牛乳ががんの発生を促す証拠
―乳糖不耐症者には乳がん・卵巣がん・肺がんが少ない
本文で述べたように、牛乳消費量の多い乳文化の国では知らず知らずのうち相当量の乳製品を摂ってしまうから乳製品と乳がんの関係を見極める研究はうまくいかない。 欧米の乳文化圏にも牛乳を飲むとお腹が痛くなる人がいる。数が少ないから欧米では目立つ。親は牛乳を飲めない子どもを病院につれていく。すると、乳糖不耐症という病気とみなされ、子どものころから牛乳を飲まないように指導される。乳文化圏では牛乳が飲めないのは病気である。実際、WHOの国際疾病分類(ICD)においても乳糖不耐症は疾病単位 (E73)としてコード化されている。 あるがんが牛乳の飲めない乳糖不耐症者に少なければ、牛乳がそのがんの発生に関わっていることの一つの証拠となる。この点に着目して、乳糖不耐症と一般人の間でがんの発生率を比較する研究がスウェーデンで行われた*。 抜群のアイデアである。 ストックホルムとスコーネの健康管理記録や外来患者記録などから乳糖不耐症者を探し出し、スウェーデンがん登録の記録と照合して、この人たちの肺がん、乳がん、卵巣がんの発生を調べた。スウェーデンでは、全国民に個人識別番号が付され、診療記録とがん登録が完備しているのでこのような研究が可能となる。 研究結果は標準化罹患比で示されている。あるがんについて、観察集団(乳糖不耐症者)と基準集団(乳糖不耐症でない人たち)の罹患比が1より有意に大きければ牛乳がそのがんの発生に関わっていると判断され、1より小さければ牛乳は予防的にはたらいていると判断される。標準化罹患比は乳糖不耐症のように観察集団の規模が小さい場合に用いられる疫学手法である。 この論文によると、乳糖不耐症者の肺がん、乳がん、卵巣がんの標準化罹患比(95%信頼区間)は、肺がん(男性) 0.51(0.25-0.92)、肺がん(女性) 0.58(0.33-0.94)、乳がん 0.79(0.65-0.94)、卵巣がん 0.61(0.35-0.99)であった(いずれも統計学的に有意)。つまり、牛乳は肺がん、乳がん、卵巣がんの発生に促進的に関わっているという結果であった。 牛乳と乳がんについてはすでに縷々述べてきた。牛乳と卵巣がん、牛乳と肺がんについてはどうだろうか。牛乳と卵巣がんについて「関係あり」とする論文* ** ***を掲げる。 では、肺がんはどうか。肺がんの最大の原因はもちろんタバコである。喫煙者は男性>女性だから、当然のことながら肺がんは男性に多い。しかし、非喫煙者に限って比べてみると、肺がんは女性に多い* **。非喫煙者の肺がんは間接喫煙(受動喫煙)によるものだという意見もあるが、現在増えている肺がんはほとんどが腺がんである。腺がんには女性ホルモンに感受性を示すものがある***。女性ホルモン(エストロジェンとプロゲステロン)が肺がんの発生に関与しているのだろう。 乳糖不耐症を拡大した集団が日本人であり、年齢を問わず乳糖に耐性のある集団の拡大版が欧米人である。欧米人に多いがん(乳がん、子宮体部がん、卵巣がん、大腸がん、肺がんなど)が彼らの牛乳・乳製品の豊富な食生活によるものだと考えて矛盾するところは何一つない*。 |