で乳児を育てる人工哺育が関心を集めていた。産科・産院では乳メーカーの女性社員が白衣をまとって哺育指導らしきことを行っていた。産科・産院はメーカーの粉ミルク販促に協力したのである。「動物じゃあるまいしそのたびに胸を広げて乳首を含ませるなんて」と母親にも人工哺育は人気があった。母親は母親でアメリカで流行の哺乳ビンに文明の匂いを嗅いだのである。

1959年に牛乳の粉ミルクに糖類等を加えて母乳組成に近づけた「特殊調製粉乳」が作られた。1960(昭和35)年以降に生まれた日本人(いわゆる牛乳世代)の多くはホルモン入り粉ミルクを飲まされて育った。上述の団塊ジュニアは哺乳ビンを含まされ、前思春期・思春期を通して牛乳を飲まされた世代である。この人たちに不妊症が多いのは単なる晩婚・非婚という社会的要因だけによるものではないだろう。1980年代からは母乳の成分分析結果をもとにして、微量成分がなるべく母乳に近い製品が作られるようになったが、ホルモン入り牛乳粉ミルクがベースになっていることに変わりはない。さらに最近は、離乳期の子ども用にフォローアップ・ミルク(牛乳ベースの液体離乳食)が流通し、相当数の親が離乳期が過ぎて固形食が食べられるようになった子どもにもこの液体を与えている。

戦後生まれ(1945年以降の生まれ)の子どもは学校の先生に「牛乳ほどよいものはない」「他のものは残しても牛乳だけは残すな」と言われて育った。昼食で牛乳を飲み終わらないと外に出て遊ぶことが許されなかった。「のどが乾いたら水の代わりに牛乳を飲め」と叱咤する親や運動クラブの指導者がいた。2003(平成15)年5月の文部科学省の指導通達で、学校の先生は生徒に牛乳を強要しなくてもよくなったというが、児童・生徒は相変わらず牛乳を半ば強制的に飲まされている(このことは次章の「牛乳と学校給食」で再述する)。

日本人の牛乳飲用の歴史はたったの60年である。もし現代牛乳に悪影響があるとすればその影響は日本人により強く現われるであろう。先に述べたように、アジア人の精巣は欧米人に比べて小さく、精子を育てるセルトリ細胞が少なく、外来のホルモンによって障害を受けやすい[5]。豊かになったアジア諸国では合計特殊出生率が押し並べて低い。2005年の数値は、韓国1・08、シンガポール1・24、日本1・26である。現在の女性ホルモン入り牛乳を14歳以下の性腺発達期のアジア人児童に与えることを控えるべきだ。それなのに、人口13億の中国までが、「すべての子どもに1日500mlの牛乳を飲ませる」として、いまや巨大な牛乳生産国となった(2007年の牛乳生産高は3650万トンで、日本のほぼ5倍)。「欧米の食生活」はかつての植民地に共通する願望である。世界を覆う西洋の牛乳文明は、蟻の一穴となって、やがて人類を滅ぼすのだろうか!?

出生数の減少は国力の衰退そのものである。かつては毎年200万人も生まれていた子どもが今では半分の100万人になってしまったのである。日本各地で小学校が統合され、空き校舎が目立つようになった。子育て支援は当然だが、生殖能力の衰えたままではいかに税金を注ぎ込もうとも出生数の増加は難しい。何を措いても日本人の生殖能力の回復を図ることが第一である。そのためにはまず公教育の学校給食から牛乳を排除することが最優先されるべき政策である。心ある日本人に伝えたい。バター・クリーム・チーズなどの乳製品はできるだけ避けてほしいのだが、どうしてもとおっしゃるなら「この製品は妊娠している牛から搾った牛乳を使用していません」と表示されている製品だけを選ぶことだ。


8. 不妊治療(不妊スパイラル)

本章の最後にあたって、不妊治療に一言しておきたい。不妊治療にはたくさんの薬剤が使われる(放生 勲『妊娠力をつける』文春新書536、文藝春秋、2006年10月)。最も初歩の不妊治療でも排卵を促すための排卵誘発剤が使われる。体外受精という高度生殖医療になると、まず排卵誘発のためにヒト閉経期尿性ゴナドトロピン(hMG:卵胞の発育を促す薬剤)やヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG:排卵を促進する薬剤)などのホルモンによって卵巣が刺激される。採取した卵子は試験管内で受精する。培養によって得られる分割卵(胚)が子宮内に移植される。移植後に妊娠が継続するよう黄体ホルモンが補充される。そして胚移植から2週間後に妊娠の判定が行われる。この試験管内受精には一定数以上の活発に運動する精子が必要だが、受精に顕微授精が用いられるようになってから、男性側に原因がある不妊でも体外受精が成功する確率が高くなった。

体外受精に用いられる卵子は排卵誘発・試験管内受精・培養・胚移植などいくつもの人工過程にさらされる。世界発の体外受精児ルイーズ・ブラウンが誕生(1978年7月25日)してからほぼ30年になる。この30年間に体外受精で生まれた子どもの中には生殖年齢に達する人たちがたくさんいる。この子たちの生殖能力はどうなのだろうか。女の子(性染色体XX)は生命が芽生えた瞬間から女だからそのまま成熟するだろう。ルイーズは幸いにも2006年7月(28歳)で自然妊娠したという。問題が起こるとすれば男の子(XY)である。性染色体Yのため強引に男の子に仕立て上げられるからである。

デンマークには徴兵制度があって、18才から32才までの男子は最短4ヶ月の兵役訓練を受けなければならない。デンマークの青年は18歳に達すると、兵役の適性をみるために身体検査を受けることになっている。このデンマークで、生殖医療を受けて生まれた男の子と自然妊娠で生まれた男の子とで精巣・精子を比較した研究が行われた[11]。この研究の対象者は1996年7月から2001年9月にかけてコペンハーゲンとアールボルグで徴兵検査を受けた若者である。徴兵検査を受けた6035人の若者のうち1925人(32%)が調査に同意して精液を提供した。調査に参加した若者の母親の91%が不妊治療を受けたかどうかという質問に回答し、47名(2・4%)が「受けた」、1702名(88・4%)が「受けなかった」、176名(9・1%)が「判らない」と答えた。

母親が不妊治療を受けて生まれた男性の精子濃度は自然妊娠で生まれた男性に比べて46%低く、総精子数は45%少なく、精巣容量は0・9ml小さく、可動精子の割合は4・0%低いという結果であった(差はいずれも統計学的に有意)。この小規模の調査から不妊治療を受けて生まれてきた男の子は生殖能力が低いと結論することはできないが、母親の不妊治療が男の子の性腺発育に影響を与える可能性を示唆している。

この調査が最初に行われた1996年に徴兵検査を受けた青年(18歳)は1978年生まれであった。世界最初の体外受精児が生まれたのが1978年であったから、当時の不妊治療は排卵誘発剤と人工授精程度であったのかも知れない。しかしその後の不妊治療は次第に高度化して体外受精が増えたことだろう。デンマークで行われた調査の結果から類推すると、濃厚な不妊治療を受けて生まれた子ども(とくに男の子)自身も体外受精でないと子孫を残せなくなるのかも知れない。これは不妊スパイラルである。生殖医療は世代を越えて影響をもたらす可能性が大きい。不妊治療に携わる技術者は自分がいま良かれと思って行っていることが20〜30年あるいは100年後にどんな結果をもたらすかを真剣に考える時期が来ている。

話は変わるが、『少子に挑むー脱・人口減少への最後の選択』(日本経済新聞社、2005年7月)という書物がある。執筆者のご意見はいずれも尤もなものであるが、堺屋太一氏のご意見を除いてどれも靴の上から痒いところを掻いているような感じを受けた。堺屋氏は「少子化対策の切り札は若年出産の奨励である」と説く。卓見である。「30歳で結婚し35歳で子どもをつくろう」などというのは土台無理な人生計画である。前にも述べたが、女性の受胎能力が高いのは10代後半から20代前半である。30代後半になっても子どもを産める女性はもちろんいる。しかし40歳を超えた女性の不妊治療に助成金を出そうなどというのは税金の無駄遣いである。堺屋氏の文章を読む・・・・

文献

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3. Aksglaede L, Juul A, Leffers H, Skakkebaek NE, Andersson A-M. The sensitivity of the child to sex steroid: possible impact of exogenous estrogens. Human Reproduction Update 12: 341-9, 2006.

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